兎モンスター
【藤堂桃香】
私達が死の森に入って4日目。
この死の森に入ってから、私は変な夢を見るようになった。
行ったこともない湖でスライムと遊んでいたり、エルフ族という美女に殺されたり……最近、ストレスが溜まっているせいだろうか?
こんな不気味な森は、さっさと抜け出したい。
昼過ぎに私達の前に、一匹の小さな兎モンスターが現れた。
兎モンスターは、最初は怯えながらこちらの様子を窺い、徐々に私達の方へと近づいてきた。
この怯えた風の仕草と、小さな体に私達は完全に油断し、対して警戒をしていなかった騎士が、一瞬にして首を切られる事態になり、私は一瞬何が起きたのか分からなかった。
兎モンスターが消えたと思ったら騎士の首は飛び、血吹雪を上げていたのだ……
「騎士隊、包囲して殲滅!」
団長の指示を聞いた騎士達は、四方からじわじわと兎モンスターを囲み、攻撃をしようとした瞬間、騎士達の首が吹き飛んだ。
「は?」
「え?」
私は辺り一面が血の海になった状況が理解出来無かったが、よく見ると血まみれの兎が一匹ではなく、たくさん現れた事で理解した。
……ああ、私達は死ぬんだ、と。
騎士団長と副団長も交戦しようとしたが、戦いにすらならずに殺された。
死の森の中層エリアで、こんな化け物がいるなんて……
「島根さん、杉田くん、逃げよう!」
私はどうせ死ぬなら、戦うより逃げたほうが生き残れる気がして、クラスメイトの方を振り返る。
島根さんは完全に怯え、尻もちをついていて、杉田くんはすでに殺されていた。
私は島根さんを担いで、全力で逃げた。
異世界転移したことで、地球にいた時には考えられないほど筋力が上がり、島根さんくらいの軽い女子なら難なく担いで走れるほどだった。
私は何も考えずに走った。
★
死を覚悟した逃走だったのだけど、数分しても生きていた。
後ろを振り返るのは怖かったけど、チラッと振り返ると兎の姿はない。
あれ……私は助かったの?
私は念の為、もう少し走った後に立ち止まり、周りを警戒したが、兎の気配はない。
よく見ると、島根さんは気絶しながら漏らしていた。
まあ、あの状況ならしかたないよね。
むしろちょっと冷静な私がおかしいのかもしれない。
【条件を満たしたので、称号・脱兎を取得しました】
頭の中に可愛らしい女性の声で、称号を取得したと聞かされる。
この声は帝国に異世界転移を教えた女神様からの声らしく、帝国兵はこの女神様からの声を聞くために頑張っていると教えられた。
それにしても、脱兎?
兎から逃げたら脱兎って、ふざけてるのかな?
なんだか、称号を取得したと本来ならば喜ぶところだけど、私はなんだか無性に腹が立った。
しかし、今は兎から逃げられた事を喜ぶべきだろう。
もしかしたら死の森のモンスターにはテリトリーみたいなものがあるのだろうかと思った。
「ねえ、島根さん。そろそろ起きて……!?」
私が担いでいた島根さんを気絶から覚まそうと、地面に寝かしたとき、やっと異変に気が付き、私は戦慄した。
島根さんの頭がないのだ……
兎モンスターにやられた?
いや、それなら私もやられているはず……え?
私の右腕もない……
そこからの私の記憶はなかった。




