0話 プロローグ
以前、投稿していた「少女と幼いエルフの逃亡生活」の内容とタイトルを変え投稿しなおしました。
これからは、こっちの方で書いていきます。
セリフ
「」『』〝〟キャラごとに使い分けてましたが、止めて「」に統一します。
「今日はもう大丈夫かな...?」
私は、廃村の中にあるボロボロの家の中に身を隠して周りの様子を伺っている。
数日前に育った町...嫌な思い出しかない故郷に居る事ができなくなり逃亡中だ。
なんで逃亡中かと言うと、私は捨て子で育ての親のおじさんに襲われたからだ。
16歳の誕生日を迎え成人したので、洗礼を受けるために普段は立ち入りが禁じられている特別な教会に連れて行かれる。
初めて入った教会の中の感想は...殺風景というか物がほとんどない。
中央には、人を二人ぐらい寝かせられるベッドがあり拘束具のような物も置かれている。
不安になり逃げだそうとした。
だけど、私の腕をおじさんに強く掴まれベッドに押し倒されてしまう。
鼻息が荒く目を見開き、胸を力いっぱい揉まれ強い痛みが走る。
「痛い! やめてよ、おじさん!」
「黙ってろ! 抵抗するんじゃねえ!」
元々、親子仲はそれほど良くはなかった。
日々成長する私の体にイヤらしい視線を向けていた事も知っていたし、その顔の表情と行動から少しだけあった信頼関係は完全に消え失せる。
私には、この状況を打開する方法があった。
この男や町の人には内緒にしていたけど、私は詠唱なしで二つの魔法を使う事ができる。
風魔法と火炎魔法だ。
誰かに習った訳でもなく本で勉強した訳でもないから...魔法名すら知らない。
それは去年の事で、日々の辛い現実から現実逃避で妄想をしていたら突然使えるようになった。
内緒にしていた理由は色々あるけど、今この瞬間に大いに役立つ。
私の上に跨り、欲望を満たそうとしている男に手のひらを向ける。
「離れろ、この変態!」
「うぅがぁあああ! 何しやがる、このガキィッ!」
私の手のひらから炎が放たれる。
男は顔を焼かれもがき苦しみ、私の体の上から転げ落ちた。
頭に来ていたから、男の横腹に2~3発蹴りを入れる。
教会の外に出ると、人が集まっていて冷ややかな視線を浴びせられた。
この人達は、私の敵だ...そう悟った。
何故かというと、理由は分からないが私はこの町の人達によく思われていない。
口にこそ出さないけど、私が話しかけても無視をしたり避けられる事が日常的で陰口を囁かれているのも知っていた。
「あいつ何をした?」
「まさか、逃げる訳じゃないよな?」
「皆で捕まえて儀式を再開させないと」
町の人達が何やら話している。
「どうして...? 儀式って?」
「黙って犯されていればいいものを...皆で取り押さえるぞ!」
私を捕まえようとして町の住人達が襲い掛かってくる。
私は、自分の身を守るために火炎魔法や風魔法を放つ。
魔法を上手く使い、人だかりをなぎ倒し町の外へ走り逃げ出す事に成功した。
でも、町の人達はしつこく追いかけてくるようで、身を隠せる場所を見つけては隠れてやり過ごしていた。
魔力切れを考えると魔法も無駄打ちできないし、お金も人のあてもない私にはこれしか方法がない。
そして、今は廃村の家の中に身を潜めている。
「私が何をしたって言うのかな? あの人達、皆酷いよ...胸だってまだ痛いし痣になっちゃったな」
びりびりと痛みが走る胸を手でさすりながら、家の中を少し探索した。
今後の逃亡生活に役立つ物資があるかもしれない、そう思って部屋の一つ一つを確認する。
どれも埃を被っていて、かなりの年月が経っているようだった。
使えそうな物は、あまりなく少しがっかりした。
そんな時、風の流れを感じる。
「何かな? 廊下の方から流れてくる...ただの壁みたいだけど奥は空洞かな? 隠し部屋でもあるのかな?」
その壁の奥に興味を惹かれて、壁の板を剥がそうと思った。
方法を考えるけど、大工道具がある訳でもないし試しに両手で壁を押してみる。
バキッとした音とともに壁の板が壊れる...だいぶ古くなっていて脆いようだ。
そのまま、手を使い板を剥がしていると地下に降りる階段が現れた。
このシチュエーションだと、何か異形の物が出てきたりして怖い思いをする事が想像できるけど、私の好奇心が不思議なくらい刺激され階段を下りる。
「やっぱり、地下室があるよね...さて、何があるかな?」
ドアノブを回し扉を開けると、そこは倉庫のようだった。
何かを埃から守るように布が被せてあり、布を退けると小剣や弓矢が出てきた。
小剣の鞘には読めない文字が刻まれいて、その刃はサビ一つなくとても綺麗だ。
弓矢も問題なさそうだし、他には鉈などが見つかる。
「剣術の心得とか全くないけど、護身用にはなるかな...? 弓矢も使えれば、かなり心強いんだけど持って行ってもいいかな...泥棒になっちゃうかな?」
色々と考えはしたけど、この家や村には誰もいないし持って行く事にする。
私は、小剣や弓矢そして鉈も装備する。
倉庫にはまだまだ物があるが、これ以上は大荷物になるし倉庫から出る事にした。
地下から一階に戻り窓の外を見ると、外はすっかり暗くなっている。
今日は、ここで身を隠し体を休める事にした。
「お腹空いたな、何か食べたいな...」
空腹と疲労でなかなか寝付けない。
今後の事を考えると絶望感でいっぱいだ。
町の人達はしつこく追いかけてくるし、どこへ逃げればいいのか...。
倉庫から持ってきた鉈を見て思いつく。
「そう言えば、向こう側に見える森はアトラ樹海って言うんだっけ? 鉈があるから森の中を進みやすいかな? アトラ樹海を抜ければレラの国に出るって聞いたけど...レラの国に行けば逃げ切れるか?」
なんとなくだけど、今後の目標が決まった。
ただ、アトラ樹海には強くて危険な魔物達がいっぱい居るらしい。
無謀なようだけど、あいつらに捕まったら何をされるか分からないし、他の町に逃げようにも私は人をあまり信用できなくてお金もない。
アトラ樹海の中なら、食べられる果物とか動物とかが捕れるかもしれない。
危険だけど、今の私に取れる手段は少ないし賭けてみる事にした。
「やっと眠くなってきた...休まないと...」
気が付いたら朝になっていた。
かなり眠り込んでいたみたいで、頭はすっきりし体の疲労が和らいでいる。
でも、不安を掻き立てる話し声が聞こえてきた。
「おい、居たか?」
「いや、まだ見つからないぞ、そっちの建物は見たか?」
「まだだな、見てくるから他の建物も頼む」
「ああ、任せとけ」
おじさん達だ...いや変態か。
まだ、この家に来るまで時間は掛かりそうだけど早く逃げなきゃ。
音を立てないように家の裏の窓から外に出て、気づかれずに廃村の外に出る事ができた。
アトラ樹海は、すぐ目の前にあり深い森の中に入る事にする。
鉈を使い行く手を邪魔する草や枝を切り落としながら、足場の悪い森の中を進む。
見晴らしの良いとこまで登ると、廃村が小さく見えた。
男達が、5人くらい居て廃村の中をうろうろしている。
「私の体が目当てだとして、なんでそこまでして追いかけてくるのかな? 男の人って怖いね」
私は、小さく見える廃村を背にして前に進んだ。
あれから、さらに10日ほど過ぎた。
運が良い事に今まで魔物に遭遇していない。
食べられそうな果物を見つける事ができたし、下手くそで当たる事がなかった弓も少し上達しウサギを仕留める事もできた。
小川も見つけて、水も飲む事も体を洗う事もできたし気分も良い。
なんだかんだで順応できていて希望が持てる。
でも、不運は突然訪れた。
ガサガサと、草や木をなぎ倒す音が聞こえてくる。
魔物だ...それは巨大な蛇で、見えている部分だけでも20メートル以上はあり胴回りが太く羽が生えている。
突然、出現した巨大な魔物に恐怖を感じ体が震えて声も出そうになるが、必死で声を押し殺し冷静に状況を確認する。
まだ、気づかれてはいないようで慎重に行動した。
「どうしよう、木か茂みに隠れてやり過ごせるか?」
大きな木の陰に隠れてやり過ごそうとしたけど、また別の魔物が現れる。
黒くて大きい狼が現れた。
まずい、狼は私が隠れている木の近くにやって来た...匂いでバレたか?
突然だった、巨大な蛇の魔物が狼に食らいつく。
狼は為す術なく、バキバキと骨を砕く音と血しぶきをあげ食べられた。
恐怖で脚が震え、声が漏れそうになり必死に手で口を抑える。
目が合ってしまった...。
気がついたら、巨大な蛇との距離は5メートルほどで私の方を向いている。
「逃げなきゃ!」
私は走り出した。
巨大な蛇の魔物も追いかけてきて、口を大きく開き飛びついてきた。
すんでの所で横に飛び、かわして走り続ける。
「怖い、ヤダヤダ! 生きたまま食べられたくない! 助けて、あっ!」
突然、足場がなくなり転がり落ちる。
勢いがついていて受け身なんて取れない、体中をいろんな所に打ち付けて激痛が走る。
崖の下まで転がり落ち仰向けになると、かなりの高さから落ちた事が分かる。
巨大な蛇の魔物は、私を見失ったのか追いかけて来ない。
私は、自分の体の状態を確認する。
どうやら、左腕が折れているようで下腹部から血が溢れている。
転がっている時に岩か何かで切ったのか、へその下の辺りが横に裂け腸が少し漏れていた。
それを見て青ざめ、さらに激痛が走る。
「痛い...痛いよぉ、どうしようこれ...ダメ、血が溢れてくるよ...」
血を大量に流し意識が遠のいてくる。
すると、無数の植物のツタが私の方へ伸びてくる。
「今度は植物の魔物か...もう、運が尽きたね...死んじゃうのかな? この16年、あまり楽しい事もなかったな...」
私は、あきらめて目を閉じた。
植物のツタが体に絡みつき、どこかへ引っ張っていく。
せめて、これ以上痛みもなく安らかにと願い意識が途絶える。
目が覚める。
体は傷まない。
折れた左腕は治っているようで、裂けて腸が漏れていたはずの傷が塞がっていた。
「生きてるのかな? 死んだと思ったのに...体の傷は...治ってるみたいね、傷跡も残っていないしなんでだろ?」
ゆっくりと、体を起こし周囲を見渡す。
地面は土が見えず、芝のような柔らかい草が密集し淡く光を帯びていて明かりの代わりになっている。
どうやら、ここは広い場所のようで何か壁のような物に遮られ天井まで覆っている。
中心には底が見える程、透き通った大きい泉もあった。
「どこなんだろ...ここは天国じゃないよね、もしかして地獄? 死後の世界なんて信じてなかったのに本当にあるんだね...」
あの時の状況を考えると、死んでしまった事実の方が自然だ。
だって、お腹が裂けて内臓がはみ出ていたし...血だっていっぱい流れていた。
それなのに、今は傷痕すら残っていないし不思議な場所に居る。
とりあえず、体の調子は良いし探索してみる事にした。
壁に見えていたのは、木や植物が隙間なく密集してできた物だった。
壁に沿って歩いていると、小屋のような小さな建物を見つける。
かなりの時間が経っているのか、小屋はボロボロで流石に人は居ないだろうと思い扉を開けてみた。
中は6畳ほどで、古くなりくたびれているが家具もあった。
床は、バキバキと抜けそうな音が鳴るので静かに足を進める。
「これはベッドだよね? こっちはタンスかな...開けてみるか」
タンスは、他の家具と比べてそこまで劣化はなくしっかりしている。
引き出しを引っ張ると、中には湿気から守るためか厚紙に包まれた女の子の服とタオルなどが出てきた。
さらに下の大きめの引き出しを開けると、同じように厚紙に包まれた小さな靴もある。
どれも新品のように状態がいいし、靴の大きさを考えても持ち主は小さな女の子だろう。
そうなると、この服と靴の持ち主はどこに行ったのか?
どこかに隠れているのか?
居るなら、話を聞きたいし状況を知りたい。
私は喉が渇き、服やタオルと靴をタンスにしまい小屋を出て泉の方へ向かう。
何かが、おかしい。
「何かなこれ? 魔方陣っていうの? 読めない文字がいっぱい浮かんでる...」
泉の水面に、桜色に光る魔方陣が浮かんでいた。
さっきまでは、こんな状態ではなかった。
様子を見ていると光が強くなってきて眩しい。
目が開けられない程に光が強くなり...瞼を閉じた。
恐る恐る瞼を開くと、光は弱まり泉の中心に何かが浮かんでいる。
「人が浮かんでいる? もしかして、溺れている...? 助けなきゃ!」
私は、泉の中に飛び込んで泳ぐ。
底は思ったよりも深くて、私の肩が浸かる程だった。
泳ぎ慣れていなくて中々前に進まない...時間が少し掛かりやっとの思いでたどり着く。
その人は、小さな女の子で耳が長くてエルフのようだった。
「生きてるよね? 心臓の音は...ちゃんとするし、耳が長いからエルフかな?」
初めてエルフを見たけど...すごく可愛い。
髪が桜色で綺麗だし、肌も色白でスベスベもちもちで触っていて気持ちいい。
12歳くらいかな?
幼い事には変わりないね。
私は、エルフの女の子と一緒に密集した草の上に上がる。
体が濡れて寒いので、さっき見つけた小屋のタンスの中のタオルを取りに行く。
サイズは合うだろうと思ったので、服と靴も持ってきた。
体を拭いてあげる前に、すっかり濡れてしまった自分の服を脱いでからエルフの子の体を拭いた。
眠りが深いのか、体を拭いていてもなかなか起きない。
エルフの子の体を拭き終わり、自分の体も拭く。
服を着せてあげたいけど、眠っていて動かない子に服を着せるのは結構難しい。
「とりあえず、体を起こしてみるか...抱っこになっちゃったね」
眠っているので当然力は入らず、体を起こすと私に寄りかかるように倒れこんでくる。
体温が高めなのか、温かく触れるその肌は柔らかくて気持ちいい。
このままでは、服を着せるのは難しいのでもう一度寝かした。
「私、要領悪いのかな...眠っている子に、服を着せるのがこんなに難しいなんて思わなかった...起きるまで待つかな」
火を熾せないかと考えるけど、地面は草で覆われていて火事になってしまうので諦める。
少し暇で、エルフの子のほっぺを指でプニプニと突っついてるとパチっと目を覚ました。
横になったまま、眠たげなジトっとした桜色の大きな瞳が私を見つめている。
ドキッとした...目を覚ましたエルフの子はとてつもなく可愛い。
「えっと、おはよう...気分はどうかな? 痛い所とかない?」
エルフの女の子は、私の言葉が理解できていないのかキョトンとしていた。
しまった...私はエルフ語とか分かんないし、この子も人間の言葉が分からないのかもしれない。
私が困っていると、エルフの女の子が首をかしげ一言だけ返事をした。
「あぅ?」
エルフ語なのか?
でも、この感じは幼児ぽい気がするし記憶がないのか?
もしかして、そもそも言葉を知らないのか?
どことなく仕草も見た目より幼く感じるし、どうやって意思疎通を図ればいいのだろう?
私が悩んでいると、エルフの子は起き上がろうとしてジタバタしている。
手を握って引っ張ってあげると、先ほどのように抱っこする形になった。
「うー...」
「この子、中身は赤ちゃんなのかな? もしくは、記憶が無くなっていて幼児退行しているとか?」
でも、おかしいよね?
なんで、魔物が出るアトラ樹海にエルフの子供が一人でいるのかな?
親はどこに行ったんだろ?
あの小屋のボロボロ具合を考えても、相当な年月が経っているはずだ。
それに、泉が突然で光りだしてこの子が現れるし分からない事だらけだ。
「とりあえず、この子をほっとけないし...今の内に服を着せないとね...バンザイってできるかな?」
私の体に寄りかかっている、エルフの子の体を離して私は両手をあげてみる。
エルフの子は、理解したのかフラフラしながら両手をあげてくれた。
「うんうん、そのままだよ...今着せてあげるから待っててね」
「...う?」
「よしよし、ちゃんとバンザイしてて偉いよ」
襟付きでフリルが付いた丈の短い黒いワンピースを着せて、襟元に紺色のリボンを巻いた。
「あとは...パンツと靴下と靴だね、足を出してね」
「あぅ...?」
「ちゃんと足上げてくれるから、やりやすくていいね!」
パンツと靴下...そして靴もはかせた。
対して、私は裸のままで落ち着かない。
エルフの子は、服を不思議そうに摘まんだりしている。
「さてと、次は名前かな...一緒にいる間だけでも呼び名はあった方が便利だしね」
可愛い名前がいいよね。
どうしようかな...。
そういえば、子供の頃に読んだおとぎ話にエルフの女の子が主人公の物語があった。
昔の事で内容はほとんど覚えてないけど、可愛い名前だったのは覚えている。
「じゃあ、あなたの名前はフィーにしようと思うね」
「...?」
「フィー!」
「フィー?」
「おっ! そうだよ! 今から、あなたはフィーだよ!」
エルフの女の子に指を指しフィーと名付けた。
フィーは首を傾げている、きっと名前というものを理解できていないのだと思う。
根気強く教えていかなきゃ...そう思い、次は私が名乗る。
「私はミルトね! ミルト!」
「みぅと?」
「おっと、可愛いけどミルトだよ!」
「ミルト!」
「よしよし、ちゃんと言えたね偉いぞ!」
フィーの頭を撫でると嬉しそうにしている。
少しふらついているけど、立ちあがれるかな?
「フィー、体を支えてあげるから立ってみようね」
「うー...」
「立ったけど脚が震えてるね、歩くのは難しいかな?」
私は、フィーの手を握り後ろにゆっくりと下がると震える脚で着いて来る。
しばらく、歩いていると慣れてきたのか脚の震えは止まっていた。
私は手を離してみると、一人でも立つ事もでき歩幅は狭いが歩く事もできた。
二人で、この不思議な空間の中を歩き色々と見て回りある事に気づく。
ここには、食べられる物がなく長居できる場所ではない。
このままでは、お腹が空き私達は餓死してしまうだろうと思った。
「うーん、困ったなぁ...この空間の中は安全だと思うけど、食べられる物がないと耐えられないよね...外に行こうにも魔物はいるし出る方法も分かんないし」
「...ミルト?」
フィーは、私の不安そうな顔を見て名前を呼んでくれた。
すごいなと思った。
私の事を、ちゃんとミルトって認識してくれて嬉しい。
中身は赤ちゃんぐらいかと思ったけど...もう少し精神年齢は上かな?
心配させちゃダメだと思い、頭を回転させる。
私ができる事...詠唱なしの風と火炎の魔法に上達した弓。
そういえば、弓矢と小剣に鉈はどこにいったんだろう?
この空間の中に、あればよかったけど見当たらなかった。
失くしたのなら諦めるしかないね。
なら、魔法はどうかな?
手のひらを上にして、火炎の魔法を発生させた。
「あれれ、こんなに火力強かったっけ? いや、火事になるから止めないと!」
ゴォオオオ!と以前とは違い、巨大な火柱が5メートルほど立ち勢いも音も明らかに違う。
不思議だなと思っていると、私の横でフィーが手のひらから火柱を立てていた。
私のよりも大きく威力がありそうだ。
「フィーもできるんだね...でも、火事になっちゃうから止めてね」
「あぅ?」
フィーは、なんとなく理解したのか火柱を止めた。
次は風魔法も試してみる。
今度は意識を集中させ、大きくならないように風の渦を発生させた。
だけど、風の渦の回転がとてつもなく早い。
私は、手のひらを横に突き出して風の渦を飛ばしてみる。
風の渦は、ドリルのように先端が細く伸びて攻撃範囲はとても広い。
すると、フィーも真似をして風魔法を発生させる。
やっぱり、私のより威力も範囲もすごそうだった。
「すごいね、フィーは魔法の才能があるのかな?」
「...?」
「だよね、分かんないよね」
何故か分かんないけど、魔法の威力が上がっていて魔力切れも起こらなさそうな感じがする。
これなら、魔物達と遭遇してもどうにかなるかな?
でも、使いこなせないけど武器は欲しいよね。
魔法が使えても丸腰は不安だし、私は今裸だし...そろそろ、服乾いたかな?
私はフィーを連れて草の上に広げた服を見に行く。
「うーん、まだ湿ってるよね...そうだ! 火炎魔法をできるだけ弱く小さく意識して...これぐらいかな」
私は、フィーに手伝ってもらい服を持ってもらった。
小さく発生させた火炎魔法の熱で服を乾かす。
やはり、熱を加えると乾きが早い。
次々と服を乾かし、やっと着る事ができる。
「この裂けてる部分が気になるけど、仕方ないね...贅沢は言ってられないし裸よりは全然いいよね」
「ミルト!」
フィーが、私の服を摘まんで何かを伝えたそうだ。
何かに気づいたいのか、壁の方まで導いてくれた。
気づかなかったけど、たくさんの木や植物が密集しできた壁には大きく不自然な窪みがある。
「なんだろ? もしかして、ここ壊せるかな...ここから外に出られるのかな?」
そう思ったけど、外に出るのはまだ不安がある。
だけど、フィーが窪みに近づくと密集した木や植物が変形し人が通れるくらいの隙間ができる。
「なんなのこれ? 見た事ないよ...こんなの」
足を一歩踏み出せば、外の世界はすぐそこだ。
フィーは、私の手を握り外に出て引っ張ってくる。
「出口を知っているって事は、言葉を話せないだけで記憶は少しあるのかな?」
「うー...」
仕方ない...覚悟を決めよう。
外の世界は、自然の音に満ちていた。
風の音や動物たちのさえずり声で、正直うるさく感じた。
それほど、あの不思議な空間が静かだった。
振り返り、不思議な空間の外観を見ると緑に覆われた巨大な丘のようだった。
変形した窪みは元の形に戻り始めている。
「もう、戻れないんだね...えっと太陽の位置は...進む道ははこっちかな?」
私は、フィーの手を再び握り歩き出す。
目指すはレラの国だ。
そういえば、故郷の町の変態達はまだ追って来ているのか?
まあ、そうだとしても今は前に進むだけだね。