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私のご主人様  作者: 篠原
4/5

裏切られても信じたい

・本気で終着点?何それおいしいの?状態

・犬ってなんだっけ。とウィキで無性に調べなければという思いに駆られた(おれが

・相も変わらず通常運転万歳


それでも大丈夫!って方はどうぞ!

そんな事件があったのはほんの数日前。


あの日、結局最後の力一滴まで振り絞ってその男子の足止めをしていた私は、すでに満身創痍。

どこからこんな力が出るのかと自分でも驚いた。


しかしそんな状態でも限界というものは無常にも訪れるというもので。


「へ、へへっ!!梃子摺らせやがってこのクソ犬!!」


そう言って私の頭を蹴る男子。

立って、動いて、その足に噛み付いてやりたいのに。

ご主人様を、守らなきゃいけないのに。


まるで別人のもののようにピクリとも動かない自分の手足に、苛立ちを感じる。


動け!動け!!


けれどその祈りもむなしく、終には意識まで朦朧としてきて、ご主人様は無事家に帰れたかな…と心配になる。


途中で迷っていないか、どこかで転んではいないだろうか。

心配は尽きない。


心配で、心配で。確かめたいがすでに体は動かない。

もっと、力があったらいいのに。もっと、体が丈夫だったらよかったのに。


ないものねだりだと言うことはわかってはいるのに、尽きない願いにどこか自嘲気味に笑いながらそこで意識を手放した。



それから、次目を覚ますと、目に入ったのはあたり一面白い世界。

一瞬どこか把握できずに、あたりを見回そうと重い体を持ち上げようとすると、後ろから伸びた手に頭にポスンと手を置かれた。

その行動に驚いて、条件反射で噛み付こうとするが、その手はひらりとすぐに逃げてしまって口は宙を噛んだ。


なんなんだ、いったい。


そう思ってゆっくりと後ろを見れば、そこに居たのは


「なんだコロ、お前元気そうで安心したよ」


弱ってた小さいころから顔なじみの獣医の姿がそこにあった。


「いやぁ、一時は死ぬかと思ったからさ。ほんと、心配した」


そう言って笑う目の下に隈があることに気づいた私は、どこか申し訳ないと思う。


「なんだ。元気ないな。安心しろ。お前が体を張って守った聡美ちゃんは元気だからさ」


突然聞かされた、意識を失う前気になって気になってしょうがないことをポンと軽く言われて、ぼやけていた思考が一気にクリアになる。


そうだ、ご主人様!私はちゃんと役目を果たせたのか!?ちゃんと、ご主人様を守ることができたのだろうか!?

あの後、いったい何が?


クリアになったとたんに混乱する思考、しかしその答えは、まるで見透かしたかのように獣医から与えられた。


あの後、私が気絶してすぐに警察が駆けつけたこと。

男子たちはすぐさま捕まり、こっぴどく怒られたのだということ。

ご主人様は無事で、多少擦り傷はあるが問題ないとのこと。


要点をまとめたような内容を聞いて、ひとまず安心した。と、ほっと息をつくが


「でもね、めんどくさい事が起きちゃったんだよね」


その獣医の最後の一言に、首をかしげた。

獣医は、聡美ちゃんを守ったのは偉かったぞ。と頭を乱暴に撫でながら告げるが、それとは別に、今度は真剣そうな目で私を見て、続けてこういった。その内容は、


私が噛んだ学生たちはほとんど「正当防衛」ということで片がついた。けど、一人だけそれでは済まされない人物がいたのだ。

それが、守るために喉笛に噛み付いた男子のことで、その男子はいったん病院に運ばれたが出血多量で死亡。相手方の両親は大激怒しているそうだ。

しかし、警察としても確かにやりすぎだと思うが、そういう訓練をされていない私を使って喉笛に噛み付かせることはあのときパニック状態で正常な思考ができなかったご主人様には不可能で、全ての責任は噛みついた私に回ってきたわけだ。


それを聞いて安心した。

私のせいで、ご主人様に迷惑をかけることがなくて。本当に安堵した。でも、


その全ての責任が回ってきた私は、あちら側の最大の譲歩として

「”危険分子”であるその犬を処分すること」

というどこかお偉いさんからの命令に従わなければならなくなった。


「ただ主人を守っただけっつうのに…お前には可哀そうな話なんだがな…」


そう言って頭を今度は優しく撫でてくれる獣医。

私はそれを抵抗することなく受け入れる。


確かに、これからご主人様に会えないのはさびしい。もう守る事も、一緒に散歩する事も叶わないなんて。

でも、一つだけ嬉しい事がある。


それは、もうすでにあの場で息絶えたものだと思った事が、こうしてまだ命をつなぎとめることが出来たのだという事。


あの時の私だったら、ご主人様の事が心配で未練が残る。けど、今こうして事の顛末を聞いた今となっては、もう私なんてどうでもいいのだ。

最終的に守れて、本当に良かった。


そう思って、今まで入っていた肩の力がすっと抜けるのを感じた。

それと同時に、診察室の入り口のドアが控えめにノックされた。


「はーい、開いてますよー」

「あの…コロの事なんですけど…」


そう言いながらドアを開いたのはご主人様の母親だった。

どこか気まずそうにしながら入ってくる母親は、ほんの少しだが、やつれたようにも見える。


「あ、はいはい。コロちゃん目を覚ましましたよ~お会いになりますか?」

「いえ、その事なんですが…」

「?どうかされましたか」

「あの…娘が…コロに、会いたくないって…言ってまして…」

「え?」

「すいません…明日、保健所の方が来られるまで、預かってもらってもよろしいですか?」

「え、あ、あぁ、それは…ウチとしては全然構いませんけど…」

「ありがとうございます。それでは…」


ペコッと最後に頭を下げて出て行った母親は、小走りでその場から立ち去った。

後に残された私と獣医の間に奇妙な空気が流れる。


「あー…いや、さ。別に、聡美ちゃん、お前の事が嫌いになったってわけじゃ…ないと思うんだけど」


早くもその空気を壊したのは獣医で、ぎこちないが私をなんとか励まそうとしてくれているのだけはわかった。

その後も、あーとかうーとか唸りながらなんとか私を元気づけようとする獣医がとても優しくて、とても悲しくなった。


明日保健所が来る。

そこで、私の命は終わるのだ。


せめて、最後にご主人様の元気な笑顔が見たいと思った私は、贅沢なんでしょうか。









少し悲しいけれど、それも貴女のご意思なら。私はただ忠実に従うだけ。


お題はこちらからお借りしています。

というかこのシリーズ全部ここから借りてます。

http://207.noor.jp/

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