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9,やってきた悪夢

「失礼しまーす」

 と、オレは受話器を取った。

「もしもし」

『もしもし。わたしメリーさん。今、あなたのマンションの前にいるの』

「は?」

 オレはいったん受話器を離し、皆に告げた。

「今、メリーさんがマンションの前に来ているそうだ」

 妹は「えっ!?」とごく正常に驚き、何も知らない石田は「あはは、イタズラ電話だあ」と笑い、マリーはひくりとCGのような眉をつり上げた。オレは受話器を耳に当て直し、言った。

「えーと…、どうぞ、入ってきてください」

『……ドア、開けられないわ…………』

 ああ、番号が分からないんだな。じゃ、お化けの類じゃなくって普通の(?)人間だ。

「あっそう。えーとね、0120390831です」

『ゼロイチニーゼロサンキューオヤサ…』

 プツッと電話が切れた。

 少ししてまた掛かってきた。

「もしもし」

『もしもし。わたしメリーさん。今エレベーターの前にいるの』

「ああ、12階と間違わないように」

『え?』

「うち、12階じゃなくて、705号室だから」

『あっ、そうなんだ…』

 切れた。

 なんだかなあ、もう飽きているぞ、この展開。見ろ、この白けた空気を。誰も怖がらないぞ。到着したらきっちり責任取ってもらうからな。


『もしもし。わたしメリーさん。今、エレベーターに乗ったわ』

「あ、俺と同じ事やってる〜」

『もしもし。わたしメリーさん。今、7階に着いたわ』

『もしもし。わたしメリーさん。今、あなたの部屋の前にいるわ』


「部屋の前に着いたって。どうする?」

 とオレが一同に訊いたら、「コンコン」とドアをノックする音がした。


「開〜け〜て〜」


 今度は牡丹灯籠のお露さんか。節操のない。


「キモオタ」

「…………………」

「おまえだ、カメラ」

「あ、やっぱ俺?」

 マリーにののしられ石田はへらへら応えた。

「おまえ見てこい」

「は〜い、女王様〜」

 マリーの霊術に身も心も操られた?石田は嬉々として玄関に向かった。ドアを開けた途端、訳の分からんストーカー女にブスッと出刃包丁で突き刺されても、若い女(電話の声から推測)のストーカーに刺し殺されるなんて憧れるだろう?心おきなく成仏してくれ。

 ガチャッと音がして、「えーと、君、誰?」と相変わらず脳天気な声が聞こえ、「まあいいや、どうぞ」と招き入れてしまった。ま、今さら変な人間が一人くらい増えたってどうでもいいや。

「お邪魔します」

 石田に連れられ、大きなバッグを肩に掛けた、細身のパンツにミニスカートの合わせ穿きといういかにも今どきの、緊張のせいかちょっと表情が暗めだが、高校生くらいの普通の女の子が入ってきた。妹の知り合いかと思ったが、怪訝な顔からどうも違うらしい。

 ゴスロリCG顔のマリーにびびった。石田よ、これが外部の人間の普通の反応だぞ? で、

「君は、誰?」

 と、オレも石田と同じ質問をした。女子高生は『えっ!?』と、ひどく傷ついたようにオレを見つめた……、おいおい、また同じパターンで攻める気か?

「わ、わたしが誰か分かりませんか?」

「はい。分かりません」

「わたしは……、メリー・ナイトメアです」

「分かりません」

「あーーっ!!!」

 と声を上げたのはもちろん石田。

「『夢喰いメリー』ちゃん! 萌え〜〜っ!!!!」

 はて? どうやらコスプレ会場にいたコスプレギャルの一人らしい。まっっったく、記憶にないが。

「少々お待ちください」

 と、女子高生のメリーさんは廊下に戻り、洗面所に入るとガラガラ引き戸を閉めた。しばらく待っていると、

「お待たせしました。


  あたしはメリー、メリーナイトメアよ。

   まったく、夢もキボーもありゃしないわよ。

    ここからは通行止めよ!    」


 暗くて地味めだった少女が、紫のカツラをかぶって、へそ出しマリンルック?で、白黒ニーハイソックス、マント風コートをまとい、いきなりテンションの高いアニメ声で決めセリフ?を連呼してアニメチックなポーズを取った。石田が「萌え〜っ!」とカメラのシャッターを切ったのは言うまでもない。

 ああ、そういえば写真撮ったなこの子、とオレもようやく思い出した。しかし。

「やっぱ知らんわ、そのアニメ」

 とオレは言ったが、メリーちゃん本人は

「あ、まだ放送始まってません。原作マンガからイメージしました」

 と恐縮し、石田は、

「ちぇ〜〜、どうせこっちじゃ放送ないぜえ〜〜」

 と、名ばかりの『アニメ・マンガ王国』にぶーたれた。

 で? なんなんだ?

「えーと…、まずだな、さっきの細切れ中継電話はなんなんだ?」

「あっ、すみません、悪夢を退治するキャラクターなんで、悪夢を演出して『メリーさんの電話』を演じてみました」

 てへ、とお茶目に笑う。

「どうしてここの電話番号を知っているんだ?」

「会場でそちらのお二人……?の会話を盗み聞きして……」

「どうやってここまで来た?」

「そちらのゴスロリさん……?は先に行ってしまったんで、カメラマンさんに張り付いて住所を聞き出すチャンスを狙っていたんですが、こちらに来るようなことを言っていたんで、こっそりいっしょのバスに乗ってついてきました」

「おい石田。だそうだ。おまえ、気がつかなかったのか?」

「いやあー……。コスプレやめちゃうと分からないんだよね〜。なあーんだあー、言ってくれれば喜んでリークしてあげたのにい〜〜」

「するな。で? なんでここへ?」

「あっ、すみませんっ、あの、あの、わっ、わたしのマスターになってください! お願いします!」

 顔を真っ赤にして頭を下げた女子高生に、やれやれまたか、とオレは自分のイケメンぶりに呆れてしまったが、頭を上げた彼女は真剣な顔で言った。

「お兄さまなら、『橘のおやっさん』がよく似合うと思うんです!!!」

 力一杯拳を握って力説するコスプレ少女にオレは戸惑った。

「な、なに?その『タチバナの……』?」

 すかさず石田が解説した。

「『喫茶STO』のマスターだよ。『さすが・橘の・おやっさん』の略な。右目に傷があるかっちょいーオヤジのキャラだぜ? うん、おまえイケメンだから似合うぞ、きっと。俺が二人のツーショットをばっちり写真に撮ってあげよう」

「いらんわい!」

 こ、このオレ様に、コ、コスプレの相棒になってもらうために押し掛けてきたのか、この女子高生コスプレイヤーは?

 妹のヤツまで、

「へえ〜〜。いいんじゃない? お兄ちゃん、似合うよ、きっとお〜〜。あたしも友だち誘って見学に行こっかな〜〜」

 なんぞとニヤニヤしてやがる。

「ええーーいっ、やるか、んなことっ!!」

 オレは断固拒否したが、

「わたしだけじゃないんですよ!? 会場の皆さん、み〜んな、お兄さまがコスプレしたらさぞかしかっこいいだろうと狙っていたんですよ?」

 力一杯力説するメリー・ナイトメア?にオレはたじろいだ。超イケメンのオレに写真撮られてときめいていると思っていた女子どもが、そんな妄想の目でオレを見てうっとりしてやがったってえのか!?

 オレは必死にめまいから立ち直ると、言った。

「おい、こら、『ナイトメア』! つまりおまえは、悪夢を喰うバクのキャラなわけだな?」

「あっ、さすが! よく分かっていらっしゃいますねっ!」

「嬉しがるな。悪夢を退治するキャラなら、ほれ、そこにまさに人形の悪魔に取り憑かれたヤツがいるから、さっさと退治しろ!」

 テレキネシスを操る本物の魔物にコスプレギャルがかなうわけないと思うが、ええい、このタイミングで現れたおまえが悪い! なんとかしろ!

「えーー? いいですよ。このメイクは、もう完全に取り憑かれちゃってるんですね? んーと、ちょっと設定と違うんだけどなー…。ま、いいか。コラボですね? いきますよー? えいっ!」

 メリー・ナイトメアはどうやら特殊な攻撃はないらしく、パンチやキックのまねごとをマリー向かってやりだした。マリーは思いっきり白けた顔をしていて、オレは自分でふっておいてなんだが、無邪気なコスプレイヤーの痛々しさに悪いことをしたなあと反省した。

「さあ! もう一人のナイトメア・メリーさん。わたしといっしょに、プレーしましょう?」

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