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生命の危機?

「はい、カーット! いいよー。今日はどんどん進めよう」


 この声で役者達の緊張がゆるむ撮影現場。一方で各スタッフ達が一斉に慌ただしく動きだす。美奈穂もあれよという間にマネージャーの女性に引っ張られて、椅子に座らされてメイクと髪型を直される。


「次はアクションシーンね。今日は動きも激しいし火薬も使うから、怪我には十分気をつけてね。美奈穂ちゃんはノンスタントが一番の売りなんだから」


 女性マネージャーは器用に台本と自分のメモ帳を交互に目を通しながら、美奈穂に声をかける。


「うん、分かってるよ天野さん。十分気をつける」


 慌ただしくメイクを直された自分の姿を鏡で確認しながら美奈穂は答え、


「そろそろリハ、いきまーす!」


 と叫ぶスタッフの声に元気よく「はあい!」と答えて立ち上がる。美奈穂が去るとマネージャーの天野の横に、デジカメを抱えた男が音も無く寄ってくる。


「美奈穂ちゃんは楽しそうですね。最近新人特有の固さも取れてきたし」


「あら、週刊アクターの高木さん。インタビューは明日のお約束では?」


「事前取材ってとこですよ。リュウ役の宏治こうじ君とも息もあってるみたいですね」


「現場になじむのが早いんですわ。他の役者さんともすぐに親しくなってます」


 イケメン俳優とのシーンが続いて浮かれ気味の美奈穂が誤解されないように、天野は記者をじろりと睨んで釘をさす。


「嫌だなあ、その怖い目つき。勘ぐってるわけじゃないですよ。でも気になってることはありますけど。彼女がアクション前に握ってる物。あれ、何です?」


「ああ、それならお友達から頂いた御守りですよ。あの子も個人に戻ればまだまだ平凡な中学生ですからね」


「うーん。天野さんのその顔じゃ、本当にただの友人からの物っぽいな。俺の勘が外れたかな?」


「残念ながらそのようね。スキャンダルのネタは、もっと別をあたって下さいな」


 そんなやり取りがされているとは知らず、美奈穂はいつものように御守りを握って強化下着のスイッチを入れる。そしていざ身体を動かそうとしたが、


「あ……れ?」


 全身が突然異常に重くなる。急激な変化に思わず座り込んでしまう。共演者たちが驚き、「カット!」の声と共に天津やスタッフが駆け寄る。


「どうしたの? 美奈穂ちゃん。苦しいの?」


「身体が……重くて……」


 そういいながら美奈穂はその場に倒れ込んだ。


「大変! すいません、美奈穂ちゃんが体調不良なんです! ちょっと休ませて下さい」


 騒然とする撮影現場を、美奈穂は天野に抱えられて後にした。



 別室で休んでいるとそこに源三と正也が現れる。


「あら、美奈穂ちゃんのご家族の」


「祖父の源三です。たまたま美奈穂の見学に来ていて。入館証もあります。こいつはオマケなのでお気になさらずに」


 そう、正也を指差しながら源三はにこやかに頭を下げる。


「すいません。美奈穂ちゃんが体調を崩したようなんです。私の監督がいたらなくて」


 タイミングの良すぎる二人の登場に美奈穂は顔をしかめながら、天野に全員分の飲み物を買って来て欲しいと頼んだ。天野が席をはずすと、


「おじーちゃん。一体何やらかしたわけ? 馬鹿みたいに身体が重いんだけど」


「おや、おかしいのう? 故障したのかもしれん」


 源三はミエミエの嘘をつく。この下着は重力のコントロールをすることで身体を軽く感じさせるので、逆に重くなるように細工をしたのである。


「しらじらしい。それより身体が重くてしょうがないんだけど」


「さっさと御守りのスイッチを切ったらよかろうが」


「とっくに握ってる。切れるどころかどんどん重くなってる……」


「なんじゃと?」


 源三が慌てて御守りを強く握るが、美奈穂は「余計、苦しい」を顔をしかめる。


「大変じゃ! 本当に故障しとる! 美奈穂が風呂に入った僅かな時間で細工したから、接触が悪かったかもしれん」


「おも……い……」


「わーっ! 美奈穂の顔色が。源じい、早く治せ!」


 正也も慌てるが、


「急に直せるか! そうだ! 美奈穂、下着を脱ぐんじゃ!」


「無理っ……身体が……」


「よし、それならわしがっ」


 こんな時に妙に張り切りながら美奈穂の服に手を伸ばしかけた源三を、正也が慌てて止める。


「冗談じゃない! それなら俺が脱がせる」


「それこそ冗談じゃない! わしは美奈穂の祖父だぞ。お前はアカの他人じゃ!」


「他人でも健全な中学生の方が、変態老人よりマシだ!」


「お前のどこが健全じゃ! ここは身内のわしが……」


「させるかーっ!」


 変態二人が信じがたい重力に苦しむ少女の横で、スケベ心丸出しで取っ組み合いをはじめる。


「ばかあーっ! スイッチ切れないんなら、さっさと壊せばいいじゃない!」


 苦しむ息の下から、自分の命の危機を感じた美奈穂は全力で叫んだ。


「あ、そうか」


 変態二人もようやく「はた」と気がついた。正也が御守りを全体重で踏みつける。ガキリという音と共に美奈穂は自分の身体を押しつぶそうとする力からようやく解放された。


「た、助かったあ……」美奈穂が大きくため息をつき、顔色も回復してくる。


「大丈夫か? 美奈穂」そういいながら間抜け面を伸ばしてきた二人に向かい、


「ちょっと、あんた達、何だってあたしを殺そうとしたわけ?」


 と、怒りに震えながら聞いてくる。


「い、いや。これには深い訳が……」


「問答無用ー!」


「ぎゃあああああ!」



 その後、全員分の飲み物を手に天野が部屋に入った時は、


「あ、天野さん。ありがとー」


 と、元気いっぱいに回復した美奈穂と、アザだらけとなった少年と老人のひきつった笑顔があった……。


 


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