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4話 ベラの町とお世話になる雑貨屋。


 「人がいっぱい...」


 「いっぱいだね! けっこう都会で驚いたよ」



アトラ樹海を抜けて、人里を目指し歩いていると夕暮れ時には町へ着いた。

この町は、レラの国では辺境の地で魔力を含んだ宝石やその欠片が地中からよく出土され、それを財源に都会化したとか。

魔法石は、あらゆる装備と道具や家庭用品の素材などに使われるので需要が高く、採掘をする労働者の日当も非常に高いため各地から人が集まってくる。

仕事を終えた労働者達なのか、土や泥で汚れているが表情はすがすがしい程に明るく大声で会話をしている。



 「おめぇら、今日も酒と娼館で体を休めるぞ!」


 「へい! 今日もため込んだ欲望を発散して、明日も頑張っちゃいますよ!」


 「ばーか! 頑張るのはこれからだろうが! 上手い飯といい女を抱くために、俺らは昼間汗を流してんだ!」


 「親方の言う通りだ、夜は頑張るぞーっ!」


 「おう!」



私は、思わずフィーの耳を手で塞いだ。

この人達の会話は、フィーの教育に悪い。

なんだろうな...私の中で、男性という生き物に対しての嫌悪感が少しずつ深まっていく。

それに、私の今の恰好はまずいかもしれない...。

服が破れて肌が露出しているから、今の男達を刺激してしまいかねない。



 「早く服を探さないと...今の男達みたいな人に見られたら、ちょっと怖いからね」


 「確かに、ミルトは胸も尻も大きいし地味だけど顔も可愛いからな...こっちだ、こっちから知り合いのマナを感じるぞ」



自分の容姿に自信がないのだけど、さりげなく地味で可愛いって言われた...地味は余計じゃないかな?

とりあえず、今はイリナの知り合いの元へ向かわないと。

町の中を歩いていると、夜の店が活気づいている。

酒場からは騒がしい男達の声が聞こえてくるし、道の脇には下着と言っていいくらいに露出の激しい大人のお姉さん達がたむろしている。

いわゆる娼婦って人達か?

男達の目を引き、個室に案内していかがわしい事をしてお金を得るのだろうか?

私には理解できない...。

いくらお金が稼げても、自分の体を見ず知らずの男に好き放題されるなんて冗談ではない。



 「あの人達、寒くないの?」


 「えっと...そうだね、もしかしたら暑いから服を脱いじゃったのかもね」


 「あの人、抱きついた」


 「わっ、見ちゃダメ!」



とっさに、フィーの目を手で覆った。

こんな道端で盛るなんてサイテーだ...。

とにかく、私はフィーに見えないように手で目を塞ぎながら前へ進む。



 「ミルト、なんで手で見えなくするの? あの人達はどうしたの?」


 「えっとね...お願い、フィーは知らない方がいい事があるの...見なかった事にしてね?」


 「...分かった、頑張って忘れる」



フィーの聞き分けがよくて助かった。

ホントに迷惑な人達だよ...。

盛り上がっているのか後ろの方から喘ぎ声が聞こえてきて、私はフィーに両耳を手で押さえるように言う。

言われた通りに、フィーは小さな手で耳を押さえて何も聞こえないようにしてくれた。



 「イリナ...他の道はないの?」


 「オレもこの町は初めて来たし、知り合いのマナはこっちの方からしか感じないんだ」



それなら仕方ないか。

目を塞がれ、前の見えないフィーが口を開く。



 「ミルト、前が見えない...もういい?」


 「あっ、ごめんね見せたくない事が多くて...もう大丈夫かな?」



フィーの目の上に被せていた手を退ける。

でも、また盛りだす奴らが現れたら隠さないと...幸いな事に、いかがわしい通りは抜けたのか普通の屋台や露店が出てくる。

美味しい匂いがするけど、お金がないから食べる事ができなくて辛い。

フィーに食べさせてあげたい...でも、今は無理だ。

私は、少し情けなくて悔しい気持ちになる。

それに、この通りだと周囲の人からの視線をいっぱい感じる...と言うよりも、視線はフィーの方に向けられているようだった。

ただでさえ、珍しいエルフで子供だからか?

もしかしたら、あまりの可愛さから誘拐を考える輩もいそうだし、私は視線を向ける奴らを睨みつける。

すると、イリナが声をあげた。

あれが目的地か?

マーレの雑貨屋と書かれた看板が見えてくる。

どうやら、知り合いはここに居るようだ。



 「ここが、そうなの?」


 「ああ、ここからアイツのマナを強く感じるから間違いない」



私は、雑貨屋の扉を開け中へ入る。

中は少し薄暗くて、ぼんやりとした明かりが灯され不思議な雰囲気だ。

見た事のない魔道具がたくさん置かれていて、魔法などに耐性がありそうな加工がされた装備も並んでいる。

他には、薬草と思われる草も棚にいっぱいあり薬っぽい匂いもした。



 「これ、薬草だな...しかも珍しい種類だぞ」


 「そうなの? 普通の薬草にしか見えないけど...」


 「ただの薬草に見えるけど、火傷とか皮膚がめくれるような怪我でも、これをすり潰して塗れば数日で治ってしまうんだ...名称は何だっけかな?」



イリナが、薬草の名前を思い出そうとしていると後ろから声を掛けられる。



 「ルミナス草ですよ、イリナちゃん久しぶりね!」



知らない妖精が羽ばたいて近づいてくる。

女の子らしく、おっとりした雰囲気で優しそうだ。

その後ろからは、店主と思われる人間の女性が出てきた。

なんとなく、若いって事は分かるけど...気が強そうな女性だ。



 「イリナちゃんのマナの他に、大きくて濃いマナの持ち主が二つも近づいてくるから何かと思えば...人間の女の子とエルフの子供で驚いたよ」



優しそうな妖精の子は、私達の事を観察するように見てくる。

そんなに、見られると恥ずかしいのだけど...。

イリナは、かまわず話を続ける。



 「アトラ樹海の中で会ったんだ、こう見えてめちゃ強くて頼りになるから道案内する代わりに守ってもらっていたんだ」


 「そうだったんだね...ここまで来たって事は、私と一緒に暮らす気になったのかな?」


 「まあ、しばらく世話になろうかなって思うけど...ベタベタすんなよ」



イリナは、妖精の子から少し距離を取った。

仲がいいと言っていた気がするけど...どうしてだろ?

不思議に思っていると、話がどんどん進んで行く。



 「気を付けるよ...ところで、この子達は服がボロボロだね」


 「その事なんだけど、どうにかなんないかな? 金は持ってないらしい」


 「お金はないのね...マーレ、どうにかなる?」



妖精は、マーレという名の女性に話を振った。



 「まあ、タダって訳にはいかないし店の手伝いとかをしてもらうかね...それに、女の子二人じゃ不安だしここに住み込みって事でいいね」



私達をよそに、話が勝手に進んでしまったけど良い方向に進んだと思う。

とりあえず、自己紹介しなきゃ。



 「私はミルトで、この子はフィーです」



警戒しているのか、フィーは私の後ろに隠れている。

もしかして、人見知りなのか?

でも、私やイリナにはそんな素振りはなかったけど...子供は難しいな。



 「ミルトちゃんにフィーちゃんね...早速だけどこの子達の服を選んであげようよ、二人とも素材がとってもいいから可愛いの着せてあげよ!」


 「ララの趣味に合わせると、フリフリだらけのコスプレになってしまうから...私が選ぶよ」


 「えーっ、ずるいよ! じゃあ、着せ替えするだけでいいから楽しませてよ!」


 「まあ、それぐらいならいいよ」


 「やったやった、二人とも楽しんでね!」



店は臨時休業になり、私達はボロボロになった服もついでに下着も脱ぎ全裸になっていた。

この雑貨屋には女の子の下着もあるようで、久しぶりに履いた新品の下着は心地いいけど...私は、胸が大きくてブラのサイズがないらしい。

仕方ないので、サラシを巻く事にする。

ララちゃんは楽しそうに服をたくさん持ってくるけど、これを着て外へ出るのは流石に恥ずかしい。

それに、手のひらサイズの体でけっこう力があるね...。

天使の羽とかフリフリがいっぱいで恥ずかしい...フィーが着る分には可愛いのだけど、私が着るといかがわしい雰囲気がしてダメだ。

ララちゃんが一通り楽しんだ後は、マーレさんが服を用意してくれた。

剣士が着るような凛とした雰囲気の服や、魔導士が着ているようなローブなど色々と用意してもらう。

斬撃に強く魔法にも耐性があり、簡単には燃えたり裂けたりはしないくらいには丈夫らしい。



 「これ、すごく軽い」


 「重さを感じないし暑くもないね...でも、私達は冒険者じゃないのに不自然じゃないかな?」



カッコよくて綺麗な服を着た私達の姿は、冒険者のようだ。

私達の様子を見て、マーレさんが言う。



 「人間と幼いエルフの女の子の組み合わせじゃ、そっちのが不自然だから冒険者ぽく見えた方がいいさ」



私は、セーラーカラーが特徴的で白く綺麗な生地に青く縁どられた上着と、チェック柄のスカートと黒いタイツを貰う事になった。

フィーの方は、金色のフレームにはめられた水色の魔法石とスカーフに、所々に装飾が施され白いセーラーカラーが目立つ黒いワンピースを貰った。

なんだか、ものすごく高価な服を貰ったのではないか...。

マーレさんは、セーラーカラーが好みなのかその類の服が多い。



 「服の代金は、両方合わせて純金貨5枚だけど...店の手伝いを一週間で譲ってあげるよ」


 「えっ! 純金貨5枚を店の手伝い一週間だけでいいなんて...ほんとにいいんですか?」


 「趣味で作ったはいいけど、高すぎて売れなくてさ...夕飯も寝床の部屋も用意してあげるから、今日はしっかり休むんだよ」



私達は部屋着も貰い、夕飯の前にお風呂にも入っていいとの事だった。

イリナもお風呂にと思ったけど、ララちゃんと共に奥の部屋へ羽ばたき飛んで行った。

久しぶりに、温かいお湯に浸かれると思うと胸が躍りウキウキする。

さあ、いざお風呂へ!

私は、フィーを抱き寄せて扉を開けた。

まずは、体を洗わないと...石鹸もちゃんと用意されていて最高だった。

泡を立てフィーの体を洗うと、泡を不思議そうに見つめていた。

指についた泡を口に入れそうになり、ダメだよと教える。

頭から足の指先までしっかり洗い、備え付けられているシャワーを使い泡を流した。

このシャワーは、私の育った町にはなくて話で聞いたぐらいだったけど便利ですごく良い。

フィーを湯船に入れて、続いて私の体を洗う。

洗いながらフィーの様子を見ると、お湯の温かさが心地いいのか表情がとろんとしていた。

体をシャワーで流し、湯船に入るけど少し狭い。

私は脚を開き、その間にフィーが座って後ろから密着する形になる。



 「ふぅ、お湯が温かくて気持ちいい...幸せだよ」


 「温かいの好き、あと背中と頭が柔らかくて気持ちいい」



胸の谷間の間に、フィーの小さな頭が収まっている。

頭を小さく動かして、胸の感触を堪能しているようだ。



 「もう、フィーは胸が好きなんだから...」


 「...ダメ?」


 「ダメじゃないよ、でも他の人の胸を触るのはダメだよ...触りたい時は、私の胸を触らせてあげるからね」


 「うん、分かった」



いいのか、これで...なんか違う気がする。

まあ、いいか...。

今は、この至福の時を堪能しよう。



扉を叩く小さな音がする。

どうやら夕飯ができたようで、ララちゃんが知らせに来てくれたようだ。

湯船から出て脱衣所に用意された、ふわふわのバスタオルでフィーと私の体を拭き部屋着に着替えた。

いい匂いに釣られて、夕飯が用意された部屋に行く。



 「わぁ、すごいご馳走ですね」


 「あんた達可愛いから、いっぱい作っちまったよ」



テーブルの上には、たくさんの美味しそうな料理が並んでいる。

この分厚い肉の塊は、ステーキというやつか?

こっちは何の魚か分からないけど、程よく焼けて身がホクホクして美味しそうだし、他にはサラダや蒸したジャガイモにスープもある。

目の前のご馳走に、フィーの目がキラキラしていて期待に溢れている。

席に着いて、お祈りをしてから食事を始める。

私もフィーも、食事前のお祈りは初めてで少し戸惑う。

お祈りが終わり食事を始めると、フィーは手でステーキを掴みそうになり私はそれを止めた。

しまったと思った...。

フィーは、ナイフやフォークの使い方が分からないみたいで教える機会もなかった。

フィーに悲しそうな目を向けられ心が苦しいが、こうゆう場所ではマナーがあるからとナイフとフォークの使い方を簡単に教え、食べやすいようにステーキを切り分けてあげる。

すると、子供らしいフォークの持ち方で切り分けた肉に突き刺し口へ運ぶ。



 「すごく、美味しい」


 「なんだか、フィーちゃんは訳ありな子なんだね」



フィーの様子を見て、マーレさんは何かを察したようだ。

事情を説明しようと思ったけど、口の中に広がる肉の旨味に遮られてしまった。



 「うん、記憶がないの...わっ、肉汁がいっぱい口の中に広がってすごく美味しい」


 「魚も美味しい、いっぱい美味しい」



子供らしく、見た目よりも幼い食べ方で口の周りを汚している姿が愛らしく可愛いけど、綺麗な食べ方をあとで教えなければと思った。

でも、無邪気に美味しそうに食べるフィーを見て、マーレさんは嬉しそうにしている。

マーレさんは、もっと食べさせてあげたいと思ったのか食材を持ってきて調理を始める。

いい匂いが...してくる。

今度は、バラ肉と野菜を濃い目のタレで炒めているようだ。

出来上がった料理を、私達の皿に分けてくれた。

濃い目の味付けで食欲が進み、フィーはもちろん私も全て食べきりお腹が満たされる。

食事が終わりある物を貰う、それは歯ブラシだった。

歯ブラシは職人が加工して手間が掛かる分高価で、一般的にはほぐれやすい安価な木の枝で代用しているのがほとんどだ。

私達は洗面所へ行き、磨き方が分からないフィーの歯を磨くと擽ったそうにしている。

磨き終わり、私達はララちゃんに案内された部屋のベッドに座り体を休める。

そう言えば、イリナは私達から離れてララちゃんと一緒に居るみたいだけど少し寂しいな。



 「...すーすー」


 「あれ? もう寝ちゃったんだね...ベットもふかふかで気持ちいいし、掛け布団を掛けないと体が冷えちゃうよ」



私は、フィーと一緒にベッドの中へ入り掛け布団を被る。

心地いい睡魔で意識が遠のいた。





目が覚めると、温かな感触が私の体へ伝わる。

フィーは、私の体にくっつき小さく寝息を立てていた。



 「腕がちょっと痺れてる...フィーの下敷きになっていたから、血の巡りが悪くなったからかな?」


 「うぅ、むぅ...すーすー」


 「どんな夢を見てるんだろ...きっと、可愛い夢を見てるんだろね」



ほっぺをプニプニして楽しんでいると、部屋の扉が開きマーレさんが起こしに来た。



 「お楽しみの所悪いんだけど、そろそろ起きて朝ご飯を食べようね」


 「はい、フィー起きれるかな?」



少し可愛そうだけど、眠っているフィーの体を揺らして起こす。



 「うぐぅ、うむぅ...まだ、眠りたい...」


 「美味しい朝ご飯が待ってるよ、起きようね...ねっ」


 「朝ご飯...食べる」



食欲が眠気に勝ったようで、眠そうな瞼を頑張って開いている。

私の腕にしがみつき、朝ご飯が用意された食卓まで歩き椅子に座った。

フィーはだいぶ朝が弱い...。

絶望的なくらいに、目覚めていつもの感じになるまで時間が掛かる。

朝ご飯は、焼いたベーコンとスクランブルエッグにパンだ。

シンプルで、最高の朝食だと思う。



 「フィー、自分で食べられそう?」


 「まだ...難しい」


 「じゃあ、口開いてね...はい、あーんして」


 「あー...あぐ」



なんだか、赤ちゃんの世話をしてるみたい。

その様子を、マーレさんは少し呆れて見ていた。



 「可愛いのは分かるけど、甘やかしすぎちゃダメだよ」


 「はい...でも、せっかくの朝ご飯が冷めてしまうかなと思ったのでつい」


 「もう大丈夫...自分で食べる」



まだ、少し瞼が落ちていて眠そうだけど自分で食べるようだ。

フォークを握り、口の中へゆっくりと入れていく。

朝食を食べ終わった後、洗面所で歯を磨き顔を洗う。

身なりを整えて、マーレさんの元へ向かった。



 「さて、服の代金替わりの手伝いはこれだよ」


 「これは?」


 「マナが枯渇した魔法石だよ、これを握ってマナを込めてくれるかい」



マナを込めるって、どうやるんだろ?

私は、とりあえず魔法石を握りイメージした。

空の容器に水を流し込むような...おっ、できた。

魔法石は光りだし、その様子を見たマーレさんは箱をいくつか持ってきた。

けっこうな数の魔法石と思われる石ころが入っている。

この魔法石は、様々な生活用品や炭鉱を掘る時に使われる道具の動力源になっているとか。

いつもは、この仕事の請負をしている魔法使いに頼んでいるけど風邪を拗らせてできないらしい。

たまたま訪れた私達が、たくさんのマナを持っていたため都合がよかったとか。



 「今日は、これ全部にマナを込めてほしいんだけど無理はしないでね」


 「はい、頑張ります!」


 「あとは、時間があればこれもね...マナが枯渇状態の魔剣や杖だけど、マナを込めれば使えるようになるし頼んだよ」



マナが枯渇した武器らしいけど、綺麗な装飾がしてあって高価そうな感じが伝わってくる。

とりあえず、私達は魔法石へマナを込めていく。

魔法石にも色々な色があるようで、マナを込めると様々な色で光り輝き綺麗だった。

お昼前には、今日の分の魔法石にマナを込める作業が終わり魔剣や杖に同じようにマナを込めていた。

一通り終わると、マーレさんがやってきた。



 「おや、もう終わったのかい?」


 「はい、ちゃんとできているか確認してほしんですけど」


 「もう昼になるし、ご飯を食べてから見てあげるよ」



ご飯と聞いてフィーの目が輝く。



 「ご飯!」


 「ふふっ、食べ盛りだろうからね、たくさん作るから待ってなさい」


 「うん、待ってる!」



少し警戒をしていたフィーだけど、今ではすっかり胃袋を掴まれマーレさんに慣れたようだ。

表情はあまり変わらないけど、ルンルンしている雰囲気が伝わってくる。

嬉しそうで何よりだね。

少し待っていると、お昼ご飯ができたようだ。

出てきたのは、ミートボールパスタで大きな肉団子がゴロゴロしていて美味しそうだ。



 「マーレ、これ美味しい」


 「いっぱい食べて大きくなるんだよ、美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ」



マーレさんは、フィーの食べている様子を嬉しそうに眺めている。

ほんとに美味しい、肉の旨味やトマトの酸味と甘みにニンニクの味がよく麺に絡み食欲が刺激される。

フィーの皿が空っぽになり、マーレさんはその皿を受け取って新しく盛り付けフィーの前に置く。

表情がぱぁっと明るくなり、フィーはとても嬉しそうに食事を再開した。

食べ終わると口の周りがすっかり汚れていて、マーレさんからお手拭きを貰い汚れを拭きとる。

まだまだ、幼くて手が掛かるけどそれが愛おしくて可愛い。

フィーは満腹になったからか、ウトウトしていて眠そうだ。



 「午後はする事はないから、ゆっくり昼寝でもして体を休めなさいな」


 「いいんですか? 私だけでも、何か手伝える事があれば手伝いたいんですが」


 「いいのよ、魔法石にマナを込める作業は意外と重労働なんだ...明日も頼むから、減っちゃったマナの回復に専念しておいで」


 「分かりました、フィー歯を磨いてからベッドに行こうね」


 「うん、歯磨いて...」



私達は、マーレさんの言葉に甘える事にした。

もう半分眠っているフィーの世話をして、ベッドの中へ入り眠りについた。






なんだろう...気配を感じる。

私は目を覚ますと、そこには全身フリフリの真っ白なドレスに身を包んだイリナが居た。

ついでにララちゃんも似たような格好で、イリナの腕にしがみついている。



 「あれ、イリナどうしたの? その服...なんだか結婚式みたいだね」


 「ミルト、寝ているところ悪いが助けてほしい」



寝ぼけてて、状況がよく分からない。

助けを求められたけど...どうゆう事だ。



 「だーめ! イリナちゃんは私の物なんだもん、結婚しようねっねっ!」



酒の匂いが少しする。

酔っぱらっているのか?

まだ外は明るいけど、理由を聞いてみるか。



 「えっと、よく分かんないけど?」


 「こいつ酒癖悪くてさ...昨日の夜に1人で酒盛りをして潰れてたんだけど、起きたら迎え酒だって言ってまた酒をあおってすっかり上機嫌さ」



私の中で、ララちゃんのイメージが崩れていく。

妖精の子って、何かしらギャップがある子が多いのか?

酒癖の悪い酔っ払い妖精...。

とりあえず、そのフリフリの服の事も聞いてみるか。



 「その服は?」


 「昔から仲が良くてさ、距離が近いというか友人以上の気持ちがある事は気づいていたんだけど、酒の勢いで無理やり着せられて告白までされてよ...結婚式を挙げるなんて言い出して暴走してるんだよ」



なるほど...ララちゃんは、いわゆる百合って事になるんだね。

お酒を飲んだ事で、その内に秘めた想いが爆発しちゃったと...。

真っ白なフリフリのドレスを、二人分作っているあたり気持ちは本気なんだろうね。

助けてと言われたけど、ララちゃんの気持ちを無下にはできないよね。

正直、私にはどうしていいか分からない。

すると、マーレさんがやって来た。



 「あらっ? ララ、酔っぱらっているのかい」


 「えへへ、イリナちゃんと結婚すりゅ~」


 「こらこらっ、イリナちゃんが困っているから程々になさいよ...こっち来なさい」


 「いやいやーっ! 私はイリナちゃんと結婚するの! 離しちゃいやーっ!」



マーレさんに掴まれ、ララちゃんは連れて行かれた。

叱られちゃうのかな...だとしたら、ちょっと可愛そうだね。

イリナの話では、妖精の同性愛は人間と比べると自然な事らしい。

そもそも妖精は、性別の概念がなくどの子も女の子の見た目をしているから、どうしても百合っぽくなるとか。



 「でも、イリナはあんまり嫌じゃないんでしょ?」


 「まあな、昔からの付き合いだし...ララは良い奴で一緒に居て楽しいんだけど、肝心のオレはそっちの気持ちがないからな」


 「お互いの気持ちが大事だもんね、私は恋愛とか経験がないから難しいな」


 「ああ、オレもなんだか眠くなってきたよ...一緒に寝ていいか?」


 「うん、ここにおいでよ」



イリナは、私とフィーの間に横たわり眠りにつく。

この幸せな時間が、いつまでも続けばいいなと思いながら再び私も眠りについた。


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