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―調査10日目― 前編:君の名……じゃない。奴の名は。

―10日目―


 昨日は漁師のみんなと大宴会だった。

 美味い酒。旨い肴。上手くいった仕事。

 そのどれもが私に幸福を与えてくれた。


「アタタタタッ……。うー気持ち悪い―」


「はい。お水です」


 幸福の後には不幸が待っているものだ。浴びるほどの酒は疲れた体と五臓六腑に染み渡った。それ以外にも酒は強烈に染み渡り、私は今日その報いを受けることになり私は朝からヒドイ二日酔いだった。ビール、焼酎、日本酒のちゃんぽんはさすがに効いた。


「青子さん今日はどうされるのですか? お仕事終わられたのですよね?」


「そうですね……」


 女将さんの声が弱った体にガンガン響く中、私はどうするか迷っていた。封地としての【九ツ釜の景観を保護する】仕事は終わった。後は報告書用の写真を撮影すれば、この地での任務は終了するのだが……。


「いろいろと謎が残るのよねぇ」


 そう、まだ何点かの疑問が解決していないのだ。

 あの海域に岩を沈めたプロジェクトの推進者は誰か?

 オッチャンから聞いた胡散臭い学者の正体は?

 そして、峰岸さんの嘘……。


 うっ、ヤバイ。思考が回転して頭に血流が流れて気持ち悪い。


――*――


 私は酔い覚ましも兼ねて愛護神社に向かった。【ミノリ】という名前のロリ神使に事の顛末を報告しに行きたかったし。


「ミノリ様ぁー、会いに来たよー」


 黒虚精霊の発生源を壊した影響で穢れの発生も減り、神域も清浄な空気を取り戻しかけていた。


「おーい、ミノリ様―。あれっ? また眠っているのか? おーいミノリさ……ま……?」


 私は二日酔いも吹っ飛ぶような光景に出くわした。

 ミノリ様の返事が無いので境内をきょろきょろと見回したところ、境内でぐったりと倒れていたミノリ様の姿が目に入ったからだ。


「ミノリちゃん!」


「おぉ……地鎮司とこしずめ……お主か……」


 日本人形のように小さい体は持ちあげても感触が薄い。活力も無く清らかなオーラもほとんど感じられなくなっていた。


「どうしたの! こんなにボロボロになって!」


「やられたのじゃ……」


「『やられた』って誰に!」


「何か……じゃ」


「何か? もしかして穢れ?」


「わからん……しかし、急に大きな力を持った者がこの地を侵していったのじゃ……」


「はぁ? そいつって誰?」


「それが……見たことが無い奴だったんじゃ……」


「見たことが無い? あなた達、コッチ界隈は様々な情報を持ってんでしょ? 場所も時間も超越した独自のネットワークの様なモノもあるみたいだし。この前、宝当神社の野上様に会った時、なぜか私のことを知っていたわよ。その時あなたの名前を挙げていたわよ」


「そうじゃ……。我ら【貴き存在(とうときモノ)】は時空を超えて連絡を取り合える……。関係者であるなら検索をすれば何なのかがわかるはずじゃが……。うぅっ!」


「ミノリちゃん! あなた……もう……」


 ミノリちゃんを抱きかかえ必死に話を続けようとするも、彼女の声は、か細くなっていった。


「わしも神の使いじゃ……。盛者必衰のことわりは、わかっておる……」


「何言ってんの! そんな居なくなるようなことっ!」


「……一つ頼みたいことがある」


「なにっ?」


「そいつは、きっと九ツ釜の異変を起こした黒幕じゃ……。だから……」


「…………」


「護ってくれ……。この……地……を……」


 言い終えるとミノリ様は光となった。


――*――


「…………」

 

「ねぇ。居るんでしょ……」


「…………」


「気配バレバレなのよ。神域って言うのは清浄な空間なのよ。そんな場所に穢れの匂いを漂わせるなんて素人よ。正体を見せなさい」


「…………」


「いいから出て来い! って、言ってんだろっ!」


「やれやれ。ここは神域ですよ。ホントに下品な声で……」


「っ! あん……た……」


「あの神使、やっと消えましたか……。ほぼ全ての力を奪ったんですがさすがしぶとい」


「そう……あんただったのね……」


「えぇ、せっかく消え行く様をゆっくり見物したかったのに」


「な……」


「【貴き者】を滅する機会なんて滅多にありませんからね……。“これ”を手に入れるまでは触れることすら出来ませんでしたからね」


 彼は、逆五芒星のペンダントをチラッと私に見せた。それは一種の霊媒道具だった。強力な霊力を封じ込めることが出来る道具で、そのペンダントからすさまじい霊力が垂れ流しの状態になっていた。


「これは本当に素晴らしい。“視ること”しか出来ない自分でも、神使ぐらいならご覧のとおり……」


「なんで……。この神使は、土地神の眷属じゃなかったの?」


「別に? この神社はもともと京都から分社されたモノですので、まったく愛着がありません。むしろこの土地の不純物が取り除かれて清々した……。というのが本音です」


「そんなこと考えたんだ……。普段の表情からは皆目見当もつかなかった……。私もまだまだね……」


「あれは外用の仮面です。人生をかけて構築されたものですよ。数度しか会っていない貴女に見破れるわけがない」


「なぜ、私に協力したの?」


「最初から協力しなければ、貴女はきっと最強の封地である【瀬戸スミレ】に助けを求めるでしょう。そうなると計画も破綻してしまう。だから、協力する振りをしていたんですよ。封地という存在を陥れるため……」


「その割には終始、傍観者だったわね?」


「そうそう。それです。貴女、普通の封地とは一線を画していますね。そこが誤算でした。

今回の計画は、2つ目的がありました。

一つはこの土地を陰転させ、穢れた不毛な土地にすること。

 そしてもう一つは、封地が出来るだけ派手に土地の浄化に失敗して、メディアに取り沙汰され国の権威が地に落ちること。

 その2点が狙いでした。途中までは上手く行ったんですが……。貴女の力には脱帽しましたよ。

 また、貴女はあっという間に周囲の人間を味方に引き入れて迅速に解決に導いたことにも驚きました。たった一週間でここまで周囲の人間を巻き込めるというのは、もう人徳を通り越し暗示やら宗教やらのオカルトめいたものを感じますよ」


「それで、あなたの壮大な計画は失敗に終わった。だから今度はゲリラ作戦に出たの? 地元の神々を潰して回るっていう……」


「いえいえ……そんなことしませんよ。これは直接叩き潰すために力を取り入れていたんですよ。そう貴女をね!」


「だから、こんなことを……。ほんと最低な外道……。ねぇっ?」


「池田ぁ!」


 私の怒号が神域に響くのであった。

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