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ハズレと呼ばれた異世界召喚  作者: 華野宮緋来
第一章《異世界ルイン・オルト》
6/43

6:異世界召喚、2日目

最新話です。召喚した王国の騎士団が出てきます。

 そこは虚無の空間だった。

 純粋な黒に満たされている。物体どころか光すら存在していない。次元の概念すらあやふやである。時には広がりのある空間であり、表裏のある平面であり、境目を作る線であり、単なる点でもあった。

 そんな場所に淡く白い霧が漂っていく。何も無かった虚空が満たされる。地面に相当する平面へ影が生まれた。複数あった。どれも人の輪郭をしている。

 そして、姦しい声が響いた。


「ねえねえ、誰にするか決めた?」

「決断するにはまだ早いさ。慎重に選ばないといけない」

「こ、今度こそ私が」

「誰にしようかなー」

「にゃはは! 面白い奴がいっぱいだね~」

「お前達、少しは静かにできないのか」

「………………」


 声音は影と同じ七つだった。女性の様に高い音程である。現に、顔の形や身体つきの細さが男性の物ではない。

 先程まではなかった筈の丸いテーブルを囲んで座っている。中心では大きな長方形の板が浮かんでいた。水晶に似た材質であり、表裏の面にはある光景が映されている。


「しかし、四十人とはまた多いな」

「違うでしょ、プラウセン? 四十一人でしょ?」


 一人が間違いを訂正する。相手は虹の如き七色の瞳で見つめ返してきた。そうだったな、と頷かれる。その際に、銀色に輝く髪が揺れた。


「まあ、役者は多い方が楽しいよね? にゃは!」


 全く同じ髪色と瞳を持つ顔が笑う。この空間に集ったのは、全て髪が銀色かつ瞳が虹色という点で共通していた。


「このゲームももう五回目。そろそろ新しい刺激も欲しくなってくるからね。そういう意味では、勇者の数が多いのはうれしいことだ」

「……余裕、ですね。フィータさん」

「悔しかったら、強い駒を選んで勝たせてごらん」

「さすが、前回勝った人の言うことは違うね。でも、そんな態度だと、気づかないうちに足元をすくわれちゃうよ?」


 挑発に近いその言葉に、フィータは無言で口元を小さく釣り上げる。


「…………」

「ティリィどした? さっきからずっと静かだな?」

「あ、いえ。何でもありません」

「にゃは。ティリィやジェネシア、ホーピアは今度こそ勝てるよう頑張らないと! 神様になれなくなっちゃうぞ!」

「ええ。そう……ですね」


 ティリィは晴れない表情で視線を上げた。巨大な画面が目に飛び込む。そこには大人数の姿があった。特に黒目黒髪の少年少女達に焦点が当たっている。


「今度こそ――」


 期待や緊張、興奮といった感情が七人の間で交差していく。その中で、ティリィだけが唇を引き締めた神妙な面持ちであった。

 見上げた先の水晶。

 そこには、背の高い柔和な顔の少年が大きく投影されていた。


* * *


「ああ、そうか。夢じゃ……なかったんだ」


 皆月優真は見覚えのない天井を眺めながら呟いた。

 異世界ルイン・オルトに召喚されてから一夜が明けていた。深い疲労からか、用意されたベッドに入ってからの記憶がない。すぐに寝入ったらしい。上半身を起こしながら、優真は昨晩の出来事を振り返った。


「…………今日から、さっそく訓練かぁ」


 昨日、夕食の場で今後の予定について説明がなされた。勇者は近い内に魔王とぶつかる事になる。その時に備え、出来る限り実力をつける必要があると言われた。なお、所在が知れない碓井については、国による捜索が決定した。

 当面は戦闘の基礎を学んでいく予定だった。指導するのは王国が誇る戦力――アルカディア騎士団。先日の広間で見かけたジークやクオル、団長がその団員である。


「にしても、ホテルみたいな部屋だな。日本でもこんな所には泊まったことないや」


 室内を眺めまわすと、豪華な装飾が幾度も目に飛び込んだ。また予想以上の人数でも王国は全員分の部屋を用意してくれた。そもそも召喚前から宿泊用の館が建造されていたのだ。それだけの期待をされている。そう自覚した優真は地面に勢いよく足を降ろした。


「よし! 頑張らないとな!」


 声を張り上げ、気分を完全に切り替える。これからの訓練に励もうと、着替えがある方向へと歩き始めた。



「じゃあ、訓練を始めるぞー」

「団長。その前に名乗ってください。彼等はまだ団長の名前を知りません」

「お、そうか、そうだったな」


 朝食をとり、勇者四十名は騎士団の修練場へと集合していた。学生服の者は一人もおらず、誰もが洋風の衣装を身に着けている。


「俺はオーディア・バッフェランス。このアルカディア騎士団の団長をやっているぜ。そして、今日から始まる訓練の総責任者も兼ねている」


 隻眼の大男は豪快な笑みを浮かべた。外見から想像される雰囲気と口調があまり合っていなかった。親密な態度が勇者達の緊張をほぐしていく。


「ちなみに、隣の美人はクオルちゃん。昨日聞いたと思うが、とっても頼りになる我が団の副団長だ。年は二十九。恋人はいないぞ」

「変なこと教えないでくださいっ!」


 彼女の口調に一種の鋭さが宿る。昨日の淡々とした印象に反して、団長を睨む顔が少しだけ赤らんでいた。二人のやり取りに、ついに数人の生徒が小さく噴き出す。


「自己紹介しろって言ったくせに。……ま、無駄口もここまでだな。ここからは本格的に訓練へ取り組んでいくぞ」


 空気が緩んだ所でオーディアは改めて説明に移った。

 最初は、日本でも良く見かける簡単な運動から始まった。柔軟を交えた体操から、修練場内を数周するランニング。腹筋や腕立て伏せを代表とする筋トレ等を行った。回数や時間だけが指示され、とにかくこなす事だけ求められた。運動が苦手で完遂出来なかった生徒もいたが、特にお咎めはなかった。


「ふう、疲れたな」


 全身の火照りを感じながら、優真は手の甲で額の汗をぬぐった。

 学校でもありふれた訓練の開始から二時間。少々の休憩が与えられていた。それぞれが座ったり水を飲んだりしている。


「……何つーか、思ってたのと違うなー」


 座り込んでいた菅野源太が親友の天王寺衛斗に話しかけた。彼は日本でも運動部だったので比較的に疲労が少なかった。語勢にも衰えは感じられない。


「どんな訓練を想像してたんだよ、源太?」

「ステータスとか見てさ、剣とか魔法とかイメージしなかったか? そういうのってやっぱ憧れるじゃん、男の子なら」

「分からなくもないけど」

「ステータスにあったスキルや魔法の使い方を教えてもらえると思ったんだけどなー。ちょっと期待外れだぜ、騎士団」


 ははは、と源太が笑う。体力的な余裕が分かる態度だった。少し共感した衛斗も笑みをこぼしかける。


「そうだ――な」


 整った顔立ちは、破顔ではなく硬直を浮かべた。


「そうか。そこまで元気が有り余っているか。実にいいことだ!」


 大きな木箱を両手で抱えたオーディアが、いつの間にか源太の後ろに立っていた。


「げ!」


 源太が慌てて立ち上がる。騎士団の侮辱とも思われかねない発言をしてしまった。軽い冗談のつもりだったが、最高責任者を前にしては緊張せざるをえない。

 しかし、騎士団の団長は朗らかな顔を維持していた。


「休憩中に悪いと思ったが、疲れてないならちょうどいい。ちょっとこれを運んでくれ」


 気にした様子も見せず、対面する源太に持っていた箱を渡す。


「え、あ、うす。――――って、重た!?」


 素直に受け取った直後、源太の全身が地面へと引っ張られた。


「おい、大丈夫か? 俺も手伝う……って本当に重い!」

「はっはっは。そりゃ当然だ。中を見てみろ。色々と武器が入ってるだろ?」


 二人が揃って箱を覗き込む。剣や槍、斧といった武器がいくつも入っていた。素材が金属なのは明らかだ。それが複数あるので、相当な重量になっていたのだ。


「お望みのスキルは、こういった武器と合わせて使うことが多いんだ。刃引きは既にしてある。安心して使っていい」

「安心してって……まじか」


 衛斗の口元が微かに引き攣った。学生の彼等はまともに武器を扱ったことがない。彼自身は多少の経験があったが、やはり若干の戸惑いを覚えてしまう。


「怪我とかも心配すんな。骨折までならうちの奴等で何とかできる。いざという時には、神官様もいるしな」

「け、怪我するの前提っすか。てか、神官様って?」


 荷物の重さに震えながら、源太が尋ねる。二人がかりでも浮かすのがやっとだった。先程のオーディアみたいに軽々と運ぶ事も出来ない。


「昨日見なかったか? 黒い修道服を着た、胸のデカイ――」

「団長」


 背後からかかった声が、その発言を遮った。副団長クオルが全く同じ木箱を持って立っていた。


「教団に恨みを勝ってしまいますよ。お茶目もほどほどにしてください」


 「悪い、悪い」、と謝るオーディア。その横をクオルが通り抜けていく。持ち運んでいる箱からガチャガチャと音が鳴った。中で武器が擦れているのだ。響き具合から、かなりの数と重量だと考えられる。

 それを、彼女は一人で抱えていた。


「……レベルが上がれば筋力の値も上がります。そのうち運べるようになりますよ」


 同じ箱を持つ衛斗と源太に、ぽつりと助言をこぼす。


「この世界って、本当に俺達がいるか……っ?」

「し、知らね……!」


 二人はオーディアとクオルの圧倒的な力を目の当たりにした。震えながら、異世界から召喚された自分らの必要性を疑う。


「あ、手伝うよー」


 遠くから優真が駆け寄ってきた。三人でようやく運ぶ事が出来た。団長が指示した位置には既に複数の木箱が置かれている。横には、それらと同じ数だけ騎士団の人間が並んでいた。勇者達が最後だった。

 用意が整った所で、武器の説明がなされた。剣や槍、杖といった多種多様な武具が存在するとオーディアはまず語り始めた。


「昨日、ステータスを確認しただろう? その時にスタイルという欄が空白だったのを見た筈だ。そのスタイルっつうのは……まあ、戦い方を示す言葉だ。ひとまずは使っている武器が反映されると考えていい」


 団長の太い腕が足元の箱に潜る。そこから、一本の剣が取り出された。


「剣を使うなら、スタイルは《剣士》になる。弓矢がメインなら《弓士》だな。同じ戦い方を長い間続けていけば、自動的に表記されるようになるんだ」


 剣の腹を平手で叩きつつ、オーディアが勇者達を見つめる。


「もうすぐ昼に入るから、今は説明だけになる。午後から武器を扱った訓練に入るぞ。一通り体験させてやるが、どんな武器や戦い方が自分に合ってるか、良く考えておけ!」


* * *


 勇者達四十名は、騎士団用の食堂にて昼食にありついた。昨日は貴賓として扱われ、王城で豪華な食事を振る舞われた。今回は場所が違い、出されたメニューも二つのサンドイッチという質素な物であった。だが、殆どが美味だと舌鼓を打った。


「これって何の肉ですか? まさか、モンスターとか」

「ん? 違いますよ」

「ほっ……」

「それはですね、モードランの上質な肉です」

「…………はい?」

「だから、モードランです」


 などというやり取りが、女子生徒と給仕――メイドの間で交わされた。質問に答えた女性が軽い会釈をして、片付けに移る。


「…………」


 肉の種類を訊いた生徒は、残りのサンドイッチに黙々とかぶりつく。これ以上の詮索を諦めたのであった。

 やがて全員が出された食事を平らげた。残った時間は各々が自由に費やしていった。午前の訓練や扱いたい武器、自分達に関わる様々な異世界の人々。二日目の半分しか経っていなかったが、勇者達の話題が尽きる事は無かった。

最初の女性たちが何者か。それは後で少しずつ明かしていこうと思います。

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