10話 体の変化と美味しい夕食。
「わぁ! ミルトちゃんって、思った通り凄くおっぱい大きいね!」
キラキラした瞳で、ムマが私の胸を凝視してくる。
私は、思わず両手で胸を覆い隠した。
「なんで隠しちゃうの? 女の子同士なんだからいいでしょ!」
「よくないよ! じっと見られると恥ずかしいの!」
「そっか、ごめんね...あと髪の色はどうしたの? 白かったのに黒くなってるよ?」
胸よりも、先に髪の色じゃないかな?
事情を説明するのも面倒くさいから...魔道具を使い、おしゃれで白くしている事にする。
その説明を聞いて、ムマは嬉しそうにしている...なんで?
「えへへ、黒髪のミルトちゃん地味で素朴で可愛い」
「それ...悪口じゃない?」
褒められたのか、貶されたのか分かんない。
でも、ムマの性格を考えると...悪口で言っている訳じゃないようだ。
私達は、宿屋のお風呂場で湯船の温かいお湯に浸かっている。
それと...ムマがやってくる前に、ちょっとした事件が起きていた。
石鹸で体を泡まみれにして、シャワーで流した時だった。
「なんか、いつもよりスースーする...うん?」
下の毛が...全部なくなっていた。
さっきまで、そこに生えていたはずなのに...どうして?
あと、ムダ毛の処理をしようと思って剃刀も用意してたけど...必要なくなった。
体が大人になろうとして成長が始まると、自分の意思とは関係なく生えてほしくない毛が生え始める。
女の子にすれば、一生の悩みの一つだ。
それに、剃刀で毎日処理をすると肌荒れを起こしてしまう。
できれば、毎日ツルツルでいたいけど...それは難しい話だ。
「なんで、こうなったの...? でも、脇の下とか背中の気になる部分がツルツルで嬉しい」
「ミルト...私と同じ?」
うん?
フィーと同じ?
あっ...そうか。
フィーのマナの影響か...だから、ツルツルなんだね。
私は、フィーの体を確認した。
「子供だから? いや、エルフだから...? 髪と眉毛とまつ毛ぐらいしか、毛が生えていないね...産毛すらないね」
「ちょっと恥ずかしい」
「ごめんね、あとは...もしかして、ここもか?」
「ひぐっ!」
フィーの鼻の先端を、人差し指でクイっと上に上げる。
うふふ、変な顔になったけど可愛い。
じゃなくて、やっぱり...鼻の中も毛が無くてツルツルだ。
エルフってすごいね...完璧だよ。
確認すると、私の鼻の中もフィーと同じになっている。
これから、剃刀負けに悩まされなくて済むんだね。
最高かな!
女の子の悩みが、一つ完全に無くなっちゃった!
私は、フィーを抱き寄せる。
「ありがとう! フィーのおかげだよ!」
「...?」
まだまだ、幼いから分かんないよね...無垢でほんとに可愛い。
でも、下がツルツルしてるのは少し落ち着かないかも。
私の歳なら、生えてるのが普通だもんね。
なのにツルツル...他の人に見られると恥ずかしいかもね。
それに、次にマナの影響で変化があるとすれば...耳か?
エルフ耳って、私に似合うかな?
まあ、実際にそうならないと分かんないよね。
これが、少し前に起きた事件だ。
ムマの反応を見るに、このツルツルの体に興味を持つのは目に見えている。
悟られないようにしないと...。
てか、ムマがこんな性格だとは思わなかった。
「むーっ! ミルトちゃんがダメなら...フィーちゃんおいで!」
「あっ! フィーに何をする気?」
「私が行けば...ミルト困らない?」
人見知りなのに、私のために体を張ろうとしている?
ダメ、フィーは絶対に渡さない!
まあ、ムマは変な事をしないよね。
ちょっとだけ悪ノリしちゃったな。
油断した...私は、湯船から出ようとして立ち上がってしまう。
ずっと湯船に浸かっていて、体が熱くなったからだ。
「わっ...ツルツルだ!」
「えっ、いや!」
「剃っちゃったの? ダメだよ...生え始めるとジョリジョリして痒いんだよ」
予想していた反応と違って助かった。
それに、ムマは経験者のようだね。
ちなみに、私は一度も剃った事はない。
心配されたけど、ムマを浴場に残して私達は部屋へ戻る。
ちょっと、寂しそうにしていたけど...まあ、別にいいか。
さて、これも宿屋に着く少し前の出来事...。
ティマの町に着き、今回の討伐隊に参加していない私達が討伐対象の魔物を倒してしまった事を説明しに行く。
ムマ達と共に、ギルドの受付嬢に事情を説明すると報酬の話になった。
私達は報酬は要らないから、今回の犠牲者の家族に支払ってほしいと伝える。
でも、それには犠牲者の認識票が必要らしい。
魔物や依頼による事故が原因で冒険者が亡くなった場合、死亡を装った不正を防ぐために認識票を元に手続きをする。
私達が、あの化け物がいた野原で回収できた認識票は4つだけ。
生き残りのムマとレイトの分を合わせても、認識票が見つからず行方不明扱いになる冒険者は19人にもなる。
悲惨な結果に終わったし、あの場に私達が訪れなければ全滅は確実だった。
また、辛うじて見つけられた認識票の持ち主の遺体は損傷が激しかった。
その中でも、賢者の称号を持つ女の子の遺体が酷く...胸から下が無くなっていて、耳元まで皮膚が剥がされていて痛々しかった。
彼女の家族が、あの姿を見れば卒倒して一生のトラウマになるだろう。
話は戻り、個室に案内されて報酬の件で説明を受ける。
純金貨が50枚...かなりの大金だ。
貴重な人材がたくさん犠牲になった事や、討伐対象の魔物が想定よりも危険で強い存在だった事などを踏まえて...この額だと言う。
調査隊が戻り、結果が確定したのちに支払われるらしい。
こんな話も切り出してきた。
「お二人は、冒険者に興味はありませんか? 登録を正式にお願いしたいのですが」
正直な話、私は冒険者になるつもりは一切ない。
仕事の内容があまりにも危険だからだ。
実際、私は2回ほど瀕死の重傷を負っている。
感覚が麻痺していたけど、普通なら死んでいるよね...生きてるのが不思議なくらいだ。
できるなら、安全な普通の仕事をしたい。
だから、答えは決まっている。
「せっかくの話ですが...私達は、冒険者になる気はありません」
「そうですか...非常に勿体ないですが、無理強いをする訳にはいかないですし...残念です」
そんな感じで、ティマの町に着いてから今に至る。
今日は疲れたな...。
もう横になって休みたいけど...夕飯がまだだ。
フィーに、何かを食べさてあげないとね。
コンコンと、扉を叩く音が聞こえてきてムマの声もする。
扉を開けて「どうしたの?」と尋ねると、夕飯のお誘いのようでムマの後ろにはレイトもいる。
この町に来たばかりの私達に、美味しいご飯を奢ってくれるらしい。
でも、いいのか?
私はともかく...フィーはとんでもない量を食べるから、すごい額になる事を伝える。
ムマは、助けてもらったお礼だから遠慮はしないでと言ってくれた。
私達は宿屋を出た。
目的地に向かっている時に「お酒は飲む?」と聞かれるけど、まだ飲める年齢ではないと答えた。
意外だったのは、ムマとレイトが21歳だという事実だ。
二人とも童顔すぎないか?
あの時、同い年くらいだって言ってたのに...5つも歳上とは思わなかった。
うん? という事は、私が少し老けて見えるの?
「私って何歳くらいに見える?」
「えっとね、顔だけ見れば実年齢と同じくらいだけど...」
「顔だけ見れば?」
「胸もお尻も大きくて形がすごく良いし脚も長いでしょ...スタイルが良いから、体全体で見ると大人っぽく見えるんだよね」
老けて見える訳じゃないから...いいか。
でも、スタイルが良いって自覚はなかったな。
私は少し太っているのかと思っていたし...自信がなかった。
「正直、羨ましいよ...私はこんな貧相で子供みたいな体形だから、ミルトちゃんみたいな体形になってみたいよ」
まあ、女の子はそれぞれ容姿の悩みが違うか。
でも、無駄に大きいと不便なんだよね。
着れる服とか...走ると上下に揺れて恥ずかしいし。
半分ぐらい分けてあげたいくらいだ。
「私...ミルトの胸大好き」
おおっと、フィーが会話に乱入してきたぞ。
きっと、無邪気な主張なんだろうけどね...ややこしくならないかな?
「フィーちゃん、ちょっとえっちだね...」
「私、えっち?」
まだまだ、幼いから分かんないよね。
レイトの方を見ると、胸の話ばかりの女子トークで気まずそうにして違う所を見ている。
まあ、そうなるよね。
「そういえば、フィーちゃんは何歳なの?」
「...分かんない」
そういえば、何歳なんだろう?
見た目通りなら...11か12歳くらいかな?
でも、エルフだから実はずっと歳上で見た目が幼いだけの可能性もあるか。
まあ、私と出会ってからで計算するなら0歳1ヶ月になるかな...赤ちゃんだな。
「分かんないの? もしかして、長く生きすぎて歳を数えるのをやめたとか?」
「フィーは記憶がないから、正確な年齢は誰にも分からないの...見た目通りの歳でいいかなって思うけど」
「そうだね...それに、成長したらどんな風に大きくなるか楽しみだね!」
...確かにね。
小さくて幼い感じも可愛いけど、今の面影を残したまま大きくなっても絶対に可愛いはずだ。
私は妄想を...いや、想像をする。
細身のすらっとした体形で、エルフ特有の神秘的な雰囲気と幼さを残した可愛いお姉さんになると思う。
数年...5年後辺りが楽しみだね。
そんな事を考えていると、目的地に着いたようだ。
小料理屋さんのようで、魚の絵が描かれた看板が立て掛けてある。
その看板の通り魚料理がメインらしい。
店の中に入ると、中は狭くテーブル席が二つとカウンター席が4つだけ...客がいなくて今は静かだ。
テーブル席に座ると、優しそうな女将さんがやってくる。
「ムマちゃんにレイト君、無事だったのね...噂になっているけど、討伐隊は壊滅状態になったって聞いたよ」
「うん、私達はなんとか生き残れたけど他の皆はね....でも、このミルトちゃんとフィーちゃんに助けてもらったんだ」
「この子達にね...そんなに強いの?」
女将さんは、私達の事を不思議そうに見ている。
まあ、実績も経験も豊富な冒険者達がたくさん犠牲になったのに、私達のような少女二人があの化け物を倒したんだからね。
「なら、今日はいっぱい食べなさい...サービスしてあげるからね」
「女将さん、ありがとう! じゃあ、いつものね!」
女将さんは、カウンターの奥へ行き調理を始めた。
包丁がまな板を叩く音や何かを油で揚げている音が、心地よく聞こえてきて食欲を刺激する匂いもしてくる。
料理ができるまで、私達は自家製のジュースとムマ達はお酒を飲んでいる。
4人で、たわいない会話をしながら待っていると一品目ができたようで女将さんが持ってくる。
種類は分からないけど、川魚の唐揚げが大皿にいっぱいに盛られていて山のようになっている。
衣がサクサクしていて、中は魚の旨味が溢れ塩味が効いていて美味しい。
唐揚げの味を堪能していると、次々と料理が出てくる。
川魚の蒲焼や白焼き煮物や甘露煮など、初めて食べる料理も出てくる。
どれも、すごく美味しい。
メニューを見ると、川魚以外にも肉を使った料理もあるようだ。
その肉料理も頼む事にした。
出てきたのは大きな鍋で、中には鹿肉やたくさんの野菜とキノコなどが入っている。
これも、初めて食べる料理だ。
お椀に綺麗に分けて、出汁の効いた汁をすすると温かくて安心できる味がした。
私は、この鍋料理が一番気に入った。
なんだか、家庭的で心が温まりほっこりする。
「けっこう食べたね...フィーも綺麗に食べられるようになって偉いね!」
「綺麗に食べる練習したから、ちゃんと出来て嬉しい」
ベラの町を出てから、少しずつ綺麗に食べられるように練習をしていた。
口の周りや頬を汚す食べ方は無邪気さが出ていて可愛かったけど、その練習の成果が出て私達は喜んだ。
フィーの成長を感じられて嬉しいね。
これから、体も心も少しずつ成長していくと思うと嬉しさもあるけど少し寂しいかな...複雑な気持ちだ。
女将さんに美味しい夕食のお礼と、奢ってくれたムマ達にもお礼をして宿屋に戻る。
帰り道、ムマ達にある事を訪ねる。
「この町に、図書館か本屋さんはある?」
「どっちもあるけど、行くなら図書館の方が種類も数も多いと思うよ」
明日の予定が決まった。
図書館へ行き本を借りたり、フィーに文字の読み書きを教えよう。
借りるなら、どんな物語がいいかな?
久々に本が読めると思うと、楽しくなっちゃうね!