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―調査1日前― あいのかぜと、山 その3

 アパートに戻り旅支度をしていたが、私はイライラしていた。出張費の件も原因の一つだが、瀬戸家族による私と美海との扱いの差に腹が立っていたのだ。

 しかし、そんな理由で美海に八つ当たりするわけにもいかなかった。

 コレがドMのド変態で、それがご褒美になろうとも……。


「そう言えば美海」


「何です? 青姉さま」と嬉しそうに振り返る美海。きっと美海が犬だったらこれ以上無いほど尻尾を振っていたに違いない。


「カズと喋るとき、外面モードとはまた違った、能面の様な無表情な顔で、すんごい事務的に対応するわよね。なんで?」


「あぁ……。それですか……」


 嫌いなものを出された犬のように、急にテンションダウンした声でしゃべる美海だった。


「もしかして、カズに恋しちゃって……だけど素直になれなくて、あんな態度しか取れないとか?」


「寝言は寝て言ってください青姉さま……」今度はふてくされた犬のように、素っ気ない態度に変化した。


「誰があんなやつ……」


 ボソっと何かつぶやいたようだったが聞こえなかった。


「確かに良い先輩だとは思います。面倒見がよくって、背も高くて頭も良くて、顔もそこそこ良い。高校時代に私の同級生達も先輩のファンだった子が多かった理由も頷けます。だけど……」


「岡崎先輩と私は、これからもずっと“相容れない存在”だと思っています」


 ハッキリ言い切った。美海があからさまな拒否反応を示すなんて、とても珍しいことであるため、私も少々面食らった。


「なんで? カズって美海に酷いことしたっけ?」


「いえっ、私に対しても優しかったですよ。気さくな先輩だと思っていました」


「じゃあ……」


「だけど、あの人は嫌いです。理由は……言えません……」


 それ以上、この件について触れてほしく無さそうだったので、私も聞かないことにした。


「それで、そこ(竜神温泉)までどうやって行くの?」


「車です!」


「えっ?」


「車、どぅえす!」


「2回言わんでいい! 私が聞きたいのは、誰の運転で行くのかと聞いているの!」


 悲しいことに、私は車の免許を持っていない。

 過去一度、教習所に行って運転したとき、同乗していた教官に「一ノ宮さん……後生ですから……もう車の運転はしないでください」と、泣きながら懇願されたことがある。

 教習費は全額返金されたが、私はいまだに納得していない。


 なぜだ? ちょっとハンドル切りすぎて、教習車を裏返しにしただけなのに。


「と言うことは、もしかして……あんたの運転?」


「そう、どぅえす!」


 自信満々に言葉を返す美海。

 彼女の運転はひどいモノで、ノロい車を煽るわ、車線の中央を堂々と走るわ、イライラしたらすぐクラクション鳴らすわ、その割に運転下手で、急ブレーキ・急発進を繰り返す。バックで駐車するときすんごい時間かかる。幹線道路の車線変更にビビッてギリギリまで合流出来ない。という始末で正直乗りたくない。

 なんで日本はこんな奴に、車の免許を取らせたのだろう。


 私も美海と同じ教習所に行けばよかった……。


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