―幕引後の茶番劇― 青子の帰還
「ただいまー」
「おっ、青子じゃねぇか。帰って来たのか」
「そうよ。一ノ宮青子ただいま帰還しました!」
「うむ。ご苦労であった」
「今回も瀬戸スミレ殿の仕事は、ハードでした! 仕事中、何度も死にそうな目に会いました! 出来ればもうやりたくありません! ダラダラと過ごしたいです!」
「うむ、貴君の言いたいことはよくわかった! それを我が上官にそのまま伝えよう!」
「いえ、それには及びません! なぜならそんなことが知られると、私が滅殺されてしまいます! 死にそうな目を回避するために、わざわざ我が身を危険にさらすのは本末転倒であります!」
「ではどうするのだ?」
「はっ! 岡崎一馬氏が私の労をねぎらい、晩酌の相手をすることが、一番かと思います!」
「ウム! 却下だ!」
「ちぇー、何よー。せーっかく九州の美味しいお酒を揃えてきたのに……」
「どれだよ……って、お前これ「魔界へのお誘い」の原酒じゃねぇか! こっちは「鍋鳥」の純米大吟醸!? こんなレアな酒どうやって買ったんだ? いや、そもそもそんな金どこにあるんだ?」
「いやぁ、気前の良いおじ様が見つかってねぇ。ついつい甘えちゃって高ーいお酒を何本も買っちゃったんだ。これと同じ物をあと3セット私ん家に送ってるんだぁ。ほんと楽しみぃー」
「いやいやいや。あと3セットって、それ軽く十万円ぐらいかかってる計算じゃねぇか。そんな都合の良いパトロンなんてそうそう現れないだろーが!」
「それは私の日ごろの行いが良いからに決まっているじゃないですか。コモンセンスだよ一馬君!」
「何が“常識”だ。お前のその卑しさがコモンセンスだ!」
「ははっ、のたまいよる! そこまで言うなら、このお酒は私が一人で始末を」
「待て。俺にも一口……」
「おや、一馬さん? あれだけ私を咎めておきながら、なんと? それだけこのお酒様達の価値が分かってらっしゃるようね」
「そもそも、そういう風にお前が仕込んだんだろうが! お前が酒の味を覚えたての頃は、毎日毎日つき合わされて……」
「あぁ、楽しかった蜜月の日々!」
「お前だけだ!」
「あんただって美人と一緒にお酒が飲めて楽しかったでしょ?」
「お前が消費したビールの空缶と酒の空瓶の処理は誰がした? あとベロベロに酔ったお前の介抱役は?」
「そんな過去のこと、もう忘れたわ……」
「さっき『蜜月の日々』って言ってたじゃねえか! まあいいや。それで、その酒の代金は誰が支払ったんだ?」
「ふっふーん、それはねぇ――」
――*――
「くっくっくっ……」
「ふふふっ……はははっ! 関係者から聞いたが、九ツ釜の異変も治まったようだな。あの小娘、ワシに盾突くから、圧力をかけてやろうかと思っ取ったが。放っておいて正解だったようだな。この大貫甚五郎の先見の明に狂いはなかったな、ガハハハッ!」
「失礼します。大貫市長あてに郵便です」
「ウム。中身は?」
「差出人は不明でわかりませんが。親展と書かれていましたので」
「また苦情か談判書か? まぁいい。今日のワシは機嫌がいいからな! 一目見て、その後破り捨ててやる」
「またそんな過激なことを」
「この市はワシだから上手く動かせているんだ。それを住民共はグダグダと。奴らには市政の難しさが分からんのだ!」
「そうですか……では、失礼します」
「ふんっ! で、中身は? ……なんだこの冊子? こっ、これは!? 誰だ! この資料を外部に流出させた奴は!? うん? ワシ宛のこの酒屋からの高額な請求書はなんだ?」
「市長、お話があります! 私は覚悟を決めました! 市長も観念して下さい!」
「峰岸かっ。ちょうど良い。おい、この資料は……ん? なんだ? その後ろに居る奴らは……」
「大貫市長、あなた二年前の工事で、建設業者との収賄容疑がかけられています。ついては詳しいお話をお聞きしたいので、署までご同行願いたいのですが」
「なっ、なんだとー!?」
――大貫甚五郎氏の個人的な御厚意、厚く御礼申し上げます。つきましては同封されている請求書のお支払いよろしく! 一ノ宮青子〆――




