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嫉妬

キャラクター名は記載しておりません。作品の雰囲気を出す為の表現です。ご了承下さい。キャラクターが連想されるように表現しております

「そいつはてめェの妹じゃねえ」

豪の首の側面の急所に、太い親指と人差し指が押し込まれた

「いい加減目ェ覚ましやがれ。ハッパでもキメてんのかお兄ちゃん?」

豪の黒い影の背後ーーー少女の視界には最も信頼出来る、黄金色で構成された男が立っていた

「−−−ま、予測してたが・・・何でこの部屋の鍵持ってるんだいNO.2?」

視線を背後に向け首を捻り指を外させーーー豪はゆっくりと少女から離れ立ち上がった。ソファに横たわる少女を背後に、金髪の男と真正面に向かい合いその黒い瞳を鋭く向ける。同等の背丈の為その視線は同じ高さに絡み合った

「俺の大切な妹にろくでもねえ虫つけとくワケにはいかねえな・・・分かってんだろうなァ?」

「ああ、上等だ。真正面から来いよーーーいつでも受けて立ってやる・・・こいつは俺が守る」

フン、と鼻で笑い豪は胸からスペアのサングラスを出すとそれを掛けた

「ーーー安心してくれな・・・俺は口は堅ェし、お前が事情があってあそこにホストとして勤めてるんならそれはそれでいいーーー怖がらせちまって本当に悪かったな・・・俺は暫くあのクラブには行かねえ。代わりに毎日女共行かせる。勿論お前を指名だーーー許してくれるかどうかは分からねえが、もし・・・俺の元に来てくれる気になったらーーーいや違う、さっきまでみてえに楽しく話してくれる気になってくれたら・・・連絡をくれ。一言でいい、からーーー待ってるからよーーーな・・・?」

そう振り向かずに背後の少女に語りかける。金髪の男への口調とは正反対に。幼子が母親に許しを請うが如くの、自信無さ気なその声色ーーーそれに少女の心情が呼応する。その傷つき易く優しい男の痛い程の誠意が伝わってくる

「・・・あ、のーーー」

少女の返事から逃げるかのように、豪はバッグから取り出した携帯を手近なテーブルに置き、入ってきた時とは正反対の足取りで金髪の男の脇をすり抜け、大股に去っていった




「−−−大丈夫か?怖かったか?どこか痛くねえか・・・?」

豪が完全に去っていったのを確認し、金髪の男はソファに横たわる少女に身を屈めその頭に手を置く。怪我などが無いかとあちこちに触れて確認する

「だ、大丈夫・・・だよーーーありがと・・・」

少女は胸元を押さえて半身を起き上がらせる。先程無理に開かれたそこは胸を覆う生地がずれていた為だった

「−−−間に合って良かったぜマジで・・・出口でお前たった一人で奴を追い掛けって行ったからな・・・全く誰かーーーいや、俺を呼べよ・・・携帯は通じねえしまさかと思ったがーーー余り俺を焦らせないでくれよ・・・生きた心地がしなかったぜ・・・?部屋になんか入れるんじゃねえよ・・・全く・・・」

よくよく見れば男の額や首筋にはこの冷気の中にでも汗が流れ落ち、呼吸は荒かった。それ程までに彼は自分を心配し探し走ったのだろう

「ごめんなさい・・・」

素直に謝罪し俯く。男は少々強く言い過ぎたかと慌て、そうじゃない、無事で良かったからもういいとその肩を抱き自らの胸に抱き込んだ

「・・・怖くはなかったよ・・・あの人はーーーそういうことをする人じゃないって確信してたから・・・でも反省してる。今度からは絶対気をつけるよーーーごめんね・・」

汗でシャツが張り付いた男の精悍な胸に頬を摺り寄せ、少女はもう一度謝罪する。心臓の音。常に、絶対的に自分を守り抜くその熱い生命の脈動の音。その少々早い心臓の音に先程までの混乱がゆっくりと収まっていくのを少女は感じていた

「−−−俺もそう、思っている。奴はその辺のヤローとは違う。さっきの言葉は本当だろう。お前が女だってコトはバラさねえだろうな・・・ただ、お前余り嵌らせるなよ?あんなんが何人も出てきたらどうすんだ?嵌らせるにも限度と調整があるんだよ。その辺まだまだ分かってねえな・・・」

男は少女が落ち着いた事に安堵を感じ、軽い口調でからかう

「どーせウチのオーナー、あのヤローの過去調べさせてお前をつけたんだろな。見事に嵌っちまったなアノお兄ちゃん。ありゃ諦める気さらさらねーぞ・・・ま、俺がンなことぜってーさせねえが」

男は自分からサングラスを外し、素顔でその蒼い瞳を覗き込んだーーー安心しろ。俺が絶対にそんな事はさせないからお前は100%安心して綺麗に笑っていろ、と

「・・・ありがとう・・・」

少女はその精悍な顔を見て、心底からの礼を言った。その限りない感謝をたった一言に最大限に込めた



「ーーーね・・・さっきのあのステージ・・・何だったんだろう?」

ネオンに照らされた薄暗い室内で、少女は自らをその腕に抱く男を見上げた

「オーナーのあの妙なステージのことか?」

男はそう確認する。彼女が不安に思っているのはステージ自体では無いことは明白だった

「オーナーの隣に居た子ーーーどうして私と同じ顔をしていたんだろう?」

少女は先程あのクラブで、まるで人形のように瞬きすらもせずにただ立っていたーーー自分と瓜二つの姿を脳裏に浮かべる。通り魔に遭ったが如くに一瞬だったーーーしかし余りにも鮮烈だったその姿。鏡を見ているような、しかし全く自分とは違う世界から来たような

「−−−分からねえ。俺も何も聞いてはいなかった・・・一体何処から連れてきたんだ・・・?」

本当に何も聞いていなかった。男はその明晰な頭脳を買われある程度は店の経営にも関わっていた。実際株式会社化しているオーナー事務所の株もかなり持っている。オーナーは新しいイベントなどを開く時には必ずと言っていいほど男に話を通していたというのにーーー全く何も聞いていなかったが、恐らくあれは店全体へのテコ入れ。明晰な頭脳はーーー現在のNO,1と瓜二つの美少年を入店させ競わせるつもりだろう。自分の大切な少女と正反対の彼を使って、より二人は際立つだろうーーーそういう計算式を弾き出した。その太陽と月のような正反対の魅力が互いを益々光り輝やかせるだろう。太陽と月は互いの存在があってこそ、その美しさを発する事が出来るのだから

「あの子ーーー女の子だよ・・・私と同じ」

驚愕。腕の中の少女を見下ろすーーー彼女の一番の長所は初対面であってもそれが一瞬であっても、その本性を見抜く力

「な、んだって・・・?」

この少女は完璧に美少年を演じ、貴子や豪のような人間観察のプロ中のプロ以外には見破られていない。それも一つの才能であろう。あのエキセントリックな存在も美少年にしか見えなかった。女性の片鱗など一ミリ足りとも感じなかったーーー自分にさえも

「本当か?アレ女なのかよ・・・信じられねえがーーー」

オーナーは勿論知っているだろう。この少女を初めて店に連れて行った時も男装させていたが一発で見抜いた。それでも少女の才能と癒しの本能を見抜き、笑いながら「やってみろ」と一言。それをまた繰り返したというのか?それは何故だ?そしてこの少女と瓜二つなーーー美少女の正体は

「もしかして・・・私のーーー」

少女は施設の前に捨てられていた。「この子をお願いします」という母親であろう女文字の置手紙がたった一つ

「お前の家族は俺だろ?さっき貴子に言ってたじゃねえかーーー兄貴だってよ?」

少女の不安げな声色に男は満面の笑顔を向けるーーーもしかしたら姉妹なのかもしれない。彼女もまた母親に捨てられ、成長し姿を現したのかもしれないーーーこの少女はNO,1になってからは頻繁にクラブの広告塔としてメディアに存在感を示しているーーーそれを何処かで見て、太陽の前に現れたのかもしれない

「・・・まあいいじゃねえか、気にすんな。オーナーが何を考えてようとアレが何をしてこようと、絶対にお前は俺が守ってやる。俺にとってもお前はたった一人の家族だよ。可愛い妹だーーーあのシスコン野郎みてえなことは言いたくねえがーーー傍にいてくれ・・・俺に守らせてくれーーーそれで俺はもっともっと強くなれるんだ」

男はそう言葉を投げかけると腕の中の華奢な体を強く抱き締めた。守らせて欲しいーーーお前の存在があったからこそ、自分は道を誤らずにすんだ。施設を出てその存在が身近にいなかっただけで異常な程の孤独感に苛まれ、その衝動が時には人を傷つけ、暴力に現れたーーーそれは男の存在をネオン街で認めさせることに繋がっていったのだが

「・・・・く、るしい、よーーー」

余りに強く抱き締め過ぎたのか、少女が苦しそうに身を捩ったーーーこの少女が酷い暴力に晒され、それを知った男は強い怒りと共に彼女を取り戻した。余りに身近過ぎて、彼女の将来の為にならないと自ら距離を取った男に状況が味方した。傷ついた少女は自らの意志で男の元に留まり依存し、ずっと共にいることを望んでくれたのだ。それは男の最も望むことでもあったーーー卑怯にも。余りに身勝手で、暗くーーーそして哀れで孤独な男の、真の感情

「・・・ごめんな」

ふっと力を抜き、身を離す。ぽんぽんと桜色に手をあて、優しく笑った。今はサングラスを掛けていないのだ。その鋭く深い蒼い瞳に宿る光を気付かれる訳にはいかないのだ。この少女は驚くほど人間の本性を見抜く力を持っているのだから

「シャワー、浴びな・・・忘れたいだろ今夜の事は。店はもういいさ・・・アフターって事にしとけばいい。俺は自分の部屋に戻るからよ、明日昼飯一緒に食おうぜ」

男は立ち上がり、部屋の電気を付けるため歩み出そうとしたーーーそう、すべきだと

「−−−待って・・・」

その背中にーーー儚い声が掛けられた

「・・・行かないでーーーひとりにしないで・・・」






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