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すぱーのしょーとしょーと

日ノ本村の受難

作者: すぱー

むかーし昔。ある所に日ノ本という猿人の村があった。

村人達はある小さな悩み事がありつつも、太陽を中心とした森羅万象を崇め奉り、慎ましくも穏やかに日々を暮らしておったそうな。


ところが或る日のこと、西の方からリザードマンがやって来て悪さをする様になった。

リザードマン達は毎日毎日やって来ては、鶏を襲ったり苺を盗んだり牛にちょっかいを掛けたり仏像を盗んだり神社を燃やしたり厠を爆破したりと、ほんとどんだけー!とやりたい放題だったそうな。


困った村人達は話し合い、村で一番の武芸者である公務初太郎に退治して貰う事にした。

その間の初太郎の面倒は残った村人が出し合って賄う事にして、リザードマンの対処に集中してもらう事に。


公務初太郎がリザードマンを追い回した結果、退治する事は出来なかったものの、リザードマンは警戒し迂闊に手を出さなくなり、被害も少なくなって村人達はホッと一安心。

だが、リザードマンがまたいつ悪さをするか分からず、初太郎に引き続き退治をお願いし、手すきの時間は負担にならない程度の仕事をやって貰う事にしたそうな。


真面目で寡黙な初太郎は、見回り以外の時間を道の窪みを直したり、共同温泉の手直しをしたり、他の種族との交渉をしたりと皆の為にせっせと働いた。


そんな初太郎に村の人々は深く感謝し、働き過ぎないよう気を配り、初物を届けて慰労したりして、そのよい循環に村は何時になく上手く回っていたそうな。


だが、そんな穏やかな日々も束の間、今度は北からトロールが襲ってきた。

初太郎はさっそく退治に向かったがトロール達は強く、初太郎は大怪我を負わされてしまう。


気を大きくしたトロール達は近くに巣を作ったり、川の魚を食い荒らしたり、油田を共同開発してから追い出したり・・・もとい、村で整備した温泉に居座って汚したりと、これまた傍若無人な振る舞いをして村人達を困らせたそうな。


それを聞いた初太郎は怪我を押して立ち上がり、息子のワイ朗を手元する事を村人に伝えてトロール達の下へ向かい、激闘の末に奴等を追い払った。


帰ってきた初太郎からその話を聞いて村は喜びに湧いた。村人達は二人の労をねぎらい、ワイ朗を正式に村で雇い入れて、初太郎の配下として活躍して貰う事にした。


だが不運は重なる。今度は南からオークの群れがやって来た。

オーク達はピギィピギィと耳障りなかん高い声で次々と鳴いた。


「この村の一部は元々俺達の土地ブー」

「その村はお前達だけの物ではなブヒー」

「俺達も住む資格があっピギャ」


とか何とか言いながら村に押し入り、徒党を組んで民家に盗みに入るわ、勝手に縄張りを作って住人を追い出すわ、大事に保護していた光苔を根こそぎ攫ったりするわ、粗雑な商品を売りつけるわ、糞尿をそこ等に撒き散らしたりするわと、これまた大きく村を掻き乱した。


初太郎親子は必死に退治しようとするも、相手の数が多く取り零してしまいがちとなり、被害はなかなか収まらない。

村人達も積極的に手伝うが非力でまったく相手に敵わない。

そうこうしているうちにトロールが北から現れる。全く以って手が回らない。


そんな村の混乱を遠くで眺めていたリザードマン達も騒ぎ始めた。

曰く。


「日猿どもよ!お前達の持ってる小山は昔はワリらのものシュー」

「侵略時のシャ罪と賠償を要求シュー」

「千年女王様はお怒りシュー!」


そう、遥か昔。日ノ本村はリザードマンの大パン村と合併した事があった。

当時、覇権主義の童里夢村や帝国主義の紳士村との諍いが起こっており、地力の足りない日ノ本村は早急に対応が迫られていた。

そこで隣の大パン村と協力し対抗しようと考え、大パン村の村長たる千年女王と交渉の末、大パン村の借金を日ノ本村が肩代わりする事で合併に合意と相成った。


日ノ本村の住民は荒れ果てた大パン村の整備をしたり、禿山に植林したり、教育したりと、そりゃもう熱心に大パン村を良くしようと頑張った。

だが、コイツら使えない。本気と書いてマジ使えない。元々の怠惰な習性もあり、人を騙すのが美徳の大パン村は日ノ本村を悩ませ続けた。

その後、なんやかんやと色々あったが結局は童里夢村に敗れ、日ノ本村は周辺の村にお詫びとお見舞い金を送った。


しかしその時に納得したはずなの事なのに、大パン村の千年女王と住人達は自分達の都合の良い様に偏向し、幾度と無く因縁を吹っかけ金を強要して来るのであった。

そしてこの出来事ではもう一つの負の遺産を日ノ本村に残した。

一匹のリザードマンが住みついた事である。



閑話休題



「こうなったらもう童里夢村に助力を頼むしかあるまい」


村人達で話し合った結果、村一番の神童と言われるワイ朗が童里夢村との交渉におもむく事となった。


戻ってきたワイ朗は黒と白の毛並みを持つ鼠?の様な何かを沢山引き連れて帰ってきた。鼠?は両手を広げて良い笑顔を浮かべながら、無理に裏声を出す中年男のような声で村人達に話しかけた。


「ハァイ!昔ノ事ハ互イニ水ニ流シテ忘レヨウ!今回ノ事ハ、ボク達ニ任セレバ安心ダヨ!ハハッ」


(うさんくせぇなぁコイツ)


と村人達は思ったが背に腹は変えられず、一同、よろしくお願いしますと頭を下げた。


鼠?は自慢げに後ろを親指で差し示し得意げにのたまった。

「見テゴラン?コノ圧倒的戦力ヲ!とろーるナンカ一捻リサァ!ハハッ」


鼠?の後ろには雲霞の如く鼠?達が蠢き、最新鋭の武器を携えていた。

さすがは地域の同心。超大村の住人を村民は頼もしく思った。鼠?だけれども。


そうして鼠?達はガムや噛みタバコをクチャクチャやりながら、隊列を組みぞろぞろとトロールの元へと行進していった。

後ろには派手な音を奏でるラッパや笛、太鼓を叩く音楽隊とボンボンを持った踊り子が舞いながらついていく。

あまりの村民性の違いに村人達は一抹の不安を抱えながら見送った。


だが童里夢の村民は物凄く強かった。地域最強は伊達じゃない。

トロール達を発見するや否や、鼠?達は何事か叫びながら容赦なく苛烈に攻撃を加え始めた。


「目標発見。クズ共ニ思イ知ラセテヤレ!ファイァー!!ハハッ」


「コノ垢ノ手先ノ蛆虫メ!ハハッ」「ふぁっきゅー!ハハッ」「さのばヴィッ!ハハッ」「オーシッッ!!!ハハッ」「P.T.! P.T.! ハハッ」「がっでむ!ハハッ」「オゥ・マイ・ガッ!ハハッ」「ヒーハー!ハハッ」「汚物ハ消毒ダゼ!ハハッ」「カキザキィィィッ!」「良イとろーるハ死ンダとろーるダケダ!ハハッ」


多数の大筒が轟音と共に火を噴き、砲弾は流星の様に地に落ちて、その周囲を木っ端微塵にし、竹林のように乱立したマスケット銃は、雨あられの如くトロール達に降り注ぎバッタバッタと倒していく。

だがその代わり周辺に住んでいた虫や鳥、動物も巻き込み、草木は倒れ大地を抉り河の流れを変え山を削りとるほどに破壊した。


やりすぎだ。


しかしその攻撃を受けて恐れをなしたトロール達は一目散に逃げ出した。


また、様子を伺っていたリザードマン達はニヤニヤと薄気味の悪い笑顔を浮かべながら童里夢の住人の前で平伏し、オーク達も罵声と糞尿を漏らしながら雪崩をうって走り去っていった。


鼠?いやラットマンは両腕の肘を腰に当て両掌を上に向け、肩をすくめてゆっくり顔を左右に振りながら得意げに言った。


「フゥ。ボク達ニ掛カレバ一コロサァ!ジャ約束通リ関所ノ撤廃ト、ボク達ノ荷車ヤ肉ナド買ッテ貰オウカナァ!ハハッ」


おっさんがソプラノを無理に出したような声色と気障ったらしい態度に村人達は訳も無くイラッとしたそうな。


と同時にラットマンが言った言葉“関所の撤廃”に村人達は動揺しざわめき、皆の視線が初太郎に向く、が、彼も困惑して戸惑った表情を浮かべていた。

その彼の影からすっとワイ朗が村人の前に現れた。

そして手招きして皆を集めたワイ朗は、本部長にドヤ顔で進言するエリートリーマンの様な顔を浮かべ囁いた。具体的には下町の石坂部長のような顔だったそうな。


「いずれ皆さんとブレストしようと思っていたのですが、このアジェンダはとてもセンシティブな問題ですので、エビデンスを取ってから、皆さんにアサインしてタスクを遂行してもらい、キャパをオーバーしないよう配慮するつもりでした。サマるとデフォでペンディングもリスケも出来ません。タイトだとは思いますが、このグローバルな社会を生き抜く為には必要なのです」


それを聞いた村人は唖然とした。言ってる意味がわからない。

だが言ってる本人もよく分かっていなかった。要は知的に見られて煙に巻ければ御の字だぜと考えていた。


でも無知で純朴な村人達は騙された。

なんだかとても賢そう!よく分からないけどカッコイイ!横文字がなんかとってもいい感じ!凄くいい!マジ超イケちゃってんじゃね!と感心した。

お互いとてもフワフワしてた。

それを聞いていたミッ・・・ラットマンは口元を歪め鼻で嗤っていた。


そんな中、心配性の村人がワイ朗に問いかけた。


「んだどもよ・・・関所が無くなったら童里夢村の安い荷車や肉が入ってくるんだべ?そうなったらウチの村じゃ太刀打ち出来ないべさ」

「んだんだ!童里夢村と日ノ本じゃ月とすっぽんだで」

「村の仕事が全部無くなっちまうだよ」


一人の発言を皮切りにして次々と村人達が疑問をワイ朗にぶつける。


ワイ朗は、面倒くせぇなぁと心の中で舌打ちしたが、表面上、自分では爽やかなつもりの笑顔を浮かべた。詐欺師のような笑顔だった。


「えーまず荷車の件で御座いますが、我が村の小さく軽くて小回りの利く丈夫な荷車と、童里夢の大きくて重く頑丈な荷車とは競合するとは考えておりません。また畜産の件ですが、この村自慢の霜降り牛は、今でも一般の村民は高くてあまり買えませんが、童里夢産の肉を安く入れる事によって、庶民でも毎日食べられる様になるのです。そして我が村の高級牛は童里夢のお金持ちの方々に受ける事間違いなしです。それに荷車だって童里夢で安く売る事が出来るのですよ?両村民が欲しい物を欲しい時に産地を気にせず買う。まさにウインウインの関係・・・互いが得をする関係ではありませんか!?どうでしょうか皆さん!?良いと思いますよね!!」


ワイ朗は一気に畳み掛けてきた!


話を聞いた村人達は、だいたい好意的に受けとったものの、中には疑問を深める者達もいた。でも周りの雰囲気に流され明確な反論をする事が出来ず、モヤモヤとしたものを内に抱えて押し黙った。


その後、関所撤廃は全会一致で認められ、童里夢村の同心に滞在して貰う事も了承された。滞在費用はおもてなし金として村が出すことになった。

村としては痛い出費だが、現状を鑑みるに致し方ない。


それに先のトロールとの争いで怪我をした初太郎は、今までの無理が祟って病状が悪化し、老いも重なり寝たきりとなってしまい、戦えるのがワイ朗のみとなってしまったのが大きな痛手となった。


そんなこんなで初太郎の跡を継いだワイ朗ではあったが、初太郎とは違い、己は動かずに手間賃を払って、村人に作業を委託して済ませていた。


そして自分は自宅で書類を見ながら、これは「に」ではなく「は」ではないかと益体も無い事をして過したり、村人達の作ったものに規格を設けて、ワイ朗の承認がないと売ることが出来ないようにしたりとか、外遊と称して童里夢村や他の村に頻繁に行ったりしていた。


それを見ていた村人達は、面倒だなぁと思ったり、金子はいったい何処から出ているのだろうと不思議に思ったが、村の共同貯蓄を調べても減っている事は無かったので、ワイ朗が何か商売をやっているのだろうと考えるのをやめた。


実はこのワイ朗、村の貯蓄を勝手に米相場に注ぎ込んで、かなりの利益を出していた。村人が貯蓄の確認をする時にだけ金子を元に戻し、終わったらまた投資する。そんな事を繰り返していたのだった。

村に黙って行った行為とはいえ、最初の内はワイ朗も村の為と資金を増やしてはいた。それがいつのまにやら自分の欲にへと摩り替わっていく・・・


ある時、規格の書類整理が面倒になったワイ朗は手元に妻の縁子エンコを雇う事を提案する。

その話を聞いた村人達は渋い顔をした。

怪我をして動けない初太郎、童里夢村のおもてなし金にワイ朗とその妻縁子を入れると働く者が減り、縁子の賃金も新たに村で賄うので、住民の負担だけが増える事になる。


それに一部の村人達は規格に疑問を抱いていた。

人に喜ばれるいい物を丹精込めて作ればいいだけのことではないか。お客さんが判断することなのではないか?と。


「日ノ本印というブランド・・・まあ、他には真似出来ない優良な一点ものを作るという事ですね。村が保障するとなれば購入者に安心感を与えますし、日ノ本印が偽物を防ぐ手段にもなります。また規格をクリア出来ない物は弾かれますので、品質の向上にもつながる事でしょう。そうした安心安全が商品のブランド力を高め、リピートつまり継続的に売れるようになるのです。それに判断の基準が無いと、それが良い物のか悪い物のか分かりませんよね?」


ワイ朗はいつもの自信満々なドヤ顔で村人達を見回した。その目に薄っすらと侮蔑の色を浮かべて。


ワイ朗の話を聞き終わった村人達は、まあそんなものかな?と戸惑いつつも納得した。


一理ある。あるには在るのだが、それは同時に自由と柔軟性を奪う可能性もあるのではないか?そう考えた村人も具体的な例を挙げられず、漠然と不安になる心を抑えながら、ただため息をつくだけであった。


その不安は的中する。ワイ朗の理解を得ないものや気に入らないものは、規格から退けるようになり、それを何とかしようと商人達はワイ朗の覚えを良くする為、接待したり金子などを送るようになった。

そのうち、金子を届けるのが常習化し、規格は形骸化していった。良い物を世に送り出すとした制度は、まったく逆の方向に向かってしまったのだった。



ワイ朗は悩んでいた。米相場を焦げ付かせ多大な損害を出したのだ。


「やべぇな。何とかしないと」


米相場で空けた穴の損失を埋める為、ワイ朗はなんだかんだと理由をつけて、村に年貢と称して細かく課税しだした。荷車を持ったら年貢、家に年貢、家畜に年貢、物を買ったら年貢、売っても年貢、年貢、年貢、年貢・・・


ワイ朗達の負担金、共同金の他に度重なる年貢の徴収。

困った村人達は、ワイ朗の住む家に押しかけた。

ワイ朗は騒然とする村人達に、ここでは病の父に触るからと、村の広場で話をしようと提案、村人もそれはいけねぇと静々とワイ朗とともに広場へ。


村人の問い掛けに対しワイ朗は。


「早急に検討致します」「前向きに善処する方向で」「それに付きましては時期を見て」「鋭意努力致したく」「記憶に御座いません」等、のらりくらりと質問をかわし続けた。

そんなワイ朗の答えに、困惑し複雑な表情で立ち尽くす村人達をみてワイ朗は思った。



一般村民の癖に選ばれし上級村民の俺に意見すんじゃねぇよ。と。



それからもワイ朗はちょこちょこ年貢の利率を上げたり、人道を謳って寄付を強要たり、規制や罰則を強化したりした。

それに加え、童里夢からホルマートが進出。何でも安くて何でもそろう、その販売形態は日ノ本の商いの根幹を揺るがし、雇用形態をも崩壊させた。

抜本的な対策を打てなかった、いや、打たなかった村民達の暮らしぶりはどんどん活気を失い萎縮していった。


そんな状態に耐え切れず、村人の何人かは、もう耐えられないと言い残し、店を畳んだり、他村に店を移したり、逃げ出す者さえ現れた。


その状況はワイ朗を苛立たせた。彼は「逃げ出すとは愛村精神が足りない。非村民め」などと愚痴を溢していたが、実際村人が減ると年貢が少なくなる。どうしたものかとブツブツ独り言を漏らしていると、それを聞いた妻は軽い調子で言った。


「だったら亜人達を村で働かせて、年貢を巻き上げればいいじゃなぁい」

「それな!」


さっそくワイ朗は他の村からの移住政策を公布する。

村の住人は反対した。一つ気がかりな事があったから。

その懸念とは移民が村に住む一匹のリザードマンのようになるのではないかと思ったからだ。


そのリザードマンの名前は無い。というよりよく分からない。なぜならコロコロと名を変えるからだ。ただ焼き飯が好物で良く好んで食べている事から、村人達はこのリザードマンを焼飯チャーハンという通り名で呼んでいた。


焼飯がふらっと現れたのは、童里夢村との諍いも終わって、まだ混迷していた頃の事であった。

そして何時の間にやら一軒の家に転がり込み住み着いた。

その家には息子を亡くしたばかりの老婆が住んでいたのだが、焼飯に息子を重ねたのか、甲斐甲斐しく世話をした。

それをいい事に焼飯は遊び歩いていたのだが、老婆が亡くなっても改まる事もなく、ふらふらと働かない。村人がいくら諭しても聞く耳を持たず、逆に

「ワリは強制的に連れてこられた被害者シュ!」

と訳の分からない事を喚き散らす始末。村人達は呆れ果て積極的には関わらない様になった。だが焼飯は金子が無くなると村人にしつこく付きまとい無心する様になる。

時に脅し、時には卑屈に、またある時に泣き喚いて村人に集って毎日遊び暮らす。村人の善意を食い物に生きてきた男。それが焼飯というリザードマンだった。


話は元に戻る。



「もっとマクロな視点から考えて頂きたい。村に新しい血を入れるのです。それが村を活性させて、よりこの村を豊かにします。人が増えれば商いも盛んになり仕事も増える。そうすれば子供は預けて働きにでて収入を増やす事も出来ます。それに移民は将来、高齢化する日ノ本の下支えとなってくれる事、間違い無しです。この移住政策は皆さんの為、日ノ本の為に必要な事なんです!」


熱弁するワイ朗に、村人が恐る恐る言う


「んだども、焼飯みたいなのが来たら困るべ・・・」


「そんな奴ばかりが来る訳ではありません。優秀な人だってたくさん来ます。それとも何ですか?優秀な人に仕事を奪われてしまうと心配しているのですか?」


「いや、いい人ならかまわねぇんだけども・・・」

「焼飯みたいになったらなぁ・・・」

「んだんだ」


否定的で煮え切らない村人達の話に、ワイ朗の眉間にしわが寄った


「わかりました!焼飯を何とかすれば皆さん認めて頂けますね!」

「そうだけど・・・そうじゃないっていうか・・・」

「決まり事をだなぁ・・・」


何事か言う村人達の話を強引に打ち切り、ワイ朗はそのまま焼飯の元へ向かって行ってしまった。


さて、焼飯の家にやって来たワイ朗。彼はぐうたらしていた焼飯を叩き起こし言い放った。


「焼飯!お前が夜な夜な素性の分からない者を集めて、賭場を開いている事は分かっている。高利の金貸しをしている事もな!」

「シュ!?」

「それを理由にお前を追い出すことも出来る。だが・・・」

「・・・」

「だが今後は、正式に賭場を開く事と金貸しを許可してやろう。その代わり・・・」

「わかっておりまシュー」


焼飯はスッと桐の箱に入った《ぴよこ》を差し出す。菓子の下には定番の山吹色のものが。

ワイ朗はニヤリと焼飯を見る。彼は何を考えてるか分からない目を向けて、舌をチロチロ出しながら、歪に口元を曲げニタリと笑った。


「お主も悪よのぅ」

「いえいえ、ワイ朗様には敵わないシュ。シューシュッシュッ!」



こうして焼飯を手懐けたワイ朗は、まだ逡巡する村人達を押し切って、他の村に日ノ本への移住を呼びかけ始めた。

教育無料ですよ。技能教えますよ。仕事の面倒みますよ。生活保障しますよと。

甘い言葉に誘われ、また日ノ本に夢と希望を抱いて、移住する者は結構な数となって村に押し寄せた。

けれども、実際は村民に移民を押し付けただけ。村人は混乱しつつも誠意を持って対応したが、話が違うなどと暴れる移民もいた。


移民の中には確かに優秀な者もいた。だが大半の者は技術を習得すると、故郷に帰ったり童里夢などに行ってしまう。残ったのは勝手な夢を日本にみた者や、国を追われた居場所の無いものなど脛に傷持つ者ばかり。

しかも彼らは少しでも気に食わないと、差別だ差別だ!と騒ぎ立て仕事をしなかった。

そのような状態であっても村人達は、生活を少しでも良くしようと働きに出るも、子守代や年貢に取られて僅かしか残らず、次第に村人達の心は疲れ果て擦り切れていくのであった。



「・・・とりま、色々と俺がやってきたにも拘らず、奴等はいい訳ばかりで、成果を出さない。仕事が無いなどと言って働こうともしない。まったくどうしようもないクズばかりだ」


「本当に使えない連中ねぇ。・・・それよりあなた。もっと絞り取って貰わないと私の新しい着物や履物が買えないわ。今度でる童里夢の金剛石を使った髪飾りも欲しいのに」


妻縁子は、紋掛けにかけてある色とりどりの着物を取り出しては、姿見で見合わせながらワイ朗に催促する。桐の箱には煌めく数多くの簪が。棚にはずらりと履物が並んでいた。村民は爪に火を灯す思いで暮らしてるというのに、呆れた贅沢ぶりだった。

ワイ朗は紳士村産の高級スコッチの入った切子を一気に煽って苦々しい表情を浮かべ答えた。


「分かってる。しかし最近は商人のキックバックや村民共の年貢の納めが悪いんだ。何か新たな金策が・・・そうだ!不労年貢を取ろう!・・・いや少し硬か?・・・ニート・・・そう。ニート年貢にしよう!」


「・・・聞いたぞ!お前達!一体何をして・・・いや、なんという事をしでかしたのだ!」

「!?・・・親父!」「お養父さん・・・」


「最近、見舞いに来る者の雰囲気がおかしいとは思っておったが、まさか、お前達がその様なことを・・・」

「・・・」


「私利私欲の為、村の宝たる村民を虐げるとは、一体どういう了見なのだ!」

「・・・」


「お前の役割は村を守り、村民の為に奉仕し、日ノ本の安寧と繁栄に助力する。その事こそが本来のお前の役割であろう!」

「・・・」


「額に汗して縁の下で陰日向なく村民を支える。それが公務家の努めぞ!」

「・・・フッ」

「聞いておるのか!ワイ朗っ!」


初太郎は激昂しながらも心の片隅で息子が悔い改める事を願っていた。

だがそんな父に息子は蔑みの視線を向けてはき捨てた。


「ば~~っかじゃね~の!」

「!?」

「その結果、親父はどうなった!学も力もない無能で怠惰な連中に、いいように扱き使われ結局はそのザマだ!俺はそんな惨めな姿になりたくないね!」


「な、何を言っておる・・・皆、己の居場所で精一杯、己の役割を果たしておる。そしてこの様なわしに村人達は親切に面倒をみてくれているではないか」


「村の為の命を掛けたんだ!そんなの当たり前の事だろう!?それに大局も見れない村民は、好き勝手言うだけで何も責任を取らない。何も行動しない。口先ばっかりの能無しだ!奴等は俺が先を示さないと何も分からないんだよ!正しい判断を下す指導者が、俺が、そう俺様が居ないと日ノ本村は回らないんだよ!」


「それは違うぞワイ朗よ。我等あっての村人ではない。日ノ本村という皆があってこその我等なのだ!」


「違うね。俺様あっての日ノ本だ。愚民は優秀な俺様に黙って従っていればいいんだよ!愚民移民は日ノ本に居させてやってるのだから、年貢を納めるのは当然の事。商人共には配慮してやってるのだから、賂いを貰うのは正当なる対価だ。目溢しした輩も俺様に感謝して上納するのは言うまでもない。日ノ本の代表は俺様だ!つまり俺様は日ノ本なんだ!そして至高の存在たる俺様は愚民より良い生活をするのは至極当然だ。村に集るノミ共をどうしようとも俺様の匙加減一つ。生かすも殺すも気分次第でどうにでもなる連中なのさ!」


初太郎は額に手を当てよろめく。がそれも束の間、顔から手を下ろした初太郎の顔には阿修羅もかくやの憤怒の形相を浮かべ、血走った目はギラギラとワイ朗を睨め付けた。

その立ち姿にワイ朗の身は竦んだ。なぜなら父の周りから怒気が立ち上り、陽炎の様に揺らめいて巨人のように大きく、贖えない得体の知れない何かに見えたからだった。

初太郎は口から血を搾り出すかのように吠えた。


「お・・・おのれという奴は・・・こうなっては是非に及ばず・・・貴様の素っ首で村民に詫びをいれ、我が腹掻っ捌いて罪を償う事としよう・・・死ねぃっ!」


初太郎は弱った身体とは思えない素早い動きで、床の間に飾ってあった太刀を抜き放つと、ワイ朗目掛け凄まじい速さで水平に薙ぎ払う。

ワイ朗が避ける事が出来たのは偶然だった。父の気迫に押され後ずさった時に足を取られ、そのまま後方に倒れたからだ。だが初太郎の鋭い斬撃は薄皮一枚であったがワイ朗を捕らえていた。彼の胸から鮮血が噴出す。

それを見た彼は慌てふためき混乱し無様に悲鳴を上げた。


「・・・ひぃゃあ!や、やめろ!親父!話を・・・いや!俺が悪かっ!殺ざないぅでぇ!」

「問答無用っ!」


上段に構えた初太郎の太刀が、追い詰めたワイ朗の頭部に今まさに振り下ろされようとしていた。

ドスッ。鈍い音が初太郎の背中から聞こえ、同時に激しい痛みが体に走った。


「ぐっ!?・・・おのれ・・・」


振り返れば縁子が真っ青な顔で包丁を突き立てたまま初太郎を見上げ固まっていた。

初太郎が睨みつけると、縁子はへなへなと後ろに倒れこむ。

と同時に、初太郎は嘆息とも、自嘲ともつかないを声を発すると、力尽きたかの様にその場で崩れ落ちた。


「・・・天照らし全てを導く御天道様・・・愚かなる息子を光満ちる高天原へ導き給え・・・)


血の池に倒れ付した初太郎はそのまま静かに息を引き取った。

その死の間際、初太郎の心中は息子が改心し、村の幸福と繁栄に身を粉にして働て、いずれ訪れる人生の終焉時に、神々が住むと云われる天の高原に召されるよう願うものだった。


だがそんな父の最後の思いも息子には届かなかった。


「クソッ!この老害が!焦らせやがって!」


ワイ朗は父の死を確認すると、狂ったように暴言を吐きながら亡骸を蹴りつけ始めた。

怒り、恐怖、憎悪、羞恥、嫉妬、妬み、僻み、不安、後悔。様々な負の感情が渦巻き爆発し、それが彼を凶行に走らせたのだ。そのワイ朗の気が触れた行為に流石の縁子も恐れ慄いた。



翌日、初太郎の死を伝えられた村人達は、村の精神的支えであった彼の死を大いに嘆き悲しんだ。

そしてある噂が実しやかに村に流れた。ワイ朗が初太郎を、親殺しをしたのではないかと・・・それは村人達の心に一滴の黒い染みを落し、他の不満や疑惑と結びつき、彼らの心を黒く染め上げていくのであった。


父の死後、ワイ朗の横暴な振る舞いは益々酷くなり好き勝手に振舞っていた。また、亜人達も傍若無人に暴れまわっては無辜の民を傷つけ、ワイ朗と繋がる一部の既得権益を持つものは、民を虐げて甘い汁を啜っていた。

それらを村人達が必死に嘆願しても、ワイ朗は鼻で嗤って一蹴し聞く耳を持たない。それどころか亜人達と一緒に「ヘイトだ!レイシストだ!」と村人を迫害する始末。


日ノ本の村人達は絶望し、このような状態になっても村民の意見を聞かない、それどころかどんどん傲岸不遜になっていくワイ朗を怨み憎んだ。

人々の心は荒み、村は益々荒れ果てて、絶えず諍いが起こるようになっていった。



そんなある日のこと・・・



寂れた小屋に数人の村人が集まってひそひそと話し合っていた。


「・・・もう堪忍袋の尾が切れた」

「あぁ・・・さすがに我慢ならねぇ」

「こうなったらやるしかねぇだ!」

「皆の者!死なば諸共だ!!」

「「「「国賊共に天誅を!!!」」」」


人々は互いに頷き合うと静かに立ち上がりそっと戸を開けた。




この日、日ノ本村の各所から黒煙が立ち上った。


火は勢いよく燃え盛り夜空を赤々と照らし続けた。


その炎は七日七晩経っても消える事はなかったそうな。



                         めでたしめでたし?


俺達の戦いはこれからだ!


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