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15話 私の夢の中 1


 「ミルト、もうそろそろ休憩する?」


 「そうだね、からあげも疲れてくる頃だし休もうか」



私達は、ティマの町を出て新しい旅の相棒のからあげ(馬)を走らせていた。

ムマやレイトに、お別れの挨拶をして町を出たのが1時間くらい前で...あっさりとした別れだった。



 「じゃあね、ミルトちゃんフィーちゃん! また会おうね!」


 「またな! お前達に助けてもらったこの命は大事にするぜ!」



二人は、まだ冒険者を続けるらしい。

怖くて死んでしまっても、おかしくない経験をしたのに...たくましいね。

もし、二人に会おうと思ってティマの町へ訪れた時に亡くなっていたらと思うと悲しい。

だから、強くなって生き抜いてほしいね。



 「うん、二人ともまた会おうね!」


 「ムマ、レイト...バイバイ」



ちなみに、からあげを引き取るついでに図書館で借りた本を忘れずに返しに行った。

受付のお姉さんに、本を返しに行くと意外な答えが返ってくる。



 「これですか...よければ譲りますけど...どうします?」



この〖私が出会ったエルフ達〗というタイトルの本は、誰にも借りられる事がなく痛みが進行していて捨てる寸前だったとか。

そんな時に、私達がこの本を借りていったので返しに来た時に譲るつもりだったらしい。

この本に出てくるルルロアがフィーと同一の人物であるなら...レラにいると思われる、アリスを訪ねる時に話のネタになると思った。

だから、私はこの本を譲り受ける事にした。

冒険譚と動物図鑑はそのまま返した。



そして、からあげを引き取りに行く。

フィーの事が待ち遠しかったのか、からあげは少し興奮気味でフィーが顔や首を撫でると落ち着きを取り戻す。

牧場主のアーサーは、いくつかの穀物や馬が好むニンジンやリンゴなども持たせてくれたし世話の仕方や好みの餌を教わった。

アーサーに、お礼を言って町の入口へ向かいムマ達と別れを済ませる。



そんな感じで、ティマの町を出て1時間くらいが経つ。

フィーは、からあげに止まるように指示を出してしゃがませる。

私達は降りて、からあげにリンゴを食べさせたり背中を撫でたりして簡単な世話をして休憩もした。

1時間ほど走らせて、30分休憩をするペースでレラを目指す事にする。



 「あとは排泄だね」



私は、フィーに頼んでからあげを道の脇に誘導してもらう。

からあげのお尻を道の脇に向けさせて、腰のあたりを軽くポンポンと叩く。

これはアーサーが躾けたやり方だ。

この合図で排泄を済ませるらしい。



 「おっ、出てきたね」


 「ミルト...からあげのお尻から何か出てきたよ? 病気なの?」



ああ、そうか。

フィーは排泄を知らないよね。

私も、フィーに出会ってから排泄が無くなった。

かれこれ、私達は一ヶ月以上はうんちやおしっこなどの排泄がない。

おかしいよね...やっぱり。

フィーに至っては、あれだけ食べてお腹がぽこんと膨らんでも朝になれば元に戻っている。

出すべき物を、体の外へ出さないでどこに消えていくのか?

私達は病気かもしれない。

まあ、フィーは新種の特異体質のエルフで私はそのマナの影響を受けているから排泄が無くなったのではとイリナが言ってたしね。

次の町で、一応お医者さんにでも診てもらおうかな。

とりあえず、フィーに教えなきゃね。

生き物なら、ご飯を食べて時間が経つと生理現象で排泄をする事を教える。

すると、フィーがある事に気づいた。



 「じゃあ、私とミルトは生き物じゃないの?」


 「ええっとね、私達はちゃんと生きてるし生き物だとは思うよ...でも、一部の生理現象が無くなってるけど」



まあ、体は楽だし都合がいいからね。

お腹を壊してトイレを探しに行く事もないし...。

ずっと、このままでいいな。

からあげの排泄が終わったし、休憩の時間もちょうど終わる頃かな?



 「そろそろ行こうね」


 「うん、準備する」



私達は、からあげの背に跨り再び走り出した。

それにしても目線が高くなるね。

実際、からあげの体高は私の目線より上だ。

そんな大きな馬を操るフィーもすごいけど。

肩幅が狭くて小さな背中がすごく頼りになるし可愛い。

私は、フィーの背中に体を密着させる。

なんだか、眠くなってきちゃった...。

まずい...走っている馬の上で眠るのは絶対に危ない...。

頭がガクンと揺れ、意識が一瞬無くなったり戻ったりを繰り返す。



 「フィー...私...眠っちゃうかも」



私は、フィーの小さな背中にもたれ掛かるようにしがみつく。

可愛い心臓の音が、背中越しに伝わりますます眠くなった。



 「そのまま、くっついていてね」



フィーの、優しい言葉が止めを刺した。



 「...くぅ、くぅ」


 「ミルト...可愛い」



なんだろう...これは夢かな?

私は、知らない町に居て目線は地面に近い。

手の形だって小さくて子供のようだ...いや、この夢の中の私は子供なんだ。

でも、この景色は夢の中とはいえ見覚えがない。

建物や住人の服装が時代を感じるし...現代には合っていない。



 「まあ、夢だしね...きっと、本で読んだ景色が再現されているのかな?」



でも、夢にしては鮮明すぎる。

建物の壁を触ると、石材のザラザラとした感触が手のひらに伝わる。

ここまで、リアルな夢はさすがに初めてだ。

すると、知らない大人の女性が近づいてきて声をかけてきた。



 「ミルトちゃん、お外で遊ぶのは楽しかったかな?」



なんで、私の名前を知っているの?

なんとなくだけど...私に似ている?

黒髪で胸が大きく少し地味な雰囲気も感じる。

なんだろう...でも、この感覚はマーレさんに抱いた感情と同じだ。

母親を感じた...あの感覚に。



 「お母さん?」


 「どうしちゃったの? ママの事を忘れちゃった? それとも、そうゆうごっこ遊びかな?」



なるほど...夢の中で、架空の母親を作り出したのね。

想像とか妄想が得意だけど、夢にまで反映されるとは思わなかった。

私の小さな手を、夢の中だけの母親が優しく握り二人で歩き出す。

どうやら、家に帰るようで夕飯の話題になる。



 「今日は、ミルトちゃんの好きな鹿肉の鍋だよ! 嬉しいでしょ!」


 「...うん」


 「どうしたの? 元気ないね?」



困った。

幼少期どころか今まで母親が居た事が無いから、夢の中と言えど子供らしい反応がよく分からない。

私のそんな様子を見て、お母さんが抱きかかえる。

高い高いをされてしまった。

というより、今の私はそこまで小さい子供だったのか...。

それに、体がふわふわして怖い...。

すると、聞きなれた可愛い声が小さく響いてきた。



 「ミルト、そろそろ起きて」


 「うん...あれ...ああ、そっか...寝てたんだね」



さっきまで、夢を見ていたし目が覚めて現実に戻ったんだね。

寝ぼけながらギュッとフィーを抱きしめた。

目が覚めたら、これをしないと始まらない。

私の中では、とても重要で欠かせない日課になっている。



 「ミルト、からあげを止めるから降りるよ」


 「そうだね...休ませてあげないとね」



からあげの世話をしながら、夢の内容を思い出してみる。

全部、はっきりと思い出せてしまう。

眠っている時の夢って、大体は起きたと同時にすぐ忘れるか徐々に薄れていくかのどっちかだよね。

不思議な事もあるもんだね。

すると、私は寝言を言っていたようでフィーが教えてくれる。



 「寝言を言っていた...お母さんって、言ってたよ」



少し恥ずかしい。

フィーの背中にしがみついて...そんな寝言を言っていたのか。

まあ、母親という存在に恋しさや憧れを抱いているのは事実だしね。

お母さんが居た事なんてないから、ただの夢のはずなんだけど...懐かしい気持ちになった。

不思議だね...ありえない事なのに。

あれ...涙?

私の頬を涙が伝い濡らしていた。

フィーが心配してくる。



 「どうしたの? どこか痛いの?」


 「ううん、違うの...涙が勝手に流れてきて...」


 「心配だから、今日はもう休む?」



すごく、心配そうで不安な表情をしているね...。

この状態で、先へ進むのは余計に心配を掛けちゃうかな。

私は、フィーの言う通りにして今日はもう休む事にした。

からあげを日陰の涼しい場所へ誘導して野宿の準備をする。

私が何かしようとすると、ダメと言われた。

なので、黙って様子を見るだけになったけど...。



フィーは、鞄から調理道具と食材を取り出した。

でも、料理をした事がないから...どうしていいか分からなそうだ。

なので、私の出番だと思いフィーにの傍へ行く。



 「何を作りたいの?」


 「ミルトが、元気になるご飯を作りたい」



嬉しいね。

私のために、何かをしてあげたいって気持ちがすごく心にしみる。

まあ、私自身もそんなに料理のレパートリーは多くはないけど。



 「じゃあ、干し肉を炙ろうか」


 「うん!」



子供が調理するなら簡単な方がいいよね。

火を熾して、肉を串に刺してただ炙るだけ。

でも、シンプルで美味しいんだよね。

いい感じに炙った干し肉を頬張りお腹を満たす。



もう、今日は休むだけだから...ゆっくりしようかな。


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