6話 初めての友達と手紙。
「変な耳ぃ~、でも髪の毛が桜色で可愛い~」
「この耳はエルフだからだよ、瞳の色も桜色なんだね」
フィーは、二人の女の子に興味を持たれている。
まあ、目立つ容姿をしているのは間違いない。
女の子二人は12歳くらいの子供で、私達は雑貨屋を出て露店の甘いお菓子を堪能していた時に話しかけれた。
二人の名前は、レンカとモーナという名前のようだ。
雑貨屋の近所に住んでいて、露店や公園があるこの辺りでよく遊んでいるらしい。
「こっちのお姉さんは、おっぱいが凄く大きいね!」
「ちょっと、レンカ! ごめんなさい、この子思った事がすぐ口から出てくるの...でも、大きいね」
私の胸に視線が集まる。
まあ、純粋な子供の感想だからいいか。
「そうなんだね、気にしてないから大丈夫だよ」
「...近い」
私の後ろに、フィーは隠れてしまう。
このレンカという少女は、無邪気に距離を詰める癖があるのか鼻と鼻が僅か数センチの距離まで接近してくる。
可愛いんだけど、真顔で急接近されると流石に怖いと思う。
「ほら、レンカがぐいぐい行くからこの子警戒しちゃったじゃん」
「えー、でも普段見ない子だから気になったし...せっかくなら、仲良くなりたいなって思っただけだもん!」
どうやら、この子達はフィーと友達になりたいようだ。
せっかくだし良い機会だと思う...友人は、何人いても損はないはずだ。
ちなみに、私には今まで友達はいた事がない。
育った町には、同年代の子が何人かいたけど親から厳しく言われていたのか、話しかけても徹底的に避けられ無視された。
我ながら、すごく暗くて寂しい子供時代を送ったと思う...できれば、フィーにはそんな思いはしてほしくない。
「ねー、フィー? この子達と遊んでみたら? きっと楽しいよ!」
「...遊ぶの?」
不安なのかな?
乗り気ではないよね。
私の話を聞いて、レンカちゃんがまた接近してくる。
「ねっ! お姉さんもこう言ってるし遊ぼっ!」
「ほら、また近いって...ビックリさせちゃうでしょ」
レンカちゃんが接近して、モーナちゃんが注意する...バランスが取れた二人なのかな?
フィーは、私の後ろに隠れながら様子を伺い可愛い提案をしてくる。
「ミルトも一緒...じゃないとイヤ」
ピッタリと体を寄せて私の服の袖をギュッと握りながら、そんな事を言われるとキュンとしてしまう。
可愛くて抱きしめてしまいそうになるけど、私はぐっと堪えてフィーに言う。
「じゃあ、そばで見ててあげるから安心して遊ぼうね!」
「...うん」
まだ不安そうだけど、同年代の子と遊ぶ事は良い思い出になると思う。
私には、そんな思い出も経験もなかったし...フィーには経験してほしいね。
レンカちゃんとモーナちゃんが、今日の目的の場所へ導いてくれる。
「よし、それならこっちだ! 猫のたまり場があるんだけど、数日前に子猫が生まれてすごい可愛いんだぞ!」
「今日は、そこに行って猫達と遊ぼうと思ってたところなんです...でも、驚かせないように静かにしないとね」
猫!
しかも子猫も!
私は、猫が好きで声にこそ出さないけど心の中ではウキウキしていた。
「猫? 子猫...? なにそれ?」
「もしかして、猫を見た事ないのか? なら、楽しみにしとけって!」
私達は、少女二人に案内されて公園から少し離れた廃材置き場へ行く。
すると6匹の猫が、私達を見てニャーと可愛い鳴き声で出迎えた。
レンカちゃんがポケットから何かを取り出す。
出てきたのは、透明な袋に入れられた魚の切り身のようだ。
レンカちゃんの脚に、すりすりと猫達が頭をこすり催促する。
「ちょっと待ってろよ...モーナ、あれを出してくれ」
「うん...はい! これにね」
モーナちゃんが、廃材置き場の隅に放置されている家具の引き出しから、皿をいくつか取り出した。
なるほど、いくら動物だからって地面に直置きは可愛そうだと思っての皿か...この子達、きっといい子なんだね。
皿もちゃんと洗っているのか、汚れておらず綺麗だ。
綺麗に並べて、小さく切り分けた魚の切り身を置いていく。
猫達も行儀よく待っていた。
「よし、いいぞ!」
「にゃー!」
「すごいね...ちゃんと、躾けられてるよ」
猫達が、一列に綺麗に並び皿の中の餌を食べている。
その何でもない光景が、とても癒しになるし可愛い。
嬉しそうに、モーナちゃんが語る。
「苦労したんですよ、初めの内はよく逃げられて餌を持ってきても相手にされなくて...でも、今じゃ私達を見ると来てくれるんで...ふふっ可愛い」
「これ、魔物?」
フィーは、少し怪訝な表情をして猫を見つめている。
そっか...アトラ樹海にいて魔物ばかり見てきたから、動物と魔物の違いが分からないのかな?
ちゃんと教えてあげないと...そう思った時に、レンカちゃんが口を開く。
「違うよ、魔物じゃなくて何の害もない動物だよ...可愛いだろ?」
「...確かに、モフモフしてて可愛い」
「だろ、でも知らない事が多いんだな」
変な誤解を与えないように、私は簡単に説明する。
「フィーは記憶がなくてね...今は、いろんな事を少しずつ覚えているとこなの」
「複雑な事情があるんですね...そういえば、お姉さんとフィーちゃんってどうゆう関係なんですか?」
「えっとね、私はフィーの保護者ってとこかな」
詳しく説明すると長くなるし...レンカちゃんはあまり興味がなさそうで、モーナちゃんは何かを察したのかそれ以上は聞かなかった。
フィーは、魚の切り身を食べている猫達をよく見ている。
可愛い生き物にちゃんと興味があるようで、触りたくて少し手を伸ばすが二人の話を思い出して手を引っ込める。
その様子を見たモーナちゃんは、廃材の板が積まれている場所の後ろから小さな子猫を手のひらに乗せてきた。
「この子の親猫は、今は居ないみたいだし今の内だよ!」
モーナちゃんは、フィーに手のひらを出すように言ってその上に子猫を乗せる。
「柔らかくて暖かい...小さくて可愛い」
「落とさないようにね」
「うん、落とさない」
フィーは、その小さくて可愛い存在に心が奪われ優しく微笑んでいる。
こんな風に、微笑むフィーは初めて見たかもしれない。
すごく可愛い...子猫もフィーもその様子はとても絵になる。
今度は、レンカちゃんが子猫を連れてくる。
「お姉さんも、ほらっ!」
「わわっ、ありがとう! 小っちゃくて可愛い!」
「えへへっ、喜んでくれて嬉しいよ!」
フワフワな毛で覆われた子猫は、みゃーっと可愛い鳴き声をあげている。
歯も生え揃っておらず、母猫の乳首を探しているのかチュパチュパと手のひらや指に吸い付いてくる。
可愛い...これは、母性本能を擽られてしまう。
「あっ、レンカちゃんお母さん猫が来たよ」
「おっと、お楽しみはここまでかな...子猫を返さないとな」
母猫が来たのなら仕方ないね。
私達は二人に子猫を渡すと、二人は廃材の裏に行き子猫を母猫に返してきたようだ。
ついでに、母猫の分の魚の切り身も皿に乗せてから戻ってくる。
あとは親子の時間だし、二人に促されて廃材置き場から私達は移動した。
次は、どこへ行くのだろう?
そう思っていると、お菓子屋さんに着いた。
ダンゲ菓子店と、看板が掲げられている。
もしかして、あのダンゲさんの店なのか?
来る度に、お菓子を持って来てくれたけど...お菓子屋さんだからか。
二人の話では、子供には店の中限定でお菓子を無料で提供してくれるらしく、二人はよく訪れるという。
店の中へ入ると、いらっしゃいと元気な声が聞こえてくる。
レンカちゃんとモーナちゃんを見た、ダンゲさんの表情はとても明るい。
その二人の後ろから現れた私達...特にフィーを見た途端に、更に表情は明るくなり少し怖いくらいだった。
「フィーちゃんとミルトちゃんも、来てくれたんだね!」
「おじさん...いつもより嬉しそうだな」
「ほんとだね、フィーちゃんを見てからすごく嬉しそう」
どうやら、二人も気づいたようだった。
ダンゲさんは、フィーの事がお気に入りなのか特別な感じが伝わってくる。
これだけだと、いかがわしい事を考える怪しいおじさんだけど...実際は、心優しい子供想いの気の良いおじさんだ。
ダンゲさんは、焼き上がったばかりの美味しそうなクッキーや生菓子と、果物を絞ったジュースをご馳走してくた。
私達は席につき、お菓子やジュースを堪能する。
「たくさんあるから、遠慮しないでね」
「フィーちゃんの分だけ量がすごいね...」
「食べきれるのか...」
二人は、小さな体で次々とお菓子を食べていくフィーを驚きながら見ている。
確かに、皿に盛られたお菓子の量は私達と比べてだいぶ多い。
ちなみに、私はダンゲさんから見ればまだまだ子供なのか、無料でお菓子とジュースを頂いている。
フィーが食べ終わり、おかわりをする。
ダンゲさんは、それを喜びながら皿を受け取りお菓子を盛り付けてフィーの前へ置く。
初めの頃に比べて、フォークの使い方が上手くなっているけど、相変わらず口の周りを汚して食べていて幼くて可愛い。
2皿目も食べ終わり再びおかわりをした。
「すごいね...よく、お腹の中に入るね」
「でも、いい食べっぷりで清々しいな」
「いっぱい食べてくれる子供は大好きでね...皆もほらっ! 遠慮しないで、おかわりしていいんだよ!」
ダンゲさん...こんなにお菓子を無料で食べさせて、店の経営の方は大丈夫なのかな?
でも、私も甘いお菓子に食欲が湧く。
「それじゃあ、私もおかわりいいですか?」
ダンゲさんの目が輝く。
いっぱい食べる子が大好きという言葉に嘘はなく、ダンゲさんの声が跳ねとても嬉しそうだ。
「いいね! ミルトちゃん、いっぱい食べてね!」
おかわりを貰い、和やかな雰囲気でお腹も満たされ幸せな気持ちになった。
フィーは、レンカちゃんやモーナちゃんと打ち解けたようで楽しそうに会話ができている。
好きな物や色とか、子供らしくて可愛い会話だ。
明日も遊ぼうと誘われて、フィーは私の方を見てくる。
まだ、私が一緒でないと不安のようで傍に居てほしいとの事だ。
フィーの頭を撫でて、いいよと返事をする。
二人とも、それを喜んでくれて明日の昼過ぎに公園に集まる事になった。
お菓子を食べ終わり、マーレさんやイリナとララちゃんのお土産にお菓子とジュースを購入した。
外に出ると、少し暗くなり始めて夕焼けが綺麗だった。
私は、二人の帰り道が心配なので家まで見送り雑貨屋へ帰る。
ただいまと雑貨屋の扉を開くと、おかえりと返され私は感動を覚える。
家族であれば当たり前の事だろうけど、私にとっては初めての事でそれがとても嬉しい。
お土産のお菓子やジュースを渡すと、マーレさんやララちゃんとイリナが喜んでくれた。
夕飯を食べ終え寝支度をしていると、マーレさんが部屋にやってくる。
どうやら、私にあるお願いをするためのようだ。
「寝る前で悪いけど、ちょっといいかい?」
「はい、なんですか?」
「ちょっと、頼まれてくれないかい」
マーレさんの手には、一通の手紙が握られていた。
どうやら、娘さんに書いた手紙を私達に届けて欲しいとの事だった。
レラの城下町に働きに出てから、何の連絡もなく心配だとか...。
一人娘から、何の連絡もなければ心配になるのは当然だと思う。
それに、手紙などの郵便物は届けたり受け取る手段は限られている。
身分の低い民間人は、旅人や行商人などにお金を渡し届けてもらうのが一般的だ。
しかも確実に届く保証はなく、よほど信頼できる顔見知りか友人出ない限り信用はできない。
そこで、レラを目指している私達にお願いするとの事だった。
「頼まれてくれるかい?」
「はい! ぜひ、責任を持って届けますね!」
「ありがとうね...ミルトちゃん達なら信頼できるし、手紙が帰ってくれば無事に着いたと確認もできるしね」
これで、少しは恩返しできるかな?
私達にできる事なら何でもして恩返ししたい...。
それほど、私達は良くしてもらっている。
私の肩に、フィーの頭が寄りかかってくる。
眠気が限界のようで、寝落ちしてしまったらしい。
「眠ってしまったようだね...それじゃ、私は自分の部屋に戻るからゆっくり休んでね」
「はい、マーレさんおやすみなさい」
「おやすみ」
一緒にベッドに入り眠りに付く準備をする。
このベラの町には、あと何日滞在しよう?
フィーに友達ができた事だし、もう少し居てもいいと思うけどマーレさんの手紙の事もある。
「うーん、難しいな...」
せっかく友達ができたのに、ベラの町をすぐ離れてしまっては寂しい思いさせてしまうのではないか?
友達がいた事のない私には、いい考えが浮かばない。
とりあえず、眠ろう...。