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《屍(し)》前編

 介錯後。

 総司は凪いだ海の上にいるような心地だった。人を斬った直後だというのに、いつもより落ち着いている。夜の巡察でも、総司の組の者が驚くほどにこやかに出発した。

本陣を出てすぐに、香堂の健少年に出くわした。

「健坊。外はもう暗いのに、どうしたの」

「お父が帰らへんのや。沖田のおっちゃん、探してや」

 不安でいっぱいの健は、目に涙を湛えているが、それを弟妹たちの手前、押し留めようと必死に耐えている。総司はしゃがんで目線を合わせ、健の腕をやさしく押さえた。

「お父上はおとなだから、多少遅くなってもだいじょうぶですよ」

「沖田さま、それが」

 横から店の者が口を挟んだ。香堂の主人は、朝早くに店の金を持ち出し、ひとりで出かけたという。

「町は物騒やさかい、いくら大の男の旦那さまとはいえ、そろそろ……いえ、別に、新選組の皆さんのお手をお借りしようとは思っておらへんので。へえ、ちっとも」

 町の者は、評判の悪い余所者・新選組と係わり合いになることを極度に避けている。少しは付き合いがあるとはいえ、香堂もまた然り。

「おっちゃんなら、すぐに探してくれるで」

 めそめそしていた健が、急に胸を張って答えた。力になれるかはまだ分からないが、総司も背筋を伸ばして店の者に尋ねる。

「心当たりはないのか」

「へえ、それが……」

 子どもには聞かせたくない話があるらしい。店の者は健を一瞥したあと、そろそろと歩き出した。総司たち隊士は仕方なくついてゆく。店の者は、ごく小さな声で話を続けた。

「お恥ずかしいことに、近ごろの旦那さまは、若い娘に夢中どして、へえ」

「娘か。じゃあ、遊里にでも行ったんだろう」

「沖田先生、こんなの放っておきましょうよ」

「そうですよ。巡察に行きましょう。実にくだらない」

 隊士から非難の声が挙がる。

「それが、違いますのや。鴨川、七条河原どす」

 総司の鼓動が凍りつきそうになった。

「河原……の」

「知っておりますやろか。河原の陰陽師。お恥ずかしながら、あすこの娘に入れ込んでしもうて。そりゃ、もう」

「店の金を、娘に貢いでいるってことかい」

「へえ。底なし沼に、はまったような勢いどす」

 火急の用ではない。小金を持った香堂の旦那の帰りが、多少遅いだけだ。それだけの理由で、巡察の道筋を勝手に捻じ曲げるわけにはいかない。紅蘭が絡んでいると耳にして、平静を失いそうになったが、総司は隊務を怠れない。

「もう少し待つがいい。それでも帰って来なかったら、巡察の後に河原へ寄ってみよう。なにかあったら、本陣に駆け込め」

「へ、へえ。おおきに。沖田さま」

 店の者は、総司に向かって腰が折れそうなほど何度も礼をして、駆け足で戻っていった。

「いいんですか、あんな約束して。軽いですよ、沖田さん。新選組は、なんでも屋ではありません」

 隊士のひとりが忠告した。肩で風を切っている。

「そのうち戻って来るだろうね。命にまで関わることはないはずだが」

 まさか、例の陰陽師も大切な金蔓に傷つけるようなことはしないだろう。そう述べつつも、総司の心は激しく波打っていた。

 紅蘭は、旅籠で養生しながら総司を待っているはずなのだ。河原に、いるはずはない。すぐにでも迎えに行きたかった。


 いくつかの料亭や旅籠を廻って不逞浪人の有無を調べたが、これといった収穫はなかった。今夜は町も寝静まっており、事件の気配はない。総司は本陣へ帰ることに決めた。

沖田総司が市中巡察に当たる日は、浪士の側も総司を恐れているからか、事件が起こらない。隊士の間では、そんな伝説まで囁かれている。新選組きっての精鋭揃い、総司の隊は接近戦の刀勝負ならば無敵だった。

 本陣の門前に、ぽつんと健が立っている。門番が迷惑そうにしながらも健の監視を兼ねていたようだ。

「健、いたのか」

 近藤からもらったばかりの懐中時計を見れば、すでに十二時を過ぎている。子どもが起きているには遅すぎる時間だ。

「沖田のおっちゃん。お父が、まだ」

「帰っていないのか」

 健は不安そうにこくりと縦に頷いた。

「ここは寒い。風邪をひくから、家に帰って待っていなさい。わたしが見てくる」

 総司は飛び出した。

「沖田先生、ひとりでは危険です!」

「副長にご報告を」

 隊士の叫びにも、振り返らない。正直、健の父のことよりも、河原でなにが起きているのかが気にかかる。

「すぐ戻る。相手は、不逞浪士ではない。ただの河原者だ、わたしひとりでいい。あまりおおごとにしたくない。わかるな? 向こうには、一応知り合いもいる。どうしても、わたしの帰りが遅かったら、土方副長に言ってくれないか」

 あぶないなら、むしろ河原までの行き帰りの道。手柄を狙った浪士に出くわすかもしれない。だが、夜更けているこの時間に、冷え込みの厳しさ。すれ違う人間はなかった。出会うならば、京の辻々に巣食う魑魅魍魎。 

 河原まで走り通したので、早く着いたが息が切れた。総司の白い息が目の前で弾んでは、闇に消える。

「紅蘭、いるのか」

 今日は迷わない。勢いで踏み込んでやる。総司は小屋を睨んだ。中からは、いつか嗅いだ甘い香りとひそやかな話し声が漏れている。

 紅蘭は。白露は。総司はいざというときのために刀に手を当てて、ぐっと乗り込んだ。

「紅蘭……なぜ」

 昨夜使った旅籠に留まれと命じておいたのに、紅蘭は河原に戻っていた。

 蝋燭の明かりの中、土間の中央に置かれている台の上に、薄衣の一枚さえ身につけていない、全裸の紅蘭がまっすぐに寝かされていた。手を胸の前で組み、目を閉じている。いつからこうしていたのだろう、青ざめた顔と肌。

 決して暖かくはない、小屋。紅蘭の体やそのまわりには、山吹色の小判が高く積まれている。紅蘭を包むようにして並んでいる客たちの貢ぎものだろうが、なんと趣味の悪い趣向か。客の男どもが目をぎらつかせながら、獲物を狙うかのように痩せた紅蘭を見ている。

 近寄りつつ、総司は自分の黒い羽織を脱ぐと、紅蘭の体にかけた。

「やめなさい、彼女は病。こんな格好でいたら、体に悪いだろう。殺すつもりか」

 いくつもの小判が、音を立てて紅蘭の体からばらばらと滑り落ちた。紅蘭の目が驚いている。陰陽師夫婦は、憎らしげに総司を睨んできた。

「紅蘭、行こう。白露はどこ」

 総司は紅蘭の手を取った。

「お前たち、こいつを葬れ! 川に落とすのだ。怯むな」

 陰陽師の父が叫んだ。術で暗示をかけられたらしい紅蘭の客が、総司をぐるりと取り囲む。総司がよく見れば、香堂の旦那も含まれていた。健との約束もある。罪のない町の衆を斬り捨てることはできない。いつの間にか総司の肩の上に乗っていた物の怪が、耳もとで『斬れ斬れ』とうるさいぐらいに囁くが、刀を抜きかけた手をどうにか押し留める。

「正気に戻りなさい! わたしは、敵ではありません。新選組の沖田総司と言います。あなた方を助けに来ました」

 疲れ果ててぐったりした紅蘭を抱えながら、客の男たちに応戦するのには、さすがの総司にも厳しいものがある。しかも、相手は斬れない。蘆屋道鏡に一時的に操られているだけの、無辜の人間だ。

 鞘から刀を抜かずに、相対するしかない。男たちは紅蘭を奪い返そうと必死だ。しかし、総司は白露も救出しなければならない。

「紅蘭、白露はどこ」

 朦朧としている紅蘭に総司は問う。返事がない。無理に頬を叩く。

「あ、う……向こう」

 弱々しい力で、紅蘭は隣の部屋を指差した。

 鞘で、陰陽師を含めて素手の男たち全員の体を順に打つ。それなりに打撃は利くだろう。体の骨は折れるかもしれないが、命にまではかかわりないはずだ。勢いづいたあまり、小屋の外に飛び出してしまい、まだ寒い川に落ちてしまう客もいた。

許せ、総司は祈った。

「沖田はん。背中に、黒い憑き物がいます。呑まれないで。人の魂を欲している」

 紅蘭が、か細く叫んだ。

「分かっている。だからこうして、鞘で払っている」

「あなたの刀に、棲んでいるのね」

()るな、紅蘭。それ以上、視るんじゃない」

 体力を失っている紅蘭に無理をさせたくなかったし、あやしい物の怪に取り憑かれてなかば操られているみじめで情けない姿など、紅蘭には見られたくなかった。

 奥の部屋の白露は、こちらの騒擾など気にも留めずに、安らかな寝息を立ててすやすやと眠っていた。

 白露をしかと左脇にかかえ、紅蘭を胸に収める。総司は無理を承知で小屋を出た。必死だった。とにかくこの忌まわしい河原を離れよう。最後は紅蘭の脚を引きずるようになりながらも、とある寺に逃げ込んだ。

 辺りが明るくなってきたが、いっそう冷え込んできたと感じたところ、それは夜明けだった。

 これで総司は、二晩続けて無断外泊をしたことになる。土方の怒りは必定だろう。だが、姉妹を救えた達成感で、総司の胸は晴れ晴れと充実していた。これほど清々しい朝焼けを、見たことがない。たなびく暁の雲に、総司は目を細めた。


「いいかい紅蘭、大切な白露を守りたいなら、決してこの寺から外に出てはならないよ。きみは薬を飲んで、わたしをじっと待っていなさい。昨日のように、消えてはならないよ。このまま一緒にいられたらいいんだが、そうもいかない。すぐに快適な家を用意するから」

 横になっている紅蘭の頭をやさしく撫でながら、総司は諭した。おそらくかんかんだろう、土方の怒りを解き次第、ここに取って返すつもりだ。

 昨日は紅蘭を旅籠に止めおいたものの、あっさり河原に帰られてしまったが、今日は白露も一緒だ。あえて小屋に戻る理由がない。

「刀を、手放して。あなたの刀は、邪気で満ちている。血を好む、なにかが棲んでいる。とても怖ろしい。それを腰に差している限り、あなたのまわりでは、死が絶えない」

「できれば処分したいが、売っても捨てても、必ず戻ってくるんだよ。わたしの手に」

「焼いてしまって。それしかない」

 焼く。

 闇斬丸を、焼くとは。思いがけないことだった。妖刀とはいえ、素晴らしいひと振りだ。芹沢暗殺の夜、枕もとにあった闇斬丸に吸い寄せられたのがことの発端だ。形、色、長さ。手になじむ感じ。はじめて持ったときから、これほど己の手にしっくりきた刀は初めてだった。焼くのは惜しい。

「焼く以外の道は」

 総司は問うた。眠ってはいないが、心身ともに疲れ果てている紅蘭は目を開かない。長い睫毛の影が、頬に落ちていた。小さな白露を抱えて休む紅蘭。まずは、紅蘭の気力の回復が先だ。総司の心には、希望が芽生えた。

 外泊をさっさと謝って、紅蘭のもとに戻ろう。


 だが、土方の怒りは尋常ではなかった。したたかに頬を殴られ、口の中が切れて血が出た。苦い、いやな味が広がる。

「前にも言ったが、隊の幹部がだらけて隊規を蔑ろにしたら、隊士への示しがつかないだろうが。お前は、猿以下だ」

 そうだ。

 総司は無断外泊をしただけではない。河原で騒動を起こし、現場から姉妹だけを連れて逃げたのだ。

 深夜になぜ、河原に向かったのか、今さらながらに総司は思い出した。

「香堂の旦那、それに健」

 当初の目的を忘れ去っていた。小判を積まれている紅蘭を見たら、課せられた使命はどこかに吹き飛んでしまった。紅蘭を助けることしか頭になかった。

「お前がひとりで河原に行ったと言うから、すぐに後を追いかけたんだせ、俺も」

 土方は、隊士を数人率いて急行したが、到着してみれば河原の小屋周辺は、戦の後のような荒れよう。

「ひでえ有り様だったぜ。散乱した小判に河原者が群がって、ありゃ賽の河原だ。小判を供出したとおぼしき旦那衆は皆、悶絶。川に落ちていた奴もいたから、隊士を増員して河原を整理させたが、さて最初に向かったお前はいない。まさか川に流されたのかと、朝まであたりを大捜索したんだが、正気に戻ったひとりに聞いたら、新選組の沖田を名乗る男が、小屋の娘たちを連れて逃げたというじゃないか。この醜態、どうしてくれるっ」

「健、は。香堂の主人は」

 実は総司、紅蘭を救いたい一心で、小屋の中でどう暴れたのかよく覚えていなかった。抜刀はしなかったから、人を斬ってはいない。はっきり言えるのはこれだけだ。

「旦那は、河原で昏倒しているのを見つけたから、店まで担いだが、さて、気がついたかどうか。死んだかもしれねえな。それを見た健坊も、この世の終わりみたいな青い顔をしていたぜ。局長も、総司の勝手な行動に、相当ご立腹だ。沙汰があるまで、お前の身は副長室で預かる」

「待ってください、わたしには行くところが! 健にも、早く謝らなければ。見境がなくなって引き起こしたこととはいえ、わたしは」

「お前の狂気はよく分かった。言い訳無用」

「土方さん、いえ副長!」

「くどい」

 目の前に星が飛んだ。総司はまた殴られた。

「お前が沖田総司じゃなかったら、即刻斬り殺していたさ。せっかく築き上げてきた、新選組の評判を貶めやがって。これまでの地位を固めるのに、何年かかったと思ってんだ? たかだか女のことぐらいで。未然に防げなかったことは、俺の失態でもある。しっかり調べ上げてやるからな」

「待ってください、土方さん。お願いですから」

「うるせえ」

 力任せに土方は総司を蹴った。総司はこの二日間、ほとんど寝ていない。のろのろと畳を這って避けようとしたが、左右どちらに逃げても打ちのめされるばかり。

「その辺にしてくださいよ、副長。廊下にまで、怒鳴り声が筒抜けですからね」

「……斎藤」

 総司への、土方の制裁を止めたのは、幹部の斎藤一だった。総司よりもさらに若く、小柄な斎藤はもの静かで無口だが、剣は総司と同じぐらい使える。そこが、土方の気に入りだった。

「沖田さんは私が見ていますから、ちょっと散歩でもして頭を冷やしてきてくださいよ。副長は、このまま沖田さんを失ってもいいんですか」

 斎藤は土方の返事も聞かずに副長室に入り、総司の手当てをはじめた。やや手荒に総司の身を起こして、唇から流れた血を拭く。

「お前が、総司の味方をするかもしれねえ。ふたりだけにはできない」

「そうですか。意外と信用が薄いんですね、副長」

「俺を苛立たせるな、斎藤。なにが言いたい」

「失礼しました。さて、冗談はこれぐらいにして。会津藩の使者が来ていますよ」

 土方は顔をひきつらせた。

「莫迦。何故、それを早く言わないっ」

 血のついた拳を拭き、土方は急いで部屋を出た。ぴしゃりと乱暴に閉められる襖が悲鳴を上げた。

 形はともかく、土方の制裁からは逃れられた総司は、その場にがくっと肩から崩れ落ち、ほっと息を吐いた。

「ありがとうございました、斎藤さん。あのままだったらわたし、土方さんに打ち殺されていたかもしれない」

 大きく息をつく。体のあちこちが痛いが、どうにか生きている。

「まさか。かわいさ余って、憎しみが増大したんだろうな」

「身内の恥のような気がしたんでしょう。あの人、内にも外にも完璧を求めますから」

「そのたびにこの怪我じゃあ、体がもたないぜ。少し休め。膝を貸してやろうか、添い寝や腕枕でもいいぜ」

 斎藤はらしからぬ冗談で総司を困らせた。

「や、やめてください。気味が悪い」

「ようやく笑ったな」

 総司は頬を強ばらせた。

「……頼みがあります。とある寺に、わたしの女とその妹を隠してあります。文を持って行ってくれませんか。図々しいのを承知の上ですが、ふたりを斎藤さんの休息所で預かってほしいのです」

 いつになく、総司は斉藤に助力を乞うた。

「おい、俺をあまり信じなさんな。副長に密告するかもしれねえぜ。いいのか。今回のあんたの件に連座したら、言い訳無用で切腹させられそうだ。俺はまだ死にたくねえ」

「わたしは動けません。斎藤さんに縋るしかない、お願いします。土方さんが戻ってこないうちに」

 総司は弱々しく頭を下げた。それを見た斎藤は、困ったように口を曲げたが、すでに諦めた。なにを言っても聞き入れそうにない。

「分からない人だな」

「そこをなんとか」

「……分かった分かった。だが、大きい貸しになるぜ」

「あ、ありがとうございます。寺の姉妹は字が読めないので、聞かせてやってください。ついでに、小者の泰助にも文を」

「ここぞとばかりに、欲張りな奴だな。呆れた」

 ぼんやりする頭を懸命に働かせ、総司は文をしたためた。紅蘭にあたたかい励ましのことばと、寺に金を。泰助には、隠れ家を探し、紅蘭姉妹を斎藤の休息所に移して匿うようにと依頼した。考えがうまくまとまらず、思いつきを並べたために、文は書き損じが多く生じた。

「俺だけが読めればいい、急げ」

 斎藤は書き損じを隠滅すべく、すぐそばで紙を焼いて証拠を消し去り、灰を次々に庭へ投げ捨てる。総司は慌てて清書を済ませた。

「よし、確かに預かった」

 出来上がった文は墨が乾くとすぐに、斎藤の懐に収まった。安心した総司は畳の上に倒れ込んだ、と思ったらもう寝ていた。相当疲れていたのだろう。

「詰めが甘いな、沖田さんよ。借りものの硯と筆、もとの位置に戻さなきゃ、勘の鋭い副長にあやしまれるっての。それに、紙がだいぶ減った。悟られなきゃいいが」

 斎藤は衣桁にあった、土方の羽織を総司の体にかけた。黒の、上等な羽二重羽織だ。

「けどよ、いい顔になりつつあるぜ。ただの人斬り狼から、いっぱしの男の顔に」

 できるだけのことはしてやりたい。女ぐらい、好きなのを選ばせてやればいい。これまで最前線に立ち続けた沖田総司ではないか、多少の楽しみだって許してやればいいのに。土方が依怙地になって否定するのか、斎藤には理解しかねた。窮屈な総司の立場ではなくてよかったと、しみじみ我が胸を撫で下ろしたが、至極大切にされているという点では、嫉妬というか、後ろ暗い気も拭えない。

 斎藤は憮然としながらも、筆などを片づけ終えたところへ土方が帰ってきたので、総司の身柄を任せて何食わぬ顔で部屋を後にした。

毎週水曜更新予定です

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