舞い散る華よりなお凛々しく
凛と立つ姿はただ凛々しくて。
『神崎桜』という名を体で示した如く、神々しく華やかだ。
何をやってもダメな俺とは反対に、彼女は完璧超人だった。
今も壇上で、生徒会長として新入生へ祝いの言葉を贈っている。
艶やかに伸びた黒髪は美しく、前を見据えた瞳は鋭い。
まるで桜の花のように、ほんのりと薄く色づいた頬が艶めかしい。
きっと彼女は輝き続ける。いつまでも、死ぬまで、ずっと。
だけど俺は願ってしまう。
季節が巡れば散ってしまう桜のように、彼女の姿も散ってしまわないかと。
そんな邪な想いを、抱いている。
「横山くん、またサボりかしら」
頭上から声が落ちてきた。
うっすらと閉じていた瞳を開ければ、そこには神埼桜の怒った顔がある。
サボり常習犯の俺を、多分、教師に言われて探しに来たのだろう。
といっても、授業中にのんびり昼寝が出来る場所といえば屋上か裏庭くらいしかないので、探す手間もそうはかかっていないはずだ。
「聞いているの?」
苛立ちを隠そうともせず、神崎は言葉を紡ぐ。
俺はふわぁ、と生あくびをすると、また目を閉じた。
「ちょっと!」
そうだ、怒ればいい。感情をむき出しにしてしまえ。冷静な完璧超人を捨ててしまえ。
彼女は俺の前でだけ、理性を崩す。感情の赴くままに怒り、苛立つ。
それが楽しくて、俺はサボり生活を続けている。
散ってしまえ。桜のように。
寝転ぶ俺の横に、神崎が座る。
スカートが際どい位置にあって、思わず薄く開けた目を逸らす。
えっち、と、小さな声が聞こえたような気がした。
「ねえ……どうしてわたしを困らせるの?」
戸惑いを隠せない声音。
少し震えたその声に、俺は思わず視線を彼女に向ける。
神崎は、泣きそうな顔をして俺を見下ろしていた。
自分が生徒会長の時代に、俺のような不良生徒を作ってしまうのが嫌なのだろうか。
「答えてよ」
俺は答えない。
そこに意味はないからだ。
いや――意味なら、ある。
神崎を、困らせたいから。
幼稚な、子供じみた理由。
ただ、それだけ。
「ねえ……」
壇上で見せた凛々しさはどこにもない。
そうだ、泣いてしまえ。崩れてしまえ。
春が過ぎれば散ってしまう桜のように。
神崎桜。お前も散ってしまえばいい。
それが、歪んだ、俺の、希望。