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依存と過去。



あれから毎日、悪夢に魘されるようになった。

その度、ガウェインが隣にやって来て、その力強い腕の中で私を守るように抱き締めてくれる。

ガウェインの腕の中なら、悪夢も見ずに眠りにつけるから。


最近では、始めから一緒に横になってくれる。

ガウェインには本当に申し訳ないと思ってるけど、そのお陰で悪夢に魘される事はなくなった。


迷惑をかけたくないなんて言いながら、思いっきり迷惑をかけて、依存してしまってる。


家事は私がやるようになったけれど、そんなものじゃ足りないくらいだ。



ガウェインに助けられてから、既に二ヶ月が経っているけど、未だに記憶は戻らない。

悪夢の内容も、あまり要領を得なくて意味がなかった。

ただ、私が誰かから逃げているという事。そして、私はその誰かに恐怖を抱いているという事。

それだけは確かだ。




「ミリア。買い物に行ってくる」


ガウェインの声に、私は笑顔で手を振った。


「いってらっしゃい」


ガウェインを見送り、背が見えなくなるまで玄関に居た。それから鍵を閉めてソファに移動する。

掃除はもう終わったし、食事を作るにはまだ早い。

特にする事もなく、ぼんやりとする。



私はまだ町に行った事がない。

最初の頃は怪我のせいで。今は用心の為だ。


最近、私と似た容姿の人物を、捜している人達が居るらしい。

私の家族が捜してるなら嬉しいけど、そうじゃない可能性の方が高い。


私が恐れて逃げてる相手。

それが誰なのかわかれば、対処も出来るんだろうけど、全く見当もつかない。

捜索が早く終わればいいけど。



ガウェインはいつも私に優しい。甘えさせ過ぎじゃないかと思うくらい。


けれど自分の事は殆ど話さない。

訊いてもはぐらかされるし、そうするともう訊けなくなるから。

私を信用してないのか、話す必要性を感じないのか。多分両方だろうと思う。


私自身記憶がなく、どんな人間なのかわからないのに信用される訳がない。それは仕方のない事だから。


捜索が終わったら、どこか遠い地へ行こうと思う。

そうすれば問題は解決しなくても、ガウェインに迷惑をかけず平穏に暮らせるだろうから。


識字率の高くない中で、私は文字の読み書きも算術も出来るから仕事はある筈。

後は遠くへ行く為の旅費が必要だ。

今からでも仕事を始められたらいいけれど、もう少し落ち着いてからじゃないと無理かな。


いつまでもガウェインに迷惑はかけたくないし、傍に居なければ依存もしないでいられるから。


離れてから少しの間は悪夢に苦しむかもしれない。それでも全ては私の問題だから、私が頑張るしかない。


だから、ガウェイン。もう少しだけここに居させて欲しい。お金が貯まったらすぐに出て行くから。


ガウェインは優しいから、出て行けなんて言わないのはわかってるけど。

とりあえず、何か仕事があるか訊いてみよう。


「ミリア。帰ったぞ」


ガウェインの声にはっとした。また考え込んでたみたいだ。

私はすぐさま立ち上がった。


「おかえりなさい」


ガウェインを見れば、隣には知らない男性が居た。

金髪碧眼の見目の良い男だ。背はガウェインより少し低いくらいか。にこにこと私を見ていて、何となく居心地が悪い。


「こいつはクロードだ。すぐに帰るから気にしなくていい」


ガウェインは簡単に紹介して、奥の部屋に入っていった。

どうしたのかと不思議に思ってると、男性が近付いて話し掛けてきた。


「初めまして、クロードです。宜しくね」


「あ、初めまして、ミリアです」


何とか言葉を返せば、クロードはにっこりと笑った。

近くで見たその顔に、私はつい感心してしまった。女性に好かれそうな顔立ちだなと。


「ミリアちゃんか。可愛いね。ガウェインの恋人?」


クロードの社交辞令と恋人発言に、目を白黒させながらも、きちんと否定しておく。


「いえ、居候させて貰ってます」


「へえ。じゃあガウェインの事はあまり知らないのかな?」


その言葉に少しだけ胸が痛くなった。本当の事だけど。


「はい。よくは知りません」


「そっか。ガウェインって自分の事あまり話さないからね。そんなミリアちゃんに良い事教えてあげる」


クロードは悪戯っ子みたいな顔で、私の耳元に顔を寄せた。


「あいつって実は……元英雄なんだよ」


元英雄? どういう意味だろう。もっと謎が増えた気がするのは私だけだろうか。


「よくわからないんですが」


困惑した表情で見れば、クロードは愉快そうに笑ってる。何だか変な人だ。


「ガウェインって凄く強いんだよ。剣で勝てる人なんて見た事ないくらいにね」


その言い方なら理解出来た。

ガウェインは剣術に凄く優れてるらしい。

初めて知ったけど、ガウェインは引き締まった筋肉質な身体をしてるから、そう言われれば納得だ。


「そうなんですね。初めて知りました」


クロードにそう言えば、ガウェインが戻ってきた。眉を寄せてクロードを睨みつけている。


「おい。余計な事を話してんなよ」


「うん? 余計な事なんて話してないよ?」


睨むガウェインに、軽く返して肩を竦めるクロード。

ガウェインは疲れたようにため息を吐いた。


「ほら、これ。渡したからな。さっさと帰れ」


ガウェインは拳大の布袋を、クロードに手渡して追い出すように背を押した。


「酷いな。久しぶりに会った親友に」


「誰が親友だ。ふざけてないで帰れ」


おちゃらけるクロードに、切り捨てるガウェイン。何だか仲が良いんだな、と見ていて思った私はおかしいのかな。


「はいはい。じゃあ、またね」


手をひらひらさせて、クロードは笑顔で帰って行った。

本当にすぐに帰ってしまって、私は呆気に取られた。


「あいつに変な事を吹き込まれなかったか」


ドアを閉めて、ガウェインは私の方を向いた。


「変な事かはわからないけど……ガウェインが元英雄だとか?」


私は素直にクロードが言ってた事を伝えた。

するとガウェインは眉を顰めて、ため息を吐いた。


「……それは忘れろ。覚えてる意味もないからな」


吐き捨てるような口調に、私が怒られてる気分になる。怒られてる訳ではないけど、こんな口調は珍しい。


「……うん。わかった」


多分、これは私には踏み込んで欲しくない話題なんだろう。本当は聞きたいけれど、素直に頷いた。


私はただの居候で、友人でも恋人でもないから。

何となく、胸が苦しいような痛いような。スッキリしない嫌な痛みだった。




*******




クロードを追い返して、やっと落ち着ける。

あいつは面倒ばかり起こすから好きになれない。


クロードは、俺が三年前まで騎士団にいた時の同僚だ。

色々あって騎士団は辞めたけど、まさかクロードが俺に会いに来るとは思ってなかった。


それだけ、あれが必要だったのかもしれないが。

とりあえず俺を巻き込まないならどうでもいい。


ミリアに余計な事を話したのは許せないが。今度会ったら半殺しにしとくか。


元英雄なんて笑い話にもならない。

俺はただ前の戦争で敵の魔法使いを殺しただけだ。

戦場での魔法使いの周りには、沢山の兵士が守っている。それらを全てを一人で蹴散らして殺った。

ただの馬鹿だ。一人で突っ込むなんて普通じゃないし、魔法使いは特に一人で殺れるものじゃない。


まあ、それが色々問題になって辞める事になったんだが。

既に昔の事だが、とりあえず魔法使いには二度と会いたくない。



それはもうどうでもいい。

今はミリアの事が一番重要だ。

今日も町でミリアを捜してる奴らが居た。

どこかの私兵みたいな奴らだ。そいつらの後をつけて、ミリアを傷付けた阿呆を見つけるつもりだったが、そこをクロードに邪魔されてしまった。


また明日、町に出てみよう。

出来るだけ早くミリアを安心させたいから。

悪夢に魘されずに済むように。


それまでは、俺が悪夢を遠ざける役割を担ってやる。


ミリアは申し訳なさそうだが、実際俺にとっては、ミリアを抱き締めて眠る事は役得なんだがな。







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