表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線路の上の約束 ― 出発進行の朝に ―  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/46

捏造(ねつぞう)のスレッド

捏造ねつぞうのスレッド


昼休み、生活委員の掲示板前。

遠藤菜々子が震える手でスマホを差し出した。

「先生……私、伸介くんにこういうことされたって……スレが立っとるで」

画面には匿名掲示板のスレッド。


「教室で肩つかまれて逃げた」

「“次は逃がさん”って言われた」

「“運転士気取りの正義マン”が調子乗んなって」


ざわっと空気が揺れた。

(まただ――今度は、“伸介が加害”という形で返してきた。)

澪は奥歯を噛み、蓮は目線だけで教卓を指した。

「先生、確認お願いします。」


1|“証拠”の持ち込み


学年主任室。

並べられたのは、菜々子のスマホのスレ画面と、スクショ。

古田教頭はまず気持ちを受け止める。

「怖かった気持ちは大切にします。落ち着いて、順番に“事実”を確認しましょう」

菜々子はゆっくり頷く。

「昨日、放課後。理科準備室の前。肩、つかまれた……気がして」

(“気がして”。言葉は揺れている。)


山根が時刻を書き、位置を書き、関与者を書いた。

そこへ、佐藤慎太と水谷翔が、入れ替わりで「見た」と言いに来る。

「伸が近づいとったわ」

「やっとったやろ、“正義マン”」

(早い。早すぎる。――用意していたみたいに。)


2|スクショの癖


蓮が小声で言う。「二重スクショ」

スクショの白フチの比率、“ワラ”のカタカナ、句読点の後の半角スペース。

これまでと同じ癖が、今回も並んでいた。


加えて――


スレのサムネ画像に、掲示板の“五月”ポスターの折れ目が薄く写り込む(水谷の列)。


画面右上の時計表示が「24時間+秒」設定。慎太の端末と一致。


スクショの生成アプリが写真アプリ→編集アプリ→再撮で連番ズレ(メタデータで判明)。


ICT支援員が合流し、端末内メタデータをその場で控える。

「このスクショ、元画像の上に編集オーバーレイが乗ってます。

 “投稿主のハンドル名”と“時刻”のレイヤが後付け。」


古田が短く息を吸った。

「捏造の疑い、強い。」


3|“見た”の位置と、カメラの死角


映像確認。

理科準備室前の天井カメラは音声なし。

菜々子がプリントを取りに出る → 伸介は反対方向から図書当番で通過 → 二人の肩の間は約60cm → 接触なし → 二秒後に慎太・水谷。

(肩は触れてない。——少なくとも、カメラが拾う距離では。)


山根は距離を板書し、菜々子に向き直る。

「怖かった気持ちは本物。

 ただ“つかまれた”という“事実”は映っていない。」


菜々子は、うつむいて小さく震えた。

「……“つかまれた気がした”――って、書けばよかった」

「その言い直しが、教室を守ります」

古田がゆっくり頷く。

「でも、“伸介が加害”**というスレを“作って広げた”人は、別にいる。

 そこは切り分ける。」


4|共謀の糸口


生活指導の端末に、また匿名DM。


水谷:“遠藤の件”回す。

佐藤:“正義マン”追撃。

(既読 4)

不明A:タグ #逃がさん で草

不明B:“秒”入れろ(笑→ワラ)


通知時刻は当日昼休み直前。

タグまで指定している。

(「秒入れろ」は、慎太の時計設定の符丁だ。)


古田はその場で保存・印刷・封緘。

「佐藤慎太・水谷翔・(未特定二名)を“偽計”と“共同不法行為”の疑いで指導・別室化。

 掲示板のホスト運営にも送信防止措置を依頼。」


校内メールが走る。


**No-Contact(接触禁止)**の再徹底


掲示板URLの共有・削除要請は教職員経由のみ(生徒が拡散しない)


“見たら言う”の手順を再掲


5|菜々子の言い直し


放課後、面談室。

菜々子はゆっくりと、言葉を選んだ。

「怖かった。

 “つかまれた気がして**”、走って離れた。**

 でも、“伸介が加害”って書いたスレは、私じゃない。

 “言え”って言われた。」


「誰に」

「……佐藤と水谷。それから、グループの子」

涙が落ちた。

山根はそっと箱ティッシュを差し出し、責めない視線で頷く。

「気持ちは守る。捏造は止める。」


菜々子は深く頭を下げた。

「ごめん。澪ちゃんも、伸介くんも。」


澪は首を横に振った。名古屋の音で、やさしく。

「怖かったって言えたんやで、よう言った。

 “事実”は、うちらで戻すで」


蓮が短く合図を出す。

コン、コン、コン。

ブレーキハンドル、三度。

(止まって、整えて、また出す。)


6|記録と告知


翌朝、学校は第三者委員会の設置準備に入った。


デジタル鑑定の依頼(画像レイヤ・タイムスタンプ・端末特性)


学校外ホストへの削除要請とログ保全要請


児童・保護者への通知(捏造投稿の確認と調査の継続、当事者の心のケア)


保護者室でまた、名士が揺さぶる。

「おおごとにするな。街の顔に泥を塗る気か」

古田は淡々と返す。

「泥は“やった行為”に付く。事実は消せない。

 “子どもの安全”が先、評判はその結果としてついてくる。」


紘一は資料ファイルを閉じ、低く言った。

「うちは、前を向いて走る。非常が要るときは引く。

 でも、記録は隠さん。」


7|夜の点検票


今日は安全だった? はい


困った時、どこへ行った? 学年主任室/生活指導


ありがとうを言いたい人 菜々子/澪/蓮/先生


明日やってみたいこと “事実・感情・評価”の三本線を、朝の発表でもう一度


枕元の運転席の絵に、指でそっと触れる。

赤=止まる/青=進む。

どちらも、安全運転の一部だ。


胸の中の速度計は、“ちょうど”。

けれど針はまだ細かく震える。

非常はいつでも引ける位置に。

合図は三度。


発車進行。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ