―調査3日目― 初心者でも出来る! 精霊分析!(費用10万円)
―3日目―
「今日も朝からイカでゲソか」
「そうでゲソ。○鶴」
女将、侵略イ○娘を知っているのか!?
「許すまじ。軟体動物、侵略してやるでゲソ」
今日は、昨日の反省を生かし、イカは半分だけ食べた。
――*――
「もう1杯おかわりしておけばよかったな……」
またも、打って変わって打者一巡したような穏やかすぎる海であった。昨日のどんよりとした曇り空と違い、本日は快晴で、私も気分が良い。
「何はともあれ、やっと仕事を始められる。昨日の遅れを挽回するためにも、本格的に調査するぞ! オー!」
「なんだ? 若い女が三日連続でこんな船乗るから自殺志願者だと思っていたんだが、姉ちゃん学者か大学の教授だったのか?」
「まぁ、そんなもんね」
九ツ釜に到着した私は、まずは近隣の岩肌をふれ、少しだけ土を採取させてもらう。固いものかと思ったらボロボロと砂を削るかのように取れる。
柔らかい。風化したという自然現象ではない。
ちょっと“中二病”的なイカれた言い方をすると、岩自体が「その物体としての本質」を忘れているようであった。私も何言ってるかわからないが、多分一番正しい表現。
「相当やられてきているわね。これは」
岩を登り、海面から離れた箇所の岩盤から2・3箇所削らせてもらう。上に行くほど固くなり、削るのに苦労した。
「海面から離れると、岩は固くなる――か」
次は、水質の調査だ。私は洞穴の近くに船を寄せてもらった。
「海面から私の美顔が見えない」
「ネェちゃんは、どっちかって言うと3枚目じゃねぇか?」
ははっ。と金歯が目立つ前歯を見せながら、悪気もなさそうにおっちゃんは笑った。どこぞの誰かと同じようなこと言いやがって。覚えとけ。
それにしても濁りが多い。昔の観光写真と見比べても海面の色が少し違う。碧色というより緑色。管理が行き届いていない公園の池のような藻色だった。
ここも何ヵ所か場所を変えて、サンプルを採取して現地を去ることにした。
――*――
旅館に戻った私は、早速、海水の成分調査を行うことにした。
「ph値=8.1、
KH値(炭酸塩硬度)=7、
カリウム=393ppm、
カルシウム=411ppm」
簡易の水質検査キットで化学分析するもこれといった特徴は無い。ただの海水だった。
「となると……」
私はカバンの中から白い粉末を取り出した。
「たらららったらー。しろくて、こうかな、こなー」
いやいや怪しいモノじゃないって。
これは、精霊石と呼ばれる1g=10万円もする世間には出回らない効果な石を粉末状にしたものだ。その1gをサンプルの海水に溶かした。これにより、各精霊の力が活性化されるとともに、リトマス試験紙のように精霊が色で反応する。
「さよなら諭吉さん10人。あっ、ちょっと涙出た」
私は、これでどれだけお酒が買えるだろうと考えながらも、泣く泣く調査のため精霊石の粉末を溶かした。
おおよそ10分で海水が4つぐらいの色の層に分かれた。と言っても私にしか見えないんだけど。
またまたカバンの中から、年代物でヒビ割れがありフレームも傷だらけのガラス製のモノクルを取り出す。
「このモノクルを使うのも久しぶり。じぃちゃん、力借りるね……」
形見の品は見るだけでも、昔の使用者を思い出してしまい感傷的になる。
私は亡くなったじぃちゃんの在りし日の仕事姿を思い出しながら、モノクルを装着した。
「海藍精霊6割、
緑碧精霊2割、
土隆精霊1割で、残りは
黒慮精霊が1割か……」
傍から聞くと中二病丸出しな発言だが、精霊と言えば、剣と魔法が入り乱れるファンタジーの精霊をイメージすると誰もが思うだろう。
しかし、日本の精霊信仰は、もっと身近であり土着している。八百万の神と呼ばれるほど日本の神は多い。その中でも日本は『自然信仰』や『精霊信仰』に厚い。
家にある神棚が一番わかりやすい例だ。神棚には『火の神』つまり火の精霊を奉っている。精霊や自然そのものを神とする特殊な信仰心が成り立っている不思議な国。それが日本。
私は海水における精霊の成分分析を行ったが、海水は日本国内でも地域によって精霊の割合が違う。洞穴内の緑色の海を見て予想していたけど、緑碧精霊の割合が多かった。
だけど黒虚精霊が多いのが気になる。
元来この精霊は、海水中には1割どころか1%にも満たないのだ。
この精霊は土地神の力が弱くなっているときによく現れる。例えば日食が発生する前後や神無月の時期に若干ながらも活性化する。そのため時期が重なれば多少増えていても驚くことは無い。
ただし、今は神無月でもないし、日食もここ数年発生したというニュースを聞かない。
「白夜か? いや、日本ではありえない。精霊の力が減少する事件……昔あったなぁ。しかし、あの事件は全国規模だったし一斉調査もしたはず。だとすると天変地異の前触れか? うーん可能性は低いなぁ」
検討はしてみるが、さっぱりわからん。
うーん、この精霊が常駐化する条件って何だったけ? 瀬戸さんなら知ってそうだけど、教えを請えば「そんなことも知らないのかい!」と説教されて、電話代と私のナイーブなハートがオーバーフローする。
私は布団でゴロゴロ回りながら、どうしようかこうしようかと考えていた。
「あぁっ、わからん! 取りあえず考えても仕方ないし、明日は黒虚精霊の発生源を現地調査だな」
そして、ついに考えることを止め、ふて寝すると言う結論に至った。
おやすみ