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5話 優しいおじさんと失礼な訪問者。


あれから4日は経つ。

私達は魔法石にマナを込める作業をしながら、のんびりと幸せな時間を過ごしていた。

また、余った時間は雑貨屋での簡単な接客と店内の掃除をしたり、食べ終わった後の食器洗いもこなしている。

高価な服の代金代わりのお手伝いだけど、その代金分の対価になっているかは正直分からない。

純金貨5枚は大金だし、一般的な家庭であれば純金貨1枚で余裕をもって一月分の生活費になる。



そんな事を考えていると、お客さんが来た。

この人は、定期的に来る常連さんのようで私達が接客するようになってから毎日来てくれる。

フィーの可愛さに一目惚れをしたと言うと怪しく聞こえるが、どうやら違うようで子供好きの気の良いおじさんのようだ。

初めは、このおじさんに対して人見知りをして私の後ろに隠れてしまっていたが、毎日通う事で慣れたのか今では普通に会話ができている。

分かった事は、フィーは初めて会う人とは目の前で向かい合う事が苦手のようだ。

例外で言うなら、妖精のような小さな子は大丈夫みたい。

でも、私に対して人見知りをしなかったのはなんでかな...分かんないや。



 「フィーちゃん、これ食べるかい?」


 「...? 何これ?」


 「シュークリームっていう生菓子だよ、甘くて美味しいよ」


 「うー、今はお仕事してる...ダメ」



美味しそうなお菓子の誘惑に打ち勝ったようだ。

ちゃんと、仕事に責任感を持っていて偉いね!

その様子を見ていると、マーレさんがやってくる。



 「おや、ダンゲさん生菓子を持ってきてくれたのかい...ミルトちゃんにフィーちゃん、休憩していいから召し上がりなさいな」


 「マーレ、ダンゲ、ありがとう」



このダンゲさんは、私の育った町の男達とは違っていやらしい感じはしない。

だから、このシュークリームも気持ちよく食べられる。

フィーは相変わらず、口の周りを汚し無邪気に食べている。

ダンゲさんは、その様子をニコニコしながら眺めていた。



 「子供の無邪気な姿は、ほんとに癒されますな」


 「ええ、ところで今日は生菓子を届けに来ただけかい?」


 「そうだね、ルミナス草を10束ほど頼むよ」


 「はいよ、小金貨1枚だよ」



けっこう買い込んでいる。

ちなみに、小金貨1枚は銀貨10枚分の価値で小金貨が20枚で純金貨の1枚分の価値になる。

あとは、銅貨にも3種類あり、小、中、大がある。



 「フィーちゃんミルトちゃん、またね」


 「はい、ごちそうさまでした」


 「ごちそうさま」



ダンゲさんは、そう言い店を後にした。

ここ数日ほど、穏やかな日々を過ごして私の目指す暮らしはこれだと思った。

このまま、マーレさんのとこでお世話になるのもいいかな?

図々しいかな...でも、夜はちょっと子供の教育に悪いというか、外は爛れた大人の世界が広がっているしな。

実際にマーレさんから注意されたけど、ただでさえ数が減っているエルフでしかも子供とくれば希少な存在で、この国は奴隷制度を禁止していて罰則もあり重い罪に問われるにも関わらず、誘拐され取引されるケースも未だにあるとか。

数百年前は、エルフの幼い女の子は純金貨1000枚以上で取引された事件もあり、噂の域を出ないが数が減った現在でもその額を上回る取引が未だに行われているという。

だから、この雑貨屋でお世話になってからは外へは出ていない。

ちょっと忘れていたけど、私も追われているし...身を隠すにはちょうどよかった。

夕暮れが近づき、店を閉める準備をしていると騒がしい男がやってきた。



 「おおっ、これが噂のエルフの子か...やっと見つけたぞ、なんとも愛らしくて可愛いではないか」


 「あのー、うちの子に何か用ですか?」



フィーは素早く私の後ろに隠れる。

だけど、この騒がしい男はフィーの顔を見ようとして覗き込んでくるので気持ち悪い。

私は、その行動に苛立ち声が大きくなる。



 「やめてもらえませんか? うちの子が嫌がっているので、いい加減にしてください!」


 「うちの子? お前は、人間で血縁関係はないだろ?」


 「おっしゃる通り、血の繋がりはないけど私はこの子の保護者です!」


 「ほうほう、そうか...ならこの子を養子に貰いたいのだが、純金貨2000枚でそうだろう? 足りないなら、もう少し色を付けるぞ」



この人は何を言ってるの?

理解できない。

いきなりやってきて、養子にするからとお金をチラつかせて...馬鹿にしているのか?

怒りが込み上げてきたけど冷静に...。



 「どんなに、お金を積まれてもそんな話はお断りです! 帰ってください!」


 「なんだと、失礼な女だな! こんないい話は滅多にないんだぞ? いいから、その子をよこせ!」



フィーに掴みかかろうとしたので、私は両手を前へ突き出し男を吹き飛ばした。

店の中だという事を忘れていたけど、幸いにも突き飛ばした先には何もなく店の物を壊す事がなく安心した。

男は、私みたいな力の弱そうな少女に突き飛ばされた事が理解できないのか、間抜けな表情でへたり込んでいる。

外に出ていたマーレさんが、物音を聞いて店の中へ戻ってきた。

それと、店の奥の個室で作業していたイリナとララちゃんも心配になって飛んできた。



 「一体、何があったんだい?」



さっきまでの話の内容を伝える。

すると、マーレさんの表情が険しくなった。



 「お前、養子と言いながらこの子を誘拐する気だったんじゃないかい?」


 「違う! ホントに養子だよ...ちゃんと金は支払うんだしさ、一生遊んでいける金だぞ? なっ、いいだろ?」


 「人を馬鹿にするのも、いい加減にしろっ!」


 「ひぃっ!」


 「うるさいからね、つい本気で殴っちまったよ」



情けない悲鳴をあげ、マーレさんの怒りの拳が男の腹に突き刺さり気絶したようだ。

マーレさん...けっこう強いな。



 「こんな男に、純金貨2000枚もどうやって用意できるって言うんだい? どうせ、変態貴族あたりに売り飛ばす気でいたに決まっているさ」


 「ちょっと怖かった...マーレ、ありがとう」


 「いいのさ、今から憲兵団の本部にこいつを突き出してくるから、店の戸締りをお願いね」



マーレさんは、男を縄で縛り肩に担いだ。

けっこう力が強いのか、軽々と持ち上げ憲兵団の本部へ向かっていった。

私達は、言われた通りに戸締りをしっかりしてマーレさんの帰りを待つ。



 「あの人、もう来ない?」


 「うん、もう来ないから心配ないよ」



少し不安になっているね。

フィーの様子を見て、イリナとララちゃんが安心させようとする。



 「大丈夫か、フィー? 頭撫でてやるぞ」


 「私も撫でちゃうね!」



よしよしと、二人の小さな妖精が頭を撫でている。

私はまだ怒りが収まらなかったけど、3人の様子を見ていると気持ちが落ち着いてきた。

それに、自分よりも大きくて強い魔物を素手で倒せるフィーでも、人間の男に凄まれて大きな声を出されれば怖いって思うのは仕方ないのかもしれない。

子供からすれば、大人は頼れる存在であると同時に怖いって思っちゃうのが自然だしね。



 「ただいま、戻ってきたよ」


 「おかえりなさい、どうなりました?」


 「あいつ、ずっと気を失ったままで牢に入れられてね...あと、明日の昼過ぎくらいに憲兵のアレックスっていうのが事情を聴きに来るけど、良い奴だから緊張しないで聞かれた事に答えればいいよ」


 「分かりました」 



どんな事を聞かれるのかな?

まあ、悪いようにはならないと思うけどね。

マーレさんはキッチンに行き、夕飯の準備をしている。

私も手伝おうかと思ったけど、休んでいなさいと言われてフィー達とソファに座り肩を寄せた。

夕飯を食べてお腹を満たし、寝る準備をしてベットに入るとフィーがいつもよりも密着してくる...まだ、不安なのかな?

フィーが眠りにつくのを待ってから瞼を閉じた。





どうやら寝坊したようだ。

時計を見ると、すっかり寝過ごしていてお昼前になっている。



 「しまった...魔法石にマナを込めたり、店の中の掃除もしないといけないのに...もうこんな時間だよ」


 「マーレが、今日は休んでいいって言ってた」



珍しい事に、私よりも先にフィーが起きている。

いつもより早く目が覚め、眠っている私を起こそうとしたけど起きなかったようだ。

マーレさんが様子を見に来て、今日はもう休んでいなさいと言われたらしい。

私が眠っている間に、フィーは朝食を食べてベッドに戻ってきて傍に居てくれたようだ。



 「そうだったんだ...私よりも早く起きてたんだね、おはよう」


 「おはよう、ミルトずっと寝てたから静かにしてた」



気を使ってくれたんだね、子供なんだから気にしなくていいのに。

ガチャっと扉が開き、マーレさんが声をかけてくる。



 「起きたね、昼ご飯はできてるから食べなさいな」


 「おはようございます...すいません、寝過ごしちゃいました」


 「いいのさ、聞いてると思うけど今日はそのまま休んでいていいからね」


 「はい、お言葉に甘えさていただきます」



お昼ご飯を食べ終えて、事情を聴きに来る憲兵のアレックスという人を待っている。

店の扉が開き、綺麗な制服に身を包んだ大きな男性がやって来た。

姿勢がよく、紳士的で優しそうな眼と声をした人だった。

店の奥の客間のソファに座り、私とフィーはアレックスさんと向かい合う。

挨拶をして、昨日の出来事を聴かれ私が話す事を何かの用紙に書いていた。

一通り話が終わると、今度はこの件とは関係のない個人的な事を聴かれる。

下手に隠し事とか、誤魔化したりはしない方がいいと思った。

このアレックスという人からは、誠実さと正義感が伝わってきて信用できそうだったからだ。



 「二人は、どういった関係かな?」


 「見ての通りなんですけど...血の繋がりとかはなくて、アトラ樹海の中でこの子を見つけて...今では、一緒に旅をして私は保護者という事になってます」


 「アトラ樹海の中でね...複雑な事情があるのかな? いや、言いづらい事なら無理に話さなくて構わないよ」


 「はい、その方が助かります」


 「実は、エルフの子供と聞いたから少し疑っていたんだ...人身売買をする輩には、君のような普通の子を脅して利用する事があるからね...でもいらぬ心配だったよ、その子は君の事を信頼しているようだしね」



フィーは、アレックスさんを少し警戒しているようで私にピッタリとくっついている。

その様子を見て、疑いは晴れたのだろう。

ちょっとだけ疑われてたのは気分が悪いけど、他の人から見ても怪しく見えるのかな?

これからは対策を考えなきゃな。



 「人員を増やして、この周辺の見回りを強化するから君達がこの町に滞在している間は安心してほしい...昼間の明るい時間帯なら、外に出ても安全なようにね」


 「あの、ありがとうございます...私達のために、そこまでしてくれて」


 「いいんだよ、この町の治安はあまり良くないからね...他の町から、男達が仕事を求めてやってくるうえに素性も分からない者が多いし、せめて昼間だけでも子供達が安心して遊べるようにしてあげたいんだ」



アレックスさんは、優しい声でそう言う。

その優しい気持ちは、フィーにも伝わったようだ。



 「おじさん、ありがとう」


 「おっ、やっと声を聞かせてくれたね...外で遊ぶ時は、必ず大人と一緒で暗くなる前に店に帰るんだよ...では私はこれで失礼するよ」


 「ばいばい」



私の傍で手を振るフィーを見て、アレックスさんは優しく微笑みながら手を振り憲兵団の屯所へ帰っていく。



そういえば、今日で5日目か...あと2日で約束の一週間だよね、その後はどうしようかな?

あとで、マーレさんに相談してみようかな。



 「アレックスは帰ったようだね」


 「はい、無事に終わりましたよ」


 「紳士的で、いい奴だったろ?」


 「はい、私達の関係を聞かれましたけど...納得してくれたみたいで、よかったです」


 「よかったね、それとあと二日で一週間になるけど、あんた達どうするんだい? この町を出て旅を続けるのかい?」



相談しようと思っていたら、マーレさんから話を振ってくれた。

お金がないし、まともな旅道具もないからこの町に滞在するしかなさそうだけど。



 「お金もないですし、どうしようかと思ってました...その、もう少しお世話になってもいいですか?」


 「金の事なら心配しないでいいよ...これは、あんた達への報酬だよ」



マーレさんは、お金の入った3つの小袋を渡してくる。

えっ、報酬ってどうゆうこと?

私達は服の代金の代わりにお手伝いをしていただけだし、報酬を貰うような仕事をした覚えはないけど...。

しかも、重い...。

小袋の中を見ると、銅貨や銀貨に純金貨まであるし大金だ。



 「どうゆう事ですか...これ?」


 「魔法石にマナを込めていただろ、実は単価がかなり高くて服の代金分の稼ぎはとっくに終わっていたのさ、それはこっちの取り分を引いた差額分の報酬だよ...あと、これも受け取りな」



見覚えがある...これは、私達が余った時間にマナを込めていた魔剣だ。

鞘から剣を抜くと、刃の部分は魔力を帯びているのか妖しく光を放っていた。



 「これ、いいんですか?」


 「私が趣味で集めた物の一つで使う事もなくてね...護身用として持っていきなさい」


 「何から何まで...でも、こんなに受け取れませんよ」


 「気にしないで受け取りな...あとフィーちゃんには、これだね」



マーレさんは、フィーに拳や指の関節を保護するように加工された手袋を渡す。

フィーの手に合わせて、店に置いてある特殊な素材でマーレさんが作ってくれたようだ。



 「イリナちゃんに話を聞いたけど、フィーちゃんは素手でアトラ樹海の魔物達を殴り倒すくらい強いんだってね...でも、この小さな手で殴り続けてたら拳や指をケガすると思ってさ、受け取ってくれないかい?」


 「マーレ、ありがとう...大事にする」



手袋の受け取り、フィーは嬉しそうにしている。

でも、見ず知らずの私達にこんなに良くしてくれるのは何故だろう?

私は、気になって聞いてみる事にする。



 「あの、聞いてもいいですか?」


 「なんだい?」


 「どうして、こんなに良くしてくれるんですか?」


 「私には娘がいるんだけどね、今はレラに働きに出ていて歳もミルトちゃんと同じくらいかな? それで、娘と重ねてしまったと言うか...ほっとけないからお節介を焼いただけさ」



マーレさんに娘がいたのか...けっこう、若く見えるけど意外だったな。

私は成人してるけど、マーレさんから見たらまだまだ子供なのかな?

それにフィーもいるからね...娘がいる親として、見過ごせなくて世話を焼いてくれたんだね。

純粋にマーレさんの気持ちが嬉しいな...私には育ての親はいたけど、まともじゃなかったからね。



 「今すぐとは言わないけど、この町に留まっていても夜は男どもの欲望で満ちているこの町じゃ、フィーちゃんに悪い影響を与えるかもしれないし...少しでも治安の良いとこを探したほうがいいよ」


 「マーレさん、ホントにありがとうございます」


 「まあ、約束の一週間まであと二日はあるしゆっくり考えればいいよ...お手伝いはもうないし、憲兵が見回りをしてくれるって言ってたから昼間でこの辺なら外で遊んでも大丈夫さ」



私達は、マーレさんから頂いた魔剣や手袋にお金を借りている部屋へ持っていく。

ほんとに、何から何まで感謝しかないな。

何か恩返しをしたいけど...何ができるかな?

あとで、マーレさんに聞いてみようかな。



 「外に出てもいいの?」



フィーが、部屋の窓から外を眺めてそう言う。

今日は、すごく天気が良いし子供達の楽しそうな声もよく聞こえてくる。

もしかして、フィーも同年代くらいの子供には興味があるのかな?

誘拐のリスクを恐れて今まで外に出なかったから、少しストレスが溜まっていたのかもしれない。



 「そうだね、ちょっと外に出て遊びに行こうか」


 「うん、美味しそうな匂いがあっちからする...行きたい」



おっと、子供達の方じゃなく食べ物の匂いに釣られたのか。

でも、確かに甘くていい匂いがするね。

マーレさんから、たくさんの報酬も貰ったし食べ歩くのもいいかもしれない。

私達は、マーレさんに外へ遊びに行く事を伝えると手書きの簡単な地図を貰った。

この地図には、治安の悪い場所やトラブルに巻き込まれそうな場所が分かりやすく記されている。

ほんとに、優しい人だと思う。

私達は雑貨屋を出て、美味しそうな匂いの元を目指し歩き出した。 


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