第一章『誰かを救いたい ―空っぽの願い―』
今回は、“未来を見る力”を持ち始めた少年・灯夜の目線から、世界の異変を描きます。
複数の終末予言とともに、物語が静かに動き出します。
目が覚めたとき、空が赤かった。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、どこか滲んでいて、
まるで血のような色をしていた。
夢を見ていた気がする。
光の柱。泣いていた少女。金色の影。
内容は曖昧なのに、胸の奥が妙にざわついていた。
「……なんだ、これ……」
冷蔵庫から水を取り出し、ペットボトルをあおる。
テレビでは“異常気象”と“通信障害”のニュース。
現実味がない。でも、心だけが知っていた。
世界は、静かに壊れ始めている。
通学路の途中。
佐倉灯夜は、空を見上げて足を止めた。
「……赤すぎるだろ、あの月……」
ビルの隙間からのぞく満月は、まるで血のように赤黒かった。
そしてそのすぐ隣には――天を貫くような“光の柱”。
「……完全にヤバい世界線じゃん、これ」
苦笑しながらスマホを開くと、
《#血の月》《#東京の空やばい》《#光ってない?》
……灯夜はスマホを見つめながら、小さく呟いた。
「……“光ってない”のは……この空だけじゃないのかもな」
タイムラインは“終末ネタ”で騒がしかった。
(また夢オチで終わってくれよ……)
そのときだった。
空が、一瞬だけ深い紫に変わった。
音が遠のき、世界が“閉じた”ような感覚。
「……え?」
光の柱の奥、“何か”がこちらを見ていた。
次の瞬間、映像が流れ込んでくる。
・燃える街で泣き叫ぶ人々
・崩れるビルと祈る少女
・血まみれの男が誰かを殴っている
・闇の曼荼羅が地を這う
・「もう誰も失いたくない」
・糸の切れる少女の手
・「お願い……を、助けて……」
――幼い、少女のような声だった。
・誰かを抱いて泣き崩れる自分
・掌の曼荼羅が崩れていく――
視界が戻った。
雑踏の音が耳に押し寄せる。
額に手を当てて、呼吸を整えた。
(あれ……未来……?)
脳裏に、誰かの声が残っていた。
『選びなさい。どんな未来を、願うのか』
(願う……俺が?)
胸の奥が、うずいた。
知らない誰かの痛みが、確かに自分の中にあった。
「……嫌だ。あんな未来……見たくない……」
「誰かを、救いたい――」
その瞬間、空の光柱が一度だけ強く輝いた。
「……また、“未来”の夢か……」
ぼそりと呟いた声に、自分で驚く。
あれは夢じゃない。誰かの“未来”だった。
通学路の交差点。
学生たちが空をスマホで撮りながら笑い合っていた。
《#血の月》《#予言通り》《#光ってない?》
その中で、ひとつの投稿だけが目に留まった。
【“願いとは、過去を断ち切り、未来を選びなおす力だ”】
(だったら、俺も……)
「おーい、灯夜!」
茶髪の男子が手を振って走ってきた。
「また寝坊? つか、変な顔してるぞ」
「……空、見てただけ」
匠――灯夜の数少ない友人。
「月、ガチでホラーだよな。……あ、撮っとこ」
《#光ってない?》と入力して、投稿。
「なあ、お前さ……この空見てて、“何かが終わりそう”って思わない?」
「……終わるって、何が?」
「日常? 俺らの普通?」
「……最初から“普通”じゃなかったのかもな」
灯夜はぽつりと呟く。
「……でも、それでも――誰かを救えたらって思う」
匠が驚いた顔をした。
「……なんだよそれ、中二かよ」
「かもな。でも……誰も言わないなら、俺が言ってもいいだろ」
光の柱が、微かに揺れた。
(これは、ただの異常気象じゃない)
胸が、そう告げていた。
まるで黙示録が、静かに現実になっていくかのようだった。
西洋の預言者は、七つのラッパと血の月を語り、
東洋の神示は、「この世の立て替え」を告げた。
ホピ族の長老は「第五の世界の前に、青い星が現れる」と語った。
違う時代。違う神々。違う言葉。
それでも彼らは、皆、同じことを告げていた。
終わりは、始まり。
そして、救済は天罰ではない。
それは積み重ねた因果の清算――カルマの返り咲き。
《#予言通り》《#イベント起きてる?》《#光ってない?》
その中で、ひとつだけ異質な言葉があった。
【“世界の終わりに、願いを刻め”】
灯夜は、また空を見上げる。
遠く、光の柱がわずかに光った。
「……“願い”って……何なんだろうな」
思わずこぼれた言葉に、心が震えた。
その瞬間、空気が震え、街が低く唸った。
誰も気づかない。けれど灯夜だけが感じていた。
あの“声”が、また届いた。
「――選びなさい。何を願うのかを」
胸に手を当てる。
静かに、高鳴る鼓動。
世界は、もう始まっている。
終わりではない。
“願い”の物語の始まりとして。
読んでくださり、ありがとうございます!
【8日間連続投稿中】
灯夜の見る“未来”は、果たして現実なのか、それとも可能性なのか…。
【おたずね】
・終末のビジョン、どう感じましたか?
・自分ならどんな選択をしたと思いますか?
感想・コメントにはすべてお返事しています。
どんな言葉でも、きっとこの物語の光になります。
ラノベ9巻構成でプロットは最終巻までできていますので安心して読み進めてください^_^
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読者参加型の企画も予定していますので、今のうちにフォローお待ちしてます^_^