表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/19

第九章『ヴァスンダラの救済 ―純白の盾と魂の誓い―』

今回は、天翔 零真の過去世が明かされます。


千年前のインド――暴力と差別が支配する時代に、

彼は“盾”として立ち、すべてを受け止めようとしていました。


守られた少年と、守る者の誓い。

それは、現代の灯夜と天翔をつなぐ“魂の記憶”です。

砂が、風に舞っていた。

荒れ果てた街――インド、ヴァスンダラ。


千年前、この地には差別と暴力と諦めが、日常のように積もっていた。

だが、その只中に、ひとりの若者が立っていた。


白い衣、盾の紋章を掲げた新たな領主――アシュヴァ。

その背に、誰にも見えない“魂の光”を背負って。

(――これが、天翔さんの過去世……?)

灯夜の瞳には、魂の記憶が流れ込んでいた。


* * *


「またか。さっさと売るか、死なせるかしろ」

「シュードラ(※)が騒ぐと景観が悪くなる」

※インドの下位カースト階級


瓦礫の中、泥にまみれた少年が泣いていた。

鎖につながれ、奴隷のようにうずくまっている。

そのときだった。


風が、逆巻いた。

「……何の騒ぎだ」


静かな声とともに、白い衣の男――アシュヴァが現れた。

周囲の商人たちが顔をしかめる。

「領主様? こんな所へご足労とは……」

「その子はただの奴隷ですよ、どうかご心配なく」


アシュヴァは、無言で少年――ラヴィ(=灯夜の過去世)に近づくと、

その鎖に手をかけた。


「この子を縛る鎖ごと、私が引き受けよう」

その一言とともに、錆びた鎖が外される。


ラヴィの目が大きく見開かれた。

「な、なんで……俺なんかを……」

アシュヴァは、静かに微笑んで言った。

「お前の光を、誰にも潰させない」


* * *


だが、民衆の反応は冷たかった。

「領主様がまた“偽善”を……」

「前の領主に裏切られたんだぞ、誰が信じるかよ!」

「シュードラに肩入れしても、何も変わらねぇ!」

石が飛ぶ。


アシュヴァの頬をかすめる。

だが、眉一つ動かさず、ラヴィの前に立ちはだかった。

「信じられなくていい。ただ……見ていてくれ」

その声には、誇りでも怒りでもなく、深い悲しみと希望が混じっていた。


* * *


それからのアシュヴァは、黙々と働いた。


・飢餓の村には、自分の蓄えた米を配った。

・病人の家には、自ら薬を届け、看病した。

・盗賊の襲撃には先頭に立ち、盾一枚で民を守った。

・夜ごと貧民街を訪れ、こっそりラヴィの寝顔を見守った。


信頼は、すぐには得られなかった。

笑う者、軽蔑する者、裏切る者もいた。

それでも、アシュヴァは決して怒らなかった。


「私は、すべての裏切りを受け止める。

 その上でなお、守ると決めたのだ」

そう語った彼の背に、白き光がゆらめいた。


* * *


やがて、変化は訪れた。

大雨で溢れた川を、アシュヴァが一人で堰き止めた日。

火事の夜、命懸けで幼子を救った日。

人々の中に、言葉が生まれた。


「……あの人は、本物だ」

「偽善でも嘘でもない、“誰かを救いたい”願いがあるんだ」

「もう一度……信じてもいいのかもしれない」


そしてある朝。

広場に集まった領民が、アシュヴァに向けてひとつの言葉を捧げた。


「希望を、ありがとう」

ラヴィがその背を見上げる。

「俺……あんたみたいになりたい。

 誰かを守れる人に……!」


アシュヴァは、静かに頷いた。

その背に、青の曼荼羅が咲いたように、光が揺れていた。


* * *


その夜、アシュヴァはある老僧と対話していた。

白い装束、微笑を湛えたバラモンの老僧――ヴィシュヌダス。

※インドのカースト最上位


「アシュヴァ。お前は、すでに十分に痛みを知った。

 だからこそ、その盾は真の“守り”になるだろう」


アシュヴァが問う。

「師よ……私は、信じていいのですか? この光を」

ヴィシュヌダスは微笑む。


「信じなさい。

 その光は、時を超えて――

 かつて“守られた少年”によって、再び灯される」


灯夜の胸が、ぎゅっと締め付けられる。

その少年――かつての自分。

その青年――今目の前にいる、天翔 零真。

(叡智様も、あの時から……ずっと見てくれてたんだ)


そして、ヴィシュヌダスの背に、黄金の光が差す。

灯夜の意識が、ゆっくりと現実に戻っていった。


* * *


天翔が、灯夜の目の前に静かに立っていた。

「……どうだった?」

灯夜は、こみ上げる想いを堪えて、震える声で答えた。

「ありがとう……俺、守られてたんだ……」


天翔は微笑む。

「いや……君が、未来で“誰かを守る人”になると、わかっていたから」

その声には、千年の魂の誓いが、確かに宿っていた――。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


【8日間連続投稿6日目!!】


天翔の過去世――アシュヴァとしての記憶は、

この物語の核となる「誓願」と「守る力」の源です。


守られた少年だった灯夜が、

今度は“守る者”になろうとする。


その流れが、ようやくここから本格的に始まります。


【お聞かせください】

天翔アシュヴァの信念、あなたはどう感じましたか?

・灯夜との関係性に、どんな“願いの継承”を見ましたか?


あなたの言葉が、この物語の曼荼羅をさらに彩ってくれます。

#光ってない? での投稿もいつでもお待ちしています。



★感想にはすべてお返事します。

Xでの反応/ブクマ/レビューもとても励みになります!


あなたの願いが、この物語の光になります。

#光ってない?


★X(旧Twitter)でも更新・挿絵を発信中!


【アカウント名】『月が照らす救済譚』公式

【ID】@tsukitera_prj


読者参加型の企画も予定していますので、今のうちにフォローお待ちしてます^_^


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ