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私のご主人様  作者: 篠原
3/5

守る為ならなんだってするさ

・いつも通りの意味不明さ

・むしろそれが通常運転


大丈夫な方は、どぞ

その日も、一人と一匹で仲良く散歩コースをたどっていた。

しかし、たまたま見つけたまるで隠し道のような場所に、最近好奇心旺盛なご主人様はその道へと入ってしまう。


心配だから、と決められた道以外はあまりいかないようにと母親に言われているご主人様の、ちょっとした寄り道。


ご主人様のことを考えれば、なんとしてでもいつもの散歩コースをたどり無事家まで連れて帰ることが私の仕事。なのだが、


「コロ、お願い。ちょっとだけだから。ね?」


ご主人様の滅多にないお願いに弱い私は、無事連れて帰ることさえできれば少しぐらい…と始めての寄り道をすんなりと認めてしまった。


そんな私の甘い考えが、ご主人様をあんな目にあわせるなんてこと、その時考えても居なかった。



ご主人様の初めての寄り道は、新しい発見の多いとても充実したものとなっていた。


見るものすべてが新鮮で、あっちこっちを忙しそうに見るご主人様が転ばないように、そしていざ帰れるように私はなるべく周りを見て風景を頭に叩き込む。


そんな時、ご主人様が「あっ!」と声を上げ、走り出す。

リードによってつながれている私は、半歩遅れながらもあわててご主人様の後を追った。


ようやく歩みを止めたとき私の目に映ったのは、いつも暮らす町並みを見下ろす、いわゆる絶景と呼ばれる場所に立っていた。

純粋にその光景に感動している私の隣で、ご主人様もきっと同じことを思っていたに違いない。

なぜなら、隣を見ると大きな瞳をさらに見開いて、輝かせながらその光景を見ていたから。


私たち一人と一匹は、しばらくその光景にその場から動くことができなかった。


それからどれぐらい時間が経っただろうか。


ようやくあたりも見回すことができる余裕を取り戻したご主人様と私。

きれいだったね、今度誰か連れてこよう、等と感想を精一杯私に伝えるご主人様は非常に満足そうで、私はたまの寄り道もいいかもしれない。と、そう思った。そのとき


「あー?誰か他のやつがいるぜ?」

「ンだと?…マジかよ、俺らの秘密の場所だと思ってたのに」

「おいおい、ばれちまったじゃねーか。最高のスポットだってのに」


現れたのは高校生と思しき三人の男子。

それぞれ耳にピアスや茶髪の髪を見て、普通の高校生ではないことをその空気からも感じ取った私は、いまだ状況がつかめずきょとんとするご主人様の前に立ちはだかる。


「嬢ちゃん、どうやってきたのかしんねーけどさ、ここ俺らの秘密基地なんだよねー」

「そうそう、だからさ、誰にも言わないでくんね?つか、もう二度とくんなっつーか」

「ぎゃははっ!田辺、お前こーんなちっさいガキにそれはひどくねーか?」

「バーカ、そうでもしなきゃ伝わんねーだろが。ガキはガキなんだから」

「はっ!!そりゃ違いない!!」


そう言って明らかにご主人様を馬鹿にする三人のその態度に私は今にも襲い掛かりそうな思いを必死にこらえて、まずご主人様をこの場から無事に逃がすことだけを考えた。


しかし、その三人に脅えきったかのようになきそうなご主人様は、一歩たりとも動けそうにない。


どうする、どうする?


考えを張り巡らせるが、なかなかいい考えは思いつかない。

焦りばかり増す私の耳に、一人の声が届いた。


「つかよ、もういっそここで喋れねぇぐらいに痛めつけときゃ、誰にもいわねぇんじゃねーの?」


痛めつける?誰を?


その男子の言ってることの意味が一瞬わからなかった私は、残りの二人の発した「さんせーい」「決まりだな」という実行を意味するような声に瞬時に我に帰った。


そこからは、無我夢中で何かを考えるなんてことできなかったに等しい。


ただ、

私なんか簡単に通り越して、ご主人様の肩をつかむその無粋な手に思い切り噛み付いて、それに悲鳴をあげて一歩あとずさる男子を無視し、開けた退路へいまだしっかりと握られているリードを通じてご主人様を誘導する。

それにハッと気づいたご主人様も、あわてて走り出した。

しかし、リーチは当然あちらの方が上。


すぐにガッとつかまれるご主人様の髪。それに気づいた私はすぐに威嚇して噛み付こうとするけど、あちらもそんな私の行動パターンなんて読んでいて、隣にいた男によって殴り飛ばされた。

近くにあった木にぶつかって、一瞬意識が飛びそうになるのを、悲鳴をあげるような声で私の名を呼ぶご主人様の声によってどうにかつなぎとめた。


助けなければ。私の大事なご主人様。


そう思ったのと同時に、さきほどよりも危機的状況に野生としての本能が目覚めたのかスピードも、威力も、倍にしてまずご主人様の近くに居ないほうの男の喉笛に噛み付いた。

そして、その男が倒れたことを確認すると、威嚇をしたまま今度はご主人様と一緒に居るせいで動きの落ちた男子の背後へといとも簡単に回ることに成功し、肩へと噛み付きご主人様を解放する。


男子の衝撃でよろめいてこけてしまったご主人様の服を引っ張ってなんとか急いで立たせると、そのまま怒り狂う男子を無視して一気に来た道を駆け戻る。


だが、いつもの道に出る後一歩というところで追いつかれてしまい、私はスピードを一気に落として、急に止まった私に釣られて立ち止まるご主人様とその男子の間に立ちふさがるようにして、グルルルと威嚇する。

そんな私の姿に、戻っておいでとなきながら叫ぶご主人様の声を聞きながら、今その状態を作っているのは自分のせいなのに、慰めることもできない無力な自分に腹が立ち、せめて逃げる時間を作ることに最善を尽くすと改めて決意した。

ご主人様も、その私の姿に、しばらく困惑する姿を見せるが、すぐに「誰か呼んで来るから!!」と駆けて行った。


そう、それでいい。


もうここに戻ってこなくてもいいから。早く安全で暖かい、お家にお帰り。


そういい残したご主人様をあわてて追いかけようとする男子の前に再び立ちはだかって精一杯の声で吼える。


ここから先は通さない。


そんな思いを込めて吼える。最低でも、ご主人様の安全が確かになるまで。


お前をこの先になんて、ご主人様の元へなんて絶対に行かせない。








貴女を守るために研いできた牙を、今ここでご覧に入れましょう。


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