表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/42

―調査9日目― 中編:嵐のナカで輝いて

(お知らせ)

2月2日に投稿したのですが、こちらのミスで尻切れトンボになっていましたので、追記しました。

確認不足ですみません(2月3日)

――出港してから10分。


「とーりゃんせー、とーりゃんせー」と、歩行者信号機の様な場違いな電子音が流れた。

 携帯からの着信だ。

 地味な音だから毎回気付かないのだけど……。しかも今日は嵐。絶対に気付かない自信がある。

 だが、今は神経が高ぶっている所為で、私は着信に気付いた。

 虫の知らせ……の様なものを感じたのかもしれない。


『どこに居るんですか! 青子さん!』


 知らない番号から出た人物の声は、若い男で、しかもギャーギャーと騒いでいた。

 コイツは対面でもヒステリックな声だから、電話越しだと余計耳に障るなぁ。


「どこって今、船に乗って沖合に向かっているのよ! なんか文句ある池田!」


『なんで逆切れしてるんですか!? やっぱりみんなを先導して船を出したんですね!』


 あぁ、なんか小姑みたいなこと言ってる。コイツ神経質そうだからなぁ……。すっトボケけるか。


「えぇっ? なんて!? ゴメン、雨風が強くて聞こえないわよ!」


『……行き遅れ……』


「んだとコラ! ぶち殺すぞ!」


『しっかり聞こえてるじゃないですか! こんな中、船を出すなんて正気ですか! みんな巻き込んで死ぬ気ですか!』


「死ぬわけないでしょうが! これはみんなが未来を生きるためにやってることなの!」


『なんでそれが(船を出す)理由になるんですか!』


「もうっ! この忙しい時に!」


 私は先ほど漁師たちに話したように、池田にこの台風が町にどんな被害をもたらすか説明した。

 時どき、池田からの、


「えぇ!」


 とか、


「どんな脳内設定ですか!」

 

 とか、


「精霊とか本気で信じる年頃じゃないでしょう!」

 

 等々の私を舐めきっているツッコミに対して全力でキレ返しつつも、根気よく伝えた。


 私の尽力の甲斐あって、一応の納得はしてもらえたようだ。


『それでも危ないですよ! そんなこと部外者のあなたが命を懸けてまでやることないじゃないですよ!』


「そう思うなら、あんたが何とかしなさい!」


「なっ……」


「口を出すだけなら、子供でも出来る!

 だけど行動に移せる人は少ない……。なぜ? 私にはそれが判らない。

 私は動くわ! ここが守りたい風景や故郷だったら必ず!

 守りたいと思ったら体が勝手に動く。そういうものじゃないの? 故郷や自然って。

 それで、あんたは? 

 あんたにとってこの町は、命掛けで守りたい場所じゃないの? どうなの!?」


『言わせておけば……そこまで言うなら俺も命を懸けますよ! 何をすればいいんですか!」


「ふっふーん。いい返事するねぇ! ヤケクソでもなんでも“動けば”何かが変わるのよ!」


 私の煽りに池田はしっかり反応した。池田を手玉に取るぐらい軽い軽い。

 まっ、私にとっては本心以外の何物でもないんだけどね。


「そうねぇ、何をしてもらおうかなぁ?」


 私は池田に何を協力させようか考えていた。

 追加の漁船の手配? 万が一に備えて救命艇を出してもらうか? あっ。祝勝会の準備という手も……。

 しかし、私はそれ以上に協力してもらいたいことがあった。

 急な手配が続いてそれどころじゃなかったんだけど、私はこの海でやりたいことがあった。

 それは別に。こんな大時化の日じゃなくても良いんだけど……。

 いや、きっと今が一番良い! 私はそう思った。


「あんた、海岸沿いの船工場って知ってる?」


『僕はこの町の人間ですよ。知ってるに決まってるでしょう。それに、あそこは友人一家が経営していますので、よく遊びに行ってたんですよ』


{なら(話は)早い! そこに頼んでほしいの。その工場に長い鉄骨……いわゆる船の竜骨があるから、それを至急デリバリーしてきて! 場所は、私が向かっている九ツ釜まで!」


『えぇっ!? そんなもの何に使うんですか?』


「理由は後で伝える! それじゃあ頼んだわよ」


『そんな無茶苦茶な! それにどうやって!?』


「さっき『何でもやる』って言ったでしょ! 手段はあんたが考えなさい」


 と、かなり無茶ぶりな指示を池田に行った。

 私は以前、オッチャンと船工場の社長から死んだ漁師の話を聞いて、ずっとあの竜骨を弔いたかった。


「男だろっ、根性見せろ!」


『えっ、ちょっとま……』


 池田の泣き言を聞く前に電話を切った。なぜなら目的の場所に着いたからだ。


――*――


 雨風が船と私を襲う中、着いた場所は異様とも言える光景であった。

 波が小さな山のようにうねりを上げて船を揺らし、魚も海底でじっと耐えているような大荒れの中、黒虚精霊の依代たる岩盤が沈んでいる場所だけは、波も立たずに、代わりに黒いウナギのような黒虚精霊達が海面に密集し、ところ狭しとぶつかり合って、暴れまわっていた。


「なっ、なんだこれ……」


「長年漁師生活やってきたが、こんなもん、初めて見た」


「きっ、気持ちわりぃ」


「祟りじゃねぇのか……」


 漁師も口々に感想を述べていた。ということは彼らにも視えるのか……。


 精霊なんて、普段特殊な仕事をしている人にしか見えないけど、それでもエネルギーを持つ存在であることに変わりはない。

 どれだけ微小で実体がなくとも、数が増えれば当然存在するエネルギーも増加する。今回はそれだけ強い力を持つまでに至ったということだ。


 あれだけ意気揚々と出発した漁師達も、この光景の異様さを感じ取り、怯えているようだった。


「大丈夫! これはただの現象なの! 日食や白夜と大して変わらないの! だから怯えないで!」

 拡声器で皆を励ましつつ、黒い生物群をぐるっと囲いこむように約5mの等間隔に船を配置するよう指示を出した。


「ネェちゃん! 船と船との間隔が狭いって! 波で隣の船とぶつかっちまうよ!」


「何とか根性で制して!」


 おっちゃんの泣き言を受け流しながら微調整を行い、すべての船の配置が整った。


 そして、私は大きく息を吸い込み、拡声器に声をぶつけた。


「中央に向けて! ライト! 一斉照射!」


 次々と集魚灯のライトが黒虚精霊達に襲い掛かる。

 そう。イカ漁は集魚灯を使ってイカを集める漁業だから、集魚灯がどの船にも積まれているはずだと思った私は、光による黒虚精霊の消滅を考えた。だけどたった一隻だけでは光が足りないため、船団を組んだのだ。

 私の目論見もくろみどおり、ライトが集中した箇所は、日光よりも強い光となっていた。


――*――


「おい! 見てみろ! あいつら、どんどんおとなしくなっていくぞ!」


 光を照射し続けて10分。漁師たちの歓声が上がった。

 黒虚精霊の活動が低調になってきた。精霊達は、力を失い徐々に分解され、細かな黒い粒子となって空中に舞い上がり消えていく。

 

 しかし私は、この状況を手放しで喜んでいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ