やんわりわかる沖縄方言
ヒガ「はいさい。やんわりわかる沖縄方言のコーナー。くたびれた中年講師のヒガです」
ミスズ「はいさーい、瑞々しい現役女子大生で本講座の生徒役、ミスズです!」
ヒガ「はいダウト」
ミスズ「えっ!?」
ヒガ「やーはうぃきがか? ふらーよ」
ミスズ「は、はぁ…? ウィキガー…? 珍獣か何かですか?」
ヒガ「今のは沖縄方言で『テメェはそのナリでチ○コが付いてんのか? 馬鹿が』と言うニュアンスになります」
ミスズ「ひ、ひどいっ!? なんで!?」
ヒガ「『やー』は『テメェ』、『うぃきが』は『男』と言う意味で……」
ミスズ「そっちじゃなくて! 何で先生は唐突にそんな罵倒を!?」
ヒガ「良いですか? 『はいさい』は、いわゆる男言葉。女性は『はいたい』を使いましょう。ニュアンスとしては『はいさい』は『よう、元気かい?』。『はいたい』は『あら、お元気ですか?』くらい差があります」
ミスズ「へぇ……たった一文字で、受け取られ方が結構変わるんですね」
ヒガ「同じ用例では、『私が来た(※)』なども女性言葉の場合『ちゃーびらたい』になりますね。女性の方は『~さい』で終わる方言は大体『~たい』に直す感じで挑めばOKです」
※意訳。「ちゃーびらさい」は人の家を訪問した際に、訪問者が玄関先から「ごめんくださーい」と家の中へ呼びかける時とかに使う言葉です。つまり「私があなたの所に来ましたよ」的なニュアンスを持ちます。
例としては「ちゃーびらさい、宅配便ですよー。ここに印鑑欲しいさー」 → 「ごめんください、宅配便です。ここに印鑑はよ」。
ミスズ「そ、そうなんですか。いきなりの罵倒には驚きましたが、ご教示ありがとうございます」
ヒガ「……と、こんな感じで日常会話でちょいちょい使えそうな沖縄言葉を紹介してゆく所存」
ミスズ「よろしくお願いします」
ヒガ「では、ミスズさん。まずは基本中の基本、『はごい』。さぁ、これはどう言う意味だと思いますか?」
ミスズ「え、えぇと……」
ミスズ(基本中の基本ってことは、あいさつかな?)
ミスズ「ご機嫌いかが、的な……」
ヒガ「はぁ? ふらーにも程があるわ、このやなわらばー」
ミスズ「ふ、ふら? やなわら……?」
ヒガ「『馬鹿極めてんなクソガキが』と言う意味です」
ミスズ「ひどいっ!」
ヒガ「さて答え合わせ。はごい、とは、『汚い』と言う意味です」
ミスズ「基本!? それ基本なんですか!?」
ヒガ「沖縄の小~中学生くらいの子は、相手をからかう時、遠くから『はごー、はごー』と叫びます。ニュアンス的には『やーい、汚物ー、汚物ー。薄汚いぞー』って感じですかね」
ミスズ「いじめだーっ!?」
ヒガ「ちなみに、『はごー』された側は『テメェ調子乗るなよ』と笑いながらサトウキビを片手に『はごー』した側を追い掛け回し、仕留めるまでがワンセットです」
ミスズ「沖縄の子供強いッ! 虐げる側と虐げられる側に明確な境界線が無いッ!」
ヒガ「ある意味、微笑ましいでしょう? 明日は我が身、撃っていいのは撃たれる覚悟がなんとやら」
ミスズ「それは果たして微笑ましいんでしょうか…?」
ヒガ「さて、次はまたしても基本中の基本、『やなー』です」
ミスズ「やなー?」
ヒガ「『不良品』『使えねぇ』『無能』『駄目』『クソが』などなど、使う場面によって色んなニュアンスが生まれる(※)便利な言葉ですよ」
※一例
これやなーやっさ → これ不良品だな。
やーはやなーだな → テメェ無能だな。
やなー…しにあがい → クソが……めっちゃ痛い。
ミスズ「ひどっ…って、先生、なんで私のことを指さしてるんですか!?」
ヒガ「やなー」
ミスズ「先生!?」
ヒガ「さっき使った『やなわらばー』は、この『やなー』と、子供と言う意味の『わらばー』がくっついて『クソガキ』と言う意味になる訳です。わかったかやなわらばー」
ミスズ「………………」
ヒガ「さて、次は最早これを知らずに生きてて楽しいの?レベル、『ふらー』」
ミスズ「さっき先生が私に使ってましたよね…何か、嫌な予感しかしないんですけど」
ヒガ「よく覚えてましたね、ふらーのクソガキのくせに。はい、これは直球で『馬鹿』と言う意味です」
ミスズ「先生! 私は何か先生を怒らせる様なことをしてしまったのでしょうか!?」
ヒガ「あびらんけぇ、しなすぞ」
ミスズ「あ、あび?」
ヒガ「『もう喋るな、やかましい。黙らないと殴ってでも黙らせるぞ(※)』と言うニュアンスになります」
ミスズ「先生ーッ!?」
※あびる → 喋る。
あびらんけぇ(あびる+○○するな) → うるさいor喋るな
しなす → 殴る・張り倒す・再起不能にする・時々少量の殺意。
ミスズ「せ、先生、お願いなのでそろそろまともな方言を……」
ヒガ「では『しに』とかどうでしょう」
ミスズ「死に!? もぉぉぉ! どうせまたひどい意味なんでしょ?」
ヒガ「はぁ? 調子乗るなよクソガキ。『しに』は『すごい』とか、『ヤバい』とか『死ぬ程』とか、そう言うニュアンスです。『しに激しい』だと、『ヤバいくらい・死ぬ程・すごい激しい』となる訳です。結構有名な『でーじ(すごい・大変etc)』と使い所が被ってるので、若干マイナーなポジションかも知れません」
ミスズ「あ、そうなんですか……」
ヒガ「ちなみに、最近の子たちは『しにヤバい』『しにでーじ』と言う使い方をしたりもします。超強調。もうその使い方がしにヤバいって感じですね」
ミスズ「は、はは……」
ミスズ(良かった、比較的まともな……)
ヒガ「しにやなー(笑)」
ミスズ「私を指さして言わないでッ!」
ヒガ「しにはごー」
ミスズ「いい加減その指へし折りますよ!?」
ヒガ「では、基本を押さえ尽くした所で、実践に移りましょう」
ミスズ「ちょっ!?」
ヒガ「何を驚いているんですか? 日常会話で使えて初めて言葉は意味を持つんですよ。学んで置いて使わないなんて、せっかく育てたヘチマをタワシにする様なもの(※)。言語道断」
※沖縄でヘチマをナーベラーと呼ぶのは「昔は食べる以外にも『鍋を洗う』のに使っていたから」と言う説がある。
ミスズ「いや、そうじゃなくて! 私まだF言葉並に使い所が限定されてる方言しか習ってないんですが!?」
ヒガ「本当かしましいやなわらばーよ……講師の言うことに逆らっては行けませんよ。講師と生徒とは、いわば薩摩藩と琉球の関係です」
ミスズ「クレームが来そうな際どい例えはやめときましょうよ!」
ヒガ「さ、とにかく、わざわざ沖縄からゲストまで呼んでるんですから、当たって砕け散ってしまえ。そうだ、それが望ましい」
ミスズ「先生ッ!? って、沖縄からゲストって、こんなふざけきったコーナーでなんて予算の無駄使いを……」
ヒガ「それでは、沖縄からおこしいただきました、でーじスペシャルなゲスト、リューちゃんでーす」
ミスズ「リューちゃん? マスコットみたいな名前で…」
リュー「ごぉぉぉおおああぁぁあああああッッッ!!!!」
ミスズ「ほぎゃあっ」
ヒガ「見てくださいあの逞しくて大柄なボディ。まるで雑居ビル。そして非常に堅そうな黒紫色の鱗。中型ミサイル程度じゃ焦げ一つ付きやしない」
ミスズ「あ、あば、あばばばばばあば……」
ヒガ「沖縄の温暖な気候が育んだ(※)ワガママボディの暴れん坊、暗黒大魔界覇竜のリューちゃんだお☆」
※温暖な気候はすごい。
ミスズ「せ、せせせせせ先生!? りゅ、りゅりゅ、竜!? 竜ですよねあれ!?」
ヒガ「こらこら、呼び捨てノンノン。リューちゃん。HEY、リピート、アフタァ、んミー」
ミスズ「いやいやいやいや! 待ってくださいよ! 色々突っ込みたいんですが、まず大前提としてお話できるんですかリューちゃん!?」
リュー「……………………」
ミスズ「……………………」
リュー「はいたい」
ミスズ「♀ーッ!?」
ヒガ「ほら、挨拶されてますよ」
ミスズ「あ、あうあうあ…あ、は、はは、はい、たい……」
ヒガ「さぁ、リューちゃんはシャイですよ! 君からどんどん話しかけて!」
ミスズ「先生この野郎ッ……」
リュー「……………………」
ミスズ(ま、待って、そうよ。いくら沖縄の人…じゃなくて竜でも、方言しか通じないなんてことは無いはず……!)
ヒガ「ちなみに、リューちゃんはきっちり標準語…ヤマト言葉も理解しますが……ミスズさんは課題として本日習った方言は全て使ってください。使い切れなかった場合は罰ゲーム。小指をもらいます」
ミスズ「罰ゲーム!? 闇のゲームですらそこまでしませんよ!? それ最早シンプルに罰ですよッ!」
ヒガ「頑張って」
ミスズ「ひぇっ、あの先生きっちりナタを用意してるッ!? う、うぅ……」
リュー「……………………」
ミスズ「あ、あの……」
ミスズ(そ、そうだ……!)
ミスズ「リューちゃんさん! あなたは全然汚くないですね!」
リュー「?」
ヒガ「! のアマッ……!」
ミスズ「無能でも馬鹿でも無い! 超完璧! 超すごい! 超めっちゃすごい!」
リュー「……そこまで言われると照れるやんに……」
ミスズ「っしゃぁ!」
ヒガ「……ふらーのくせにチョコザイ真似してんじゃねぇよ、やなかーぎめ……」
ミスズ「かーぎ?」
ヒガ「顔。そのほか外見容姿全般」
ミスズ「ええと、確か『やな』はダメとか不良品って意味の『やなー』の……ブサイクってことですか!?」
ヒガ「チッ。まぁ良いでしょう。本日の所はこの辺で勘弁してあげます」
リュー「♪」
ミスズ「ち、ちなみに、さっきから何やらリューちゃんさんがすっごい私に擦り寄って来るのは一体……」
ヒガ「沖縄民は人も犬も竜もシーサーも、種を問わず心を開くのが超快速と言うか、端的に言うとチョロいですからね。あんなに褒めちぎったらそりゃなつきますよ」
ミスズ「チョロいって……」
ヒガ「ご年配の方は特に顕著です。お孫さんの写真やペット、お宅やお庭なんかを褒めるとビックリするくらい簡単に麦茶やお菓子が出てきますよ。大体は黒糖飴か氷砂糖、運が良いと珍貴菓子や砂糖天ぷらが出てきたり」
ミスズ「先生って結構適当にモノを語ってませんか!? それともマジでそう言う地域柄なんですか!?」
ヒガ「いやいやマジで。私が昔、お薬を訪問販売する仕事をしてた時の実体験です」
ヒガ「……あ、お薬って合法な奴ですよ」
ミスズ「むしろ違法な奴を売ってたことがあるんですか?」
ヒガ「……………………」
ミスズ「このタイミングで黙らないでくださいよ!? え? 私そんなダーティな人に教えを乞うてたの!?」
ヒガ「はっはっは。こう言う時こそ、なんくるないさぁ(※)の精神」
※「なるようになるさ」「自然は自然のままに任せようぜ」的なニュアンスだったのが転じて、「世の中なるようにしかならんから、細かい事は気にすんな☆」的な激励言葉として使われる機会が多い。
要するに「『運命』は抗うモンじゃあない。最愛の伴侶の様に、受け入れて添い遂げるモンさ」的なノリに近い。
ミスズ「良いニュアンスで全国区になった方言のイメージを汚さないでッ!! その言葉は先生みたいな性根の薄ら汚い人が使って良い言葉じゃないんですよ!?」
ヒガ「おぉう、しれっと方言混ぜて罵倒してきたよこの娘。私の後釜として実に有望」
ミスズ「死んでも継ぎませんよ!?」
ヒガ「はいはい。さて、それでは今回の講座はこの辺で。私、講師のヒガと」
ミスズ「え、ちょ、あ、何かカンペが……は、はい! 生徒のミスズがお送りしました! また次回!」
ヒガ「ふふふー、次回、あると良いですねー」
ミスズ「いや、ぶっちゃけ私としてはもう無くても良いですけど……」
リュー「♪」