3話 食べられる魔物とアトラ樹海から脱出。
ふらついていた体は回復し、足元がしっかりしてきた。
近くには流れの穏やかな川があって、私はある衝動を抑えられない。
「ねえ、私水浴びがしたいんだけど...いいかな?」
「体を綺麗にしたいんだろ、ここならオレ達しか居ないだろうし思う存分水浴びするといいぜ!」
私は服を脱ぎ、フィーの服も脱がした。
おいでと手を繋ぎ、川に入る。
記憶のないフィーにとっては、初めての感覚で何故こんな事をしているのか理解できていなさそうだ。
私は、フィーに説明する。
体は、洗わないと汚れてきて匂いも出てくるから、こうして水やお湯で洗い流す必要があると教えた。
できれば、石鹸があればもっと良いのだけど贅沢は言ってられない。
フィーの桜色の長めの髪や小さい頭に、川の水をかけ指で優しくこすり洗い流した。
続いて、体の方も手のひらで撫でて洗う。
なんというか、髪や頭もだけどベタつきとか体臭とか汚れや匂いがほとんどなくて、土ぼこりの匂いや汚れが付着しているくらいだ。
エルフって、体が汚れにくいのかな?
ほんとに不思議だ。
フィーは、私に体の隅々を撫でられ擽ったいのか少し悶えている。
「ミルト、擽ったい....うー...きゃっ!」
「体を綺麗にしているからね、ちょっと我慢だよ」
「あぅー、もういい?」
「うーん、残りは足の指かな?」
「きゃぅっ! 一番...擽ったい...」
洗い終わると、今度は私の番だ。
自分で洗うつもりだったけど、フィーが私の体を撫でてくる。
仕返しなのか?
でも、そんな事する子じゃないと思うけど...純粋に私の体を洗いたいだけかな?
一生懸命に、小さな手で丁寧に撫でてくる。
「フィー、洗うの上手だね!」
「ミルトの体...たくさん洗う」
首から背中にお尻と後ろから順番に撫でられ、小さな手は胸の方へくる。
自慢じゃないけど、私の胸はかなり大きい。
フィーの小さな手の指の間から、胸の肉がはみ出る。
胸の感触が良かったのか、フィーは撫でるのを止めて揉み始めた。
「ちょっと、フィーそれ...ダメ...その、ううん!」
「これ、触ると気持ちいい」
「お願いだから、やめてね...ね!」
「分かった、やめる」
フィーは、少しガッカリしているようで、胸から下を丁寧に撫でて洗い流してくれる。
あとは、私の髪で短めだからすぐに洗い終わる。
そういえば、イリナはどうしているのだろう?
岩場の方を見ると、私達の様子をニコニコして見ていたみたいだ。
「ねー、イリナも入る?」
「うーん、まあ入るかな...頼みがあるんだけどさ、羽が濡れると溺れるし魚に食われかねないから手を貸してほしいんだけど」
「いいよ、こっちおいでよ」
イリナを手のひらに乗せ、川に流されないように囲ってあげた。
私の手のひらに腰かけて、冷たい川の水に浸かり気持ちよさそうにしている。
あれ、今度はフィーが見当たらない。
すると、ザバァと水の中からフィーが出てきた。
少し目を離した隙に潜っていたようで、その手には魚が握られていた。
「すごい....魚を捕まえちゃったんだ」
「これ、魚なの?」
「うん、川魚だから焼けば食べられるけど...食べてみる?」
「食べてみたい...興味ある」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
私はイリナを岩場にあげて、川の足首ほどの浅い部分に大きめの岩を敷き詰めて囲いを作る。
その囲いの中へ、フィーが捕まえた魚を放り込む。
フィーは、もっと捕まえると言って川の中へ潜っていた。
川は水が透き通っていて、フィーの様子がよく見える。
潜水とか泳いでいる訳ではなく、体を沈めて屈んでいる。
魚を追いかける訳では無くじっと待ち、目の前を通り過ぎようとする魚を水の抵抗を感じさせず素早く掴み、せっせと私の作った囲いに魚を入れていく。
なんだか、その様子は獲物をじっと待つ野生動物のようだ。
フィーが魚を捕まえている間に、私は服の汚れを落とすために川の水で洗う。
「けっこう、ボロボロになっちゃったな....村か町に着いたら服を調達しないと、でもお金ないんだよね....どうしようかな」
「おーい、オレの服もついでに頼むよ」
「そうだね、ふふ...小っちゃくて可愛い服だね」
「100年くらい前に人間の魔法使いから貰ったんだよ、妖精でも女の子なんだから裸はダメって言われてさ、その子が持ち歩いていた人形の服をくれたんだ」
「でも、すごいね...そんなに前なのに全然傷んでいないし、素材がいいのかな?」
100年も前なのに、ほとんど服に痛みはなく多少の色落ちがあるくらいで、しっかりしている。
洗い終わった服は、岩場の上に並べて乾くのを待った。
天気は良く、岩場も熱を持っていてすぐ乾くはずだ、私は囲いの中を見に行く。
「えーと、9匹もいる.....フィー、いっぱい捕まえたね」
「もう一匹捕まえた」
「これで10匹か....食べきれるかな?」
さて、まずは火を熾して手頃な枝を見つけないと。
フィーと川から出て、岩場の周辺を見渡すと流木がいくつか落ちていた。
流木を集めて火炎魔法で火を点けて焚火を熾し、近くにあった手頃な岩を岩場に叩きつけ割れて鋭くなった破片をナイフのように使い、魚の腹を切り裂き内臓を取って水で綺麗に洗い、魚の口から流木の枝を通していく。
我ながら上手くできたと思った、焚火のそばに串に刺した魚を設置していきじっくり炙る。
魚が食べ頃になるまで、まだ時間があるので乾かしている服の様子を見に行く。
「おっ、ほとんど乾いてるじゃん...フィー、イリナおいで服着るよ」
近くで遊んでいた、フィーとイリナを呼び服を着せる。
この大自然で、裸で居たのは開放感があって気持ちよかったけど、やっぱり服を着ている方が落ち着いていい。
別に露出癖に目覚めた訳ではないけど、滅多にできない経験ができたなと思ったし岩場に座り自然の景色を楽しむ。
しばらくすると、魚の焼けるいい匂いがしてきたので焚火の方へ向かう。
「食べ頃かな....? しっかり焼けてるね、フィー食べれるよ」
「美味しい、魚好き」
「調味料がなかったから、味付けできなくて不安だったけど...脂が乗ってて皮がパリパリしてて美味しいね」
「もっと、食べる」
フィーは、美味しそうに魚の肉を頬張っていく。
今まで空腹をあまり感じず、野生の果物ぐらいしか食べていなかったので、魚の味は感動的に美味しい。
10本もあった魚の串焼きを、フィーは7本も食べてしまう。
イリナも食べると思ったけど、妖精は花の蜜とか水ぐらいしか飲まないという事で残りは私が食べた。
私は、3本でお腹がいっぱいだけど、フィーは食べ盛りなのか7本も食べても余裕がありそうだ。
「すごいね、いっぱい食べられるんだね」
「美味しかったから....けふ」
食べ終わり火の始末もして、少し休んだあとに私達は川沿いに歩き人里を目指す。
ここから、少し行くと魔物が出るそうだ。
ロックサラマンダー、ロックプラント、ゴーレムなど岩に関連する魔物が出現するそうだ。
イリナの話では、樹海の中の魔物よりは大人しく個体数も少なめだと言う。
まあ、危険な事には変わらないので周囲の確認をしっかりする。
遠くの方を見ると、私達の進行方向に無数の大きな岩が出現する。
近づくと、その岩は人間の子供くらいの大きさで、土がないのに頭には草や花が生えている。
「待て...これ、ロックプラントだ!」
「これがそうなの? 変な岩の塊にしか見えないけど...」
「こいつらは、生き物が近づいてくるまで待っていて、いきなり噛みついてくるんだ...それに小さいけど、虫みたいな足もあってカサカサって動いてくるぞ」
想像したら、気持ち悪くなった。
でも、この岩が全部そうなら20体ぐらい居そうだ。
「イリナ、こいつらは何か弱点あるの?」
「こいつらは、分厚くて硬い表皮に覆われていて打撃とか斬撃に強いんだ....あと、魔法にも耐性があって火炎魔法ならある程度効くくらいで、その他はあまり効かない....それに、見た目から想像できないくらいには素早く動くから気を付けろよ」
「けっこう、危険な魔物なんだね....でも、全然動く気配がないね」
「ああ、でも待ち伏せだけじゃなくて、いきなり動き出したりするから心臓に悪いんだよ...もっと、早く気が付ければよかったんだけど...ゴメン」
イリナは謝るけど、遠くからじゃただの岩の塊にしか見えなかったし、似たような岩は他にもあるから仕方ないよね。
できれば、戦わずに穏便に済ませてここを切り抜けたいけど....難しいか?
ゴッゴゴ...うん?
後ろから音がしたぞ....あれ、さっきまで後ろには何もなかったのに、2つほど岩の塊がいる。
私が後ろを振り向いた時、背にした後ろの岩の塊が急に襲い掛かってくる。
こうゆう時に、すぐに反応して反撃してくれるのはフィーだ。
その小さくて可愛い握りこぶしを、ロックプラントの顔面と思われる箇所にぶつける。
ロックプラントは、今まで戦った魔物の例に漏れず、すごい勢いで吹き飛び砕けて伸びていた。
分厚い表皮に覆われてるから打撃に強いって言ってたけど、きっとフィーにしかできない事なんだろうと思ったので、私は火炎魔法で応戦する。
燃えやすい植物が少なく、周りが岩ばかりのココは火炎魔法を使いやすくて、ありったけの魔力を込めロックプラント達に火炎を浴びせる。
「確かに、あまり効いてはいないのかな? でも、勢いは落ちたよね」
「そのまま、燃やし続ければ倒せるはずだぞ! これが、ただの人間の魔法使いだったら魔力切れを起こして返り討ちにあうんだ!」
「魔法に耐性があるって厄介だね...でも、このまま燃やし続けるよ!」
「ミルト、後ろは任せて」
「うん! 頼んだよ!」
私は、フィーの高純度で膨大なマナを供給してもらっているから、魔力切れを起こしにくいようだ。
でも、それってフィーの体に負担とか掛からないのかな?
心配だけど、今は戦うしかないし魔法を止める訳にはいかない。
ロックプラント達は、火炎を浴びせられ続けて体が高温になったのか耐えきれず亀裂が走り体が割れていく。
5体は焼き殺したか?
私は、後ろを確認する。
「すごいね! もうこんなに倒しちゃったんだ!」
「いっぱい来るから、いっぱい殴って蹴った」
辺りには、砕けた岩の破片がいっぱいに散らばり残りは2体ほどだ。
「ほんとに、フィーはすごいよ....動きは滅茶苦茶なのにあっという間に倒しちゃうし、人は見かけによらないって言うけど、言葉通りの存在だよな」
ほんとに、そうだよね。
背の高さで言えば、頭一つ分くらい私と違うから140cmくらいしかないと思うけど、体重だってすごく軽いのにマナで体が強化されているとはいえ、想像がつかないよね。
残りのロックプラントは、カサカサと無数の細い足を動かし逃げていく、その姿はなんと言うか素早く動く虫のようで気持ち悪かった。
「撃退したね、これで安全かな?」
「ああ、でもここは離れた方がいいな」
「そうなの?」
「あの破片を見てみろ」
「あれ? 肉なのこれ? 血も出てるし、私が焼いた奴らはこんがりしてて食べられそう...」
「見た目はあれだけど、ロックプラントは食べられる魔物で美味しいんだよ....だから、分厚い表皮で体を守って襲われても大丈夫なように進化したらしいし、人間の間じゃ家畜化されて食べられてるらしいぞ」
私は、人間だけど知らなかったな....もしかして、知らないだけで何度か食卓に並んでいた事もあるのか?
でも、あのカサカサした動きを見た後だと食欲がなくなる。
「他の魔物が、匂いにつられて来るから急ごうぜ」
「そうだね、なるべく戦闘は避けたいしフィー行くよ」
「食べないのコレ?」
「うん、食べられるらしいけど魔物が寄ってくるから行かなきゃ」
フィーは、少し残念そうにしているけど、私は手を引いて前へ進む。
今は難しいけど、人里に着いたら何か美味しい物を食べさせてあげたいな。
でも、お金がないから何かしら働いて路銀を稼がなきゃ。
移動を再開し、しばらく歩いていると岩ばかりの視界から緑色が見えてきた。
柔らかい、足首程の高さの草が生え緩やかな下り坂に出る。
すごく穏やかで、優しい風が吹く高原に出た。
「まだまだ、高い位置に居るんだね」
「でも見えるだろ? この先にある森を抜ければ、人間が作った道に出る事ができるぞ」
「じゃあ、あと少しかな? でも、魔物も出るよね?」
「出るけど温厚な奴ばかりだよ、アトラの影響を受けて人間に悪さする魔物が外に出ないように、見張りをしているのがほとんどだよ」
アトラって魔物のおかげで、人間の町や村の平和が保たれているんだね。
この先は安心して進めそうだし、森の先には確かに開けた土地や道が小さく見える。
イリナはホントに物知りで感心する、小さな指で刺した場所へ向かうと、人間が切り開いたと思われる道が森の中へ続いていた。
「ここを通れば、1時間ぐらいで着くぞ」
「イリナが居てくれて、ホントに助かるよ」
切り倒した木や切り株があちこちにあり、多少ボコボコはしているが整地した跡もあり歩きやすい。
鳥や虫の癒し効果のある鳴き声が聞こえてきて気持ちが落ち着くし、やっとアトラ樹海を抜けられると思うと嬉しくなってきた。
フィーは、私の様子を見て不思議そうにしている。
「ミルト、楽しそう」
「うん、あとちょっとでアトラ樹海の外に出られるし、村か町に行けば美味しい物も食べられるよ!」
「美味しいの、いっぱい食べたい!」
「でも、お金がないから私が頑張って路銀を稼ぐから待っててね!」
それを聞いて、イリナが口を開く。
「働くあてがあるのか? けっこう、大変だと思うけど」
「うーん、実は働いた事ないんだけど....今まで何度か死にかけたし危険な目にもあったからね、それを思えば何にも怖くないというか何でもできる気がして....変に自信がついたというか」
「それは、ちょっと浅はかだぞ...ちょっと歩くけど、ここを抜けた先にベラって町があって知り合いがいるんだ、紹介してやるから働くならそいつを頼った方がいい」
「ほんと? ありがとうね」
「いいんだよ、ミルトは思ったより世間知らずぽいし変な大人に騙されて、いかがわしい店に連れて行かれたら目も当てられないからな」
確かに、世間知らずなのは否定できないし人生経験も少ないから、悪い大人にいいように利用されてしまうかもしれないよね。
イリナの知り合いなら安心できるし、気にかけてくれて嬉しい。
「その知り合いって妖精?」
「ああ、1年くらい前に一緒にアトラ樹海を出て人里に行こうって誘われてたんだけど、私はここの生活に不満を感じていなかったから断ったんだ......仲が良かったから、たまに近況の報告を虫に頼んで知らせてくれるんだけど楽しそうでな」
「虫って言葉が話せるの? それに襲われるんじゃなかったっけ?」
「人間が、知らないだけで賢くて知的な虫もいるんだ、その虫は妖精を襲う事はないし親切なんだ」
「紳士淑女な虫もいるって事か....なんだか、なんでもありだね」
「まあな、知り合いは人里の雑貨屋で世話になってるみたいで、アトラ樹海を出るならいつ来てもいいと誘われてたんだ....まあ、ミルトとフィーが一緒だと驚くかもしれないけど」
「なるほどね、あれ? あそこ....出口かな?」
人間が切り開いたと思われる、山道を下っていると終わりが見えてきた。
出口と思われる場所からは、視界が広がっている。
人間が作ったと思われる道に出て、そこは馬車がよく通るのか車輪のような跡が残っていて人間の足跡もあった。
「やったー! やっと出られたよ! フィー、イリナ、私達出られたんだよ!」
「うぐぅぅっ、ミルト苦しい...」
嬉しさのあまり、フィーを強めに抱き寄せてしまう。
フィーの顔は、私の胸に埋もれて息苦しそうだった。
私は、やってしまったと思って抱きしめていた腕を緩めると、フィーは私の顔を下から覗き込み見つめてくる....少し間があり、フィーは自ら私の胸に顔を埋めてグリグリしてきた。
なんだろう....フィーは、やっぱり胸が好きなのか?
川で体を洗っていた時から、そんな感じはする。
多分だけど、記憶がないせいか見た目よりも精神年齢が幼いからか、無意識のうちに母親を求めての行動なのかな?
それとも、少しえっちなのか?
まあ、可愛いからいいんだけど。
「フィーごめんね、強く抱きしめすぎちゃったね」
「少し苦しかった....でも、ミルトの胸大きくて柔らかくて気持ちいい」
「イチャイチャするのはいいけど、ほらこっちだ....歩いていれば町に着くぞ」
イリナが指を指し、町の方向を教えてくれる。
私達は、手を繋ぎ町を目指す。
知らない国で知らない町....誰も私の事を知らないだろうし、追っ手はアトラ樹海を渡ってまで私の事を追いかけては来ないだろう。
新しい人生が少しずつ始まっていくと思うと、楽しい気持ちが自然と溢れてきた。