第九章『ヴァスンダラの救済 ―純白の盾と魂の誓い―』
今回は、天翔 零真の過去世が明かされます。
千年前のインド――暴力と差別が支配する時代に、
彼は“盾”として立ち、すべてを受け止めようとしていました。
守られた少年と、守る者の誓い。
それは、現代の灯夜と天翔をつなぐ“魂の記憶”です。
砂が、風に舞っていた。
荒れ果てた街――インド、ヴァスンダラ。
千年前、この地には差別と暴力と諦めが、日常のように積もっていた。
だが、その只中に、ひとりの若者が立っていた。
白い衣、盾の紋章を掲げた新たな領主――アシュヴァ。
その背に、誰にも見えない“魂の光”を背負って。
(――これが、天翔さんの過去世……?)
灯夜の瞳には、魂の記憶が流れ込んでいた。
* * *
「またか。さっさと売るか、死なせるかしろ」
「シュードラ(※)が騒ぐと景観が悪くなる」
※インドの下位カースト階級
瓦礫の中、泥にまみれた少年が泣いていた。
鎖につながれ、奴隷のようにうずくまっている。
そのときだった。
風が、逆巻いた。
「……何の騒ぎだ」
静かな声とともに、白い衣の男――アシュヴァが現れた。
周囲の商人たちが顔をしかめる。
「領主様? こんな所へご足労とは……」
「その子はただの奴隷ですよ、どうかご心配なく」
アシュヴァは、無言で少年――ラヴィ(=灯夜の過去世)に近づくと、
その鎖に手をかけた。
「この子を縛る鎖ごと、私が引き受けよう」
その一言とともに、錆びた鎖が外される。
ラヴィの目が大きく見開かれた。
「な、なんで……俺なんかを……」
アシュヴァは、静かに微笑んで言った。
「お前の光を、誰にも潰させない」
* * *
だが、民衆の反応は冷たかった。
「領主様がまた“偽善”を……」
「前の領主に裏切られたんだぞ、誰が信じるかよ!」
「シュードラに肩入れしても、何も変わらねぇ!」
石が飛ぶ。
アシュヴァの頬をかすめる。
だが、眉一つ動かさず、ラヴィの前に立ちはだかった。
「信じられなくていい。ただ……見ていてくれ」
その声には、誇りでも怒りでもなく、深い悲しみと希望が混じっていた。
* * *
それからのアシュヴァは、黙々と働いた。
・飢餓の村には、自分の蓄えた米を配った。
・病人の家には、自ら薬を届け、看病した。
・盗賊の襲撃には先頭に立ち、盾一枚で民を守った。
・夜ごと貧民街を訪れ、こっそりラヴィの寝顔を見守った。
信頼は、すぐには得られなかった。
笑う者、軽蔑する者、裏切る者もいた。
それでも、アシュヴァは決して怒らなかった。
「私は、すべての裏切りを受け止める。
その上でなお、守ると決めたのだ」
そう語った彼の背に、白き光がゆらめいた。
* * *
やがて、変化は訪れた。
大雨で溢れた川を、アシュヴァが一人で堰き止めた日。
火事の夜、命懸けで幼子を救った日。
人々の中に、言葉が生まれた。
「……あの人は、本物だ」
「偽善でも嘘でもない、“誰かを救いたい”願いがあるんだ」
「もう一度……信じてもいいのかもしれない」
そしてある朝。
広場に集まった領民が、アシュヴァに向けてひとつの言葉を捧げた。
「希望を、ありがとう」
ラヴィがその背を見上げる。
「俺……あんたみたいになりたい。
誰かを守れる人に……!」
アシュヴァは、静かに頷いた。
その背に、青の曼荼羅が咲いたように、光が揺れていた。
* * *
その夜、アシュヴァはある老僧と対話していた。
白い装束、微笑を湛えたバラモンの老僧――ヴィシュヌダス。
※インドのカースト最上位
「アシュヴァ。お前は、すでに十分に痛みを知った。
だからこそ、その盾は真の“守り”になるだろう」
アシュヴァが問う。
「師よ……私は、信じていいのですか? この光を」
ヴィシュヌダスは微笑む。
「信じなさい。
その光は、時を超えて――
かつて“守られた少年”によって、再び灯される」
灯夜の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
その少年――かつての自分。
その青年――今目の前にいる、天翔 零真。
(叡智様も、あの時から……ずっと見てくれてたんだ)
そして、ヴィシュヌダスの背に、黄金の光が差す。
灯夜の意識が、ゆっくりと現実に戻っていった。
* * *
天翔が、灯夜の目の前に静かに立っていた。
「……どうだった?」
灯夜は、こみ上げる想いを堪えて、震える声で答えた。
「ありがとう……俺、守られてたんだ……」
天翔は微笑む。
「いや……君が、未来で“誰かを守る人”になると、わかっていたから」
その声には、千年の魂の誓いが、確かに宿っていた――。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
【8日間連続投稿6日目!!】
天翔の過去世――アシュヴァとしての記憶は、
この物語の核となる「誓願」と「守る力」の源です。
守られた少年だった灯夜が、
今度は“守る者”になろうとする。
その流れが、ようやくここから本格的に始まります。
【お聞かせください】
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・灯夜との関係性に、どんな“願いの継承”を見ましたか?
あなたの言葉が、この物語の曼荼羅をさらに彩ってくれます。
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