14話 フィーの意外な特技と馬の購入。
少し、更新頻度が落ちます。
「世の中、色んな仕事があるんだね」
私は、仕事に役立つ何かしらの資格や知識の情報が載っている本を探していた。
いくつかの本を手に取り読んでいると、聞きなれない資格や仕事の名称が出てくる。
それに、その仕事の内容や基本給の大体の相場なども記されていた。
「魔石鑑定士...基本給の相場が、月給で純金貨1枚と小金貨7枚か...資格を取るための試験もけっこう難しそうだね」
その他には、資格の取得の難易度が非常に高い魔法開発士や錬金術師...もしくは、始めるのに資格の必要がない小売店や鍛冶屋などの従業員などもある。
それらしい参考書を手に取り読んでみると、内容が難しく初めて見る単語がいくつも出てきて目が回る。
「うっ...難しい、字は読めても内容が理解できない...」
私は、静かに参考書を本棚へ戻した。
向き不向きは人それぞれかな...。
「まあ、まだレラに着くまで時間はあるからね...」
「落ち込んでる?」
私の傍で、絵本を読んでいたフィーが気に掛けてくる。
ダメだね...この子のためにも私が頑張らないといけないのに...。
ちなみに、所持金はマーレさんから貰った分と今回の報酬の分で純金貨だけでも65枚もある。
純金貨が1枚あれば、普通であればひと月分の生活費を余裕で賄えるけど...宿代や食費などで消費が激しい。
だから、何かしらの仕事のあてや目途をつけておきたい。
「大丈夫だよ、その絵本は面白いかな?」
「面白いより可愛い」
それは、幼児向けの可愛い絵が描かれた絵本だ。
フィーの見た目年齢とは合わない内容だけど...感性が幼いからだと思う。
一応、私の中では0歳と1ヶ月だからね。
「その絵本、欲しいかな?」
「...可愛いけど、いらない」
あまり、物欲がないのかな?
なんだか、そんな感じはする。
結局、私達は何も購入せず本屋を出た。
町の中を少しぶらつく。
何もする事がなくて...少し暇だ。
いや、この状況はよくないね。
それに、私は追われているんだった。
イメチェンをして見た目を誤魔化す事ができても、アイツ等と遭遇したらボロが出ないとも限らない。
上手い解決策だって見つかっていないから、少しでも早く大都会と思われるレラの城下町の人ごみに身を隠したい。
明日には、この町を出るか...なら、準備しないとね。
私達は、食料を買いに町の市場へ向かう。
主に、野菜や山の幸や魚介の乾物を買い込む。
マーレさんから貰った残りの食料と合わせても...次の町までは余裕で持つだろう。
あとは、部屋にまだある大量のお菓子はどうしようか...。
「うーん、そうだ...ムマ達に協力してもらおうか」
ムマとレイトを部屋に呼び、机の上に山のように積まれているお菓子を見せる。
「どうしちゃったの...これ?」
「すげー量だな...」
ちょっと、引かれてる?
事情を説明し、おやつの時間という事にして4人でお菓子を食べた。
甘いお菓子が多いから、胸焼けを起こさない程度に減らし続ける。
「まだまだ、いっぱいあるね...辛くなってきたよ」
「今日は、夕飯はもういいか...」
ムマやレイトは、お腹がきつそうだね。
なんか、悪い事しちゃったかな。
でも、日持ちしなさそうなお菓子もあるしお金も無駄になっちゃうしな...。
フィーも胸焼けを起こしているのか、少し食べるペースが落ちてるね。
でも、そろそろ二人に話そうかな。
「あのね、明日この町を出ようと思うの」
「うん、そうなんだ...えっ!」
「もう出て行っちゃうのか?」
突然だったから、ムマは驚いてるね。
レイトは少し冷静かな。
それに、二人とも大人だし...私達...主に私だけど、何かしらの理由があっての旅だと分かっていたのか深くは聞いてこなかった。
「でも、レラを目指すなら次の町までかなりの距離があるよ」
「だよな、人の足じゃ三週間は掛かるぞ...そうだ、金があるなら馬を買ったらどうだ?」
馬か...確かに、長距離を移動するなら人の足より圧倒的に早く着くよね。
でも、乗馬なんてした事ないけど大丈夫か?
それに、いくらするんだろ...。
話を聞くと、この町には馬を育て調教している人が居るらしくレイトの知り合いでもあるようだ。
純金貨で20枚もあれば馬を買えるとか...払えなくはないけど大金だね。
でも、馬で移動すれば次の町までは一週間ほどで着くらしい。
三週間が一週間に...レラまで向かう道中、野宿する日数や食料の減りを考えると...けっこうお買い得な気がしてきた。
「なら、紹介してほしいかな」
「じゃあ、まだ外も明るいし今から見に行ってみるか」
善は急げか...。
私達は、お菓子を片付けて馬の牧場に行く事にした。
この町の奥、少し離れた位置その牧場はあるらしい。
移動時間は30分程で、綺麗な水が流れる水路の多いこの町の奥まで進むと柵に囲まれた小さな牧場が見えてきた。
レイトは、知り合いを呼びに敷地の中へ入っていったので私達も着いていく。
「おっ、久しぶり! アーサー、元気だったか?」
「ああ、元気だよ! それに、ムマちゃんと...知らない女の子が二人もいるけど、どうしたんだ?」
レイトは、私達の事を紹介して馬が欲しい事も伝えてくれた。
このアーサーは、2年前に冒険者を引退して家業である馬の調教や飼育を継いだらしく、この町の憲兵団などと取引をしているらしい。
話を聞いてみると、今いる馬のほとんどが買い手がついてる状況で...でも、ちょうど一頭だけ買い手がつかない馬がいるとか。
だが、おすすめはできないとも言われた。
暴れ馬という訳ではなく、単純に人を乗せても動こうとしないらしい。
体格も大きく牡馬であるから、期待をしていただけに困っているとか。
とりあえず、見てみる事にした。
「これが、そうなんだけど...」
「おっきいね...迫力があるよ」
いやいや、想像してたのよりも一回り以上大きいな。
でも、人を乗せても動かないんだっけ。
うーん、言い方は悪いけど売れ残りの馬はこの子だけなんだよね。
どうしよう、動かないんじゃ買っても仕方ないか...。
すると、フィーが馬を見て口を開く。
「この子に乗れるの?」
「動こうとはしないけど、背中には乗れるよ」
「...乗ってみたい」
フィーが、興味を持ったみたいだね。
一応、乗馬体験という形でこの大きな馬の背中に乗る事になった。
あっ、でもアーサーの言う事はある程度は聞くんだね。
アーサーが指示を出すと静かにしゃがんだ。
その間に、フィーが馬の背中に跨る。
今度は、立ち上がるように指示を出すとゆっくりと立ち上がる。
「...高い」
「怖がらなくていいからね...あれっ、嘘だろ...」
ゆっくりだけど、馬が歩き出した。
飼い主のアーサーがすごく驚いていた。
今まで、誰を乗せても微動だにしなかった馬が自分の意思で歩いているからだ。
「これ、どうすればいいの?」
「じゃあ、そのまま牧場に出て乗馬の練習をしてみようか」
いつも、私の傍に居て少しだけ人見知りをするフィーが今日初めて会う人と会話をしている。
どうしてだろうと思っていると、なんとなく理由が分かった。
多分だけど、何か興味が惹かれる物があれば...人見知りも少しだけ緩和されるのかな?
あと、馬に乗った事で視線が高くなり真正面で会話をしている訳ではないのも影響があるだろう。
アーサーから、乗馬のコツや手綱の扱い方など教えてもらっている。
「おっ、走り出したね」
馬を走らせるのって...案外簡単なのか?
いや、そんな訳はないか。
もしかして、記憶が無くなる前は馬を走らせていた経験があって無意識でも体がそれを覚えていたとか。
牧場の中を数周程してから、私達の所へ戻って来た。
「...楽しかった」
「この子は経験者なの? というより、馬から進んで走り出している感じもあったけど」
アーサーは驚いている。
フィーの横で馬の扱い方を教えるつもりが、走り出したうえに乗りこなしたのだから。
馬から降りたフィーが近づいてきた。
「ミルトも乗る?」
「うん、馬を買うなら私も乗れるようにしなきゃね」
私も、乗馬を経験してみる事にする。
アーサーが、先ほどのように馬をしゃがませて私が跨る。
全然、動かない...。
なんだ、馬にも好みとかあるのか?
一度、馬から降りる事にした。
アーサーが少し考える。
フィーが手綱を握り前に乗って、その後ろに私が乗ってみてはと提案された。
言われた通りにやってみると...馬が前へ進みだす。
振り落とされないように、私はフィーのお腹に両手を回し密着する。
何て言うか、お尻にすごく振動が伝わってきて腰を痛めそうだ。
でも、馬は軽快に走っていてフィーは上手く乗りこなしているし...とても楽しそうだ。
これは、もう決まったね。
アーサー達の所まで、フィーは馬を走らせ首をさする。
フィーの意図を理解したのか、私達が降りやすいようにしゃがんでくれる。
その様子を見て、アーサーはまた驚いていた。
「ほんとに、すごいね...ここまで、教える事がないと感動すら覚えるよ」
「私も、フィーにこんな特技があったなんて知らなかったよ...早速ですけど、この子をいくらで譲ってくれますか?」
「まあ、レイトから聞いてると思うけど純金貨20枚だね」
大きな出費だけど、今後の事を考えるなら役に立つしいいかな...フィーだって喜ぶからね。
アーサーに、用意していた純金貨を支払った。
また、二人乗りをする際の簡単な注意事項を教えてもらう。
長時間の騎乗は馬に負担が掛かるので、元気に走っていても適度に休憩をさせてあげてと教えられた。
明日の朝、この町を旅立つ前に馬を引き取る事になった。
あとは、名前らしい。
購入した人に、愛着を持たせるために名前は付けていないとか。
どうしようかな?
宿屋に戻りながら名前の候補を考える。
でも、ここはフィーに決めさせてあげるべきだね。
どんな名前がいいか聞いてみる。
「...からあげ」
調理されちゃってる...。
好きな食べ物の名前がよかったんだね。
でも、仕方ないか。
記憶が無いから、言葉のボキャブラリーが少ないもんね。
カッコいい名前がよさそうだけど...案外、可愛い名前かも。
「じゃあ、この子は名前はからあげにしようか」
「うん、からあげがいい」
夕飯の献立みたいな会話だけど...馬の名前だからね。
ちゃんと世話をして、いっぱい可愛がってあげなきゃ。
それに、フィーの知育にもよさそうだし我ながらいいお金の使い方をしたと思う。