21:ハズレ勇者vs騎士
決闘です。チート物ではよくあるテンプレかもしれません。もちろん、チートの描写もあります。
「ちっくしょう! 何でかわからんが、ムカつくッ!」
長い廊下を歩きながら、アルクは怒りをまき散らした。皆月優真とは別れ、宿舎に戻っている最中だった。
「戦う覚悟もないし、剣の才能も微妙だ! どうしてあんな奴が勇者なんだ。どうして、あんな奴に聖剣のスキルがあるんだ!」
批判を受け止めるだけの少年を思い返し、荒れる感情を垂れ流しにする。
日を跨いだ任務に当たっていた為、数時間の休みを与えられていた。実際は体力が有り余っていたが、どのみち苛立ちで業務への集中が難しい。黙って指示に従っていた。
「アルク・ヴァレンティア」
「あ? お前は確か、教団の……」
十字路に差し掛かった所で、ある少女に話しかけられた。アルクより二、三歳幼く、髪は濃い黄色だった。加えて、黒い修道服に身を包んでいる。
「聖女様がお呼びしておりました。すぐに向かってください」
「何の用だよ? 今の俺はフェルニア担当じゃねえぞ」
「詳細は聞かされておりません。ただ、第二治癒室まで来てほしいと言いつかりました」
「……分かったよ。大方、あの人か勇者の話だろうな」
気は乗らなかったが、無下に断れる相手ではない。アルクは進行方向を変え、真横の廊下へと入っていく。
「そう言や聖女様とアイツってどことなく似てるな。でも、別に聖女様は気になんないな」
ふとした疑問が口を突く。理由を模索するも、歩いている内には判明しなかった。
目的地の直前まで辿り着くと、今度は親しい人間が視界に映り込んだ。女性の騎士だった。予備の訓練室として開放された、広くはない部屋の扉から見えている。
「あ、ステラ」
胸が高鳴り、思わず歩みが止まる。だが、数秒後にその口元が固まった。
「ちょっとアキヒロ! 動かないでよ!」
「だぁああ、くすぐったいって。変な所触るなよ」
名前を呼ばれた事にも気づかず、彼女は黒髪の少年に付き添っていた。横顔は穏やかに緩んでいる。肩にかかる程の金髪に晴れやかな笑顔。間違いなく長年の付き合いがある相手だった。けれども、アルクは自分の目を疑わずにはいられなかった。
「傷だらけになるアンタが悪いのよ。ほら、消毒したら一気に回復魔法かけるから」
「いちいち消毒なんて必要なのかよ。面倒だな」
「魔法だって万能じゃないわ。治せるものには限りがあるもの」
そう言い聞かせる彼女の顔は暖かな微笑に満ち溢れていた。それがどんな感情に基づくのか、長年の付き合いがある者にはすぐに知れた。
「《回復》。ほら、もういいでしょ?」
「おお、治った。サンキュー」
「これに懲りたら、もうスキルの再現なんて無茶な真似はしないことね」
親し気に離す二人を目の前にして、アルクは心の奥がざわつくのを感じた。動揺していた頭に黒い靄がかかっていく。麻痺したかのごとく、全身の感覚が鈍っていった。
「仕方ねえじゃん。他にやることねえし、暇だったんだし」
「暇ってあんた……それでも勇者様なの?」
「知るかっての。お前らが勝手に呼んだんだろ? ぶっちゃけると、俺は勇者なんて下らねえと思ってるぜ。どっかのお人好しバカに任せれば十分だろ」
ハズレとみなされた勇者――霧島晶弘は自身の立場を毛嫌いしていた。彼には《スキルゼロ》の欠点があり、召喚されてから十日間近く経った今でも剣術やステータスに関する技は一つも手にしていなかった。
ステラがそんな霧島を見つめて、微笑をこぼす。
「そんなこと言っちゃって。……知ってるのよ。アンタが国王様に言ったこと」
「――何だよ、お前もあの場に居たのかよ」
「『魔神とやらばをぶっ倒せば、元の世界に帰れる』、そう言ってたわよね、アキヒロ。あれって仲間に希望を示そうとして、すすんで口にしたんでしょ?」
彼女の指摘に対して霧島が顔を背ける。耳が薄っすらと赤くなっていた。
「まぁ……強いて言うなら、椿と遊衣の為だな。あいつらには笑顔でいてほしいんだよ」
「優しいのね」
「おだてたって損な役割は背負わねえぞ。勇者とか騎士とかまっぴらごめんだ」
「ちょっと! 私も騎士なんだけどっ?」
ステラが口を尖らせた。だが、声色はあくまで穏やかなままだった。
「どうして」
歯を食いしばるアルク。握った拳が酷く軋む。
霧島晶弘は「悪い悪い」と言いつつ、自身の無力を嘆くこともない。苦難を貸す側の人間を、何も知らずにただ物笑いの種にしている。そこに皆月優真の表情も重なった。理不尽に成果を奪われた。だが誰も責めず、ただ自分を突き詰める愚直な姿勢であった。
「どうしてそんな顔するんだよ、ステラ……!」
元から苛立っており、今まさに頂点に達しようとしていた。一番のきっかけは霧島に治癒魔法をかけた少女だ。彼女がスキルすら満足に扱えない勇者に優しくしているのが、何よりも許せなかった。
そして、沸き立つ感情はアルクをついに突き動かした。
「ステラから離れろ。――このハズレ勇者っ!」
* * *
「水を組むのも魔法か……ファンタジーだなぁ」
ポンプから流れる水を眺めながら、優真はくぐもった声でぼやいた。
王城に戻ってからの翌日。
早朝の肌寒い空気が漂う中、優真の姿は修練場近くの井戸にあった。ギールから戦いの手ほどきを受け終えた所であり、訓練で乾いた喉を潤わそうとしていた。
冷たい井戸水を喉に流し込む。冴えた感触が全身に広がる。訓練で失った活力が戻っていくかの様だった。
「うまい……!」
声音を弾ませ、一息つく。
ギールに指導を受けたのは今日が初である。だが、予想以上に厳しい内容であり、優真は精神的にも肉体的にも疲弊していた。スキルや魔法の使い方以前に、手足や目線の動かし方から指示されたのだ。理想の実力を身に着けるまで、相当の努力が必要だと思われた。
「これから大変だな。でも、それも樹くんを助けるためだ。頑張らないと!」
自分から頼んだ事であり、嫌気が差した訳ではない。ただ戦う力を身に着ける苦難を改めて意識したのだ。
「ん?」
視界の端に同級生が写りこんだ。菅野源太である。修練場の方角へ急いだ様子で向かっていた。優真が知る限り、正式な訓練の時間にはまだ早い。
何事かと考えている内に、相手の方から近づいてきた。その表情にはどこか興奮が混じっている。
「おお、皆月。お前は見に行かねえの?」
菅野の話に対し、優真は小さく首を傾げた。
「おいおい知らねえのか? これから修練場で決闘が始まるんだよ」
「け、決闘!?」
突然もたらされた情報は衝撃的なものだった。全く聞いていない話である。
「組み合わせがまた面白いのなんの。どうやら、あの《スキルゼロ》の霧島が騎士と戦うみたいだぜ!」
ハズレ勇者の一人と見なされている同級生、霧島晶弘。その彼が戦いの場に出ようとしている、という話だった。
「そんな……今の俺達じゃまだ」
二日前のギールを相手にした際の記憶を思い返し、優真は青ざめた。未だ勇者達の実力はアルカディア王国の騎士に全く及ばない。ましてスキルを持たない霧島なら、勝機は絶望的に皆無である。
「しかも、だ。その相手をするのは、俺達に指導していたアルクって奴だ」
「――何をやってるんだ、彼等はっ!?」
優真は一目散に駆け出していた。背後からかかる声も置き去りにする。早朝の訓練で消耗している筈だが、強い義務感に身体が突き動かされていた。
ギールとの訓練は修練場から僅かに離れた場所で行われていた。正式な場所では、他の勇者や騎士の妨げになると思われたのだ。
しかし、それが到着を遅らせる要因となった。修練場の出入り口に足を踏み入れる。確かに、普段よりも多くの声が反響している。既に始まっているらしい。
更に進んだ先。優真は大勢の人で出来たリングを目の当たりにした。その中心では、二人の少年が剣を交えている。
「遅い」
茶髪の騎士が腕を振るった。優真と共に聖剣を回収した、アルク・ヴァレンティアだ。
対峙する霧島晶弘の両腕が上へと大きく弾かれる。片腕が放った斬撃を、二本ですら抑えきれなかった。アルクの筋力が格段に上回っている証拠だ。
「ちっ!」
武器が跳ねた勢いで、胴体はがら空きになっていた。舌打ちを短く鳴らし、霧島は背後へと飛び退く。間髪入れず、その目前で追撃が真横へと走った。剣先が掠めていったが、切り裂かれたのは服だけであり、直撃は免れていた。
けれども、避けた勢いで重心を崩し、背中から地面に倒れこんだ。
「どうした? まともに立っていることもできないのか?」
冷たい眼差しで見下ろすアルク。
「こ、のっ!」
霧島は顔を歪め、空いていた片腕を素早く振り上げる。騎士の顔をめがけ、細かい砂や小石が飛んだ。転んだ際、咄嗟に拾い集めたのだ。
「ふん」
迫ってくる小細工にもアルクは易々と対処した。首を横にずらして避けた。そして隙をつこうとして立ち上がっていた勇者の腹部に、改めて足刀を叩き込む。
ずん、と重い音が鳴った。霧島の喉から小さな呻き声がこぼれる。
実力が互角だとは言い難く、霧島が明らかに圧倒されていた。
「こんなの、止めさせなきゃ。……いた!」
優真は決闘を最前列で眺めている同級生を発見した。協力を仰ごうと、人ごみの間を縫って彼等の元へ近寄っていく。
「天王寺くん! どうして黙って見ているんだ! 早く二人を止めないと!」
「皆月くん。…………。いや、これでいい」
天王寺衛斗が首を横に振る。
「彼らの戦いは俺達も騎士団も許容している。止める必要はないし、何より見る価値があると判断した」
剣がぶつかり合う金属音を耳にしながら、優真は唖然とした。天王寺の表情は真剣であり、冗談が入り込む余地もない。周りに居た嶺井や槙永も真剣な面持ちであった。
「一度はこうした戦いが必要なんだ。俺達と騎士の間に、どれだけの壁があるか知りたい」
その説明をなぞるように、アルクと霧島の戦いは着実に進行していた。
「ステラが何と言おうが――お前は勇者じゃない!」
「そんなもん、こっちからお断りだって言っただろうが!」
正面に構えた剣でお互いに押し合いながら、二人は怒声をまき散らす。決闘が長引くにつれて、それぞれの口から主張がこぼれるようになっていた。
戦いを注視していた天王寺の両目が、一瞬だけ逸れる。その先には不安げな顔を浮かべている槙永春奈がいた。
「何より……俺はあの二人を止めたくない」
「き、君たちが止めないっていうなら、俺だけでも!」
そう言い放って駆け込もうとする優真の腕が、強い力で引っ張られる。
「駄目だ。君にも邪魔はさせない」
仲裁すらも妨げられた。自身の腕を掴んで引き留めている天王寺を振り返り、優真は改めて本音を問う。
「本気なのか。こんな無駄な戦いを見過ごせって言うのか? アルクさんはともかく霧島くんは同級生だろ? 彼が怪我をしていいのか? 何より……俺達は勇者だろ!?」
「だからこそ、二人は戦ってるんだ。誰もが君みたいな考えじゃないんだよ!」
言及する声に呼応してか、彼も語気が次第に荒くなっていった。だが、優真にはその意図は明確に伝わらなかった。困惑を招かせるばかりである。
「私も衛斗と同じ意見よ」
正面で白熱する戦いと、隣で混然とする説得。それらを見かね、嶺井紗季が補足をする。
「見極めるべきなの。普段から戦いに身を置く騎士の力量を。でも、教えを乞うだけじゃ分からない。誰かが本気で戦わないと」
「だ、だけど」
「安心しなさい。向こうは致命傷にならない攻撃ばかりしてるわ。武器を持っている霧島君を相手に、余裕でね」
霧島はスキルゼロのハズレであるが、ステータスに関しては他と比べて優劣がない。
「相手がかなり強い証拠よ。悔しいけど……元の世界で現役だった私よりも、はるかに強いわ。……私だったら、霧島君相手にあれだけの余裕は持てない」
その言葉に、優真の心が僅かに落ち着きを取り戻した。彼女達にも考えがある。何よりアルクが手加減をしていると分かり、安堵を覚えたのだ。
「ただ、霧島君ならもしかしたら」
圧倒している騎士を目の当たりにしつつ、嶺井が小さな呟きをこぼす。直後、二人の戦いが新たな展開を見せた。
騎士と勇者は、再び剣を交差させて膠着状態になっていた。だが、アルクの表情には若干の驚きが滲んでいる。
「反応が……?」
「覚えてきたぜ、てめえの、動き」
キン、と硬直していた剣が互いに弾け合う。先程と変わらず、アルクがより早く腕を振るう。しかし、再び刃と刃が衝突し、攻撃は妨げられた。
「教本でも丸暗記したみたいに……お前の剣は素直すぎんだよ!」
霧島の動きが、アルクに対応しつつあったのだ。防戦一方に変わりはないが、ダメージを受ける頻度は少なくなってきている。
「馬鹿正直な攻め方だ。応用力の欠片も感じられねえ!」
ついにハズレ勇者が攻撃に転ずる。左から右へと、鋭い円弧の軌跡が描かれた。
「これは俺の動きか……っ?」
アルクは一歩下がって剣の間合いから退く。その表情は、はっきりと強張っていた。
「彼……霧島君ね、実は剣術を習っていたことがあるのよ」
同級生の反撃に伴い、嶺井紗季が口を開いた。
「私や衛斗とは違う流派の道場に通ってたの。練習試合で何度か当たったことがあるわ」
「小学校を卒業したら見なくなったけどな」
天王寺も続けて語る。同級生の知られざる過去に、優真は驚かざるをえなかった。
「は、初耳だ。霧島くんが経験者だったなんて」
「その上で、彼には特殊な才能があったの。相手の動きをコピーする、才能が」
「動きを……コピーする」
「ええ。道場通いを止めてから数年は経っているはずだけど……全く衰えてないわ」
嶺井は相手を模倣した霧島に驚嘆を示していた。隣に並ぶ天王寺も同様だ。勇者の中でも剣士として優秀な彼等の反応が、ハズレと呼ばれた霧島晶弘の特異性を物語っていた。
「やっちゃえ、お兄ちゃーん! そんな奴ぶっ飛ばしちまえ!」
「アキ君! 無茶だけはしないでよ!」
幼馴染の檜室遊衣と來野椿が声援を投げかける。
「さあ、こっからが本番だぜ」
息を切らしていたが、霧島の構えは力強かった。これまでの動きを見切った余裕が見え隠れしている。意気込みに乗って、今度は勢いよく前進して剣を振るった。
顔を俯かせるアルク。数度の打ち合いで技術を写し取られた。その内心がたった一言となって発せられる。
「…………哀れだな」
激しい音が響いた。空を駆けていた霧島の刃が、大きく逸れていく。
「《閃剣》――――スキル無しの手加減は終わりだ。お前の言う通り、本番にしてやる」
宣言の直後、アルクの剣が中空を踊った。剣術スキル《舞剣》による連続攻撃だった。
「がっ!」
霧島は上半身に強烈な衝撃を覚えた。先の威勢も空しく、立て続けに重なる《舞剣》を捌ききれなかったのだ。筋力でも押し負け、後ろへと飛ばされる。
「ど、どうなってやがる? 技だけじゃない、腕力自体がさっきとは別物だ。これもスキルのせいだっていうのか……っ?」
お互いが使っている武器には刃を覆う特殊な魔法がかけられている。直撃を許したとしても刺傷や切傷にはなりにくい。だが、霧島は咳き込みつつ顔を歪めた。
「まだ終わってないぞ」
アルクが更に追撃をかける。又もや刀身を輝かせていた。スキルの前兆。それを見抜いた霧島は警戒し、両手で構えた剣を傍に置いた。
ゆっくりと走る剣は――あえてその防御に打ち付けられる。
「ぐ!」
強力な斬撃をまともに受け止め、霧島の掌は酷く痺れた。剣を落とさないだけでも精一杯だった。ましてや、後に続く攻撃を防ぐ余力などない。
「教えてやる! 今使ったのは、《剛剣》と《撃情》だ!」
荒い口調で語ると同時に、アルクが膝を突き上げて腹部を打った。今度の威力もやはり桁違いだった。体格がそう変わらない霧島が、遥か後方まで押し飛ばされた。
「弱い、弱すぎる。俺にも勝てないこんな奴が、世界を救う勇者だっていうのか? 馬鹿げてる!」
「て、めえ……!」
小さく嘔吐を繰り返しながら、勇者の少年は鋭い瞳で睨み返した。
霧島晶弘にはスキルがない。アルクが使っていた《閃剣》や《剛剣》を再現する事が出来ないのだ。純粋な剣術で渡り合えたとしても、次の段階で勝敗が決まっていた。
「お、お前らには、自分の世界すら守れないお前らには言われたくねえ! 騎士ってのは名前だけか? 強い魔王にはビビッて、勝てそうな奴にだけ威張んのが仕事か!?」
世界を救う勇者として、四十数名の高校生達は承諾もなしに召喚された。その上でハズレという蔑称を付けられている。平和な日常を奪われた立場から見れば、立腹すべきはこちらだと霧島は憤っていた。
「っ……」
だが、体は怒りについてこられなかった。姿勢を崩し、剣を杖代わりに片膝をつく。
「お前は口先だけだな。勇者どころか、騎士以下だ。……無様すぎる」
必死に身体を剣で支えている少年は、痛めつけた張本人に鼻で笑われた。鈍い痛みを超えて、表情を激しく変貌させる。感情に突き動かされていたのか、両手両足も小刻みに震えていた。
「――あ? 何、だ?」
ふと、霧島の両目が大きく開いた。
「どういうことだ? お前は誰だ? ぐぁ、うるせぇ!」
「何を、言ってる?」
唐突に流れ出した独白に、アルクは瞳を細めた。
「……いいぜ……。目の前のクソ野郎をぶっ飛ばせるなら、何だって使ってやる。だから力をよこせ!」
問いかけに応じなかった霧島が、汗と土で汚れた顔で笑みを象った。開いた口で、その一言を大きく発する。
「《スキル・コピー》解放!」
両目が血走り、鼻から真っ赤な液体が垂れる。一瞬の出来事だった。対峙していたアルクは警戒も忘れて、激しい動揺を表情に写す。
真っ赤な目を携え、霧島が地面から剣を抜いた。前かがみになって、地面を蹴り飛ばす態勢になる。実際のこの変化で、ようやくアルクも対応を取る。
「《迅駆》!」
霧島の口から短い単語がこぼれた。
直後。観戦している勇者達の視界がその姿を見失う。次に焦点を当てた時、膝をついていた筈の彼は、アルクの目前にまで詰め寄っていた。
「ジークさんの? というか、お前、スキルを!?」
驚愕しながらアルクが背後に飛ぶ。
一方、霧島の加速は途切れていた。だが、地面に足を降ろして後を追った。剣を両手で掴み、赤く染め上げた目を近づけていく。
「………………くっ、《剛魔剣》!」
騎士の判断は酷く鈍かった。相手の変化に対する混乱、そして紅の眼光に意識が向いていたのだ。手加減も忘れ、剛剣の上位スキル《剛魔剣》を咄嗟に発動させる。だが、全ては手遅れだった。
スキルゼロの勇者が掴んだ剣に、同類の、また何倍も眩い輝きが灯っていた事実にアルクは気づいていなかった。
「――――《天衝・剛魔剣》」
低い声音と共に、強烈な閃光が振り下ろされる。霧島が放った光の衝撃はアルクの全身を飲み込んだ。轟音が迸り、目前にあった景色すら丸ごと染め上げてられていった。
描写のバランスに悩む日々です。ついつい書きすぎて長くなってしまう事が多いです。もっと読みやすい文章を書きたいと考えています。




