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第十話 最小単位

初心者ダンジョンは、変わっていなかった。

入口も、門も、警備兵の数も。


だが、彼が足を踏み入れた瞬間、空気が一段沈んだ。


「……?」


警備兵は何も言わない。

いや、言えないのかもしれなかった。

視線が、彼の少し横を通り過ぎている。


ダンジョン内部は、静かすぎた。

魔物の気配が、薄い。


「出てきて」


スライムが現れる。

揺れは、ごく小さい。

それでも、以前より“密”だった。


奥へ進むにつれ、壁の魔石が消えていく。

光が弱くなるのではない。

最初から、そこに無かったように。


「……ここ、こんなだったか」


返事はない。


やがて、行き止まりに辿り着いた。

だが、壁は平坦ではない。

無数の細かな線が走っている。


彼は、手を伸ばした。

触れた瞬間、視界が反転する。


落下感はない。

代わりに、重力そのものが消える。


次に見えたのは、白い空間だった。

上下も、左右も分からない。

音も、距離も曖昧。


「……また、落とされたか」


足元に、スライムがいる。

ここでは、影がないはずなのに。


揺れは、一定。

これまでで一番、静かだった。


「ここは……」


答えは、直接ではなく“理解”として流れ込む。


――世界の下書き。


「……下書き?」


言葉を口にした途端、空間がわずかに歪む。

概念が、反応している。


――最小単位の管理領域。

――破棄予定領域。


彼は、スライムを見る。


「最小単位、って……」


スライムが、わずかに広がった。

形が変わったわけではない。

存在の“範囲”が増えただけ。


その瞬間、白い空間の一部が溶ける。

数字、線、記号。

世界の設計図のようなものが、露わになる。


「……これが」


理解が追いつかない。

だが、感覚だけは確かだった。


スライムは、魔物ではない。

世界を構成する“処理単位”に近い。


「だから……一体だけ」


複数、いらない。

一つで足りる。


背後で、気配が生じる。

振り返ると、あの影がいた。

封印区画で出会った、管理の存在。


――確認。

――例外、再侵入。


「……今度は、追い出す?」


――未定。


影が揺らぐ。

不確定。

判断できていない。


スライムが、彼の前に出た。

命令していない。


――召喚体……否。

――存在単位、照合。


影が、沈黙する。


――誤差、許容範囲外。


彼は、ゆっくりと息を吸った。


「……それでも、ここにいる」


主張ではない。

宣言でもない。


ただ、選択。


白い空間が、さらに歪む。

破棄予定の線が、消えていく。


影が、初めて後退した。


――監査不能。


その言葉と共に、空間が崩れ始める。


「……帰れるか?」


スライムが、一度だけ揺れた。


次の瞬間、彼は床に倒れていた。

見慣れた石。

初心者ダンジョンの浅層。


魔石の光が、戻っている。


「……戻った、な」


立ち上がろうとして、気づく。

冒険者証が、軽い。


取り出す。


名前の欄が、ほとんど消えていた。

輪郭だけが、辛うじて残っている。


職業欄は、変わらない。


――召喚師+e(規格外)


足元で、スライムが揺れる。


「……次で、決まるな」


何が、とは言わなかった。

だが、選択肢は少ない。


世界か。

それとも、自分か。


ダンジョンの奥で、

何かが静かに、準備を始めていた。

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