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―調査5日目― 後編 反省会兼作戦会議

 水龍の猛攻を受け、窮地の青子を救ったのは、風水師の榊であった。彼の電光石火の早技により、ピンチを脱出した青子たちだった。

「着いたぞ。今日はもう休め」


「榊さん。旅館の手前まで送ってもらってありがたいんだけど、私達を抱き抱えたまま、ここまで来ること無かったんじゃないかなぁ」


「ではどうしろと」


「いや、旅館のちょっと手前で降ろしてもらえれば。私達歩いて戻れたから」


 まるで屈強な猟師に捕らえられたイノシシとシカのようで、私たち二人は今非常に恥ずかしい格好であった。


「むぅ、そうか。すまん」


 低い声で素直に謝る榊さん。こういう実直なところが、あの双子のハートを射止めたのだろうか。


「あっ、あの。お礼が言いたいので降ろしていただけますか」


 美海が久しぶりに言葉を発した。


「そうか」と言って、ゆっくりと美海を降ろす榊さん。


「あっ、私も」と同じく優しく降ろしてくれることを期待したのだが、

「ほらっ」と、私に対しては、ゴミを放り投げるように雑に扱う榊さんだった。そのため私は、「あイタッ!」と体全体で地面に着地した。


「何すんだ。レディはもっと大切に扱え!」


「お前は己の軽率さを猛省しろ」


 榊さんの怒気を孕んだ言葉が私の胸に突き刺さった。


「ごっ、ごめんなさい」


「俺じゃない。その謝罪は」


 と、美海の方に顔を向ける榊さん。


「美海、今日はごめんなさい」


「青姉さま。本当に生きててよかった。本当にぃ……」


 と涙ぐむ美海であった。しかし美海には大変悪いが、おしろいや紅が涙で流れて、お○Qの様に面妖な顔になったため、私は笑いを堪えられなかった。


「ごっ、ゴメン。美海、そんな顔で私を見ないで」


「なっ、何でですか?」


 困惑する美海を横目に、私はお腹がよじれて仕方なかった。

 その後、美海に事情を説明し、旅館で化粧を一旦落としてもらい、榊さんを乙女の花園に招き入れた後、改めて榊さんにお礼を述べる美海であった。


「榊さん、私を。ううん、青姉さまを救っていただき、本当にありがとうございました」


「礼には及ばん。コイツと居ると、いつものことだ」


「『いつも』じゃない。『たまに』です」


 私は備え付けのお茶を飲みながら、二人の会話に割り込んだ。


「コイツは昔からこうだ。瀬戸氏が苦労するわけだ」


「瀬戸さんともお知合いですか」


「あぁ。俺も世話になったことがあってな。瀬戸スミレ氏と言えば、封地にその人ありと呼ばれた大人物だ。彼女を慕う人間や仕事上の人脈は山ほど存在する」


 私も榊さんと初めて出会ったのは、瀬戸さんが榊さんと合同で仕事を行った時のことだった。あの頃の私はまだ下積みで、瀬戸さんの助手だったな。ただ当時から榊さんはこの業界ではトップランナーの有望株だった。


「しかし、瀬戸氏は己の弟子を持たないことで有名だった。講師として教鞭を執ることはあってもだ。しかし、なぜかこいつを弟子にとり、封地の知識を一から叩き込んだ。瀬戸氏を知る者たちは、そのことに驚いたものだ」


 なつかしいとともに嫌な記憶だ。本気で封地になると決心したのは、高校一年生の終わり頃だったっけ。それから毎日毎日瀬戸さんのスパルタ教育。思い出しただけで身震いと吐き気がする。


「そして出来上がったのがこれだ……」


 残念そうに、私をクイっと親指で指す榊さん。


「これとは失礼な!」


「しかし、コイツの実力は本物だ。常人には無い特殊能力も持っている」


「条件が揃えば。の話だけど」


 そう。九ツ釜の池田戦で発揮した私の能力は、妖力・霊力・神力などあらゆる力を自分の力に変換できる能力である。


 一見最強の力に見えるが、使用条件も多い。


 第一条件として、周囲の力場に方向性が定まっていない時だけ使える。ということだ。今回のように霊力も妖力も何もかも、あの水龍様に力が向いていた。あそこは神の縄張りだから当然なんだけど。


 第二条件は、人工的な力と私に悪意や敵意を持ったものは、当然ながら取り込めない。


 役に立つようでなかなか使えない能力で、私はこれを【弱い磁石】だと勝手に思っている。砂鉄の様な小さい力を集めて、己のモノにしていくが、強い磁力を持つ相手や力場だと、力は集められない。


「青子、あの水龍について、お前は何か気付いたか?」


「さぁ。なんで自然の神が烈火のごとく怒るのか不思議なんだけど」


「あのー私、気づいたことがあるんですけど」美海がおずおずと意見を述べた。「あの水龍様、私のかんざしを見て、一瞬怯んだように見えたのですが」


「そう言えば確かに。何でだろうね?」


「普通に考えて、水龍に縁があるのだろうな」


「とするとなんだろう。大切な人がくれたものが、かんざし?」


「でもおかしくないですか。誰が渡すんです?」


 私達三人は、水龍が一時停止した意味が理解できず、沈黙した。


「俺はそれとは違うことに気付いた」


「あの一瞬で、よく観察できたわね榊さん」


「俺の本職に関係することだからな」


 榊さんはわかって当然と言った顔で、次の言葉をつぶやいた。


「奴は逆鱗が無かった」


「逆鱗が無い? それ、おかしくない?」


 龍の眷属には必ず逆鱗があって、流麗に整ったウロコの中に一つだけ逆立

つウロコがある。それが逆鱗だ。これに触れると、どんなに親しい相手でも龍は激怒してしまう。


 通常、逆鱗は龍の首元にあるのが定番である。


「つまり、逆鱗が無いって言うのは、どういう事態を引き起こすの?」


「電気が入りっぱなしの照明に『切』スイッチが無いと、どうなる?」


「そりゃあ――あっ、そういうことか」


 水龍は怒りを解く手段が無いのだ。鎮まりたくても、常に憤怒を強制させられている状態である。


「ねぇ……これって、ヤバくない?」


「お前は本当に引きが良いな。今ここで対処しないと、竜神温泉郷は崩壊する。近くの田畑や集落も朽ちる運命を共にするぞ」


「お二人とも何をおっしゃっているんですか?」


「今、竜神温泉は龍脈が枯渇していることにより、泉質の悪化が見られるってのは前に説明したわよね? しかし、もうちょっとマクロな目線で見ると、その龍脈の胴元である水龍は常に怒っている状況なのね。これはどういうことかと言うと、常に怒りのエネルギーが必要な訳で、怒るのってすごく体力要るよね。だから、常に龍脈の力を自分が独占して使っている。簡単に言うと、そういうこと。龍脈は無尽蔵に湧き出るモノではあるんだけど、水龍が常に消費している。、常に消費しているから、龍脈のおこぼれが自然界に流れる可能性すら、ゼロの状態」

 

 私が話す間、榊さんは、じっと私の胸を見つめていた。


「さっ、榊さん……。いくら私の豊満な胸が魅力的だからって、そんなにまじまじと熱視線を送られても」


「なんでそんなつまらない見栄張るんですか」


 美海がツッコむが、榊さんは聞こえていないのか、私の胸を見続けていた。


「青子、この状態になってから、どのくらい経つ?」


 予想外の質問だった。


「えっ、そうだなぁ。中学二年生ぐらいからどんどん膨らんできてぇ」


 榊さんは、鋭い目つきで私を睨んだ。


「ハイハイ白状します。小学6年生から成長が止まっています。だけど、まだ発展する見込みはあると信じて――」


「何を言ってるんだ、お前は。“龍脈が枯渇してから、どのくらいの期間が経過したのか”を聞いているんだ」


「あぁっ、そっちか。えぇと約3か月ですね」


「約九〇日か、それを加味して計算すると――」どうやら私の胸を見ていたわけではなく、頭脳をフル回転させていただけらしい。いや、私の胸にはくぎ付けだっただろうけどね。


 そして榊さんは重々しく残酷な事実を告げた。


「この土地。あと一週間がヤマだ」


 榊さんの発言は、竜神温泉郷が深刻な事態に直面していることを、私に改めて認識させるものだった。美海はこちらの話についていけず、頭上にクエスチョンマークの花を咲かせていた。


「大げさじゃないですか。時間は掛かっても、水龍様が消費している龍脈を元に戻せば、すべて解決するのではないのでしょうか?」


 美海は、ごく自然な疑問を投げかけた。


「龍脈って、血管の様なモノなのよ。例えば血液が体の一部に梗塞して固まると、その固まった箇所から先の血が流れない部分って、どうなると思う?」


「壊死。しますね」


「そう。そうなると固まった血液を取り除いても、もうその部分は二度と機能しない。龍脈も一度詰まった血管に力を注ぎ込んでも、枯れた力を復活させることはほぼ絶望的なの」


「そして、その期限があと一週間ということだ」


「『ポイント・オブ・ノーリターン』ですか。だけど龍脈が無いからって、霊的な加護が得られない程度ではないのですか? 自然が枯渇するとはとても――」


「オッホン。美海君、よく聞きたまえ」


「あっ、青子博士。そのキャラ、いつも唐突ですね」


「自然界でも霊界でも何より重要なのはバランスなのじゃよ。初めから何も

ない「ゼロ」の状態ではなく、お互いの力場が作用しあって、プラスマイナスゼロになる状態。これが一番大切なのじゃ」


「でも青子博士。なんで無の状態が悪いんですか?」


「それはじゃな。それは……えぇっとぉ。榊博士、パスじゃ」


「急に話を振るな。そうだな。純水の話を例にするとわかりやすいと思う

が」


「あぁ、それいただき。純水って知ってるわよね。水素と酸素のみで構成された混じりけの無い水。純水は不純物もミネラルも何も入っていない水で、この水は電気を全く通さない上に、飲むと下痢を下しやすいの」


「へーそんな性質があるのですか」


「おかしいと思わない? 普通の水道水は塩素とカルキだらけで、いかにも身体に悪そうなのに、腹は下さないし電気も通す。様々な物質が相互的に作用しあって結果的に害が無いの。しかし、純水は物体的には正真正銘の水そのものなのに、体に害を与えてしまう。これがゼロだけの状態に近いの。影響を与えるモノが存在しない以上は発展も成長もなく、ただ使えないモノや、時には毒にしかなり得ない」


 私は勿体ぶった咳払いをし、私の推察を美海に話す。


「だから龍脈が枯渇すると、競争相手が居なくなった自然の力は、だらけて

成長することを止めてしまうんだよ」


「あぁ、なるほど」


「今回の龍脈は水龍が管理するほど大きな力を秘めたもの。この近くに高野山、熊野古道、そして吉野山と日本最上級の霊場が揃っていることも関わりがあると私は、睨んでいる」


 と、榊さんをチラッと窺いながら話すと、榊さんも首をコクっと縦に振ったのを見て、私の推察は、専門家の知見を得た確度の高い推論へと進化した。


「つまり龍脈が陰力として強く働くから、負けじと陽の部分である自然の力が働き、精霊が活性化して霊力も豊富に集まり霊場になる、と。まるで榊さんと悠さんみたいだよね。お互いに切磋琢磨し合う仲」


「文字通り、命と魂を削り合った関係だったがな」


「それで今後どうしますか。榊さん」


「かんざしについて、近隣の【貴き者(とうときモノ)】に聞き込みを行い、情報を集めることが必要だ」


「昨日も、何か情報はないかと周辺の地霊に聞いて回ったよ。有益な情報は出てこなかったけど」


「やらないよりかはマシだ」


「じゃあ逆鱗の件についてはどうしよっか」


「龍脈から流れる気と精霊石を錬成して軟膏を作り対処する。ただ手順が面倒だ」


「でも龍脈って、枯渇しているんじゃ」美海が痛いところを付いた。


「そうだ。だから日高川の他の龍脈を探る」


「そんなホイホイと龍脈があれば苦労しないわよ」


 私は呆れながら榊さんに話すが、榊さんの目はまたもやニヤりと悪人面になった。


「その通りだ。明日から大変になるぞ、青子」


「なんか嫌な予感……」

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