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17話(番外編) ルルロアの復活と意外な二人。


 「うぅ...やっと...マナを集める事ができた」



ミルトとフィーが出会ったあの不思議な空間の泉の中から、桜色の髪と瞳をした小さなエルフが這い出てきた。

泉の上には、弱々しく桜色の光を放つ歪な形をした魔方陣が浮いている。

小さなエルフは泉の方へ振り返り独り言を呟く。



 「計画は狂うものだけど...まさか、私の掛けた暗示の魔法が発動する前にミルトが来ちゃうなんてね」



泉の水面に映る、自分の姿を見ながら隅々まで触って確認する。



 「うん、ちゃんと体は生成されてるみたいね...私のミルトが魔方陣の一部を壊しちゃったから...上手くできるか不安だったけどね」



儀式を始めるために、魔方陣と同化した私はマナを貯め続けていた。

アトラ樹海は、その地中に膨大なマナが貯蔵されていて儀式を行うには都合がよかった。

魔方陣を発動させるための鍵の役割をミルトに任せたのだけど、不測の事態が起きないように魔法でいくつかの暗示をかけていた。

ミルトが亡くなる前に、私はミルトと不確定で見る事も触る事もできない魂との繋がりを持たせる魔法や生まれ変わりの魔法もかける。

これにより、魔方陣にマナが満たされ準備が整うとミルトが生まれ変わり体も心も充分に成長すると暗示の魔法が発動して、この不思議な空間に鍵として訪れ私をロマンチックに起こしてくれる予定だった。



 「ミルトに何があったんだろう? でも、不完全な魔法ではあったし...記憶も戻っていなくて、この泉の中の魔方陣に触れちゃダメだよって暗示も発動していなかったね」



ミルトが、私の事を思い出していなくて少しショックを受けた。

でも、ウジウジなんてしていられない。

私の大切なミルトを追いかけなきゃ!



体を確認した後は魔法を使えるか試してみる。

手をかざし、何かしらの詠唱を唱えるが何も発動しない。

困った...。

魔法が使えなければ、私なんてただの非力なエルフの子娘だ...。



 「これは...まずいね...でも、アトラが居るから安全に樹海を抜けられるかな」



せめて、もう少しマナを集められればよかった。

でも、地中に残っているマナは純度が低く粗悪だった。

その中から、できるだけ純度の高いマナを吸い上げやっとの思いで自身の体を生成させた。

得意の魔法も使えない。

私はローティーンエルフだから、他のエルフと違って身体能力はそこまで高くない。

それでも、アトラの監視下にあるこの樹海なら今の私程度でも安全に抜けられるだろう。



 「そうだ、服を着なきゃ...タンスの中に閉まっていたはずだけど...私の体が着て行っちゃったよね」



儀式によって、神聖化し作り変えられた私の体には自我が宿っていた。

神聖化にはデメリットがあった。

それは、以前までの自分の自我が消えてしまい新しい自我が目覚めてしまう事だ。

今あるこの自分の自我を引き継げないのなら何も意味はない。

そのため、魔方陣に改良を加えたり実験を何度も行った。

そして、新しい自我が目覚める前に今の自分の自我を定着させる方法を見つけた。

不確定な要素もあったけど上手くいくはずだった...。

だが、想定していた不測の事態への保険が何も発動しないまま、ミルトはこの場所へ来てしまい私の体を連れて外へ出て行ってしまった。



 「あの体の中にある自我は私じゃないのに...」



すごく悔しい。

大切に想っていたミルトに置いて行かれた事もだけど、私の物になるはずだった神聖化した体に私じゃない自我が宿ってしまった事がホントに悔しい。

それほど、神聖化する事にはたくさんの利点や価値がある。

まず神聖化すると、肉体という物質から解放され体の全てがマナで作り変えられる。

純度の高い膨大なマナで構成された体は、他を圧倒する程の身体能力や魔力を生み出すだけではなく、生きていくために必要な生理現象でさえ無くなり理想に近い形になる。

具体的には、普通よりも食欲が増え体に取り込まれた食物は全てマナに変換されるので排尿や排便と言った排泄が無くなる。



 「でも、今の体もマナが足りないだけで神聖化はできているのかな? 入れ物は出来たからマナさえ集めればどうにかなるか?」



仮にミルト達に追いついたとして、すでに自我を持った私の体はどうにもする事はできない。

ありがちな、乗り移りのような体を奪う行為は現実にはできないからだ。

できたとしても、神聖化した私の体を奪おうとして戦いを挑んだら絶対に勝てないし殺されてしまうのがオチだろう。

それに、ミルトが許してはくれないと思う。



 「あの子は優しいからね...きっと、今頃は私の体と仲良く旅をしてるかな」



体の事は諦めよう...。

でも、ミルトはあきらめる事ができない。

どうしようね...。

でも、ミルトに掛けた暗示が発動してくれたら私の事を思い出してくれるかな?

ちょっと希望が出てきたね。

なら、準備を進めなきゃ!

私は小屋へ向かう。

服や靴は持って行かれたけど、裸のままじゃ落ち着かないから代わりになる物を探すためだ。



 「こんなに朽ちて...まあ、数百年は経ってるから仕方ないか」



久々に見た私の小屋は、ボロボロになっていて今にも崩れそうだ。

中に入り床の板を踏むとバキバキと音が鳴る。

思った通り...タンスの中は何もない。

使えそうなのは、ベットのシーツくらいだけど少しカビ臭くなっている。

私は、シーツを取り泉へ向かい汚れを落とす。

ひたすら、泉の水の中でゴシゴシとシーツを擦り綺麗にしてよく絞った。



 「よし! だいぶ綺麗になったかな? いや、カビ臭いのは変わらないか...」



シーツはある程度綺麗になり白さを取り戻す。

次は、頭を通せるくらいの穴を中心に空けて...ハサミがないから苦戦をした。

仕方ないので手で無理やり破いて穴を空ける。

その穴を空けたシーツを被り頭を通した。



 「これじゃあ、お化けだね...しかも、まだ湿っているから体に張り付いてちょっとエッチだ」



まあ、贅沢なんて言ってられない。

時間が経てば乾くだろうし、とりあえず体は隠せた。



 「武器になりそうな物は...うん、何もないね!」



魔法も使えず武器もない。

でも、この樹海はアトラの影響を受けた善良な心を持った魔物がいっぱい生息している。

人間や人の形をしている生き物に、害を及ぼそうとする魔物を排除し守ってくれる。

だから、ミルトは安全にここまで来れただろうし私もある程度は安心して外へ出られる。



 「どうにかなるよね...待っててねミルト! 今から、会いに行くからね!」



私は、この空間から外へ出た。

自然の音がいっぱいに響いている。

虫や鳥などの鳴き声や草を踏む動物か魔物の足音...正直、うるさく感じる。

警戒をしながら、ミルトと私の体のマナの痕跡を辿って進む。



 「特異体質でよかったよ...マナを視認できるし感じる事もできるから、二人の行方を追えるからね...うん? あれは何だろう?」



茂みの陰に、光る何かを見つけ近づいてみる。

女性でも子供でも、扱えそうな小剣が落ちていた。

その傍には弓矢と鉈もある。



 「ありがたいね...剣術は習った事がないけど、弓は得意だし心強いな」



私は、小剣と弓矢と鉈を装備する。

鉈を持ち、行く手を邪魔する植物や枝を切り落とし前へ進む。



順調に前へ進んでいると思ったけど...状況が変わる。

何か、巨大な魔物が目の前を横切る。

見た事のない魔物だった。

すごく長いし、胴回りが巨木の丸太のように太く不釣り合いな羽の生えた蛇だ。

落ち着いて様子を見る。

どうやら、私には気づいてはいない。

このまま音を立てず、通り過ぎるまで静かにやり過ごす。



 「気づかれずに済んだね...でも、どうゆう事? なんだか、昔と違って樹海の様子がおかしいよ」



以前であれば、ああいった人間に危害を加えそうな魔物と遭遇するとアトラの影響を受けた魔物がすぐさま現れる。

状況にもよるけど、退けるか倒してくれるかをして助けてくれた。

でも、そんな感じは一切なかった。

しばらく魔方陣と同化していた間にこの樹海に何か変化があったのか?

今は、何も分からないから慎重に進むしかないけど...。

すると、果物がたくさん実っている木を見つけた。



 「この果物は食べられそうだね...手で掴める高さだし、食べようか」



果物をもぎ取り食べ始める。

食べ物からでも、マナを生成できるので私はたくさん食べた。

辺りには、食べにくい果物の芯や種が散らばるが気にはしない。



 「あれっ? もうないのか...もっと、食べたかったのに」



お腹はかなり膨らんだ。

知らない人が見れば、妊婦のように見えるかもしれない。

たくさん実っていた果物を食べつくし木の枝が寂しくなった。

私は、マナを生成したくて他にも食べられそうな物を探す。

すると、小さな生き物が枝に佇んでいるのが見えた。



 「リスだね...魔法が使えないし火も熾せないから、生食になるけどあの子も食べちゃおうか」



私は弓を構える。

狙いを定めて矢を放ちリスを仕留めた。

枝から落ちたリスを拾い、小剣で毛皮を剥がし肉を露出させた。

なんの躊躇もなく、血の滴るその肉にかぶりつく。

異常なのは、自分でも分かっている。

普通なら、こんな事は絶対にしないけどマナを生成するためだ。

少しでもマナを蓄えて戦えるようにしないとね。



 「案外、美味しかったね...ふふっ、シーツに血のシミがついてホラー染みた見た目になったね」



口の周りも血で汚れているね。

この姿を誰かに見られたらトラウマを植え付けてしまいそうかも...うん?

人の気配を感じるぞ...?

私は、木の陰に隠れ様子を見る。

その気配の正体は、冒険者のようで男女二人のパーティのようだ。

人の事は言えないけど、あんまり強そうな感じはしない。

マナが、そんなに多くはないからだ。



 「あの程度で、よくここまで来られたね...あれ? でも、あの子達からミルトと私の体のマナを感じるね」



どうゆう事だろう?

もしかして、ミルト達とかかわりを持った事があるのかな?

それに、二人からは悪い感情は感じない。

話をかけてみる事にした。

だって、私の体とは会っていると思うし...瓜二つ、そのままの姿をした私と遭遇した時の反応を見てみたい。

あと、この血で汚れた顔やシーツも私の悪戯心を刺激してしまっている。

我慢ができなかった...。



 「ねーねー、そこのお二人さん? どうして、こんな所に居るの?」


 「うっうわっ! ゆっゆ幽霊か?」


 「きゃっ! わっわ...私、幽霊とかダメなの...ひぅっ...」



ふふっ、良い反応するね。

女の子の方は、泣きそうになっていて可愛いね。

あれ?

あっ、ちょっとまずい。

男の子の方が、私に剣を構えて斬りかかろうとしている。

誤解を解かなきゃね。



 「えっと、驚かせてごめんね...幽霊じゃないし魔物でもないから安心してね?」



私の声を聞いて、少し冷静になった女の子が何かに気づいたようだ。



 「その声...それに、その髪と瞳の色にエルフ耳...フィーちゃんだよね?」


 「えっ、そうなのか? いや、でも確かにそう見えるな...」



私は、血で汚れた口の周りをカビ臭いシーツで拭いて顔を見せる。

二人は、私の顔を見て安心すると同時に疑問が浮かんでいるようで質問を投げかけてくる。



 「なんで、こんな所に居るの? それに、ミルトちゃんは?」


 「そうだよ...それに、ちょっと見ない間に雰囲気が変わったか? 口調だって違うし」



やっぱり、ミルトと私の体を知っている子達だったのね。

まあ、どう説明すればいいかな?

悪戯を仕掛ける事ばかり考えて、その先を全然考えてなかったよ。

でも、私の体はフィーって名前になったのか。

ミルトが名付けたのかな?

可愛い名前にしたんだね。

そうだな...双子って事にしておくか?

見た目はそのままだし...それでいけるか。

あとは、ここに居る理由だけど...全然、思いつかないね。

なるように、なるしかないか?



 「えっとね、私はあなた達の知っているフィーじゃなくてルルロアって名前で双子なの」


 「ええっ! フィーちゃんは双子だったの? でも、そっくりだし...そうなんだね」



女の子の方は、すごく驚いてるけど納得してくれたね。

男の子の方は、少し疑っているかな?

私の事をよく見て観察してるように見えるね。



 「それで、その双子の片割れがなんでこんな所に居るんだ?」


 「...分かんない」


 「えっ? 分かんないって、どうゆう事だ?」


 「だって、分からない事は分かんないもん」



適当に誤魔化した。

下手に作り話をして、つじつまが合わなければ疑いを深めちゃうしね。

女の子の方は、何かを思い出したのか私に聞いてくる。



 「もしかして、フィーちゃんと一緒で記憶がないの?」



おっ、いいね。

確かに、新しい自我に目覚めたのなら記憶が無いような物だし都合がいいかな。

私は、適当に話を合わせる事にした。



 「うん、あんまり記憶がないんだよね...気がついたら、こんな所にいてさ...私もビックリだよ!」


 「そっか、大変だね...ルルロアちゃんが、いいならだけど一緒に来ない?」


 「いいの? じゃあ、お願いするね!」


 「おい、いいのか? そこまで信用して...」



男の子の方は、まだ信用していないのね。

もういいじゃん...。

危害を加える気はないし、今の私は魔法だって使えない無力なローティーンエルフなんだし。

...泣き落としでもしてみるか?



 「うっ、ひぐっ...信じてくれないの? 私...こんな危険な所に一人で...心細かったのに...うぐっ」


 「信じてあげようよ...女の子を泣かせちゃって、可愛そうでしょ!」


 「うっ...分かった信じるよ!」



ふふっ、どうだ!

イタズラで鍛えたこの演技力は!

すっかり、騙されてくれたね。

でも、良い方向に向かっているかな。

この二人はあんまり強そうじゃないけど...ここまで来たのなら、魔物達と戦闘をせずにやり過ごす方法を知っているだろうしね。

それに、この子達は運が良いのかも。

どんなに強くたって死ぬ時は簡単に死んじゃうし、弱くても運が良ければ生き残るからね。

二人に着いて行けば、無事にアトラ樹海を抜けられそうだ。

そうだ、名前を聞かなきゃね。



 「うぐっ...うっ...二人の名前は...なんて言うの?」



できるだけ、弱々しく猫を被って聞いてみた。

すぐに泣き止んだら演技だってバレちゃうしね。

女の子の方は、私の問い掛けにキュンと来ているようだ。

いきなり抱きしめられて、頭を撫でられながら名前を教えてくれた。



 「私はムマって言うの! ああ、もう可愛いぞこのっ!」



男の子の方は、その様子を呆れながら見ている。

そして、ちゃんと名前は教えてくれた。



 「俺はレイトな、よろしく」



逆から読めば、トイレか...。

名前の事を弄るのは、失礼すぎるから止めておこう。

あとは、なんでこんな所に居るのか聞いてみるかな。



 「二人は、どうしてここに居るの?」


 「えっとね、珍しい薬草の採取の依頼を受けてここまで来たんだよ」


 「薬草のために...こんな所まで?」


 「そうなんだけど、この魔道具のおかげで魔物に見つからなくてね...不意打ちになるんだけど、私達でも簡単に背後を取って急所を狙えるし隠れてやり過ごしながらここまで来たの」



確かに、見た事のない金属製の穴が空いた魔道具を腰にぶら下げている。

なんだろう、不思議な匂いがするね...。

この匂いで、魔物達の認識から外しているのか?

便利な魔道具が現代にはあるんだね。



 「薬草の採取が終わったらアトラ樹海から出るの?」


 「うん、もう大体は採取したから今から帰るとこだったんだ」


 「じゃあ、帰り道をよろしくね!」


 「ふふっ、任せてね!」



このムマって子とは、仲良くなれそうだね。

レイトの方は...別にどうでもいいか。

男に興味はないし。

なんだか、まだ微かに疑っている感じがする。

危害を加える気もないし、そんな力も今は持っていないのにね。


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