11話(番外編) 賢者の苦悩。
いつもより、文字数が少なめです。
「いい加減、この写真の子がなんなのか教えなさいよ!」
私は機嫌が悪い。
理由は、このベラの町に着いてから依頼主である男達と仲間の二人が娼館に通い詰めているからだ。
依頼内容は、この写真に写る女の子を捕まえる事。
報酬がとんでもなく高く、仲間と分配しても一生を遊んで暮らせるほどだ。
前払いで、報酬の半分を貰い金銭面での信用はできると判断したけど...今にして思えば失敗だった。
まず、仲間の二人がこんなにも性にだらしのない奴らだった事実と、故郷に戻るのにまた危険を冒してアトラ樹海を渡らなければいけない。
こんな地味な子を捕まえるのに、高すぎるくらいの報酬を支払うこの男達は何が目的なのか?
依頼内容について、理由などの詳細を聞くのは禁止されていた。
ただ...この地味な子を全く探そうとせず、昼間から娼館に足を運び欲望を満たす依頼主と仲間に頭が来ていて、理由を聞かずにはいられなくなった。
写真に写るこの地味な子が、お金に困り娼館で働き路銀を稼いでいるかもしれない。
そんな、いい加減な理由があってたまるか!
しかも、仲間から口から出た発言で余計に怒りが沸く。
「女の子の事を軽く見すぎだろ...金が無いからって、簡単に体を売るみたいな思考が許せないんだよ!」
私は、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
何かに怒りをぶつけないと、依頼人も仲間も焼き殺してしまいそうだ。
私の様子を見て、依頼人の男が口を開く。
「そんなに怒らないでくださいよ...賢者様、この子は平気でそうゆう事をするんです...信じてくださいよ! 報酬だって、前金を受け取ってくれたじゃないですか!」
ぐっ、そうなんだよな...しかも、仲間で分配した前金は私の家族の借金にあてから...ほとんど残っていない。
少し冷静になり、私は納得するためにもう一度聞く。
「ただ理由を聞かせてくれ...この子はなんだ?」
「それは、お答えできません」
依頼人に詰め寄ってると、仲間がイライラして声を荒げる。
「もう、いいじゃないか...ルナ? 俺達は、この依頼主の満足がいくように仕事をこなせばいいんだよ!」
「そうだそうだ! 高い報酬だって貰うんだ! 冒険者なら、依頼主が満足するように黙って仕事をするだけだ!」
何が仕事だよ。
金を払って、女の子を抱いているだけだろ。
ソードマスターとかパラディンの肩書がなければ、こんな奴らはただのスケベな変態男だ。
今は、酒場でお腹を満たしている最中だけど...こいつらと同じ空間に居る事が苦痛で外の空気を吸いに席を立った。
「ありえない奴ら...はぁ、この依頼はいつ終わるの?」
いっその事、依頼なんて忘れて逃げ出すか?
いやダメだ。
故郷の家族に迷惑が掛かるかもしれない。
お宅の娘さんは、高い前金を受け取っておきながら無責任にも依頼を破棄して逃げ出しました。
なんて、言われて責任を取らされる。
ああ、自由になりたい。
「そういえば、数日前に出会ったあの旅人の子達...胸や尻の大きい髪が白い子は、この地味な子と雰囲気が似ているんだけど...見た目の印象が違うんだよね」
髪は染めた感じはなくて、地毛のように見えた。
てか、写真に写っているこの子は前髪を伸ばしすぎだ。
そのせいで、目元がすっかり隠れていて顔が分からない。
あの時、名前も聞いておけばよかったかな?
いや、本人ならどうせ偽名を名乗るだろうと思って聞かなかった。
それに、隣に居たおばさんの顔が怖かったし...。
あと、隣に居たフードを被っていた子だ。
隠していたけど、エルフの耳が見えたんだよね。
「すごいマナだったな...圧が凄くて、その場に長くいる事ができなかったよ」
私は、人間にしては珍しくマナを感じる事ができる体質だ。
そのせいで、たまに具合が悪くなったりして不都合な事もあるけど...。
「きっと、大物なんだろうね...私も、ランクで言ったら9段階目なのに上には上が居るもんだね」
もし、あの旅人の子が写真の子だとして...あんなのが傍に居るなら、絶対に勝てないだろうね。
違っていてほしいな。
こうゆう予想って、悪い方に傾くもんだよね。
もう少しだけ、一人の時間を過ごしたかったけど...今は聞きたくない声が、私の名前を呼ぶ。
「ルナ! いつまで怒ってんだ? そろそろ宿に戻るぞ!」
「ちっ! はいはい...戻りますよ」
宿屋までの道のりを、仲間と依頼主から距離を取り離れて進む。
今では、仲間に対して嫌悪感しか感じない。
この依頼を受ける前は、3人でパーティを組み難しい依頼をこなして強い絆もあったと思う。
9段階目まで来たのだから、いくつもの死線を越え苦労もいっぱいあった。
でも、私が子供なのか?
ムラムラした欲求をため込んで、男の子だけの悩みを今まで抱えていたのかもしれない。
だから、大金が舞い込み欲望を満たせる店がいくつも並ぶこの町で羽目を外したのか?
「もう少し寛容になるべきか...腐っても、ここまで助け合った仲間だしね」
私達は宿屋に着く。
当然、部屋は男女で別々だ。
おかげで、私は広い部屋を一人で使う事ができるし...私だけの聖域のようになっている。
しっかり鍵をかけて...ついでに、椅子をドアノブに固定させて...これで安心ね。
「もう寝ちゃおう...疲れた」
嫌な気分を忘れるように、ベッドに横になり布団を被る。
明日、この町を出られればいいな...。