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癒えぬ傷

この部分以降、敢えてキャラクター名を記載しておりません。作品の雰囲気を出す為ですが、少々読みづらいとは存じますがご了承下さい。文章からキャラクターが連想されるように表現しております

「おっしゃーー−!お前等はコレで帰れーーー!明日遅刻すんじゃねえぞーーー!領収書はちゃんと貰えよ!」

次々と客達が車中に消えていく中、20人の美女を引き連れたキャンサー・G−−−豪は周囲の美女達に現金を渡し大声で張り上げた

「現金主義の豪ちゃんは金払いもいーーーーの!気を付けて帰れよ!明日もよろちくーーー!」

「ご、豪さん・・・酔ってらっしゃるんですか?大丈夫ですか・・・?」

その華奢な肩を抱かれながら少々覚束ない足取りで歩む豪に声を掛ける

「んーーーん!酔ってないよーーー!」

「ボス、酔ってるヨー。珍しいねボスが酔うなんてー。いっつもはオールド一気シテも酔わナイのにネー」

そう言う当人のグレイシィも覚束ない足取りで渡された金額を美女達に振り分けている

「わ?!しっかり・・・」

ぐら、とコンクリートに均衡を崩した豪の大柄な体が落ちそうになり、必死にその重さを引き上げようとした

「へーいき!ごめんねー!俺楽しすぎてねえ・・・今日は楽しかったよー!大丈夫だよ俺自分の車で帰るからさー」

ごめんごめんと笑って豪は身を離そうとした

「な・・・何仰ってるんですか?そんな状態で車の運転なんて絶対ダメですよ!豪さんに何かあったら・・・」

その離れて行こうとした豪の手を取り、注意する。このような状態で運転などしたら確実に事故を起こすだろう

「代行呼びますから・・・」

「・・・代行キライなの豪ちゃん。ボクの愛車は誰も乗せませんよー!」

「ーーもう・・・私何度も豪さんのメタリック・シルバーのセルシオ乗せて頂いてますよ。酔ってますね・・・」

「んーそうだっけ?でも代行はイヤなのーーー!」

豪は真剣な表情で見上げて来る小さな顔をじっと覗き込むーーー貴方が心配だ、と訴えてくるどこまでも蒼い瞳

「じゃ、じゃあタクシーで・・・」

「タクシーで帰るのは遊び人豪ちゃんの流儀に反するのだー!」

駄々っ子のように声を張り上げた豪は美女達に乗れ乗れと強引に押し込むようにして、またもや支えようとする小さな手を振り払った

「あーボス、ヨッパライだネーアハハ楽しいね。このクラブでお話する時だけだっていつも言ってるヨ。オレが本当に酔えるのはってーーーいっつもネー・・・」

グレイシィは豪を必死に追う小さな背中を見てーーー呟いた

「ネー!ワタシ達帰るヨ。ボス宜しくお願いシマースねーーー!」

そう声を張り上げると、グレイシィ等美女達はタクシーの扉を閉め去っていった

「ーーご、豪さんってば・・・あ、じゃあ私のマンションすぐですから、そこで少し休んで下さい」

グレイシィ等が去って行きーーーもう店からかなり離れたネオ歌舞伎町のネオンの中、やっと追いついた豪のコートを掴みながら提案する。店には後で連絡すればいい。他の客への挨拶は済んでいる。今日はアフターも無いし、豪なら何度もアフターをしているのだ。店側もそれは熟知しているだろうし問題無いだろう。最もそれは美女達と皆であったがーーー店が在籍ホスト達の為に用意しているマンションは歩いて5分程だ

「・・・んーー・・・アレ?どうしたのお店戻りなさーい。終礼あるでしょ?俺もう少し飲んでから帰るからさ、心配しなくていいよ。運転なんかしないってば。テキトーに女んトコしけこむからいいよ・・・」

追いついて来て縋るように見上げてくる心配そうな顔を見下ろして、豪は陽気に笑う

「だとしてもそんな足取りじゃ・・・あ、あそこですから私のマンション・・・」

繁華街の裏手、豪奢なエントランスが見える高層マンションは確かにすぐだった

「とにかくお水とか飲んで休んで下さい。私は豪さんが部屋に入ったらすぐお店戻りますから・・・」

携帯を店に忘れて来たのかーーー胸ポケットに手をあて、そのふらつく大きな体を必死に支えながら豪を促した




「・・・しっかり・・・」

ぐったりとした豪を支え、エレベーターから降りる。共用部分のカーペットの上を歩きながら部屋のキーを確かめる

「・・・何で豪ちゃんこんな酔っちゃったんだと思いますかー・・・?」

呟く豪の言葉を酔っているとくすりと笑い、ガチャリと扉を開けると玄関灯が自動で点灯した。内扉を開け、リビングに入る。20帖程のリビングは自動灯では無いので、室内は不夜城であるネオ歌舞伎町のネオンに照らされ薄暗いがーーー足元や表情は見える

「そうですよ、初めてですこんな豪さん見たの・・・お疲れなんですねきっと。だからお酒回って酔われたんですよ」

豪の大柄な体を白いソファに降ろし自分もその隣に腰を降ろし、ふうと一つ息をつくと豪の額に手をあてた。この冷気に冷えた自分の手はきっと冷たくて気持ちがいいだろうと。大規模店の開店準備にこの数日奔走し、疲れていたのだろうと推測するーー豪の顔は酔っている為か酷く熱を持っていた

「−−−いや、お前のあの言葉に酔った」

ふ、と今までの酔った感じとは違う低い冷静な声が発せられるが、それは酷く小さな呟きであったので碧のピアスで飾られている耳には届かなかった

「ちょっと待ってて下さいね。氷水作ってきまーーー」

立ち上がろうとした細い腕がーーー武骨な手に掴まれた

「客の酔ったフリに騙されて部屋に入れるなんざ、NO.1失格だぜ?」

「−−−!」

抱擁

「俺がお前のマンションの場所把握してないなんざ・・・あり得ねえだろうが。その方向に誘導したんだよ。お前どうせ俺を追って来るだろ?・・・お前の携帯は俺のバッグの中だぜ」

華奢な体は、長い腕と大柄な体に隠れた

「・・・や、めて下さい!−−−なっ・・・何するっ・・・んですか?!」

豪は無言だ

「っーーー離し、て・・・」

必死に体を捻るが、その大きな手に覆われた肩は微塵も動かない

「豪さん!−−わ、私はーーー男ですよ!」

そのような嗜好は豪には無い筈だった。それを確信していたからこそ部屋に入れたのだ

「男?」

バッ、と体が離れ、ソファに押し付けられーーーシャツの胸元が掴まれた

「きゃああああ!?」

開かれた胸元ーーー厚い生地に覆われた微かな隆起

「俺ゲイの気はねえよ、お嬢ちゃん?」

覆い被さった下のーーー少女は震え泪を一筋流していた

「やっぱなあ・・・大したモンだ。女ってのは同性ならどんなに整形しようが性転換しようがーーー敏感に気付くモンだが・・・ウチの女共にも気付かれず客にも気付かれねえで、完璧な美少年演じてたってワケかーーー?」

瞳を強く瞑り、諦めたように抵抗しない少女の頬に流れた涙をそっと拭う

「あいにくだが、俺は人間観察のプロだ。あんのオーナーのヤロー・・・このネオ歌舞伎町を舞台にこんな可愛いお嬢ちゃん使って壮大な八百長芝居してたってワケか・・・」

後半は呟きに近い

「・・・誰にも・・・言わないで・・・お願い・・・」

ふと、消え入りそうな涙声が耳に届いたーーー震えている

「ーーーな、俺のマンションに来いよ、お前」

先程までの不敵で危険な声色は消え去り、はだけさせた胸元をそっと元に戻しながらーーー限りなく優しい響きに変化するその低い声

「金根性の渋い男相手の、初期投資の高いホステスよりも、嵌らせるのが容易で実際金掴んでる女相手のホストの方がその気になりゃあ万倍も実入りがいいーーー金だろ?俺が全部片付けてやる。お前の為なら何でもしてやるよーーーだから・・・だからよ、俺の傍にいてくれ・・・」

涙を流し続ける頬に手をあて、柔らかい髪を梳く。震える華奢な体を安心させるように、非常に優しく

「・・・やめ、て・・・下さいーーーい・・・や・・・」

痛々しいほどに震え、涙が流れる顔を両手で隠す少女の儚い言葉が耳に届くーーー豪はその華奢な手をそっと外させ、片手を自らの頬を覆うようにあてさせた

「誤解すんな。女になれって言ってんじゃねえーーー何もしねえ・・・出来ねえよーーー安心しな」

強く背けられた綺麗な顔を、頬に手をあて、ゆっくりと自らに向かせるーーー瞳はまだ閉じたままだ。何度も言葉を投げかける。その女性としての肉体を望んでいるのではない。そのような事では決してないーーーと

「そーじゃなくてな・・・俺が帰ったらお前がメシ作ってておかえり、って言ってくれて・・・一緒にメシ食ってTV見たり、今日あったことなんか話したりよ・・・休日はそうだな・・・お前の作った弁当持ってどっかドライブでも行ってーーードコでも連れてってやるよ・・・お前の欲しいモンなんだって買ってやるな・・・流行の服でもアクセでも何でもさ・・・映画見たり、海とか山行ったり、スポーツ見に行ったりよーーー楽しく、さーーー」

少女は混乱と恐怖の中、その声色の変化にある程度の冷静さを取り戻し始めた。彼の声は、仕草は自分に安心しろ、俺を信用しろと必死に訴えかけて来ているのだ

「妹を引き取ってーーー一緒に暮らすことだけが俺の望みだった」

彼はその死んだ妹との幸福な生活をーーー望んでいるのだった。少女に女性としての役割は全く望んでいなかった

「いっつもお前・・・逢いに行く度俺がこの話するとさーーーすっげえ喜んでくれたよな。じゃあ私お料理もっと勉強するから、って・・・お兄ちゃんの助けになるんだ、てーーー一緒に暮らすんだって・・・な?その為なら、お前の幸せの為なら俺は何だってしてやるよ。幾らだって稼いでやる。お前が幸せに笑ってくれるならーーー」

陶酔したように彼は呟いていた。彼の脳裏には幼い妹がいるのだろう。彼女に話しかけるように、体の下の華奢な少女に語りかけるようにーーー

「なあーーーお前本当は死んでなんかいなかったんだろ?あの凍った土手でーーー下着脱がされて目見開いて硬直してたーーーお前なんて嘘だろ?俺は夢でも見てたんだろ?最低な悪夢だったんだーーーお前は本当は生きてて、こんなに綺麗に成長して俺の前に現れてくれたんだろ?−−−なあ、そうなんだろ・・・?」

その記憶と感情が混在し、混乱している。あのクラブで少女の美しい言葉を聞いてから、彼の精神は完全に妹と彼女を重ねた。よかった、生きていたんだーーーと

「お兄ちゃん、強くなったんだぜ・・・?俺はもう昔の無力なガキじゃない」

ぽつり、と少女の頬に何か温かいものが一つ、落ちた。その感触にゆっくりと瞳を開ける

「・・・寒かったろ?苦しかったろ?怖かったろ?・・・ごめんな・・・守れなかったーーーごめんな・・・弱いお兄ちゃんで・・・」

その本性を隠すべきサングラスを伝い溢れーーー幾つも幾つも、落ちてくる。常時の彼とは全く正反対の弱弱しく震える言葉、手、体ーーー少女の震える手がそうっとサングラスを外す

「・・・・」

そのーーー混血の風情を持つ、掘りの深い整った素顔ーーー漆黒の深い闇のような鋭く黒い瞳からは、止め処なく泪が溢れていた

「・・・償わせてくれ・・・」







   

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