表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

ホストクラブ「Yamato−nadeshiko」

この創作は実際の土地や人物の名称とは全く関係がありません

世界有数の歓楽街・ネオ新宿歌舞伎町ーーー

その華やかなる一画に、周囲の絢爛たる店々を圧する店構えーーー

ネオ歌舞伎町一のホストクラブ「Yamato-nadeshiko」

美しきセレブ女性達の、金だけでは埋められない心の隙間を慰める、美しき男達の集う夜の宮殿




「いらっしゃいませ!」

夜の帳が降りーーーネオ歌舞伎町一のホストクラブ「Yamato-nadeshiko」には次々と高級な毛皮やスーツに身を固めた美しい女性客が来店する。総在籍数100人を越えるホスト達が整然と並び頭を垂れ来店の感謝を一斉に上げる。このクラブは完全な会員制であり、全ての客が俗にセレブと呼ばれるーーー資産家の妻であり、また会社経営者、高級ブティック経営者・オーナー、IT投資家・株式投資家ーーーつまりハイクラスな女性のみが入会・来店を許される随一のクラブであった。周囲の安いクラブなどのように初回プライスなどありえず、勿論一見の客などは入店は不可能。また資産家の両親やパトロンなどがついている客であっても、自身がこの店の品格に相応しくないと判断されれば即入会を取り消されるーーーこの不況下にこれだけの盛況を保っている理由はそういうことであった。選ばれた人種であると特権意識を持たせ、莫大な資産を投資してでも手に入れたいと望む資本主義社会の欲望のカラクリ。そして何よりも在籍しているホスト達のレベルの高さーーーこの店は決して過度な香水や下品に肌を晒す服装・安価な装飾品などは許されない。総指名ポイント10位以下のホスト達は髪を伸ばすことすら許されず、最も男性の容姿が誤魔化せないスキンヘッドを義務付けられている。それでも彼等はそれに従う。他店などとは比較にならない破格の給料、そして礼儀作法・指名ノルマの最も厳しい「Yamato-nadeshiko」で一年続けられればどこの店に行っても通じるその知名度、そして何よりも最高の太客(より金を多く落とし長く通ってくださる金持ちの客)を掴むにはこの店は最適なのだーーー


彼等は誤魔化しの効かないスキンヘッドを一列に並べ、たった今来店した清楚なスーツに身を包んだ未だ若い女客を出迎えた

「こんばんは・・・ショウさんは出勤されてますか?」

スキンヘッドの一人にそう問う若い女性。その年若い年齢はこの高級店には少々の違和感があったが、服装も立ち姿も育ちの良さを感じさせる。良家のお嬢様という風情だった。スキンヘッドの一人がにこやかにその白い手を取って笑顔で応えた

「いらっしゃいませ!弥子様!お待ちしておりました!翔さんもずっとお待ちでしたよ。さあお席に御案内致します・・・」

そう席に案内される清楚な女性を、ステージの影から見詰めている若いホストがいた

「翔さんも人悪いッスね・・・あんな純真そうな女の子を大分通わせてんじゃないスか」

スキンヘッドのボーイが若いホストにからかい半分に話しかけた

「人聞きの悪いコト言わないでくれる?僕は女性を騙そうなんて思ったこともないよ。彼女にはちゃんと無理しないように来てねって言ってあるさ。まだ店外もしたことないしね。可愛いお嬢さんだから大事にしてあげようと思ってるの。ほら早く飲み物持ってってよ。僕少し他のテーブル回ってから行くからさ・・・少し待たせた方が女性は嬉しがってくれるものだよ・・・あ、ピンクのソルティだからね」

慌てたようにボーイは飲み物を運んでいった。品のいい紫のスーツを細身の体を際立たせるように着こなし、銀の刺繍を入れたシャツがその白い肌を引き立たせている若いホストーーー彼の名は翔。この「Yamato−nadeshiko」のNO.3。その女性と見紛うかのような整った容姿と、女性の母性本能をくすぐる明るく饒舌なトークで入店一ヶ月で10位以内にのし上がった実力派のホストだった。またジョニーズ風美形を好む若い女性だけでなく、柔らかな笑顔と時折見せるそのクールな表情も年齢層の高い女性客に非常に評判が良かった。この店では10位以下は一人前とは認められない。未だボーイ扱いであるスキンヘッドが翔に礼儀を尽くしているのは当然であった。

挿絵(By みてみん)

「あれ?華火ハナカさん?どーしたの随分つまんなそーだね?」

店内を見回すように音楽に合わせて歩いていた翔が一つのテーブルに座っている女性客に声を掛けた。長い黒髪に個性的な重ね着のファッション。勿論それは一目で高級品と分かる服装。若く、目鼻立ちのはっきりしたかなりな美形だ。彼女は憮然とソファに深く足を組んで座り、ヘルプであろうスキンヘッド達の差し出すバーボンソーダを指先であしらっていた

「翔君!ちょっといつになったら黒男クロオは来るのよ!私はアイツが会いたいってメール寄越したから今日の稽古早めに切り上げて来てあげたのに・・・アナタここ座りなさい!こんな格下達に私の相手させる気?」

笑顔で翔はその女性客の隣に座り、おろおろとしているヘルプ達を下がらせた

「そーだよねー<劇団四屋>のトップ女優のヘルプにはNO.3の僕じゃないとダメだよねー」

その甘えてくるような笑顔に彼女は少々の怒りが収まったのか、テーブルからバーボンソーダを取るとぐっとあおった

「ちょっとちょっとそんなにペース上げちゃって大丈夫ー?」

その長い黒髪にそっと手をあて、翔が嗜めた

「うるっさいわね!大体黒男ってホストっぽくないのよね!全然私に気を遣わないし!いっつもアイツの都合ばっかで・・・言葉遣いだって敬語なんて全然使わないし・・・」

「じゃ、僕に乗り換える?」

華火と呼ばれた女性客は翔の端正な顔が至近距離に近づいているのに思わずグラスを取り落としそうになったが、ふいとその顔を背けた

「・・・アナタねえ・・・ホストの世界は永久指名制でしょ・・・そりゃアナタが黒男とNO.3を争っているのは知ってるけど・・・」

「華火さんが僕に乗り換えてくれたら僕のNO.3も確定出来るんだけどな〜先月はあっちがNO.3だったからね。もう何ヶ月も入れ替わりで中々落ち着かなーーー」

「オイ、NO.4様のご登場だ」

いきなり翔の高い声とは正反対の低く深い声が頭上から届いた

「俺様の大切な華火に近づくんじゃねえよガキ」

挿絵(By みてみん)

翔と華火が視線を向けると、ソファの後方ーーー信じられない位の大男が立っていた。黒のスーツに黒のシャツ。小さなサングラスを掛け、その黒一色の衣装に浅黒い肌が益々男性的な雰囲気を際立たせていた。粗暴であり荒々しい雰囲気を持つそのホストは翔とは全く正反対だった

「やあ、おはよう黒男・・・どうしたのまた寝坊かな?遅刻は15分毎に罰金だよ」

黒男と呼ばれたホストは翔の軽口を聞き流し、身を屈め華火の細い顎に手を掛けぐっと上げさせーーーそのサングラスをずらした

「お前と逢いてえってのはホントだぜ華火・・・ホラこの瞳が嘘ついてる色か?」

先程の翔のように華火の顔に至近距離で近づき黒男は珍しいカラーコンタクトをいれた紅い瞳でじっと見詰めた

「なっ・・・遅いのよ!」

「ごめんな・・・お前稽古忙しいみてえだからメールとかもあんましちまったら集中力切れちまうかもって俺なりに心配してたんだぜ・・・50周年記念公演の主演だろ?お前みてえな若い女が主演なんざ初めてなんだろ?」

「そ、うよ・・・毎日不安で・・・難しい役なの・・・私一人で観客が要望する役を何役もやる実験的な夢芝居で・・・」

「だから息抜きさせてやろうって思ってメールしたんだよ・・・だがな、久しぶりにお前の顔見れるって思ったらどの服にしようか迷っててな・・お前の服のシュミは個性的だからよ?妙なカッコしてお前に嫌われたくねえーーーどうだ、似合ってるか?お前が俺のイベントにくれたスーツだぜ?」

華火の顔は紅潮し、先程までの怒りの雰囲気は消え失せていた。翔は黒男の大柄な体を避けながら溜息を付く

「俺のスーツのサイズなんざ滅多にねえもんな・・・お前が一生懸命選んでくれたんだろ?嬉しかったぜ・・」

「じゃ僕これで。可愛いお客様お待ちなんで」

翔はソファから立ち上がり退出の言葉を発する

「おうじゃあな。華火はお前みてえなガキには興味ねえんだよ。気が強そうに見えるがな・・・<男>ってモンを感じさせるヤツに包まれてえ女なんだ。ガキはかーわいいお嬢ちゃんのお守りしてな」

黒男は空いたソファにどかりと座り、翔にからかいの言葉を投げかける

「格下に女性の扱い方をご教授頂けて僕幸せだよ」

「・・・!」

黒男の眉が上がる。二人はここ数ヶ月順位を争っている。それは僅差で何度も入れ替わるものだったが、現在は翔の方が順位は上なのだ。そう言われれば厳正なる規律を尊ぶこの「Yamato-nadeshiko」において逆らうことは許されない

「ね、え・・・ごめんね・・・翔君に座らせて・・・」

だがそこは実力派のホストである。女性客の不安げな声を察し、相手好みの笑顔を浮かべトークを行う。彼の内心は煮えたぎる思いではあったが

「何言ってんだよ。なあ・・・お前の公演ぜってー見に行きてえからよ、イイ席用意してくれな・・・」

そう女性客の黒髪を再度撫で、その雰囲気はクラブ全体の優雅な喧騒の中に紛れていったーーー







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ