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―調査6日目― ハラハラ・ハラスメント――汝は神なりや?

 ―6日目―


「私には、行かなきゃならない場所があるの!」


 朝食片手に、高らかに明後日の方向を指差し、私は宣言した。


「はぁ、そりゃどこで?」


「それは言えない!」


「はいはい青子さん、平日で誰も宿泊客が居ないからって食堂で、しかも浴衣姿で朝食を取るのは結構なんですけどね。……パンツ、マル見えですよ」


「はい……」


 女将さんに注意されるまで、気にも留めてなかった。テンション上がりすぎた。


 私は、この地に来たら、必ず行かなければいけない場所がある。ぶっちゃけ仕事で依頼でも来なきゃ行かない場所である。


 精霊の増加やら、依代の岩やら、予算やらと問題は山積していた。


 だが解決の糸口も掴めていない今、ジタバタしてもどうにもならない。


 ということで、ちょっと気分転換も兼ねて本日決行とあいなった。


 ――*――


 K駅近くの港から船に揺られること約10分。


 着いた場所が、


【宝当神社】


 そう、宝くじの神様である。厳密には宝くじの神様では無いらしいが、世間の認知度はこちらの方が有名である。


「K市に調査に行くと判って『グー○ルマップ』で調べといてよかった。

 フレックス制の公務員も悪くないけど、やっぱり最高の自堕落ライフは、働かずにずっと引きこもることよね。そのためにはやっぱり金よ!」


 鳥居を抜けて、約20m歩いた場所に、大社造りの縦横5mほどの小さい本殿が建立され、社の中には高額当選したと思われる人達の手紙がベタベタと貼られて、ご利益がいかにも有りそうな雰囲気だ。


 早速、私は“ささやかなる”願いを込めて祈念した。


「宝くじで一等前後賞合わせて3億円当たりますように」


「私に一目ぼれした男がイケメンの金持ちで『嫁にしたい』と言われますように」


「寝ているだけでお金がもらえる魔法にかかりますように」


 ふぅ。本当に私ってば謙虚そのもの。


「しっかし、富当神社ってネーミングがそのまんまよね。もともとは武士を祀っていたのに、この島の住民が宝くじ当たったから『ご利益がある』って、どんだけ安い信仰心なんだよ日本人! まぁ、私もちゃっかり拝んでいるワケだけれども……」


 本殿お参り後『裏参道はこちら』と書かれている案内板に誘われるまま奥に進むと、本殿の軒下に、小さな賽銭箱が地面に直置きされている場所があったため、賽銭を入れ、そこにも本殿同様に“ささやかなる”お願いをした。


 しかし、ここも神社の雰囲気悪いなぁ。参拝客も私一人だけだし。私はボッチには慣れているからいいんだけどさ。


「本当にご利益あるのかね、この神社? まずはこの邪気にも似た嫌な雰囲気を祓う方が先だと思うんだけど。もしかして実は神通力が無くなったとか……。なんてね」


「そうなんです……」


「うわっ!」


 野太いおっさん声なのに、とてもか細いしゃべり方だった。


 声のする方向を見ると、戦国甲冑をまとった大男が三角座りをしていた。声の主はこの人だろう。

 人と言っていいモノかは、定かではないが。


「そんなに驚かないでください……」


「あんた、もしかしてこの神社の神様?」


「そうです。野上網吉のがみあみよしと申します。拙者の声が聞こえる貴殿は?」


「ワタシ? 私は“封地“の一ノ宮青子と言います。以後お見知りおきを……」


「あぁそうですか。貴女が愛護神社の【ミノリ】女史が言っていらした“地鎮司とこしずめ”の方ですか」


「【ミノリ】って誰?」


「あれっ? 愛護神社に行ったんですよね? そこに居ませんでしたか? おかっぱで座敷童のようなわらべが」


「えっ? あぁあの子かぁ。あの神使【ミノリ】って言うのか……」


 可愛い名前だ。今度お持ち帰りしたくなった。


「ところで、なんで、こんな日陰に居るんです? 窓際社員みたいに?」


「いえね……拙者、この神社の神として祀られているんですが、最近、自信を無くしちゃいまして……

 拙者、宝くじの神様として祀られだしたのはごく最近、30年前のことなんです……それまでは、この島の守り神として祀られていたんです。ところが最近は、富を授けるどころか、この島を守るという本来の役目すら果たせない始末。もう自分が情けなくて情けなくて拙者は、拙者は! うぅっ……」


 私は、リストラ寸前の中年社員の愚痴を聞かされている気分だった。中年男のむせび泣く姿って、本人には悪いけど、醜い光景だなぁ。と考えていたその時だった、


「ウォーーーーーーーーーーーン」


「ぎぃやああああああああああ!!」


 感極まったのか、汗とも涙ともヨダレともわからない汁まみれの顔で、私に抱き着いてきやがった。


「ちょっ! やめて! 汚い! いくら神様だからといって、抱き着くなああああーー!」


 きっと、この神様の姿が視える人だったらこう言っただろう。

「まるで、嫁に愛想尽かされて、出ていかれそうなところを必死に引き留めに掛かった亭主の様だった」と。

 だが、現実は儚くもきっと私だけが発狂しているように見えるだろう。いずれにせよ、私が思うことは一つ。

 お願い誰も私を見ないで……。


 ――*――


 それから10分後、ようやく野上様は落ち着いたようだった。神様は人間に物理的に干渉出来ないのでとはいえ、顔中汁まみれのおっさんに抱き着かれる恐怖は、純粋無垢な女子高生だったら、それだけでトラウマ確定だろう。


「でっ、謝罪の言葉は?」


「面目ない……、しかし“神”を正座させるとは、いかがなものかと……」


「なにっ。なんか言った!?」


 文句を言わせないように、怒気を含んだ声で牽制した。


「何でもありません……」


「でっ? 本来の役割すら出来なくなったって、どういうことよ?」


「そう、すべてはあの黒いウネウネがこの島に現れてからなんです!」


「黒いウネウネって、もしかして“穢れ”のこと?」


「名前はわかりませんが、あれは祓っても、祓っても、何度でも現れる相手。しかも、日に日に勢力を拡大し、さながら侵略すること、火の如きでございました」


「でも、この島にはさして影響がないように見えるんだけど?」


「滅相もない! 先ほども申しましたように、私の神力も減ってしまい結界が崩れるのも時間の問題。だからこうやって陰日向で少しでも力を温存しようと。そのせいで人々に私の御神力を授けることも出来ない始末で……」


「うぅっ……」


 これは……嫌な予感……。


「ウォーーーーーーーン」


「だから! くっつくなぁあああああ!!!」


 静かな境内に、おっさん神の号泣と私の絶叫が響き渡った。


 ――*―― 


 境内に敷かれた石畳の上に正座する野上様と、それを見降ろす私。

 私達の間には、殺すか殺されるか(やるか・やられるか)の緊張感が漂っていた。


「くっ、無念なり。人間50年 下天のうちをくらべれば 夢幻の如くなり。ひとたび生まれてごれば滅せぬものの在るものか……」


「辞世の句も済んだようだし、女性の胸とお尻を触った罪を償うため、潔く果てなさい」


「拙者も武士の端くれ。申し開きはせぬ。この身尽きても我が魂は滅せぬ。と言っても、拙者もう魂だけの存在ですけど。ガハハハッ!」


 コイツ、ホントに人をナメくさっている。


「さて冗談は置いといて」


「えっ? 私、冗談言ってた?」


「ハハハッ、戯言を。現代の方は、性質タチの悪い冗談がお好きですなぁ」


「そう、冗談に聞こえたんだ。それはごめんね」


「全く、寿命が縮みましたぞ。もう死んだようなものですが……」


「フフフフフフッ」


「ハハハハハハッ」


「ウフフフフフフフ……」


「アハハハハハハハ……」


「……」


「……」


「もしかして本気ですか!?」


「あったり前でしょうが! あんた、私に抱き着いたとき、どさくさに紛れていろんなところ揉みまくったでしょう! 最後は涙か鼻水まみれの顔を埋めて、頬スリスリさせてたでしょうが!」


「そんな、滅相もない! 私は天地神明てんちしんめいに誓って、そんな不埒なまねはしてござらん。あれは悔しさから震えが込み上げたため、誰かに慰めてほしかったまでのこと! 

 それに拙者は、胸が、こう……たわわに実った女性が好きであって、青子殿のような茶碗程度の胸では満足できませんぞ。しかし、尻の形はよかったですな! 丈夫な子が生まれますぞ!」


「誰が安産型だ! あ、あと私の胸は、ちっ……ちッパ……イ。とでも言いたいの?」


「己の発言で、ワナワナと震えないで下され……拙者そこまで言ってはござらん。それに青子殿の尻は褒めておるから良いではないですか」


「あんた、私が人間だから神様相手には何も出来ないとタカをくくって言いたい放題言ってるけど……」


「私、神と干渉コンタクト出来るわよ? この意味、分かるよね?」


「あっ、そういえば……」


 “ハッ”と私の顔を見て、笑顔が次第に消えていく野上様。私に抱き着いたときに、気づけっての。


「だから、この後、私が何するか判るわよねぇ?」


「青子殿? 両手をバキバキと鳴らしているのは、なぜですかな? 青子殿? 青子どの? あお――んぎゃあああー」


 ――*――


ずびばせん(すみません)。|だいへんぼうじわげありまぜんでじた《たいへんもうしわけありませんでした》」


「霊体とか幽霊とかって殴ると痺れるわぁ。イテテテッ……」


 神や霊体に干渉できるのは、私の特技(特異体質とも言う)ではあるが、もちろんリスクもある。魂が肉体から離れるような“離人感”に襲われるのだ。やりすぎると本当に魂が抜けるかも……。


「|むぢゃぐぢゃいだがっだでず《無茶苦茶痛かったです》。|ぢぢうえにもなぐられだごどながっだのに《父上にも殴られたこと無かったのに》……。そもそも、なんで人が【貴きモノ】にざわれる(触れる)んですか?」


「あぁ、それ? 私、昔ね、魅入られたの。“幽世アッチ”に」


「なっ!」


 絶句する野上サマ。


 予想通りの反応だ。

幽世アッチに魅入られる』……つまり【神隠し】のことだ。


 神隠しとは、人が山中等で行方不明になること。を指すのだが、大半はただ山で遭難してそのまま行方不明になるケースばかりだ。

 しかし、百万分の1の確率で、本当に神に魅入られて、幽世に連れて往かれることがある。

 私が、神やこの世ならざる者を惹きつけ、視認・接触が出来るようになり、封地としてメシが食えているのは、この神隠しを一度体験したからである。


「たしか神隠しは、幽世アチラ側から戻って来られないのでは?」


「あぁ、それね……」


 神隠しに遭った理由と、どうやって戻ることが出来たか……。正直あまり言いたくない。私は話すかどうかを考えていた時。


 〈サササッ!〉と、黒い影が境内を駆け抜けた。


「あやつは!」


 野上サマの顔つきが険しく、声も一段と低くなり、鞘の鯉口こいくちも外して、いつでも剣を抜刀できる体勢になっていた。

 さすが元は武士の神だ。常在戦線が魂に染みついている。

 黒い影の正体はきっと“穢れ”だ。愛護神社で遭遇したヘビのような黒い物体。ここにも……。


「青子殿!」


 刀のつかを持ったまま、私の名を呼ぶ野上様。


「ええっ!」


 私も赤いリュックから御札を取り出し、穢れの襲来に備える。


「……」


「……来た! 上よっ! ――って……ぎゃああああ!」


 穢れは社殿の屋根上から雨のように降ってきた。その量の多さたるや、日光が穢れ達で遮られるほどであった。


「だあああ! ヤバッ、ヤバイ! いたっ! いったあ!」


 さすがに避けられなかった。

 私は、頭を両手で押さえ、穢れが地面にボトボトと落ちるのを耐えて待つことにしたが、穢れに身体が触れるたびに、火傷を負ったような痛みを感じた。


「どわああああっ!」


 野上様の悲鳴が聞こえる。彼もこの物量には為す術もない様だ。


 私は一応【ヒト科ヒト属】であるため激痛だけで済んでいるが、彼の場合は【実体のないエネルギー体】と同様だ。

 きっと、神経や痛覚を直接攻撃されている感覚だろう。

 しかも、穢れたちは私より神である野上様(彼)にご執心らしく、地面に降り落ちた後、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、野上様に集まって彼に纏わりついた。


「たっ、たすけて、青子ど……の」


「ゴメン! 無理!」


 野上様というデコイのおかげで、私はこの穢れの雨から退散し、少し距離を取ることが出来た。 彼も痛いだろうが、私も耐えられなかった。痛みに耐えるのは昔から男の役目だ。

 女の子には痛いことをしちゃダメなんだぞ!(はぁと)


 野上様から一旦距離を取り、リュックから大量の札を取り出す。


「祓えたまえ! 清めたまえ!」


 野上様に憑りついている穢れたちに向けて、御札を手から離した。御札は、ミサイルの様な一直線の軌道で、穢れと衝撃した。しかし、消滅した穢れは、ほんの一部に過ぎなかった。


「くっそ! もう一回!」


 と、再度御札を放ち、穢れの群れに風穴を開けるも、穢れ達が穴を埋めるスピードの方が速く、ちぎり絵のように、どんどんと黒色に野上様を塗りつぶしていく穢れたち。


「がぁあああ」


 そんなこんなで私が焼け石に水を振りかけているうちに、事態は最悪の展開になった。野上様の気が黒く禍々しいものに変容したのだ。


「うおぉぉぉぉ……」


 うわ、まじ最悪だ……。穢れに乗っ取られるとは……。野上様の瞳からは精気が抜かれ、口はだらしなく開いたままで、ラリった中毒者のようだった。


「あぅ、うぅぅ……」


 錯乱状態の人間と大差ない、が……。


「おっ……」


 あっ、私を見て反応したようだ。オイっ、まてよ……。これって……


「おなごぉぉぉ!!」


 鼻息荒くなって、こっちに向かって突進して来たぞ! ヤバイ!


 “貞操の危機”だ!


「だああっ! 近づくなあああ! このドスケベザムライぃぃぃ! あんた絶対、正気でしょー!」

 必死に逃げる私。一方、野上様も鬼気迫る勢いで追いかけてくる。


「どぅわああああ!」


 想像してほしい。精気の抜けた顔のイっちゃった目をしている中年オヤジが、うら若き女性を見つけるや否やダッシュで駆け寄ってくる姿を。普通の女性なら十中八九泣き叫びながら逃げ惑う。私ももちろん例外ではなく境内を逃げ回るも、次第に体力の限界が近づいてきた。


「あぁっ!」


 ちょうど転びやすそうな握り拳大の石に躓き、盛大にすっ転ぶ私だった。


「はぁ、はぁ……おっ、おなごぉ……」


 興奮した様子で私に乗りかかる野上様。そして勢いよく胸倉を掴み、服を引き剥がそうとする野上様だった。


「ぎゃああああっ!」


「チチッ! チチッ? ちっ、ちいさい……」


 おい、なんで意気消沈した?


「しっ、尻っ! でかい!」


 自分で勝手に盛り上げたぞ、この憑かれザムライ!


「ぎゃあ! やめてっ! この馬鹿ザムライ!」


「おっ、おなご!」


「ぎゃああああ! 胸を揉むなぁ!」


「たっ……平ら……胸板……おのこ?」


「だぁれが、おとこじゃああああ!!」


「ぐぅわあああ!」


 渾身の一撃を顔面にかましてやり、野上様は、盛大に吹っ飛んでいった。だが、野上様は怯んだ様子もなく、ゾンビの様にすぐに立ち上がった。しかし、私もすぐに体勢を立て直した。


「正気じゃないのはわかってるがもう許さん! 痛くても死にはしないから……。おとなしくクタバレ!」



「掛けまくも畏き 伊邪那岐(いざなぎ)大神おおみかみ


 ――伊邪那岐命いなざぎのみこと


筑紫つくし日向ひなたたちばな小戸おど阿波岐原あはぎばらに」


 ――黄泉の国の穢れを祓うため


(みそ)はらたまひし時に なりませる祓へ戸の大神たち」


 ――みそぎによって、魂の浄化を行うかのごとく


諸々(もろもろ)の罪・穢れ有らんをば」


 ――罪過や不浄、あらゆるこの世の悪事を


はらたまい清めたまえと もうすことを聞こしせと」


 ――全てをはらうために、うたいあげる


かしこかしこみももうす! 祓えたまえ! 清めたまえ!」


 私の言魂ことば


「オオハラエの祝詞!!」


「がぁっ!」


「うぎっ、あぁっ、ああああぁっ!!」


 野上様の体の中から光が溢れだす。非常に苦しそう。それも当然だ。私の全力を込めた言葉を紡ぎだし祝詞にしたんだ。


 言霊ことだまなんて生易しいモノじゃない。


【言葉の撃】で、野上様を覆う黒いオーラを吹き飛ばすと同時に、魂を貫く言葉が心に深く浸透する。人間で言えば、皮膚を焼き飛ばされながら臓腑ぞうふが破裂していく感覚だ。


 想像するだけでも“ゾッ”とする私の必殺技とっておきだ。


 黒い穢れは、ポロポロと風化した外壁が徐々に剥がれ落ちるように粒子となって昇天した。野上様も魂が抜けたように、がくっと倒れた。


「ふぃー。さすがに穢れ1000匹単位(オーダー)を祓うのは苦労するわ。私も霊力が“すっからかん”だ。やばっ……ちょっと立てない」


 必死に立とうとするも足に力が入らないため、その場にへたり込んでしまった。


 ――*――


「うぅ……」


 野上様の意識が戻ったようだ。

「おっ……」


『おはよう』……って言うのかな? 私の気も知らずのんきなもんだ。


「おなごおぉ!」


「えっ!」


 冗談じゃない! 今襲われたら、本当にヤられる!


「おなごはどこじゃあ! って……ありゃっ? ここは? そして拙者は何を……」


「はぁ……びっくりさせないでよ……」


「おやっ、青子殿? 穢れたちは?」


「誰かさんが憑りつかれている間に浄化しました」


「うっ、面目無い。拙者もあの数では、雑兵と言えども、手も足も出のうござった」


「まぁいいわよ。私も野上様を奴らの餌食にしたわけだし」


「そうですか。拙者憑りつかれている間、意識が飛んでしまいましてなぁ。どうやら昇天していたようで、夢で天女に出会いましたぞ。尻がボンと出ていて魅力的だったのに、胸がストンとしていて、そこは、まことに・非常に・本当に、残念でござった……」


 ――その言葉は、怒れる修羅を目覚めさせ、一柱のおっさん神を消滅させるのであった――


 ――*――


 再度、石畳の上で正座する野上様とそれを見下ろす私。しかし、野上様の顔がデコポンのようにボコボコになっているところが、前回と決定的に違っていた。


「さて。天誅も済んだことだし、当初の目的を思い出したんだけど、私に富当のご利益を授けなさい」


「えぇー、そんな世俗めいた話をするんですかぁ。現世の方と会話出来る機会なんて滅多に無いんだから、もう少しお話ししましょうよぉ」


「お前はガールズバーで、クドクドと身の上話をして長時間居座る客か!」


「『がぁるずばぁ』とは、何ですか?」


「お酌はしてくれるけど、お触り厳禁な女中が居る酒場のことよ……」


「なんと! そんな場所が現代にあるのですか。ぜひ行ってみたいもんです。でもお触り禁止はいただけませんなぁ」


「あんた本当に頭ん中“エロ”ばっかりね。それでよく神が務まる。それでちゃんと“オトシマエ”付けてくれるよね?」


「青子殿、目が怖いですぞ……。

 仕方ありません。残り少ない力ですが、オナゴのためにひと肌脱ぐのは男の役目と言いますからな。神力を授けましょう。しかし自分は『当てる』ことしか出来ませんぞ?」


「それでいいのよ。この【ドリームビッグ宝くじ】にあんたのご利益を授けてくれれば、ヘッヘッヘッ」


「あぁ、それは無理ですな」


「なぬっ? それじゃあ【宝当神社】の名に偽りありって言うの?」


「まぁまぁ聞いてくだされ。この神社はそもそも私を奉るためのモノでした。ある時、島の住人がこの神社の名にあやかり当選を祈願したところ、宝くじに高額当選し、それがTVで取り上げられて“ご利益がある”と有名になったのです」


「そうね、ネットでもそのように書いてたわ。じゃあご利益があるんじゃないの?」


「いやいや、実のところ私は何も力を授けておりません。ただし昔から言葉には力があります。この宝当と言う名前にも力が宿りますので、知らず知らずのうちにその効力があったのでしょう。

 またその方は、当時ご利益があるかどうかわからないこの神社に、毎日参拝されていました。清い行いと強い想いは自然と幸運を引き寄せます。その方が高額当選をした最たる理由はそこにあったのでしょう」


「じゃあ、宝くじに当たったその人は、日頃の行いがよかったってこと?」


「それだけではなく『当てるべくして当てられた』と私は考えております」


「なんだかわからないけど、妙に説得力あるわね。ちょびっとだけ感心したわ」


「伊達に神様を名乗っていませんから」


「でもあなた、当てる力はあるんでしょ」


「現世利益ではなく、自然現象的なものや霊的なものであれば」


「ふぅーん。でも現世利益じゃないとなぁ……。まぁいっかそれでも」


「この神社を救ってくれたお礼に“一度だけ”あなたが強く願ったとき、その神力を授けましょう」


「ありがと。当分使い道はなさそうだけど、ドリフのコントのように、カズの頭にタライでも落としてもらおうかな」

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