あなたと永遠に
オレンジ色の夕日を受けて、私は崖の上に立っている。眼下に広がるのは、青く青く広がる大海原。
崖に打ち付ける波が、ザブンザブンと小気味いい音を立てている。
さながら、海が奏でる鎮魂歌のよう。
レクイエム―――そう、私はもうすぐ死ぬ。
私の最愛の人とともに、この身を海に投げて。
できる事なら、この世で永久の愛を育みたかったけど、
この愛は決して許されるものではないと言うことは、お互いが痛いほどよく分かる。
ならばどうすればいいか、答えは1つ。
誰にも邪魔されない2人だけの楽園―――つまりは、死後の世界で愛し続ければいいのだ。
しかし、人間誰しも、死ぬ事へ恐怖を感じないものなどいない。この期に及んで私の体は、いつの間にか小刻みに震えていた。
「怖いの?」
優しい声が響く。声の主は私の手をしっかりと繋いだまま、水平線の彼方を見つめていた。
「うん、ちょっと……ね。あなたは?」
「……同じく、少しだけ。
でも、もうすぐ2人いっしょになれると思えば、ぜんぜん怖くない」
「……………」
「『死ぬ』ってのは、別に恐れる必要のないことだよ。
この死はいわば、2人で新しい人生を始めるための号砲みたいなもの。
スタート前から怯えてたって仕方ないでしょ?」
「……うん、そう、だけど……
……いいや、あなたといっしょになれるもの、死なんて恐れちゃダメだよね。
ありがとう。お陰で、大分楽になったわ」
「それはよかった」
安心したように私に微笑みかけ、再び前を向く。
そして決意が込められた声で、こう言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
びくん、と私の体が震える。
いよいよ、私達がこの世に別れを告げる時が来たのだ。
そう思うと再び、押さえ込んだ死への恐怖がむくむくと鎌首を擡げてきて。
「……あ……どう……して……?」
足が、なかなか進まない。
まるで足の裏から根が生えたかのよう。
「……やっぱり怖い、か」
あまりに臆病な自分が、何だか悔しくて悔しくて、
必死に足を進めようとするが、私の意思に反して、足は動かない。どうすればいいか途方に暮れていると、
「仕方ないなあ、それじゃ」
「え、ちょ、待っ……!!」
ひょいと、私の体は宙に浮かび、抱きかかえられた。
いわゆる『お姫様抱っこ』と言われる類の抱き方である。
「これなら大丈夫だよね、お姫様さん?」
「うん……それじゃ……お願いします、私の……ええと……」
「王子様でいいよ」
「でも……」
「いいからいいから」
「じゃあ……王子様」
私が恥じらいながらそう言うと、おかしさからか、くすくすと笑い始めた。もっとも私自身も、その言葉にある種の『違和感』を感じたのだが。
それは何故だろうか。多分……
「じゃあ、今度こそ」
しかしその違和感の正体に感づく前に、視界が動き出した。あと数秒もすれば、私達は海の藻屑となるに違いない。でも今はせめて、この体に感じられる、柔らかな温もりを、少しでも長く―――
(―――さて、この後の展開は、あえて述べなくても大丈夫だと思いますが、皆さんはここで手を止め、ちょっと考えてみてください。2人は、一体どんな関係なのでしょうか?【許されざる愛】とは、一体何なのでしょうか?もちろん、考え自体にこれと言った正解はございません。この物語は一例であり、様々なパターンが考えられるでしょうから。
十分思案したなら、次に進んでみてください。この物語は、こう完結します。)
―――それから、1週間後。
浜辺に2人の少女の溺死体が打ち付けられているのが発見された。
遺体は互いの手をしっかりと握り締めていた事から、
生前はとても仲のよかった2人なのだろうと思う人はそれこそ山ほどいたが、
その裏に隠された“本当の関係”を知る者は、誰もいない……
(―――いかがでしたか?
自分の想像が当たっていた、外れていた、と思う人もいるでしょうが、それよりも大切なのは、想像によって物語を自分で創造する事、だと思います。
物語を読む人の数だけ、ストーリーは存在する。
そんな小説をこれからも皆さんに提供し続けられれば本望なのですが、残念ながら本日はここで幕切れです。では、また会いましょう―――)