表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

いちゃいちゃシーンを阻止せよ!

「たっだいま~! あー、お腹すいた」


 美奈穂は玄関を開けるなり、まるで部活帰りの体育会系男子のような言葉を叫びながら台所に飛び込む。そして冷蔵庫の扉に手を伸ばそうとするが、


「美奈穂。お行儀の悪い! 慌てなくてももうすぐ夕食よ。ちゃんと着替えて手を洗ってらっしゃい」


 と、母親の小言が飛ぶ。美奈穂は一瞬むくれ顔になり、祖父の源三に八つ当たりしたそうな顔を向けたが……。


「はあい。速攻で着替えて来るね!」


 と、元気よく自室へと戻って行く。美少女にもかかわらず残念なほど暴力的な美奈穂のことなので、母に隠れて小突かれそうだと身構えた源三は肩透かしを食らった。


「なんじゃ? 美奈穂は嫌に機嫌が良いのう?」


 そうつぶやいて首をひねった。



「ちょっと美奈穂について探りを入れてくれんかの」


 翌日源三は正也を呼びつけ、そう言った。


「機嫌が悪いならまだしも、いいならほっとけばいいじゃないですか。それともなんかあるんですか?」


 正也は源三から貰った焼きそばパンをほおばりながら聞く。先日のアイスといい、中学生男子を呼びだすのに大した手間はかからない。この年頃なら食欲に正直なのでささやかな餌ですぐにつられてくる。無論、女の子の刺激にも激弱だ。


「いや。ちょっと機嫌が良すぎる。昨夜はわしにおかずの海老フライを分けてくれた。いつもなら頼んでもそんな事はしてくれんのに」


「あんた、孫からおかずをもらう気でいるんですか? セコイなあ」


「何を言うか! あの美奈穂が口をつけた箸で食べているおかずだぞ! お前、わしに嫉妬してそんな事言うんじゃろう!」


 七十の爺さんが中坊に言う台詞とも思えない。


「……どうせなら、一口口をつけてからくれればもっと嬉しかったんじゃが」


「そんな下心見え見えの視線感じたら、警戒されて当然です」


 源三の孫娘に対する変態欲求も中学生男子以下である。餌に釣られる犬ころ並み……いや、今時のペットの犬はずっと行儀が良い。ある意味人間の尊厳も怪しくなっている。


「これは愛の眼差しじゃっ! それより、ちょっと美奈穂の事を探って欲しい。最近は特撮番組の撮影のある日ほど機嫌が良いんじゃ。ひょっとしたら何かあるのかもしれん」


「そう言えば学校でも撮影日はなんかウキウキしてるように見えるな。胸糞悪いイケメン俳優との場面も増えてきたし。俺も気になるなあ。分かりました。なんとか探ってみます」




 翌日。正也は美奈穂が体育の授業に向かった事を確認し、教室が空になったのを見計らって美奈穂の机に近づいた。せっかく授業をサボって忍びこむのだから、どうせなら女子更衣室にでも潜り込みたかったが、残念ながら目的が違う。それでもせっかくなので、美奈穂の座っている椅子に頬ずりして背徳的な気分を十分に堪能する。中学生にして立派な変態ぶりである。

 さらに女の子の机の中やカバンと言った「禁断のプライバシー」に手を伸ばすと、これ以上ない興奮だ。中学生にして人生詰んだかもしれない。


「小物入れに鏡、ペンケース。教科書にノート。あ……これ、台本か?」


 目的の物を見つけてページをめくる。美奈穂はアスカと言うヒロイン役のはず。



『激しい爆風。一同うずくまる。


 アスカ 「うっ」

     

 負傷したアスカがうずくまったまま足を抑える。それを見てリュウが振り返る。


 リュウ 「立てるか? アスカ」


 アスカ 「大丈夫。みんな、早く行って」


 再び爆風。巻き込まれるアスカをリュウが抱きしめ身を呈してかばう。


 アスカ 「リュウ! 私はいいから、みんなと先に行って!」


 リュウ 「何を言うんだ。俺達は絶対にアスカを守ると言っただろう?」


 リュウがアスカを抱きあげてそのまま走りだす。』



「なっ、なんじゃこりゃああああ!」


 無人の教室に正也の声が響き渡った。



「な、なんじゃとお? 美奈穂が男に抱きあげられる場面じゃと! 許さん! そんな物、断じてゆるさああああん!」


 案の定源三は顔を真っ赤にして怒りを表している。


「でも、撮影の事は俺達に手出しできることじゃありませんよ? 源じいがそそのかしたヒロイン役を、美奈穂に捨てさせるわけにもいかないじゃないですか」


「じゃがっ! これはあまりに不謹慎じゃー!」


 不謹慎の塊が叫ぶには不似合いな言葉である。


「だから俺、美奈穂にこんな役させるの反対したんですよ。言ったじゃないですか」


 正也の言葉など源三には届いていない。


「美奈穂はまだ中学生だぞ! それなのに男に身をゆだねることなど許せるか! 男女七歳にして、席を並べるべからずじゃー!」


「源じい。絶対表現が間違ってると思う。それにあんたが言うと必要以上に卑猥に聞こえる」


「うるさい、うるさい! 阻止じゃ。何としてもそんなイチャイチャな場面は、阻止するんじゃあああ!」


 間違いなく今一番騒がしいのは源三である。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ