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16話 私の夢の中 2


私はまた夢を見ていた。

古く遠い昔の出来事で、この間見た夢からだいぶ空白ができている。



どうやら人間と魔族の戦争中らしく、住んでいた町が魔族に襲われた。

両親が魔族の注意を引き、身代わりになってくれたので逃げ延びる事ができた。

歩き続けると知らない町に着いたけど、両親を亡くし身なりが汚れている私を町の住人は無視して避けていく。

ホームレスに...なるしかなかった。

あと、夢の中の私は原因不明の病に蝕まれているのか体には無数の黒い痣のような物ができている。

呼吸をするだけで苦しいし痛くて辛い。

誰も助けてくれない...人は、案外冷たい生き物だ...。

病気の症状は、日に日に悪化していく。

もう意識を保つのも精一杯だった。

路地裏の奥で横たわり死を覚悟する。



足音がする...小さな足音だ。

その小さな足音の主は、私の前で止まりしゃがんで覗き込んでくる。

小さなエルフだった。

その小さなエルフは、桜色の髪と大きな瞳に色白な肌をしていて天使のような容姿をしている。

お迎えが来たのだと思った。

すると、小さなエルフは口を開く。



 「お姉さん、もう長くないね...助けてあげよっか?」


 「...えっ?」



私の返事を待たず、小さなエルフは手のひらを私の体に当ててくる。

何かを探るように体を隅々まで触られた。



 「ここがダメだね...あと、ここもか...病気ばっかりで可愛そうに...」


 「...温かい」



触られた箇所が温かくて気持ちいい。

体の奥底の違和感や圧迫感...痛くて苦しかった箇所が、すーっと和らいでいく。

起き上がる事さえ、もう無理だと思っていた...でも奇跡が起きた。

小さなエルフは口を開く。



 「これで、病気は治ったよ」


 「あの...あっ、ありがとう」


 「いいの、気にしないで...ただの気まぐれだから」



イタズラっぽく笑う小さなエルフに、私は感謝してもしきれない。

何かお礼をと思ったけど、両親を失ったうえにホームレスの私には何もない。

すると、小さなエルフはある事を告げる。



 「病気の元は無くなったけど臓器の劣化までは治せなかったの...多分だけど、お姉さんは長くは生きる事はできないかな」



崖の上から落とされたような気分になった。

さらに、小さなエルフが続ける。



 「お姉さんは見た感じ...親もいないよね...お金もないだろうし、残された少ない時間はどうやって生きるのかな?」



小悪魔のように、イタズラを考えているような表情を浮かべ残酷な事実を告げる。

体は楽になったのに気分は酷く落ち込む。

目の前の小さな天使が...悪魔のように見えてきた。



 「私には...どうすればいいか...分かんない」



私の言葉を聞き、小さなエルフは微笑んでいる。

やはり悪魔かな...。

すると、二つの選択肢を告げてきた。



 「お姉さんの答え次第だけど、助けてあげるよ」


 「なに?」


 「簡単だよ...私の物になるなら、住む場所も服も食べ物だって面倒を見てあげる...それか、私から必要な物やお金を受け取って残された少ない時間を一人で楽しむか...どうする?」



雰囲気が変わり、真剣な表情で見つめてくる。

どちらかは、ハズレだと思うけど...見定めているのか?

でも、私の答えは決まっている。

両親を亡くし、この町まで逃げ延びたのに病気は悪化して誰も助けてはくれなかった。

でも、この小さなエルフだけが私を助けてくれた。

寂しくて人肌が恋しい。

答えは前者だ。

目の前の小さな天使...いや、悪魔かもしれない小さなエルフに言う。



 「...あなたの物になる」



小さなエルフは優しく微笑む。

そして口を開いた。



 「よかった...お姉さんが、ずる賢く考えて答えを出す人じゃなくてホッとしたよ...実は、どっちを選んでもよかったの...お姉さんの、心の奥の気持ちが知りたくて試しちゃった...それじゃあ一緒に暮らそうね」


 「うん...よろしくお願いします」


 「ふふっ...じゃあ、まずは体と服の汚れを落とさなくちゃね...綺麗にしないと食堂も宿屋にも入れないしね」



小さなエルフは、魔法を使い空中に大きな水の玉を出現させる。

背負っていた鞄から、石鹸と洗剤を取り出し水の玉へ洗剤を入れる。



 「全部脱いで」


 「えっ、ここで?」


 「ここなら誰も来ないよ...ほらっ早く!」



恥ずかしかったけど、私はしぶしぶ服と下着を脱ぎ裸になる。

小さなエルフは、服と下着を受け取ると水の玉へ入れた。

すると、また魔法で水を発生させて私の体を濡らす。



 「冷たくない...温かいね」


 「石鹸を貸してあげるから綺麗にしてね」



路地裏の奥とはいえ、裸になって恥ずかしかったけど開き直った。

泡をいっぱいに立てて全身を洗う。

洗い終わると、魔法で頭から水をかけられ体が綺麗になった。

小さなエルフから、体を隠せるほどの大きなタオルを渡され体を拭き胸から下に巻いて隠した。



 「次は、すすぐから待っててね」



そう言うと、また大きな水の玉を出現させて服や下着を新しい水の玉へ移した。

水の玉の中で、ぐるぐると回っている。

こんな魔法は見た事ないし不思議だった。

水の玉が、透明になるまで同じ事を繰り返す。

小さなエルフは、水魔法を解除すると水の玉は路面にバシャンと落ちた。

服と下着は、空中でねじれて水分が下へ落ちていく。

さらに、小さなエルフは両手を空中に浮いた服と下着にかざすと温風が吹き始めた。



 「魔法って色々あるんだね...」


 「生活にも役立つように、アレンジしてるからね」



服と下着が乾き、私はそれを身に着ける。

やっぱり、服を着てないと落ち着かないね。



 「じゃあ、次はお腹を満たそうね!」


 「うん、その前にさ...名前を教えてよ」


 「そうだね...私、ルルロアって言うの!」


 「ルルロアね、私はミルトだよ」



それから、私達は違う町へ行き一軒家を買った。

ルルロアは、とてもお金持ちで驚いた。

現金一括で家を買っても、まだまだお金に余裕があると言って袋の中にいっぱいに入っている純金貨を見せてくる。



 「お金の心配はないから、欲しい物があったら何でも言ってね」



実際の所、欲しい物はあまりない。

ただ、寂しいから傍にいてほしい...。

そう言うと、ルルロアはすごく嬉しそうにしている。



ルルロアと暮らし始めてある事に気がつく。

私は、精神的な病になっていたのだろう。

時折、不安定になって震えたり泣き出していたりした。

眠っている時でさえ、両親が魔族に殺される瞬間の夢を何度も見てしまいうなされた。

そんな私の様子を見て、ルルロアは手を握ったり抱きしめてくれたりした。

そうされると、自分でも不思議なくらい心が落ち着く。

暮らし始めて一ヶ月が過ぎ、私はトラウマを完全にではないけど少しずつ克服する事ができていた。

すると、ルルロアは可愛いイタズラを仕掛けてくるようになる。

小さな体格を生かし物陰に隠れ背後から抱きついて擽られたり、眠っていると服を脱がされ裸にされたりなど...。

子供っぽく無邪気に嬉しそうに...多分だけど、これがルルロアの本来の姿なのだろう。



それから半年ほど時間が経ち、ルルロアと毎日を楽しく過ごしていた。

でも、終わりが近づいてくる。

私の寿命は...もう数日だって持ちそうにない。

ルルロアが、病気の元を魔法で取り除いてくれたので痛みや苦しい感覚はない。

ただ、体に力が入らず頻繁に睡魔に襲われて1日のほとんどを眠って過ごしていた。



 「ミルト、今日も寝ちゃうの?」


 「うん...ルルロア...もう終わりが近いって...気づいてるよ..ね」


 「そうだね...私と、一緒に暮らせて楽しかった?」



ルルロアは、いつもの調子と違って不安そうに聞いてくる。



 「そんな顔しないで...楽しかったよ...ルルロアには、いっぱい感謝してるよ」



私の頬に手を添えて、ルルロアは優しく微笑む。

何か恩返しできないかな...。

私は、ルルロアに聞いてみる。



 「もう時間も...あまり残されいないけど...私にできる事はないかな?」


 「じゃあさ、ミルト次第だけど...私の魔法を受けてほしいかな」



それは、生まれ変わりの魔法だと言う。

容姿や性格は、そのまま引き継がれるが記憶だけは引き継げないらしい。

ルルロアが、独自に開発した魔法でまだ不完全な所があり魔法を受けるかどうかは私自身に選んでほしいという事だ。

ルルロアはある告白をしてくる。



 「あの時は、気まぐれで助けたって言ったけど...本当は、ミルトみたいな子を探してたの」


 「...どうゆう事?」


 「私は、特別な存在になるための儀式をしたいの...でも、儀式が終わった時に私を起こしてくれる人が必要で...どうせなら、信用ができて大切な恋人みたいに想える人がいいかなって」



その儀式は、特殊な魔方陣にルルロア自身の体と意識を溶かして行うと言う。

膨大な量のマナが必要で、実際に魔方陣が発動するのはマナを充分にため込んでから。

それには、数百年程度の時間が掛かるとか。

あとは、魔方陣が発動するための鍵と起こす役割を私に任せたいらしい。



 「なんだか、不思議な話だけど...いいよ」


 「ほんとに...ありがとう! ちなみに、なんでミルトかと言うとね...見た目が私の好みなのもあるけど...助けてあげたら、私に依存してくれると思ったの!」


 「なにそれ...下心ばっかじゃん」


 「...幻滅した?」


 「ううん...嬉しいよ」



下心があったとしても、私の傍にずっと居ていっぱい優しくしてくれた。

あのまま、見捨てられてたら...野垂れ死にで腐っていただろうしね。

ルルロアの好みの容姿で本当に良かったと思った。



ああ、もうダメだ...。

瞼がとんでもなく重たい。

意識を保つのが...もう..限界だ...。



ルルロアが、私の状態を察して魔法をいくつか掛け始めた。

エルフ語なのか、聞いた事のない言葉を詠唱をしながら私の体に手を当てる。

ルルロアのする事だから...安心して身を任せよう。



 「...おやすみ」


 「うん、またね...」



そう言って、ルルロアは私の唇に口づけをした。

初めてのキスだったけど、人生で一番の幸福を感じながら深い闇の中へ意識が落ちていく。



夢の中の私の意識が消えて、現実の私が目を覚ます。



ものすごくリアルな夢だったな。

夢に出てきた、フィーにそっくりなエルフはルルロアって名乗ってたね。

フィーを見ると、すーすーと小さな寝息を立てている。



 「まさかね...あくまでも、夢だしね」



ルルロアがフィーと同一人物...でも、性格と仕草が全然違う。

だけど、ただの夢とは思えないくらいに濃密な日々を過ごした。

それに、眠っているフィーを見てルルロアと呼ぶと違和感がなくしっくりくる。



 「レラに着いて、本に出てきたアリスって子に会えば全て分かるかな」



私の中で、もやもやした何かが生まれた。

それに、人間でも魔族でもエルフだとしても桜色の髪と瞳はとても珍しい。

そんな容姿の子は滅多にいない。

それが、数が少ないエルフなら尚更だ。

ハッキリさせたい...そう思ってしまった。



 「フィーはルルロアなの? そうだとしたら、さっきの夢は事実って事になるのかな?」



私は、眠っているフィーの頭を撫でながら小さな声で問いかけた。

眠っているから返事は帰って来ない。

もう一回...眠れるかな。

私は瞼を閉じる。

どの道、今はまだ何も分からないからね...。


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