表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘はダンジョンマスターです  作者: ゆき
いち、魔王だと知ったのは娘になった後です
2/21

魔王と娘と配下

「ところで……何と呼べば?」

「気軽にパパでもお父さんでも父上でもノアールでも好きに呼べばいい」

「じゃあノアール」

「折角ならパパと呼べ」

「パパ」


自分で好きに呼べと言った癖に、と若干思うところはあるものの、アカネはそれを受け入れる。


よくよく考えれば男がこの魔王城でどの立場にいるのかも知らないで娘になった訳だが、上司的には人間を娘にするってどうなんだろう、とアカネは不思議そうに首を傾げる。


「パパ、偉いの?」

「魔王だからな、この領地で一番偉いし強い」

「え」


ここまで自由奔放なのだからそれなりに位は高いのだろう、そう予想はしていたものの魔王とまでは考えていなかったアカネは固まる。


そんなアカネを見たノアールは特に意に介した様子は無く、男にしては華奢な、白い掌を差し出す。


「屋敷を案内してやろう、立て」

「うん」


その手にそれよりも幾分も小さい手を重ねてアカネはベッドから漸くふかふかなカーペットへと足を着けた。


靴も靴下も何も履いてなどいなかったが、唯一薄汚れた白いワンピースを着ていたようで、アカネは少しほっとする。見た目がいくら幼女でも中身は成人女性であり、流石に裸は躊躇う。


「ふむ、それより服が必要か」


そんな薄汚れたワンピースを見たノアールは何もない空間へと手を翳し、一振り。


瞬きの間にその手にはアカネが着ている服とは比べ物にならない程仕立ての良い白いワンピースと、丈の短い子供用の白いブーツが握られていた。


「これでも着てからにしよう。」

「パパ、今のは?」


渡された服よりも靴よりも何よりもアカネが気になったのはノアールが行った一連の行動。手を一振りしただけで自分の持っている服が現れた、それは現代に生きていたアカネには到底縁の無いもので、アカネは目を輝かせる。


「俗にいう想像魔法だが、魔法を見たことは無いのか?」

「…………うん」

「そうか」


想像魔法。名前だけは知っていても、見るのは初めてだ。いや、魔法さえ見るのも初めてなのだから嘘じゃない、アカネはそう込めて頷く。


「まぁ、お前にもそのうち適正が分かるだろう。そうしたら教えてやる」

「やくそく、だよ?」

「ああ。それより服を着ろ」


約束を取り付け、漸く満足したアカネは一旦服をベッドに置いて、靴は足元に。


そして最後にノアールを見やった。


「パパ、あっち向いて」

「小娘なのに気にするのか?」

「小娘でもレディなの」


納得の行ってなさそうなノアールを無理矢理あっち向けさせ、アカネは薄汚れたワンピースを脱ぎ貰ったワンピースへと袖を通す。靴も履いて、何故かサイズがぴったりだったのは気にしない。


「パパ、もういいよ」

「シャワーも必要だったか……とりあえずは浄化魔法で我慢しろ」


アカネの言葉で向き返り、服は綺麗になってもアカネにうっすらと付いている汚れが落ちる訳では無いので、それに気付いたらノアールは指を鳴らす。


「パパ、私燃えてる」

「熱くないだろ?浄化の炎だから安心しろ」


音と共にアカネを包み込んだ白炎、それに文句垂れる娘を適当に流し数十秒経てば白炎は何かに引火したりせずに消えてしまった。


しげしげと自分の手を、身体を眺めるアカネの黒髪を手櫛で整え、満足したらしいノアールはもう一度アカネへ手を伸ばし、今度こそ最初の部屋を出ることに成功する。


「まずは俺の部下を紹介してやろう、変にうろついて気付いたら死んでたじゃ困るしな」


そう言って何かを考えるように目を閉じて数秒。何かを終えたらしいノアールはアカネの手を解いて片手に抱き上げ、アカネが何かを言い出す前に複雑怪奇な模様をした円形を足元に現れて、二人はその場から姿を消した。


「魔王様!!人間の娘をご自分の娘にされるとはどういうことですか!!?」

「何故人間などを!!?」


「魔王様が決めたことであれば私はそれに従うだけです」

「ルーシーは相変わらず真面目ですねえ」


円になったテーブルの半分から先辺にいる四人の人物、アカネが最初に見たのはそれで、次いで自分に向けられる二つの視線。


何処か既視感のあるそれにアカネは無意識に表情を消し去り、前世の自分を引っ張り出す。


「ユリア、キュロス、黙れ」


それに気付いたノアールは一喝、その行為を更に驚く二人を放置し、特に興味無さげな二人へ視線を移した。


「ルーシーとツヴァイがそう言うのは分かってたからな、娘のアカネだ」

「アカネです、どうぞよろしくお願いします」


依然として表情は変わらないものの若干柔らかくなった雰囲気。


敵対心を露にしている二人は完全に視界から外しており、アカネはこの自分に興味無さげな二人しか見ていない。


「アカネ様。私は魔王様直属護衛のルーシーと申します」

「魔王様直属の執事のツヴァイです、よろしくお願い致しますね」

「こちらこそ、です」


こくりと首を傾けアカネは二人に応じる。


ルーシーは青い髪に青い瞳、何処から見ても人間のそれは人界でも端正な容姿をした青年がいると言われるくらいだろう。


そしてツヴァイは黒髪に紫眼、これまた美形な、けれどもルーシーとは違う危うい雰囲気が漂っており、君子危うきに近寄らず、な感じ、とアカネは分析。


「一応あの二人も紹介しておきますね。緑髪をした女性が魔王様直属の特攻隊隊長のユリア、赤い髪の女性は魔王様直属の諜報隊隊長のキュロスです。少し頭の足りないところはあれど魔王様への忠誠と実力は本物です」


ちらっと視界の隅に入れてから即削除、容姿と名前だけは入れて後は完全に放置することにしたアカネ。


「ツヴァイ!頭が足りないとは何よ!!?」

「そうよ!」

「そうやって魔王様の前で喧しく吠えるところ、魔王様のお嬢様に暴言を吐くこと、魔王様の取り決めに異を唱えるところ、煩いところで御座いますが?」


三人の間で言い合い(ツヴァイの一人勝ち)を諫める訳でも止める訳でも無いノアールは用が済んだと言わんばかりにもう一度複雑怪奇な円形を足元に展開、ツヴァイとルーシーは恭しく頭を下げ見送り、ユリアとキュロスは軽く礼をする程度に。 


それもまたツヴァイに突っ込まれそうだな、とアカネは思ったものの声が出せる頃には先程までいた部屋のドア前だったので、気にしないことにした。


「さて、改めて探索しに行くか。」

「庭とかって無いの?」

「ツヴァイが手入れしてる庭ならあるが、行きたいのか?」

「うん、癒されたい」


承諾の言葉の代わりにアカネを立たせ、手を握り直す。


それだけでアカネには意図が伝わり、歩き始めたノアールと一緒に徒歩で庭へと歩を進める。


「アカネ」

「なぁにパパ」

「別に無理して子供のフリをしろとは言わない、本来通りで構わん」


その突然の許可にアカネは思わず足を止めてしまう。それが自分は子供では無いと証明しているようなモノではあったが、ノアールが特に気にしてる様子も無いのでアカネはわかった、とだけ答える。


子供を装うって結構つらい、と思っていたアカネからしてみれば嬉しい話で、それに深く突っ込むことも無いノアールも楽だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ