私の優しくて可愛い王子様
ふわふわファンタジーなんちゃってヨーロッパ設定
「すまない!私はアリアとの真実の愛に目覚めてしまった、君との婚約は破棄したい!」
私の婚約者は金髪の少女を片腕で抱きながら、学園のパーティーの最中に皆の前で私にそう宣言した。
横にいるアリアというのは随分と可愛いらしい少女だ、見た目は勿論、涙目での上目遣い、小鳥のような声音、仕草、そして男性への頼り方も。
それは果たして天性のものなのだろうか。
「私と第二王子ウィリアム様の婚約は王家と公爵家と取り交わされたものです、公爵家、王家の両家から破棄の許可を貰っていますか。」
絶対に貰ってないと解っていながら彼へ問いただす。
案の定、しぶい顔をして黙ってしまった。
「なんだかまるで婚約が契約みたい。ウィル様、かわいそう。」
腕に抱かれた少女が呟く。
その言葉が、その場にいた大半の者を彼女の敵にした。
貴族の結婚は義務であり、それは家や時には国の利益のためである。
婚約は契約と同じ、そんなの当たり前のことだ。
たしか彼女は市井で産まれ育ったが、縁があってある程度大きくなってから子爵家に引き取られた娘だったはず。
貴族としての教育をうけてるはずなのに市井での感覚がまだ抜けないのだろうか。
とりあえず公爵家の娘としてこの場を納めなくてはならない。
手を叩き、扉の外にいた騎士達をよぶ。
「ウィル様は体調が悪くお帰りになるそうだから、誰か馬車まで案内してあげて。」
少女とウィル様を騎士達が引き剥がし、片や拘束され床に押し付けられ、王子であるウィル様は二人の騎士に左右から抱きかかられ会場から消えて行った。
これから私はゴミ掃除だ。
とてもめんどくさい。
「ねえ、あなた何をしたかったの?何を考えてるの?」
アリアとよばれた少女の前に立って聞く。
可哀想に、屈強な騎士に押さえつけられて身動きが取れず、泣きながら痛がってる。
ただ、痛がってるのはどうでもいいが、こちらの質問に答えないのはよろしくない。
少し屈んで、髪の毛を掴み私と目をあわせるようにしてもう一度聞く。
「ねえ、あなた何をしたかったの?何を考えてるの?」
痛い痛いと喚くばかりで返事をしないので、騎士に拘束をやめさせ髪の毛を引っ張りながらそのまま会場の外へと向かう。
重いが魔法を使えばなんとか運べるものだなと考えながら、荷物用の馬車を見つけ騎士達に彼女をそこに乗せて公爵家へ向かわせるように指示を出した。
ついでに地下牢のお客様だと家の者へ手紙も渡すようにお願いをしておいた。
そのお客様の今の状態はなかなか笑えるものだ。
よく似合っていた可愛らしい薄桃色のドレスはボロボロで擦れてやぶれ、所々血も滲んでいる。
髪はぼさぼさ、泣いてメイクも酷い有り様だ。
とても我が家の地下牢にふさわしい装いと言える。
今更ながら彼女は泣きながら許しを請うてきたが騎士達に布を噛ませて黙らるよう命令し、乗せた馬車を見送り会場に戻ってから私はあの二人がおこした問題の後片付けに追われた。
帰ってからは両親への説明や対応に追われ、寝れたのは明け方近くになってからだった。
なのに夜が明けてすぐに早馬できた使者に午後に登城するようにと伝えられた。もちろん王直々の書類も携えていた。
解っていたこととはいえ眠いしめんどくさい。
どうせ婚約は破棄しないし、あちらもそれは望んでないだろう。
きっと、これは国で一番財力も影響力もある公爵家へのご機嫌伺いだ。
謁見の間に入ると王も王妃も少し疲れてるように見えた。
「ブルーメ嬢、此度のことは王子の独断である。王家としては破談にする意思はなく、王子には相応の罰を与える。」
疲れた顔を隠さず、そのままの表情で王が言う。
「もし令嬢が望む罰があれば、それを王子には与えよう。」
その言葉を待っていた!
「では、ーーー」
私のお願いに彼らは何とも言えない顔をしていたが最終的には頷いてくれた。
それからウィルと私は学園を卒業し盛大な結婚式を挙げ、その後すぐに私の両親は田舎へと隠居し、彼は公爵家の当主となった。
表向きは。
彼の首には他人には見えないように目眩ましの術をかけた服従の首輪がついており、彼が寝室から出ることは私が許可したときのみ。
この現状に最初は怒っていて暴れていた彼も段々と諦めて大人しく懇願するようになり、今はすっかり私の思うがまま。
そんな彼が執務を行えるはずもなく私が全ての執務を行っており、それは誰もが知っていることだ。
表向きはウィルは病気療養の為、私が手伝っているということになってるが王家は全てを知ってるし、勘が良い貴族達も何かしらあるだろうと解っているが踏み込んではこない。
なにせ我が家は国一番の公爵家、敵にまわして良いことなど一つもない。
今日もウィルは寝室で私へお願いする。
外へ出たい、庭を散歩するだけでもいい、頼む。
すがりついてお願いする姿はとても可愛い。
でもね、今日はダメ。貴方の泣き顔がみたいから先日のように泣いてお願いするか、それかよっぽど私の気分を良くしてくれないとそのお願いは聞けないの。
私が寝室から出る時、扉がしまる瞬間のウィルの絶望した顔がとても素敵だった。
貴方は私の王子様。
はじめてあった時、緊張してた私を優しくエスコートしてくれた。
それだけで私は貴方を好きになった。
お忍びで二人で城下町でデートした時も、小さな女の子が転んだのをみて駆け寄って手を貸してたわね。
その隙に、少女の仲間がウィルの懐の財布を狙ったとも知らないで。
学園でもそう。
身分関係なく、貴方は誰にでも優しかった。
だから馬鹿な女が夢を見て貴方を誑かした。
地下牢で少し脅したら、あのアリアとかいう女は聞いてもないことまでベラベラ喋った。
落とせそうな男たちの中でも一番高い地位の人だったから選んだの。
なんでもこの世界は作り物らしい。
さすが公爵家を敵にまわすような女が言うことは違うと思ったが、自白の術をかけても同じ事を言う。
そして私は本来ならば断罪される悪役らしい。
なぜかゲーム?という物の通りにいかなかったと泣いていたが、まあ現実と作り物の区別がつかないような女の言うことだから、どこまでが真実かわからない。
そのゲームの情報と市井に住んでたころ娼婦に習った手管を使ったら、純粋なウィルは簡単にころっと落ちたらしい。(なお、結婚までウィルが清い身体だったことは女にも何度も聞いて確認済みだ。王家にもそちらの勉強はしないように根回しをしておいたから。)
ああ可哀想で可愛いウィル、そんな打算なんて知らずに真実の愛と信じて。
私はね、はじめて会ったときから貴方のことが好きで貴方をずっと愛してるわ。
これが真実の愛じゃなかったら、どこにもそんなものありはしないわ。
ずっとずっと愛してるわ。
これからもずっと。
貴方は優しいから、私が守ってあげる。
だって貴方は私の王子様だから。
〆
地下のお客様はまだ生きてます。
自死しないように術がかけられており、定期的に主人公の惚気を聞かされてます。
反応が面白いので、今のところ解放する予定はありません。
何にも反応しなくなったら死なせて貰えるでしょう。