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1話 新しい発見と妖精との出会い。

キャラのセリフを「」に統一しました。



4日ほど経った。

あの不思議な空間を出てから生き物の気配こそ感じはしたが、魔物や野生動物には遭遇していない。

そのおかげで、私はフィーに単語を教えていた。

多くはないけど、いくつか単語を覚えたフィーと会話を楽しんでいる。



 「ミルト、これ食べられる?」


 「うーん、見た事ない果物だね....色も赤紫で毒ぽいし、食べられるか分かんないから触っちゃダメだよ」 


 「うん、分かった、触らない」


 

すごい進歩だと思う。

数日前まで、『あぅ』か『うー』ぐらいしか喋れなかったのに、今では簡単な会話ができるし歩くのもすっかり慣れたようだ。

フィーは食べる事に興味があるようで、果物を見つけては私に聞いてくる。

まあ、この4日間は野生の果物しか口にしていないのだが。

それと私達の体に異変が起きているのか、ある機能が正常に働いていない気がする。

汗をかかないし、尿や便といった排泄がなくなった。

変な病気にでもなったのかと思い心配になるが、体の調子は良く疲労感もあまり感じられないし非常に楽だ。

元気な内にできるだけ前へ進みたいが、それを妨げる生き物が現れる。

それは、4足歩行の生き物で足から背までは2メートル以上はありそうだ。


 

 「イノシシ? いや....角も生えていて牙も鋭くて大きいし、すごい筋肉だな....魔物かな?」


 「ミルト、あれ何?」


 「私もよく分からないんだよね、でも危険そうな生き物に違いはないかな」



さて、どうするか?

とりあえず、風魔法で手のひらに風の渦を発生させる。

火炎魔法も考えたけど、辺りは燃えやすい植物や木ばかりで使いづらい。

生き物は、地面を蹴り土煙をあげていて、今にもその巨体で突進してきそうだ。

睨み合い時間が過ぎるけど、私は過去の経験から様子を見ていて事態が悪化した事を思い出す。

突進される前に、私は風の渦を放つ。

どうか、逃げてくれればいいけど。

風の渦は、先端がドリルのように鋭くなり生き物に直撃し血しぶきをあげるが逆効果だった。

生き物は、鬼のような形相になり血を垂れ流しながら突進してくる。

勢いも早さもあり、あっという間に私達の目の前まで生き物の巨体が迫ってきた。

私は、とっさの判断でフィーの体を突き飛ばし突進してくる生き物の進路から外す。

生き物の巨体が直撃し吹き飛ばされて、すごい衝撃が走るけど痛みは思いのほかない。


 

 「痛くない...なんで? あれ、おい! そっちに行くな! フィー逃げて!」



生き物は、フィーに目掛けて突進を始めた。

私に突き飛ばされたフィーは起き上がった直後で、生き物の巨体がすぐ目の前に迫っていた。

もう駄目だと思ったけど、鈍い衝撃音とともに生き物の巨体は顔の部分が地面にめり込み、そこを軸にして後ろ足ごと体が浮き上がり大の字に倒れた。

フィーは無事のようで、トコトコと走って近づいてきた。 



 「ミルト、大丈夫?」


 「大丈夫だけど、何が起きたの? フィーは怪我していないみたいだし....」


 「来たから叩いた」


 

フィーは、握った手を私に見せてくれた。

小さい握りこぶしには、生き物の体毛のような物が付いている。

嘘をついているとは思えないけど、この細い体のどこにそんな力があるのだろう?

私はフィーの手を握り、巨大な生き物の状態を確認する。

仰向けに倒れている生き物は、ピクピクと痙攣していて僅かに息はありそうだった。



 「起き上がるかもしれないし、今の内に離れようね」


 「...うん」



私達は、その場を早く離れようとすると周囲から無数の魔物が現れる。

黒くて大きい狼の魔物が10匹はいる...囲まれたと思ったけど、目的は私達ではないようだ。

フィーが倒した、イノシシのような魔物に狼達が群がる。

やはり、まだ生きていたのだろう....悲惨なうめき声と狼達の咀嚼音が辺りに響く。

すると、茂みからもう1匹の狼が遅れて私達の前に現れる。

狙いは、どうやら私達のようだ。

私は風魔法を放つが、イノシシの魔物とは違い小回りが効くのか避けられてしまい飛び掛かってきた。

イノシシの魔物よりも素早くて、また反応が遅れる。

だが、フィーはその小さな握りこぶしを黒い狼に振り下ろし叩きつけた。

人間の大人程の大きさもある狼は、地面に叩きつけられ激しく痙攣し急に辺りが静かになる。

振り返ると、狼達は食事を止めこちらを凝視している。

もしかして、飛び掛かってくるのか?

流石に数は多いし、私の風魔法は避けられてしまうし危険な状況だ。

しばらく、睨み合っていると再び狼達はイノシシの魔物に食らいついたので、私達は背後を警戒しながら狼達から離れた。

でも、何かに見られているような...気のせいかな?



 「もう見えなくなったね、ここまで来ればもう大丈夫かな」


 「ミルト、お腹大丈夫?」


 「うん? あれ、青あざになってるね....痛くはないんだけどね、うーん大丈夫かな」


 

フィーは、私の青くなったお腹を撫でていた。

表情はあまり変わらないが、心配してくれているのだろう。

その気持ちが嬉しくて、フィーを抱きしめる。

この小さな体からあの怪力はどこから生まれるのか、ますます理解できなくなった。


 

 「ミルト、擽ったい」



フィーは、少し体をくねらせながら訴えてくる。

私にも覚えがあるけど、子供の頃って体が敏感なのか少し触られただけでも、かなり擽ったく感じる。

フィーの反応が可愛くて、私はちょっと意地悪してしまった。



 「あぅ、うーぅ、擽ったい」


 「ごめんね、可愛くてつい...」



フィーの脇の下や首筋を指でなぞるとピクピクと反応して可愛い、顔を見ると少し涙目になっていたので指を止める。

さて、そろそろ移動しないとね....アトラ樹海のど真ん中でじゃれついたままじゃ危ないもんね。

しばらく歩いていると見晴らしの良い所に着き、その先は切り立った崖で下までは数百メートルはあり背筋が寒くなる。

樹海と言われるだけはあって、辺り一面に木々や植物の緑が広がりずっと奥には岩肌が目立つ山脈がある。


 

 「あの山の向こう側にレラの国があるのかな? 越えられるのかな....?」


 「ミルト、ここ高い」


 「高いよね、どうやってここを下りようかな....崖に沿って歩けば、下りられそうな所に出れるかな?」


 「ミルト、あれなに?」



崖の上からは下の状況がよく見えるので覗いていると、木々が激しく揺れベキベキとへし折れるような音がする。

この位置からは小さく見えるが、巨大な魔物の頭が見えた。

それは、一つ目で無数の角が生え体は筋骨隆々の巨人だ。


 

 「たぶん、あれはサイクロプスって魔物かな? 子供の頃に、魔物が載っている図鑑で見た記憶があるよ」


 「すごく、大きいね」


 「うん、崖の下にはあんな怪物がいるんだね....」



崖の下に行けたとしても、あんな怪物がいるのならあまりにも危険すぎる。

でも、太陽の位置で大体の方角を予測してみてもレラの国に行くのなら、崖の下に下りあの山脈を越える必要がありそうだった。

悩んでいると、ある事に気が付く。

フィーが、何もない空中の一部を不自然に見つめていて、素早く手を伸ばし何かを掴んだようだった。

小さな手に握られた、それは姿を現す。

手のひらぐらいの大きさで、羽の生えた女の子が握られている。


 

 「うわーっ、すごい! この子妖精だよ、初めて見たけど小さくて可愛いね」


 「なんだよ、放してくれよ! 羽が折れちゃうから放してくれってば!」


 「あっ、そうだね...フィー放してあげてね」


 「分かった」



妖精の女の子は自由になり、プンプンしながらフィーの頭をその小さな手でポカポカと殴っているが、ダメージはないだろう。

妖精は羽を羽ばたかせて、フィーの顔の前で止まり質問を始めた。



 「なあ、お前オレが見えていたのか?」


 「うん」


 「今はどうだ? どこに居るか分かるか?」


 「...見える」



フィーは、何もない方に体を向けて指を指す。

妖精は、観念して姿を現す。

次は、私の方へ向き質問を始めた。


 

 「あんたは、見えていたか?」


 「私には何も見えなかったけど、それどうやっているの?」


 「これは妖精なら誰でもできる種族共通の能力で、それが使えなくなったかと思って確認したんだ」


 「そうなんだね、姿を消せるなら色々便利そうだよね」


 「便利というか、これができないと鳥や虫にだって食われかねないから死活問題なんだよ...」


 

確かに、鳥も虫も脅威になりそうなくらい小さい。

それなのに、フィーには姿が見えていたみたいで不安になるのは当然だ。

そういえば、イノシシの魔物の後から視線を感じていたけど、この妖精の子に見られていたのかな?

ちょっと、色々聞いてみようかな。


 

 「ねえ妖精さん、もしかして私達の事をしばらく見てたかな?」


 「ホーンピッグのあたりから見てたよ」


 「ホーンピッグって....もしかして、あのイノシシの事?」


 「ああ、ちゃんと見ていたぜ!」



やっぱり、見ていたのね。

さらに、妖精さんは続ける。



 「それよりも、こっちのエルフの子供の事なんだけど、とんでもない量の純度の高いマナを持っていて驚いたよ」


 「えっと、マナって何?」


 「簡単に言うと生命エネルギーの事で、例えばマナがないと魔力が生成されないし、その量と質が良ければ身体能力が大きく向上したりするんだ....この子の体からは、上質なマナで満ち溢れていてすごいパワーを感じるよ」


 「そうなんだ、知らなかったよ....でも、やっと納得ができたかな?」



この妖精さんの言う事が正しいのなら、フィーの小さくて細い体からあんな怪力が発揮される理由にもなる。

でも、エルフの子供とかあんたとか妖精さんで呼び合うのはやりづらいな。



 「ねえ、よかったら名前を教えてくれないかな?」


 「おっ、そうだなオレはイリナだ」



この、オレっ子妖精の名前はイリナって言うんだね。

見た目が女の子らしくて可愛いのに、ギャップがある子だね。



 「私はミルトで、この子はフィーね...あと、まだ質問してもいいかな?」


 「なんだ? まあ、いいぞ」


 「イリナは、アトラ樹海に詳しい? この崖の下に行きたいんだけど、下りられる道とか知らないかな?」


 「知っているけど、正直おすすめはしないぞ...この崖の下の樹海は、こっち側よりも危険だぞ」



確かに、ここからでも巨大な魔物が見えるくらいだ。

崖の下へ下りるのは、命を投げ出すような行為だろうけど、それは上も下の樹海も変わりはないはずだ。



 「私達、レラの国に行きたいの...ここから、見渡しても他に道はなさそうだし他にいい方法があればいいのだけど...」



私の話を聞いた、イリナは口を閉じ少し考える。

この下へ行ける道を知っているらしいけど、見ず知らずの私達に教える義理もないよね。

少し間をおいて、イリナが話しだした。



 「まあ、これも何かの縁かな....オレもアトラ樹海の外に出ようかと思ってたんだけど、オレの身を守ってくれるって条件を飲んでくれるなら、道案内役をしてやってもいいぞ」


 「いいの? 保証はできないよ」


 「最近、姿を見えなくしていても捕食される仲間が増えていて、治安が悪くなったから引っ越しを考えてたんだ...お前達、強いから守ってくれるなら嬉しいんだけど」



姿が見えなくなっていても、捕食されてしまうなら恐ろしいよね。

でも、フィーが強いのは分かるけどお前達って言ったよね?

私は、そんなに強くないぞ。

せいぜい、魔法の威力が上がったくらいで使いこなせていないし。

でも、崖の下に行くならそんな事言ってられないから、どうにかしないと。


 

 「お前達って言ったけど、私も含まれてるの?」


 「ああ、フィーのマナがミルトに流れているから、相当な強さになっているはずだぞ」


 「そうなの? 私には何も見えないけど....でも、力が湧き上がってくる感じはあるかな」


 「妖精は、マナを感じる事もできるし視認する事ができるんだ、それぞれに色があるんだけど、フィーは髪の色と同じで桜色でとっても綺麗だよ」


 

マナにも色があるのか。

それに、ホーンピッグに体当たりされても痛くなかったのは、マナで体が強化されていたからかな?

なんだか、フィーと出会ってから運が向いている気がする。

イリナの言う通りなら、アトラ樹海を抜けられる可能性が大きくなったと思う。

だからと言って、変に自信を持って調子に乗ったら、危険な目に合うだろうし気を付けないと。 



 「イリナの事、守りきれるか分かんないよ?」


 「それでもいいよ、なるべく安全なルートを選ぶから、外の世界に連れて行ってくれ!」


 「それじゃ、道案内よろしくね」


 「おお、任せろ! あと、不安だからさ服の中に入ってもいいか?」


 「うん、いいよ」



イリナは、私の服の中に入り襟元から顔を出すが少し窮屈そうにしていて、理由は私の胸が大きいからだと思う。

イリナは私の服から出て、フィーの服の中に入り同じように襟元から顔を出していた。

フィーは、少し擽ったそうにしているけど、嫌ではなさそうだ。


 

 「フィー、よろしくな! オレをしっかり守ってくれ」


 「うん、頑張って守る」


 「ふふ、なんだか可愛い組み合わせで微笑ましいよ」



エルフの子供と小さな妖精の組み合わせは、なんだか神秘的で可愛い。

さて、イリナに道案内をしてもらい私達は切り立った崖に沿って歩く。

しばらく進むと崖崩れでできた、天然の道があるという。

きっと、それは凄まじい光景だろう。

イリナの話によれば、足場はゴツゴツしていて巻き込まれた木々が地面から突き出しスロープのようになっていると言う。

崖の上から下りられる道は他にもあるけど、遠回りすぎるし魔物に遭遇する確率が高まるからとの事。

日数で言えば早くても一週間はかかるが、崖崩れでできた道なら半日もかからないらしい。


 

 「おっ、あの開けた場所がそうなの?」


 「そうそう、自然の脅威って凄まじいだろ」



いやぁ、これはある意味で絶景だね。

この崖崩れに巻き込まれたら、生きている自信は絶対にないな。



 「...すごく斜め」


 「ほんとにね、こんな斜面見た事ないよ」


 

怪我をしないように、気を付けないとね。

あっ、でもマナで強化された私やフィーは、そう簡単に怪我なんてしないか...でも、服が汚れるから転ばないように足元を気を付けないと。


 

 「私が前を歩くから、後ろからついてきてね」


 「うん、ついていく」


 

フィーが歩きやすいように、なるべく平な場所を確認して前を歩く。

後ろを確認すると、一生懸命についてくるフィーの姿が可愛い。

あとは見晴らしがいいから、なるべく大きな岩や木の陰に隠れながら静かに移動した。

こんなとこで、魔物の群れに遭遇したら大変だもんね...半日もかからないとの事だったけど、下りるのに一時間もかからず呆気なかった。


 

 「無事に下りれたな、ここからは危険な森の中に入るけど、安全な道をできるだけ選ぶから慎重に行こうぜ」


 「そうだね、これからも道案内よろしくね」


 

崖の上から見えたサイクロプスや、まだ見ぬ危険な魔物もいるだろうし気を抜かないようにしないとね。

何かあった時はフィーやイリナを守らないと.....いや、フィーの方が強いから私は守られる側か?

いやいや、一応私は成人しているから頑張らなきゃ。


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