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7話 妖精の想いとイメージチェンジ。


 「なんで...この町に居るの?」



トラブルやアクシデントは、いつも突然起こる。

しかも、幸福を感じている時にその終わりを告げるように。

今日は、レンカちゃんやモーナちゃんと公園で待ち合わせをして遊ぶ予定だった。

だが、そこに居たのは私の育ての親とあの変態達だ。

私達は、公園の外から物陰に隠れ様子を伺う。



 「なんで...アトラ樹海を越えて追って来たって事? おかしいでしょ? なんで、私にそこまで執着心を持つのかな?」


 「ミルト、あの人達なに?」


 「私に酷い事をしようとする変態だよ...向こう側の国から、わざわざ追ってきたみたい」



それに、見覚えのない屈強な冒険者のようなパーティを連れている...あとは、魔法使いのような女の子もいる。

どうしよう...このままだと、待ち合わせをしているレンカちゃんやモーナちゃんに危害が加わるかもしれない。



 「ミルトちゃん、フィーちゃん!」


 「ひぅっ!」



心臓が止まりそうになる...。

レンカちゃんの無邪気な悪戯にびっくりして、全身に力が入ってしまった。

事情を知らないレンカちゃんの声は大きい。



 「アハハ! びっくりしすぎだよ~!」


 「お願いっ! 今は静かにしててほしいの!」


 「ミルトさん...どうしたの?」



よかった...こっちには、気づいていないみたい。

私は、子供に話しづらい事は伏せて大体の事情を説明をした。

二人は真剣に聞いてくれている。

話し終わり、あの変態達の動向を確認する。

フィーが、そのよく聞こえそうなエルフ耳で変態達の会話の内容を教えてくれた。



 「あの人達、ミルトの話をしてる...〝ミルトめ...あの、いやらしい体を滅茶苦茶にしてやりたい〟とか〝早く捕まえて儀式の続きを〟って言ってる」


 「うわっ、フィーもう聞いちゃダメだよ! やっぱり、私の事を追って来てるのね...ここを離れないと」



あいつらに気づかれないように、静かに雑貨屋へ戻る事にした。

雑貨屋へ戻ると、マーレさんが出迎えてくれる。

青ざめた私の顔を見て、心配になったようだった。



 「どうしたんだい? 顔色が悪いよ...どこか具合が悪いのかい?」


 「マーレさん、どうしよう...」



フィー達を、私達が借りている部屋に連れて行きイリナとララちゃんに面倒を見てもらう。

私とマーレさんは、別の部屋に行き話を聞いてもらった。

今まで無視され続け陰口を囁かれていた事や、育ての親に犯されそうになった事など...そして、追われている事も。

奴らの異様な執着心としつこさに恐怖を覚えて、私は泣き出していた。

感情が制御できない...涙が勝手にこぼれてくる。

そんな私を見て、マーレさんは優しく抱きしめて背中をさすってくれる。



 「そんな怖い思いをして、危険なアトラ樹海を抜けてきたんだね」


 「うぐっ、ひぐっ、あの人達...怖い」


 「仕方ないさ、今まで辛い思いをしてきて男に襲われそうになったんじゃ...今は、ここに居れば安全だから安心しなさい」



魔物を倒せるくらいに強くなっても、女の子からすれば性的なトラウマはすごく辛い。

あの時は、逃げる事に必死であまり感じていなかったけど...心に大きな傷を負っていたのだと自覚する。

私の泣きじゃくる声を聞いて、フィー達が心配してやってきた。



 「ごめんね、遊ぶ約束だったのにね...」


 「それよりも大丈夫? ミルトさん...やつれてるよ」


 「ミルトちゃんは、あたし達の友達だから心配だよ」



歳下の子に心配させたうえに、泣いてる姿を見せてしまって情けない。

そんな私を見て、フィーが擦り寄ってくる。



 「ミルト...」



フィーが抱きついてきた。

不思議だけど、フィーとくっついていると気持ちが落ち着く。

不安な気持ちをかき消そうとして、フィーを強く求めた。

気持ちが少し落ち着いたので、フィーを抱きしめたまま...これからの事を考える。



でも、いい考えは浮かばない...。

今すぐ、この町から逃げ出しても追いかけてくるだろうし...いっそ迎え撃つか?

いや、今の精神状態では何もできないだろうし、気がかりはあの冒険者のパーティだ。

アトラ樹海を抜けて来たのなら、かなりの手練れだと思う。

私は、強くなったと思うし...フィーはとんでもない力を持っているけど、過信してはいけない。

上には上が、どこまでだって居るはずだ。

相手の情報が何も分からない以上、下手な行動は避けた方が絶対にいい。



 「なあ、ミルト...ちょっといいか?」



イリナが、真剣な表情と声で話しかけてくる。 



 「お前が良ければだけど、オレと同化してみる気はないか?」


 「同化って?」


 「簡単に言うと、ミルトの体にオレが取り込まれて一つになる事だ...透明化ができるようになるし、見つかりそうになった時に姿を消せれば便利だろ」



そんな事が...できるの?

でも、取り込まれたイリナはどうなるの?

話を聞くと、同化した妖精は相手の体の中で深い眠りにつくらしい。

その相手が亡くなるか、長い時間を経て同化自体が自然に解除されるか、いずれは分離して元通りになるみたい。

大昔は、人間と同化をする妖精は割といたらしく本能で一つになりたいと思うとか。

元々、人間と妖精は仲のいい種族で本来はそれが自然なのだという。



 「でも、ダメだよ...いずれは、元通りになるって言っても...イリナの大切な時間を奪っちゃうんだよ?」


 「そうかもしれないけど、オレも不思議なんだよ...お前達、特にミルトはほっとけなくてさ...これが本能ってやつなんだな」



睨むような視線を感じた。

ララちゃんが、すごく悔しそうに私を睨んでいた。



 「ぐぅーっ! そんな、イリナちゃん私との約束はどうなるの!」


 「ララ、ごめんな...どうやら、オレの運命の相手はミルトのようだ」



私に同情したとかではなく、イリナの気持ちは本当のようだ。

イリナの表情は真剣で、私を見つめてくる。

だけど...ララちゃんの視線が怖い。

でも、気持ちは大体分かる。

イリナにずっと想いを寄せていたのに...いきなり現れた私に、イリナが告白をしてしまったからだ。



 「ミルトちゃんに嫉妬しちゃう...でも、イリナちゃんがそう言うなら諦めたくないけど...譲ってあげる!」



ララちゃんは、涙を浮かべ部屋から出て行ってしまう。

マーレさんが後を追いかけて行った。

イリナは、ばつが悪そうにしているけど色々説明をしてくれる。

同化する事によって、得られるメリットは透明化以外にも色々あるようだ。

戦闘以外で役立つ様々な魔法や、長時間は無理だが空を飛ぶ事もできるようになるらしい。

また、一つになる事によって人格などに影響を及ぼす事もないという。

そして、イリナ自身が私と一つになる事に抵抗は全くないとの事だった。



 「すごく大事な事だし、イリナに対して...私は、そんな感情はないよ」


 「オレは、全く構わないんだけどな...まあ、その前にララとちゃんと話してみるかな」


 「うん、そうして...ララちゃん、可愛そうだから」



イリナは、ララちゃんの元へ羽ばたいて行った。

私は、いきなり恋敵になってしまって心苦しい。

仲直りできたらいいな...。



 「すー、すー」



ずっと抱きしめていたから...眠くなったんだね。

ほんとに、この子は私の事を癒してくれる。

とりあえず、フィーを借りている部屋に連れて行きベッドに寝かした。

外は、暗くなり始めている。

レンカちゃんとモーナちゃんを、家に帰してあげないと...。

でも、あいつらが徘徊しているかもしれないし...私は外に出る事ができない。

そう考えていると、マーレさんが戻ってきて二人を送ってくれる事になった。



 「私達が出たら、しっかり鍵をかけるんだよ」


 「ミルトちゃん、じゃあね」


 「ミルトさん、バイバイ」



3人が出た後、すぐに扉の鍵をかける。

店の中は、静かになり少し不安になった。

イリナはララちゃんを慰めているだろうし、フィーは眠っているから今は一人ぼっちのような感覚だ。

フィーが眠る部屋に戻ろうかと思った時、イリナがララちゃんの手を引いてこちらに向かってくる。

ララちゃんは、たくさん泣いたのだろう...目の周りが真っ赤になっていた。



 「ミルトちゃん、ごめんね...ミルトちゃんは何も悪くないのに、羨ましくて嫉妬して...それで」



小さすぎる頭を下げて、謝ってくる。

確かに、私は何も悪くないけど...頭を下げられると、辛くなってしまう。



 「頭を上げてよ...お互い、何も悪くないから謝らなくたって」


 「ううん、思いっきり睨んじゃったから...ミルトちゃんに、嫌な思いさせちゃったから...ごめんなさい」


 「気にしてないよ...仲直りしよ、ねっ!」


 「うん...ミルトちゃん優しいね...」



仲直りの握手は、体格差で無理だ。

私は人差し指を立て、ララちゃんが小さな手を合わせる。

なんとか、仲直りができてよかった。

イリナも、私達の様子を見て安心したようで胸を撫で下ろす。

扉を叩く音が聞こえてくる。

マーレさん声が聞こえてきたので、扉の内鍵を開けた。



 「二人を送るついでに、その辺を見て来たんだけどさ...怪しい奴らがうろついてるし、あの子達の親御さんも警戒していたよ」


 「そうですか...私だけじゃなく、この近所の人達にも迷惑をかけて...許せない」


 「中年の男2人はいいとして、問題はあの冒険者達だね...けっこう、強そうな雰囲気は感じたよ」



そうなんだよね...ここまで追ってきた変態達も怖いけど、正直戦うなら余裕で勝てると思う。

でも、あの冒険者達は予測ができない。

今後の事を考えると、早めに何かしら手を打った方がいいのかもしれないけど...いい考えが全然でてこない。

イリナが話しかけてくる。



 「なあ、やっぱり同化しようぜ...透明化ができれば、もしもの時に役に立つぞ」


 「確かにそうだけど、ほんとにいいの?」


 「ああ、やろうぜ! 大丈夫だよ、心配すんな!」



イリナの体が、金色に淡く輝く。

いきなりの事で、どうしたらいいか分からない。



 「ララ...しばらく会えないけど、また遊ぼうぜ!」


 「いつも、いきなりなんだから...またね」



イリナの体は、輝きながら私の体へ吸い込まれていく。

あまり実感はない...けど、私の体の中でイリナが眠っているようだ。

というより、突然すぎじゃない?

同化する前に、もう少し話とかしたかったし...フィーだって寝てるのに。

まあ、イリナらしいのかな?

ララちゃんも、寂しそうにしている。



 「ミルトちゃんの体の中で、眠っちゃったんだね...いつも、突拍子もないんだから」


 「ほんとにね...もう少し、ちゃんと皆で話したかったのに」


 「せっかくだし、透明化できるか確かめてみようよ...やり方は、イメージするだけだよ」



自分の体が、透けるようなイメージをした。

体は透明になったけど、服が宙に浮いてる状態になっている。



 「あれ...服は透明化できないの? イリナの服は、透明になっていたのに」


 「もう少し慣れたら、服も透明化できるようになると思うよ」


 「じゃあ、練習しないとね」


 「でも、やりすぎは注意が必要だよ...魔力の消費が激しいし、連続で透明化するとかなりの負担になるから倒れちゃうよ」



なるほど...気を付けないとね。

私は、透明化を解除するようにイメージする。

透けていた体は元に戻り、ある事に気がついた。

そういえば、マーレさんがいなくなっている...どこに行ったのかな?

雑貨屋の中に居るんだろうけど、どうしたんだろ。

少し時間が経ち、マーレさんが濃い青色のリボンを持ってくる。

それは、ただのリボンではなく魔道具の一種で髪に結ぶと髪の色が変わるという。



 「髪型や色が変われば印象が変わるし、遠くから見る分には誤魔化せたりするものさ...あと、ミルトちゃんがいいなら前髪を切ってあげようか?」


 「ずっと前髪で目元を隠していたんですけど、良い機会かもですね...お願いします」



自分の容姿に自信がなくて、痒くても目に入っても前髪を伸ばして顔を隠していた。

この伸びた前髪を、バッサリ切ってしまえば印象がガラッと変わって、あの変態達は気が付かないかもしれない。

マーレさんが、ハサミとくしを持って来て私の前で構える。



 「じゃあ、いくよ...」


 「お願いします」



ジョキジョキと切られた前髪が、床に落ちていく。

目に入らないように、瞼を閉じて切り終わるのを待った。



 「うん...上手くできたんじゃない? ほらっ、鏡を見てごらん」


 「わっ、すごい...私じゃないみたい」



子供の頃から、一定の長さを維持して目元を隠していた前髪が短くなり、地味な感じから爽やかな印象に変わった。

マーレさんは、魔道具のリボンで後ろの髪を結んでつけてくれる。

黒かった地毛は、綺麗な白色になった。

こんなに見た目の印象が変われば、あの変態達は気づかないかもしれない。



 「可愛いんだから、少しはオシャレもしないとね」


 「嬉しいけど...ちょっと、恥ずかしいです」



褒められ慣れていなくて、恥ずかしくて体温が上がる。

でも、すごく嬉しい。

大好きな人達に、見た目を褒められて嫌な訳がない。



 「皆...何してるの? あれっ、ミルト...髪の色も前髪も変わった?」



フィーが、目を覚まし起きてきた。

私の容姿は、かなりの変化があったはずだけど...すぐに気づいてくれて嬉しい。

近くまで来て、じっと観察をするように見つめてくる。



 「...どうかな?」


 「前のミルトも好きだったけど、今のミルトも好き」



前も今の私も好きと言ってくれて、すごく嬉しい。

マーレさんは、フィーにもある物を持ってくる。



 「フィーちゃんには、これをね」



マーレさんは、大きなフード付きの紺色のローブをフィーに着せる。

エルフの耳は目立つからと、何か隠す方法を考えてくれていたみたいだ。

よく似合っていて可愛いし、このローブも特殊な素材で作られており丈夫なようだ。



 「マーレ、ありがとう」


 「二人とも、もう私の子供みたいもんだし...いくら手間と金をかけても苦じゃないよ」



マーレさんは優しく微笑む。

私は、そんなマーレさんにある感情が芽生えていた。

お母さんが居たら、こんな感じなのかな?

初めて生まれた感情は、心地よくて気持ちいい。

今まで、足りなかった部分が満たされていく。



私達は、夕飯を食べていつも通りの平穏な時間を過ごした。

明日に備えよう、今はこの幸せな気持ちのまま眠りにつきたい...。


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