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全てを可能にする男

この創作は実際の土地や人物の名称とは全く関係がありません

最高級の社交場という場所はある種トップクラスの人間達の社交界の繋がりを開拓する為にも使われる。ホストクラブ「Yamato−nadeshiko」は勿論女性客が大半ではあるが、一部男性会員も存在する。しかしそれは決して男色的な意味合いでは決して無い。無論そういう嗜好を持つ男性はこのネオ歌舞伎町を多く訪れる。この「Yamato−nadeshiko」在籍の、若く美しいトップクラスのホスト達は勿論その対象になるだろうが、このクラブはその種の嗜好・目的の男性客は決して会員にはなれない。それはオーナーの信念でもあり、また女性の扱いを徹底的に覚えさせる為の手法でもあった。男性の相手をする男性というものはある種媚が生まれる。男性同士はジェンダーが対等だからだ。そしてーーーフェミニズム的見地から言えば異論があるであろうが、女性はあくまでも男性に依存させるべきというジェンダーの概念をホスト達に徹底させ、「何でも思い通りになる」男など、どのように外見が美しかろうと何の魅力も無いことをーーープライドが高く今までその財力と美貌から「何でも思い通りに」なってきたであろうトップクラスの女性達に理解させ、何とかその男を自分の思い通りにさせたいと考えさせ通い詰めさせるーーーそれこそがこの「Yamato−nadeshiko」の盛況のカラクリであり、それは売り上げに顕著に現れていた


さてーーーたった今来店した、華やかな金髪美女多数に囲まれた一際背の高いサングラスを掛けた男性が、陽気な笑顔で予約の札が立った団体席に歩み出した。そしてその傍らには「Yamato−nadeshiko」のNO.1ホストーーーヒカルが少々困ったような微笑で歩く。淡い色合いの細い髪が柄の入ったスーツに映えていた。白い肌、蒼い大きな瞳。一見少女の如く優しげな美少年だった。優しげといっても、NO.3の翔のような端正な美形ではなく、非常に親近感を持たせる美少年だ。

挿絵(By みてみん)

一年前、このクラブに入ってすぐに光はNO.1になった。全くこの世界に関わりの無かった美少年がこのクラブに入店出来たのは当時のNO.1暴(現在はNO.2)の尽力があったからだった。そして光がNO.1になってからは、一種閉鎖的な社交場であったこのクラブはメジャー路線に転向し、マスコミ宣伝にも多く乗り出した。当時ホストクラブ業界は安価な店が乱立し、金銭的・女性客の若年化・ホスト達の素人化(友人のような気安さ)などが主な原因でトラブルが非常に多く、それに歯止めを掛けるべく新しく施行された法律により下火になりかけていたーーーだからこそオーナーは、徹底したプロ意識を醸し出す暴ではなく非常に親近感・安心感を持たせる美少年の光を前面に出し、路線変更をしーーーそれは確実に成功していた。勿論それはホストのプロ意識の低下や友人感覚などというものではなく、値段も質も決して低下させない。光は安心感と共に非常に育ちのよさや上品さも伴う魅力を持っていたのだった

不思議なもので、光はNO.1になっても決して恨みや妬みを買うことは殆ど無かった。勿論実質NO.1の暴が後ろ盾についたというのもあるであろうが、光には不思議な魅力があった。その大きな瞳に見詰められると、自らの奥底までを見透かされているように、素直になってしまう。心底に隠蔽している感情などバカらしくなる程に。そして非常に彼を守りたくなる。美しく、ある意味この世界に汚されていない光の素直な真白な精神。それこそが人間と人間との陰惨な化かし合いに身を置くトップクラス・セレブレティ達の最後に残った微かな心にーーー温かい灯火を灯した。その仄かな温かさが消えないよう、いつまでも照らし続けて欲しいと、客や殆どの従業員達もーーー光を守ろうとした




「おーう皆!ステージでダンスを披露しな!今日は「Poke−danz」の開店祝いにこの「Yamato−nadeshiko」のNO.1光ちゃんがお祝いに来てくれちゃったんだからなあ!盛り上がったぜーーー!さあてそのお礼だ!勿論オーナーOK貰っちゃってるさ!そら景気良くイケやーーー!」

サングラスの男はファの付いた高級スーツに身を固め、周囲の華やかな金髪美女達に向かって陽気に手を上げる。するとその女性達何人かがステージに上がり、見事なダンスを繰り広げるーーーその女性達は容姿や肌が美しいことは言うに及ばず、その衣装が何とも華やかであった。一人一人可愛らしい動物の耳のような、触覚のようなーーーそれは世界的に有名なロングランを続ける舞台衣装の一部で、「Poke−danz」はその舞台の名だった。その衣装デザインをこの陽気な男は全て引き受け、海外で由緒あるデザイン賞も受賞した程。その衣装や名を使い、本日ネオ池袋の一等地に高級会員制クラブ「Poke−danz」をオープンさせたのだった。このホストクラブのオーナーとも深い繋がりのある彼への祝いとしてオーナーはNO.1光を名代として行かせた。勿論店が終了した後はこのクラブに同伴来店は常識だ。しかも彼は自らだけでなく一流ホステス20名も一緒に同伴ーーー何とも常識はずれ且つド派手で陽気な登場に店中の視線が集まる。席についた光は隣の男を申し訳無さそうに見上げた

「あ、あの・・・豪さん・・・私少しだけ他のお客様にご挨拶に行ってもいいですか?」

「Poke−danz」総支配人キャンサー・Gーーー本名かどうかは定かでは無いが通り名はゴウ。ネオ池袋に20軒以上のクラブを持ち、本人も世界的に有名なデザイナーであるネオ池袋の顔役。キャンサー・Gという通称はcan・sir・go=全てを可能にする男・豪(G)という尊敬と畏怖を込めたものだった。そして常に大きなブランド・サングラスを掛け素顔を見た者はいないが、その偉丈夫な体格は2メートル近くはあるであろう、そして大らかで陽気なーーーどのような女性でも惹かれるであろうタイプであった。総支配人という肩書きであるが、トップホストとしても充分やっていけそうな男性的魅力に溢れた男

挿絵(By みてみん)

「いいーよ!光ちゃんは忙しいもんね!ウチの店で一杯サービスしてくれたしね。もー「Yamato−nadeshiko」のNO.1が来てくれるなんて最高の開店祝いだったよ!光ちゃんが来てくれただけで店内ぱあって華やかになっちゃったー!でもウチの女の子達にもみくちゃにされちゃってごめんごめん!少し休んでおいで!でもねえ・・・早く戻って来てよ!シャンパンタワー積み終わるまでに戻って来てくんなかったら豪ちゃん泣いちゃうよー!」

あっはははと陽気に笑う豪はぽんぽんと光の頭を優しく撫で「いっといでー」と促したが

「光ちゃんドコ行く?ずっとグレイシィの傍に居てくれなきゃヤだよー」

「わっ・・・グ、グレイシィさん・・・?」

光の隣で酒を作っていた美女が一人、少々拙い言葉と光の立ち上がりかけた肩を押さえ小さな頭を豊満な胸に抱き込んだ

「可愛い光ちゃんダイスキだヨー」

淡く白っぽいブルーの長い髪を垂らした英国メイド衣装の東欧系美女。光は困ったように豪を見た

「こらこらグレイシィ?こんなすっごいクラブのNO.1光ちゃんはお忙しいんだ。困らせちゃったらカワイソだろ?離しな」

豪がグレイシィの長い髪を一房摘み、それに甘く口付けながら笑う

「ヤダ!ボスもずっと居て欲しいクセにーーー!」

首を振りーーー豪を見上げたグレイシィの瞳が見開かれた

「・・・Do not you obey my instruction?」

豪の深く黒いサングラスからーーー危険な光が彼女に伝わる

「It is even how much as taking the place etc.Will I right now load it into the freighter to the mother country?」

まるで電流を流されたかのように、弾けるようにグレイシィは光から手を離しーーー俯いた

「・・・I am sorry the boss・・・」

「グレイシィさん?どうかしたんですか?」

ガタガタと震え、瞳に涙を浮かべている俯くグレイシィを光はそっと覗き込む。彼に今の言語は理解出来なかったようだった

「イイんだよ光ちゃん!グレイシィはおいたがすぎたから少しおしおきしただけ!さあ行っておいで!」

危険な光は消え去りーーー豪は常の陽気な声に戻って光の肩にぽんとその骨ばった大きな手を置く

「あ、その前にこれーーー「Poke−danz」では中々渡せなかったから・・・」

光は足元に置いてある紙袋から小さな包みを出した

「んー?なにかなコレ?」

豪はにこにこと小さな掌にのったラッピングされた包みを見る

「チョコレートです。小さいカップケーキだけど・・・私開店のお祝いに作ったんです!皆さんカロリー計算とか大変そうだからお砂糖控えめです。本当はもっと高価な物お贈りしたかったんですけど、私余りーーー一番得意なお料理でお祝い出来たらなって思って・・・493個は作れませんでしたけど・・・はい!グレイシィさんもどうぞ!」

俯くグレイシィに包みを持たせーーーにっこりと笑顔を送る。その、素直で何者をも赦す太陽のような笑顔

「あんがとね。光ちゃん・・・ほらほらグレイシィもいつまでもそんな辛気臭い顔してないで、笑いな!光ちゃんに笑顔見せて安心させてやんな!」

光の笑顔につられてーーーグレイシィが自然と笑顔になりチョコレート・ケーキを一口で飲み込み美味しいと笑う

「豪さん甘いもの苦手って伺ってたので・・・ビターで作りましたけど・・・食べて頂けますか?」

そう包みを差し出しながら自分を見上げる光の言葉を聞いた豪ーーーサングラスの中の瞳が変化した

「光ちゃんが俺の為に作ってくれたのか・・・でもさどうして?どうしてこんな手間かかることしてくれたの?大変だったよね」

NO.1ならばブランドケーキを手配してそれを届けさせればいいだけだ。光は、はにかんだように笑った

「え・・・だってーーー少しでも美味しいと思って頂ければ・・・私のことその時だけでも忘れないでいて下さると思ってーーー豪さんには本当にお世話になってますから・・・」

何とも素直な、場合によってはわざとらしい程の言葉ーーーしかし光の場合は全くそのような作為的雰囲気は皆無だった。何故かは分からない。それは彼自身が持つ天性のものなのかもしれない

「ーーーね、光ちゃんさあ・・・もう一回言ってくれっかな?」

豪は差し出された包みをその大きな武骨な掌に乗せてじっと見詰めていたーーー常の笑顔は消え失せている

「え・・・?な、何か私お気に障る事でもーーー?」

「いやいや全然違うよ・・・今の、さーーー食べてくれる?って・・・その時だけでも忘れないでいてくれる?ってーーーさ・・・」

不意に雰囲気が変化した豪ーーー常に陽気で明るい男性の雰囲気は正反対のように陰気に変化していた。光は困惑しながらもその言われた通りの言葉を繰り返した

「ーーーやっぱ・・・似てんな・・・」

ボスの変化した雰囲気に、敏感に反応した美女達は少々の距離を空ける。豪は膝を開け手を組みーーー俯く

「こういう場所でいきなし重い身の上話する客ってウゼーよな・・・ま、いいかーーー聞いてくれっかな光ちゃん?ーーー聞いてくれるだけでいい・・・」

俯いた豪の顔を覗き込み、光は何度も頷いた

「俺にはねーーーお袋違うけど妹いたの。俺が中坊ん時で妹は5歳。いきなり家に来てさ俺のことお兄ちゃんって呼ぶんだよ・・・驚いたね。俺の親父はろくでもねえクズで、クスリでイカれてる時は俺だけじゃねえ・・・妹まで殴ろうとした。俺はブチ切れてーーー妹はそういう施設に預けられたよ。それのが安全だもんな・・・でも俺は出来る限り逢いに行った。いつもすげえ喜んでくれて「お兄ちゃんお兄ちゃん」って言って縋りついて来るんだよーーー温かかった。素直で本当に可愛くていい子だった。たった一つの守りたいものだったんだぜーーー」

確かにこのような社交場は様々な人生模様が覗ける。光もその手合いの客の扱いはそれなりに慣れている。しかし豪ーーー陽気で男性的、且つ財力も名声も手に入れた完璧な男の、このような弱弱しい姿は初めて見たのだーーー口を挟むべきではない、と一流の接客業の人間ならばそれは熟知している。心の奥底に自ら閉じ込めた心情をーーートラウマを吐露させる手法は精神医学のケア治療と同等のものだ

「ーーーバレンタインにさ・・・あの子俺にチョコ作ったって渡すんだ。でもな笑っちまった。たぶんTVとかで見たのかもしんねえけど<湯せん>って意味が理解出来なかったんだろな。鍋に湯沸かしてそこに板チョコ放り込んで・・・中々固まらないから製氷器にツッコんで無理矢理冷凍室で固めたってーーーはは、ただの茶色い角氷だった」

何となく光にも理解出来たのだろう。豪はその妹と自分の今の行為を重ねているのだ。華やかな音楽が流れている筈の店であるのに豪の言葉一つ一つがはっきりと光の耳に届き続ける

「お兄ちゃん、食べてくれる?ってーーー見上げてきた」

豪は両手で自らの顔を覆ったーーーサングラスの上から

「お兄ちゃんと離れてても、これ食べてる間は私の事思い出してくれる?忘れないでいてくれる?」

光はーーー自分のした行為がどれだけ豪の心の傷を曝け出させたのか理解する

「ーーー生きてりゃーーーお前と同じ位の年齢だ・・・」

ーーー?施設で離れ離れになったと想像していた光はその豪の言葉に驚く

「・・・殺された・・・近所うろついてた妙な学生に拉致られてーーー可愛かったから連れてって騒いだから首絞めたんだとよ・・・あの子下着を脱がされてた。俺がホワイトデーに贈ったシャツだけ着てーーー滅茶苦茶にブチ殺してやるつもりだったが、そいつはすぐ捕まって精神鑑定で無罪。頭イカれてたんだとよ・・・親父と同じーーーそして俺は無力なただのガキ」

豪はふっと顔を上げ、チョコレートの包みをゆっくりと開ける。光の不安げな視線にやっと気付いたのだろう

「そん時誓ったんだ・・・死んだ妹にーーー俺は強くなってやる。全てを可能に出来得る力を手に入れてやるーーーて・・・な・・・ーーーだから俺の名前はcan sir・G!我ながらカッコいい名前つけたでしょ!ね?光ちゃん!」

後半の言葉の響きは常時の豪だった。明るく陽気なーーーだが違う、と光は直感する。無理している、自分に心配を掛けないよう、そのナイーブで限りなく優しい精神をサングラスで隠している彼の本性を見通す。光の一番の長所はその人間の本質を確実に見通す力。しかも無意識にーーーそれこそが夜の世界を生き抜くプロにとって徹底的な魅力

「人は二度、死ぬそうです」

厚いサングラスをも貫く蒼い視線が豪を見詰める

「一度目はその寿命で体や魂が死んでーーー二度目は本当に誰からも忘れ去られてしまった時」

静かな言葉ーーー豪の偽りの笑顔は消え失せて行く

「誰の心の中にも完全にいなくなってしまった時ーーー」

にこり、と光は笑顔になり

「妹さんは豪さんが覚えてる。ずっとずっと大切に綺麗に心の中に仕舞っている。だから生きてます」




「−−−かーーーーわーーーいーーーい!」

「わーーーっ?!豪さんっ!?」

いきなり豪は光をぎゅうと抱き締め、幼子を高い高いするように抱き上げた。周囲の美女達もあっけにとられるほどだったーーー照れ隠しの、豪の豪快な行動

「もーーーーう!可愛すぎ!豪ちゃん持って帰っちゃうよ?ご一緒にポテトいかがスかーーー?」

「あっ・・・あのーーー今のはそのっ・・・劉丁一先生の「胡蝶蘭」に載ってた言葉でーーー今度お貸ししまーーー」

「お久し振りです。キャンサー・G」

するとーーー抱きかかえられ慌て捲る光の両腋にす、と手が入りーーーひょいとその身が床に降ろされたーーーNO.2、暴だった





「人は二度・・」のセリフは、西原理恵子先生の作品内にあるお言葉を参考にしました

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