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心の中に

この創作は実際の土地や人物の名称とは全く関係がありません

「華火、ちょっと悪ィ・・・待っててくれっか?」

華やかな美女達のステージ上のダンスに一層の賑わいを見せる、ホストクラブ「Yamato−nadeshiko」は最高潮の盛り上がりだった。このクラブは客の好みに合わせてステージを楽しめるテーブル、そして静かな時を好む遮音性のあるルーム、商談などに使うバー・カウンターなど様々なテーブル・ルームを広大なホールに用意してある。ステージを楽しめるテーブルに座る黒男は、劇団四屋トップ女優華火の長い黒髪に口付けながらそう語りかけ、二三人の気の利いた彼の派閥であるヘルプをインカムで呼んだ

「うんいいけど・・あのオトコってアレでしょ?確か有名なデザイナーで・・・良くTVに出てる池袋のクラブオーナーだったっけ?」

華火は黒男の表情を覗き込み名残惜しそうに手を添えるが、大きな手に頬を包まれその手を離した

「ああーーーウチのオーナーのダチだしな・・・ちょっとアイサツしてすぐ戻るかんな?」

「・・・でもステージの女達やっぱり迫力あるわね・・・何か気後れしちゃう・・・」

華火は不安になっているのだ。それは現在与えられた役の仕事もあるだろうが、やはり指名しているホストが他のテーブルに行くことはプライドの高さから口には出さないが嫌なのだ。彼女は未だ若い。ステージ上の成熟したホステス・ダンサーに嫉妬していたーーー

「何言ってんだバカ。じゃあお前がすっぴんで汗に塗れた稽古着姿見せてやれよ。演技に打ち込むお前が一番キレーだぜ・・・?本気でテメエの信念を貫き通そうとする女が一番キレーだ。あんなのはタダの金の為じゃねえか・・・どんなにみてくれを飾ろうとその内面からの真剣な美しさにゃぜってー適うモンじゃねえってコト位、お前程のイイ女はもう分かってるだろ?な・・・」

その低い言葉と覗き込んで来る紅い瞳ーーー華火は頬を染め「なるべく早く戻ってよ」と呟き黒男を送り出し、ヘルプの差し出す酒をあおった


「弥子ちゃんごめんね。オーナーのお友達のエライ人来ちゃったからさちょっと僕ご挨拶してくるね。すぐ戻るからーーーあ、すみません小千シャオチェンさんちょっと来て頂けますか・・・」

ステージからは遠いがある程度の賑わいを見せるテーブルに座る翔は、弥子にそう告げ、インカムに唇をつけた瞬間

「控えております」

暴や黒男とも全く違う、限り無く落ち着いた低い声が翔の背後に静かに掛けられた

「うわ、いつの間にいらしてたんですか小千さん?」

小千ーーーシャオチェンと呼ばれた男性は、年の頃は40代前半程。細い眼鏡を掛け、中肉中背の落ち着いた紳士ーーーという風情。翔のような女性的に整った美貌も無く、また黒男のような男性的雰囲気も無い。しかしその雰囲気は強いて上げれば超一流仏料理店のボーイ長といった所であろうか、非常に洗練された物腰と雰囲気を持っていた

「豪様がご来店されたので、弥子様のお相手を命じられると思い控えておりました」

遥か年下である翔にも、慇懃な程の丁寧な口調。彼はこのホストクラブ設立時からの古株であり、在籍中10位以内を一度として陥落したことは無かった。シャオチェンという源氏名はオーナーの名前に非常に近しい事から、オーナーの親戚筋という噂ではあるが実際の所は誰も知らなかった。クラブ従業員は全て彼に敬語と礼儀を尽くす。例え彼のナンバーが幾つであろうとも、常に控えめでクラブ内の揉め事を全てその洗練された物腰と明晰な頭脳で穏やかに収める彼に誰もが感謝と尊敬の念を抱いていたからだった

「弥子様、こんばんは。お逢いする度にお美しく、清楚なお可愛らしさを益々抱かれておりますね」

「小千さんこんばんは。この間お貸しして頂いた御本、とっても勉強になりました。でも少し分からない所があって・・・お聞きしても宜しいですか?」

「英文原文のままでしたが、弥子様ならばきっとご理解頂けると確信しておりました・・・どうぞ何でもお聞き下さい」

弥子は小千の甘い挨拶に気後れすることなくーーー寧ろ楽しむように答えた。翔以外には決して心を開かない弥子が小千にだけは楽しそうに自然な笑顔を作る。実際父親に近い年齢でもあるし、その穏やかで洗練された雰囲気は年若いホストには中々醸し出せるものではないだろう。翔はヘルプを頼む時は必ず彼を呼び、勿論弥子も何度も彼と話している。安心したように翔は席を立った

「じゃ少しだけ小千さん弥子ちゃんをお願いしますね。弥子ちゃん、君が楽しそうなのは僕嬉しいけど、あんまり楽しそうにしてると僕ジェラっちゃってまた可愛く怒っちゃうかもだよ?じゃ・・・」

弥子の顎に指を掛け、頬に軽くキスをすると、真っ赤になった弥子を小千に預けて翔はキャンサー・Gのテーブルに歩んで行った




「あっれ?暴さんじゃんか!ひっさしぶりだねー元気だった?随分ウチの店来てくれないじゃんー女の子達淋しがってるからたまにはおいで」

降ろさせた光を座らせ、暴は豪と光の間に座り豪に酒を作った

「弟、行かせてますよ」

「そーそ、黒男君さーよく来てくれるのは嬉しいんだけど、もうウチの女の子食べまくりでさ!あっとごめんごめん光ちゃんの前でしたー」

手を口にあてて、ごめんごめんと笑う豪に光は目をぱちぱちさせていたーーー光はこの豪という男性客が好きだった。それは決して男色的な意味合いではなく、勿論豪もそうだ。太客であっても彼は一種オーナーの友人であり、ストレスの溜まったホステス達がホストクラブへ行き金を落とし、またホスト達もストレスをホステスに発散し金を落とすーーー夜の世界の華やかなカラクリ。このクラブのNO.1の箔付けの意味もある太客。ストレスの溜まった社交達を引き連れ金を落とすーーーその指名は勿論NO.1。しかしそんな名目上の意味だけでなく、豪は常に明るく優しかった。ネオ池袋の顔役として、この業界全体の発展を願っている彼にとって光は最適な宝だ

「光ちゃんいいよ、暴さんとご挨拶に回っておいで。暴さん少し休ませてやってね、よろちくー」

暴の差し出した酒をちびりと飲むと、豪は光に向かって手をひらひらとさせたーーーもう先程までの弱弱しい彼は微塵も存在していなかった

「さっきのトークは嘘だよ。気にしなくていいから今夜は楽しもうね!」

暴に促される光にそう明るく言ってーーー豪はチョコレート・ケーキを一つ口に入れ

「このチョコの味、俺ずーーっと覚えてるからね」

そう、何度か振り返る光にーーー心の中の妹に語りかけた




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