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ハズレと呼ばれた異世界召喚  作者: 華野宮緋来
第一章《異世界ルイン・オルト》
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1:プロローグ①

新しく異世界クラス転移系の小説を書き始めました。華野宮緋来です。完結できるよう、頑張りたいと思います。


 盤上には、たった一つの駒が立っていた。人の形をしていた。顔を仮面で隠し、手に僅かに湾曲した片刃の剣――刀を持っている。


「終わりだ。――私の勝ちだ」


 少女の如き細い声が響く。細い指先が伸びて、頭部に当たる部分を左右から摘まんだ。

 宙に持ち上がり、盤に接していた底面から小さな破片が落ちていく。バラバラ、と軽い音が鳴った。無秩序に敷き詰められたマス目に転がった。それは、砕かれた手や足、胴体の一部だった。

 やがて、盤の上に残った全ての物は光となって消えた。


「にゃはは。負けちった」

「そだな。今回は勝てると思ったのに」


 新たに二つの声が挙がる。駒が立っていた盤の周りからだった。七つの席が、盤を囲む様に置かれている。


「あーもう! 次は絶対に負けないんだから!」


 別の方向より、四人目が激しい口調で言葉を並べる。しばらくして、その存在は腰を据えていた席から姿を消した。先程の消滅した駒と同じ様に。


「ええ、そうですね。私ももう戻るとしますね」


 五人目が続けて空気に溶け込み、立ち去る。先の敗北に消沈していた二人も、音もなく既に居なくなっていた。


「あら、その駒を取っておくの?」

「記念にね」

「…………そう、羨ましい」


 刀を手にした駒の持ち主に、微かな妬みを孕んだ眼差しが向けられる。盤を囲む六人目だった。「君も次こそ勝てたらいいね」と一人目は挑発紛いの返事で応じる。そして、勝者を言葉通りに掌へ乗せながら、盤の前から退席した。

 妬みを口にした六人目も、他の者の後を追う様に引き上げていく。


「………………」


 最後には、七人目の少女だけが残った。


「誰か……お願いします」


 小さな呟き。発した彼女は、何もかもがなくなった盤上を凝視していた。

巨大な平面である。複雑に隣り合った数々の境目が深く刻まれている。色合いも様座だった。黄色や赤、緑等の割合が特に多い。

 そんな盤を見つめながら、少女は再三口を開いた。


「どうか、この世界を救ってください」


 その言葉を皮切りに、七つの椅子が根付いていた地面が水面の如く波打っていく。それに合わせて、彼女の真下に左右対称の影が伸びた。ばさりと空気も叩かれた。

 両脇に現れていたのは、純白に光る翼だった。

 ――それらが淡い輝きを帯びる。直後、七人目の存在も空間から消え失せた。七つの席と巨大な盤だけが虚無の中に取り残された。賑やかす者が全て居なくなり、ついには光や音さえも果てる。駒の置き場であった小さな空間は完全に閉ざされた。長い間、封じられるのである。

 新たな駒が来る、その時まで。


  

* * *



 それは、何気ない日に見たニュースから始まった。

 テレビの画面が真っ赤な炎を映し出す。火事の現場が放映されていた。モニタの向こう側にある騒音が、緊張感を含みながらリビングへ流れていく。

『ご覧下さい。今、最後の一人が救助されています!』

 リポーターが叫んだ。

 熱気を吐いている部屋のベランダへ、消防車の長い梯子が真っ直ぐに伸びている。そこには老婆へと肩を貸す消防士の姿があった。野次馬のざわめきがテレビからこぼれる。炎にも似た焦躁が画面にも滲んでいく。


『あ、見えるでしょうか!? 逃げ遅れた住人が救助隊員と共に出てきました! 救助が行われたようです!』


 二人を乗せ、梯子がベランダから離れていった。

 救い出された老婆の命に別状はない。リポーターが数秒後にはそう付け加えた。現場に拍手が巻き起こる。無事をたたえる響きはスピーカーからも溢れていった。

 ――ぱち、ぱち、ぱち。

 救出の現場を映したテレビの前でも、同じ様な音が鳴った。

 手を叩いたのは小学生位の男児だった。テレビの正面に置かれたソファに腰かけている。隣には母親もいた。救出劇に一喜一憂している様子を眺め、柔らかな微笑を携えている。


「おばあさんが助かって良かったね、ゆうくん」

「うん!」


 男児が首を縦に振って答える。両目が輝きに満ちていた。消防士の勇敢な姿に感化されているのだ。母親はまばゆい眼差しに釣られて問いをかけた。


「ゆうくんも将来は消防士さんになりたい?」


 唐突な話に男児の瞳が瞬く。


「え? うーん……分かんない……」

「まだ早かったかな? でもね、ああいう風に人を助けるお仕事ってとってもカッコイイと思うの」


 尚早な質問を自覚して苦笑が浮かんだ。そして、彼女はテレビの画面へ人差し指を向けた。目線に合わせられた高さだった。子供もすぐにその方角へと首を回した。

 煤に塗れた、疲労交じりの笑顔。それがまず視界に飛び込んできた。消防士に支えられている老婆は明らかに披露している。けれども、命を救われた喜びが負の感情を上回っていた。マイクが時折に拾う感謝の言葉が耳を燻る。


「ゆうくんは優しい子だから……きっとあんな風に誰かを助けるお仕事をするわね。そうなったら、お母さんはとても誇らしいわ」


 未来を仄めかす言葉に、子供は即座に返事をした。


「分かった! 僕、頑張る! 頑張って、人を助けるよ!」

「ふふ、本当にいい子ね。将来が楽しみだわ」


 輝かしい未来に期待を寄せて、母親はその頭を撫でた。一方、男児は希望で溢れかえった満面の笑みを作る。

 きっかけは偶然に過ぎなかった。人を救う瞬間をテレビ越しに目撃した母と息子。救助に励む消防士への尊敬と、母親から与えられた願い。夕方のニュースに紛れ込んだ複数の要素は折り重なり、純粋な小学生の性格を形作る。

 少年の脳裏には、その時に見た光景が深く刻み込まれる事となった。


 ――それから、約十年後。



* * *

《Side:龍野宮 麗児》


「さあ、今日こそは我が生徒会に入ってもらいますわよ! 龍野宮 麗児!!」


 市立灯ヶ丘高等学校、その校舎の二階に位置する教室《2―B》で高らかな声音が響き渡った。まもなく朝のホームルームが始まろうとしていた。既に七割以上の生徒も登校してきており、様々な喧騒も飛び交っている。

 そんな中で、ある少女が発した声音が軽々と教室を満たしていった。数人の生徒が発信源へと視線を向ける。


「貴方はこんな所で終わっていい人材ではありませんわ! ワタクシの元でその力を発揮すべきですわ!」


 人差し指を突き付け、彼女は勧誘の言葉を口にした。長く緩やかに波打った黒髪に、輝きに満ちた眼。気品のある振る舞いと容姿端麗な美貌が存在感をひときわ強調する。

両隣には付き人の如く二人の女子生徒を並ばせていた。三人全員が腕章を身に着けている。加えて、誰もが一つ上の三年生だった。共通した装飾品と合致しない学年。この教室の中で目立つのは必然だった。

 熱い誘いを受けていた一人の男子生徒が、その立場を静かに言い放つ。


「またですか……会長」


 灯ヶ丘高等学校、第二十四代目生徒会会長――鐘山光里。教師を除けば、彼女は学校中で最も権力を持つ生徒だ。


「生徒会には入らないって言ったでしょ……」

「何故ですの!? 実力相応の待遇はするつもりですわよ!」


 前のめりになって問いただす鐘山光里。

美しい女子生徒を前にしながら、龍野宮は平然とした顔で向き合う。しかも、彼の瞳には若干の眠気も漂っていた。彼女の美貌には興味を示してすらいない。


「買いかぶりすぎですよ。……それに、めんどい」


 机の上で頬杖を突き、龍野宮が欠伸をかく。生徒会長の勧誘を気にも留めていない様子だった。


「……光里、彼にも彼なりの事情があるんだよ。今日はこの辺にしておいたら?」


 近くで佇んでいた長身の女子生徒が囁いた。鐘山と同じ生徒会の佐々倉絵恋。淡白な口調だが、その奥には心遣いを潜ませている。

 もう片方の少女――一門由紀も続けて声をかけた。


「そうですよ~。無理に男なんて入れなくてもイイじゃないですか~。会長と佐々倉先輩、そして私が入れば十分ですよ~!」


 甘い声色を響かせる。先程の少女とは違って小柄な体躯だった。身に着けた眼鏡越しの眼光が生徒会のトップだけに注がれている。


「それじゃ、駄目ですわ。私は、心の底から彼が欲しくてたまらないんですの!」

「誤解を招くような発言……やめてくれます?」


 龍野宮が閉じかけた双眸のままで、光里の顔をぼんやりと見上げた。先程の発言によって数人の生徒が色めき立ってしまったのだ。好奇の色に染まった視線が生徒会と彼に集中していく。


「別に俺なんか、生徒会の役には立たないですよ? もっと他に適任がいると思うんですけどね。…………例えば、アイツとか」


 自虐を交えた言葉の先で、彼はある人物に白羽の矢を立てた。背の高い男子生徒に人差し指を向ける。

対象となったその生徒は、朗らかな微笑で二人の女子生徒と話している最中だった。柔和な顔立ちが人受けの良さを想像させる。会話の様子を見る限り、コミュニケーションの能力も充分に優れていた。


「確か、会長とも顔見知りでしたよね?」

「……皆月、ですわね。……アレも別に悪くはないのですけど……」


 鐘山光里が渋い顔を浮かべた。


「生徒会に来てほしいと思ったことは一度ありませんわ。いえ、むしろ少し苦手なぐらいですの。理想が高すぎるというか、子供っぽいというか……」

「そっすか」


 素っ気ない龍野宮の相槌が返る。選んだ相手が代役としては不十分、という事実しか受け取っていなかった。


「…………そう! 本当に欲しいと思ったのは――龍野宮 麗児! 貴方だけなのですわ! 私は貴方が

首を縦に振るまで絶対に諦めませんわ!!」


「……はぁ」


 微かなため息が机の上を撫でた。その様子を見た長身の上級生が苦笑を作る。


「悪いね、龍野宮君。もう少しだけ光里に付き合ってくれ」



* * *

《Side:霧島 晶弘》



 生徒会役員と竜野宮による騒ぎの裏側。2―Bの扉を潜る三人組の姿があった。中心を行くのは平凡な背丈と顔立ちをした少年だ。一方、その左右にはかけ離れた美貌を持つ少女達が並んでいた。

右には清楚な雰囲気をまとった茶髪の女子生徒。左には幼い容姿と長いツインテールを細やかに揺らす少女。まさに『両手に花』という状態だった。


「ねえ、アキ君。この前言ってた数学の宿題はやってきた? 私のクラスでも同じのが出たんだけど、あれ難しくない?」


 首を僅かに傾げ、右側に居た少女――來篠くるしの椿つばきが尋ねる。


「ああ、やってきたよ。……あれはちょっと長いけど、公式覚えてれば分かるぜ」


 中央に立つ霧島きりしま晶弘あきひろは簡潔に答えた。彼は彼女達と幼馴染の関係にある。こうして三人で登校するのが日課だった。


「さすが、アキ君。すごい」

「そんなことはないさ。何せ、宿題あるの思い出したのが、昨日の深夜だったからな。急いで済ませたけど、おかげで寝不足だぜ。ふぁ」


 欠伸を含んだその呟きに、左側で付き添う少女が反応した。


「だからお兄ちゃん、今日はなかなか起きなかったんだね」


 一つ下の学年である檜室ひむろ遊衣ゆいの高い声音が発せられる。


「遊衣たちに感謝してよね! 起こすの大変だったんだよ、もう!」


 左右のお下げを揺らし、霧島に向けて頬を膨らませる。外見だけでなく言動や仕草も子供の物に近かった。大抵の人は初見で彼女が高校一年生だとは気づかない。


「悪かったよ。今度、何か奢ってやる」

「ホント!? やったーっ!」


 檜室遊衣が大仰な身振りで喜びを表現する。花開いた満面の笑顔。その無邪気な表情が霧島と來篠の微笑を誘った。見慣れている光景だったが、目に映る度に少し幸せを実感する。そんな関係が既に十年近くは続いていた。誰も不満はない。むしろ不変である事に喜びを感じていた。


「おっと」


 純真漂う少女の顔色が固まる。

 踊っていた小さな体が、彼等の傍に居た人物に当たってしまったのだ。ぶつかった側の生徒が驚いた顔で振り返る。

一方、檜室はバランスを崩して転びかけていた。何とか姿勢は際どい所で戻された。


「――もう! そんな所で突っ立ってないでよ! デカい図体が邪魔なのよっ」

「……あ、ああ。ごめんね。怪我はない?」


 少女と比べて大きな体躯を誇る相手だったが、その態度は比較的に控えめだった。柔らかな物腰で少女に頭を下げている。


「こーら、遊衣ちゃん」


 來篠椿が微かに怒気を含めて名前を呼ぶ。しかし、その先は男子生徒によって又もや制された。


「いや、今のは俺が悪かったんだよ。次からは道を塞がないよう気を付けるさ。……じゃ、空条さんに黒伏さん。そういうことだから、俺は席に戻ってるよ」


 先程まで会話していた女子生徒達に断りを入れ。彼はその場から歩いて去って行った。背中を向けられた二人組の内の片方、華奢な少女の顔がいかにも惜しそうに強張った。來篠が数秒間だけ無言の詮索に陥る。


「おーい、椿? 何してんだー?」

「……あ、待ってアキ君」


 自席に辿り着いた幼馴染の少年に呼ばれた。妹分である少女も一緒に待たせていた。目前の光景は振り払う。学校指定の鞄と、ある荷物を手にして彼女はすぐに駆け寄っていった。


「はい。今日のお弁当。こっちがアキ君で、こっちが遊衣ちゃん」

「おー、サンキュー」

「わーい。ありがとー、椿お姉ちゃん!」


* * *

《Side:松峰 紅郎》



「今日は遊衣ちゃんの大好きな卵焼きが入ってるわ」

「ホントっ? 嬉しい!」

「一度生徒会室においでなさい、龍野宮。美味しいお菓子と紅茶がありますわよ」

「必至だね、光里」

「会長~! 今日はもう諦めませんか~?」


 各方向から届いてくる騒がしい声に、松峰紅郎は目を細めた。教室の最後列に座っているので、様々な生徒を観察できる。二年生に進級してから早二ヶ月。こうした風景はもう何度も目の当たりにしていた。

「ちっ、うるさいな」

 小さく舌打ちを漏らし、鋭い双眸を周囲に向けた。暗い印象を放つ面持ちが一瞬だけ露わになるが、再び降ろされて前髪に隠れる。

 目線の先にあるスマートフォンの画面に彼の指が触れた。次の瞬間、『YOU WIN!』とポップなフォントの文字が映し出される。


「おい、松峰」


 短く横へ振り向く。名前を呼んだのは、登校してきていた隣席の同級生だった。眼鏡越しの両目でじっと見つめてきている。ただし、松峰の顔ではなく手にしているスマートフォンに焦点を当てていた。


「何だ、千川原ちがわらみつる

「今は何勝目だ」

「……連続十勝目だ」


 松峰がやっていたのは戦略シミュレーション系のソーシャルゲームだった。高い難易度と複雑な対人戦がウリであり、一部のゲーマーにはかなり名が知られている。


「ふん」


 話しかけてきた千川原が鞄を机の上へ置いた。ぞんざいに扱った為に、勢いでばたんと倒れた。自然と二人の会話も途絶える。お互いの興味は別の物へと移っていく。


「…………」


 松峰が視線を逸らそうとした直後、教室の隅にあった別の光景に目が留まる。だが、一瞬の事だった。自分の手元にだけ再び集中する。

 スマートフォンのゲーム画面が更新されていた。デフォルト調の様々なキャラが、升目で仕切られたフィールドに並んでいる。今は松峰の手番だった。残り時間を使って、手持ちの駒を順に確認していく。

 その中の、とある一体の頭上。HPを示すゲージが短くかつ赤くなっていた。


「――こいつは」


 指を滑らせて、死の間際にあるキャラの行動を選択する。


「捨てる」


 初期から使ってきたキャラだが、愛着は微塵もなかった。

 瀕死状態のキャラは真っ直ぐに敵軍の中央へと突撃していく。数秒後、必然的にその駒は敵のNPCに殺された。そして、最後には松峰の十一勝目が決定した。


新シリーズです。少しのストックはありますが、遅筆なのでしばらくは2、3日おきに投稿していこうと思います。感想を貰えるとモチベーションが上がりますが、返信できるかどうかは微妙です。そこらへん、どうかよろしくお願いいたします。


2019年7月14日、出だしを改変しました。








注)この作品は主人公の一人である皆月優真が最強です! ……ぼこぼこにされることに関しては。物語が進むと、精神・物理ともに色々と殺しにかかります。

 救いとかは、あまり期待しないで下さい。

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