13話 高い食費と将来の事。
宿屋で休んでいると、ギルドから使者が訪ねてきた。
調査隊が戻り結果が確定したため、報酬を受け取りに足を運んでほしいとの事だ。
ギルドに着くと、以前に案内された個室に連れて行かれギルド長が来るまで待っている事になった。
報酬を受け取りに来ただけなのに、何故ギルド長が出てくるのか?
まさか、登録をしろと勧誘されるのかな?
私達には、そんな気はないと伝えたはずだけど...まあ、まだ決まった訳じゃないしね。
少し時間が経ち、初老くらいの髪も髭も真っ白なおじさんが私達の居る個室へやって来た。
この人がそうらしい。
その後から、報酬が入っていると思われる袋を持った女性職員がやって来る。
テーブルの上に、報酬が入った袋を置きさらに綺麗な水色の小さい箱も並べられた。
ギルド長が話し始めた。
「私ね、かしこまった話をするのが苦手でね...こっちは報酬の純金貨50枚に...勝手な事をしてしまうようで申し訳ないけど、こっちは認識票だよ」
その認識票は、ムマ達や犠牲になった冒険者の物とは色も形も違う。
一般的な認識票は、銀色のプレートに名前や年齢と所属ギルドにランクが記されチェーンを首に掛けるタイプがほとんどだ。
目の前のそれは、純金のプレートで綺麗な光を放ち縁の部分は装飾が施されている。
それぞれに、私達の名前が記されていた。
「認識票ですか...何故です? 私達は、登録した覚えはないですよ?」
少し、不快な気持ちになる。
勝手な事をされて、私達の意思が捻じ曲げられた気がしたからだ。
ギルド長は、私の様子を感じ取り説明を始める。
「登録をする意思がないのは聞いてるし、こっちも無理強いする気はないよ...でも、今回はたくさんの犠牲者と行方不明者を出してしまったし君達が訪れなければ全滅は確実だった...その化け物を倒し、若い二人の冒険者を救ってくれた英雄を称える証だと思ってほしい」
確かに、所属とかランクは記されていない。
勝手に登録をされた訳ではなさそうで安心した。
さらに話が続く。
調査隊が現場を調べたところ、いくつかの認識票を発見できたそうだ。
だが、ほとんどがあの化け物の腹の中から遺体と共に見つかった。
ただでさえ、皮膚を剥がされ損傷が激しいのに胃液で溶かされて、認識票なしでは誰なのか見当がつかない程だとか。
あとは、あの変異した冒険者の物と思われる認識票がいくつか落ちていたらしい。
全部で14個の認識票が見つかり、私達が持ってきた4個と生き残ったムマとレイトの分を合わせても...残りの5人の行方が分からない。
見つかった分の認識票を元に、依頼を達成し支払われるはずだった報酬と遺品を遺族へ渡すみたいだ。
すごく、辛いだろうね。
残された冒険者の家族は、その遺体すら見る事もできず報酬のお金と遺品だけ渡されて納得ができる訳はないよね。
残り5人の行方は、これからも捜索は続けるらしいけど一定の期間が過ぎると打ち切られるらしい。
まあ、残酷なようだけど仕方ないよね。
時間が経てば経つほど、痕跡は消えていくから探すのにも限度はある。
ギルド長の話が終わり個室から出ると、ギルドのロビーの中からは今回の討伐隊に加わらなかった冒険者達で溢れている。
年齢層は、けっこう若く見える。
成人した10代後半から20代前半くらいの人が多くて、中にはその冒険者達の親と言ってもいいくらいの中年層も何人かいる。
「何人くらいが、生きて引退できるんだろうね...」
勝手な想像だけど、この中の半分以上は今回のように魔物に殺されてしまうと思う。
見れば、若い女の子もけっこういるようだ。
こんな危険な仕事を選ばなくても...まあ、本人達の自由だし覚悟もあるんだろうけどね。
ムマ達は、どうするのかな?
あの惨劇を経験して、まだ冒険者を続けるのかな?
まだ知り合い程度だけど、助けてあげたし一緒にご飯を食べた仲だしね。
私達がこの町を出た後、会おうと思って再びこの町を訪れた時に亡くなっていたら悲しくなると思う。
でも、人の人生はその人の物だし私が口出しできる事じゃない。
そう思いながら、私達はギルドを後にした。
こうゆう時は甘いものが欲しくなる。
少し気分が落ち込んでいたので、露店に寄り甘そうなお菓子を大量に買い込む。
私達は、近くにあった公園のベンチに腰かけて甘いお菓子の味を楽しんでいた。
我ながら、爆買いをしてしまったと思う。
金額にして小金貨3枚分...まあ、子供の頃に憧れた大人買いって事にしておこう。
私達の様子を見て、公園で遊んでいた子供達が何人か近づいてくる。
きっと、この大量のお菓子が気になったのだろう。
「よかったら、いくつか食べる?」
子供達の表情は明るくなり、お菓子を物色し始めた。
無邪気に、食べたいお菓子を選んでいる子供達の笑顔は癒されるね。
選び終わり、私達の傍にあったベンチに座ってお菓子を食べ始めた。
それでも、けっこうな数が残っているね...反省しないと。
お菓子をたくさん食べ満足したのか、子供達はフィーの傍に来て遊ぼうと誘ってきた。
フィーは、私の事を見つめてくる。
少しだけ人見知りだからね。
私の傍から離れるのが、不安なんだと思う。
「傍で見てあげるから遊んでおいで」
「...うん」
遊びやすいように、深く被ったフード付きのローブを脱ぐと桜色の髪とエルフ耳が露わになる。
この町は、治安がすごく良いからね...隠す必要もないかな。
フィーの髪と耳を見て子供達はビックリしていた。
人間であれば、絶対にない髪の色だし長い耳は珍しいからね。
でも、さすがは子供だ。
フィーの手を取り無邪気に走り出す。
「あれは、鬼ごっこかな? ふふっ、楽しそうだね」
フィーは、とりあえず鬼役の子から逃げている。
でも、なかなか捕まらない。
それはそうだ...身体能力が違いすぎるからだ。
空気を読んでいるのか、他の子に合わせて抑えているように見える。
鬼役の子は、フィーを諦めて他の子を追いかけ捕まえると鬼役が変わる。
新しく鬼役になった子は、足の速さに自信があるのかフィーを目掛けて走り出した。
捕まりそうになるくらい距離を詰めても、フィーが少し強めに地面を蹴れば一瞬で距離が開く。
走り回っても、息を全く乱さないフィーと息を乱して辛そうにしている子の差があまりにも大きい。
でも、フィーは足を少し遅くして鬼役の子にわざと捕まった。
きっと、これではダメだと思ったのだろう。
鬼役だった子は、地面にへたり込み肩で息をして休んでいる。
フィーは、他の子を追いかけ始めた。
子供達は必死に逃げるけど、涼しい顔をしてフィーが追いかけていく。
でも、なかなか捕まえようとしない。
圧倒的すぎると、つまんなくなってしまうと考えての事だと思う。
そんな感じで、鬼ごっこは1時間ほど続いた。
遊び終わると、子供達はフィーを囲んでいる。
「お前、足が早すぎるよ...」
「ほんとにね...全然、息を切らせていないし手加減していたでしょ?」
「うぅ...うん」
ちょっと空気が怪しいか?
お願いだから、喧嘩はしないでね...。
「やっぱり...お前すごいな! カッコいいよ!」
「どうして、そんなに早いの?」
「え、えっと...」
困っているね。
フィーの傍へ行き、簡単で適当な説明をする。
理由は、エルフだから。
まあ、本にもエルフは身体能力が高いって書いてるし...それでいいだろう。
この子達も、それで納得したようだった。
さて、もう夕方になり始めるので子供達とはお別れだ。
「また、遊ぼうぜ!」
「お姉さん、お菓子をありがとう」
お菓子をいくつか持たせてあげると、子供達は喜び家に帰っていく。
嬉しそうにしていて何よりだ。
私は、フィーに感想を聞いてみる。
「遊んでみて、楽しかったかな?」
「レンカとモーナの時とは違って難しかった...でも、楽しかったと思う」
まあ、あの時は猫を触ってお菓子を食べたくらいで...今日みたいな体を使った遊びとは違ったからね。
フィーにとって、いい経験を積めたと思う。
「ミルト、ご飯食べたい」
「うん、時間もちょうどいいし食べに行こっか!」
とりあえず、宿屋に戻りまだ大量にあるお菓子を部屋に置きに向かう。
お菓子を部屋に置き廊下へ出ると、ムマ達も夕飯を食べ行こうとして部屋から出てきた。
私達は、夕飯に誘われたので4人で酒場へ向かう事にした。
酒場と聞いて少し不安だったけど、この町の酒場は客層も穏やかで安心だと言う。
お酒だけじゃなく、ジュースの種類も多くて料理も若者向けのメニューが多く味も美味しいとか。
酒場に着くと、テーブル席に座り次々と料理を頼む。
いつも通り、フィーはその小さな体でたくさん食べる。
それを見て、周囲の人を驚いている。
まあ、見慣れた光景だね。
ムマやレイトは自分達だけだと、食べられる量は多くはないからフィーのおかげで色んな料理を楽しめてありがたいとか。
「大食いが、意外なとこで役に立っていて勉強になったよ」
「うん、お酒を飲む人したらフィーちゃんは貴重な存在だよ...お酒のつまみが増えるからね」
私も、お酒を飲めるようになれば分かるのかな?
フィー程じゃないけど、今はたくさん食べたい気持ちの方が強いかな。
それに、ジュースだってすごく美味しい。
食べ終わり、代金の支払いをすると小金貨が5枚だった。
割り勘で半分の額だったけど...いいのかな?
多分、8割くらいはフィーが食べた分だけど...。
食費が、恐ろしいくらい掛かるね。
でも、いっぱい食べさせてあげたい。
レラに着くまでに、何か資格を取って高給な仕事を探さないといけないか。
どんな、仕事があるのかな?
明日は、本屋さんに行ってその類の本を探してみるか。
将来の事も、ちゃんと考えなきゃね。