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「不幸を呼ぶ女」は、継母になって悪役当て馬を救済したい  作者: 辺野 夏子


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9/9

8話 マリーアのアドニス育成計画

久し振りに投稿しました。

 借金取りが去って、屋敷には静寂が戻った。


「お母さん、ごめんね……」


 一瞬の安堵と引き換えに、失ったものはあまりにも大きい。屋敷は空っぽ。財産もない。夫もいない。もちろんアドニスを抱えて実家には戻れない。だってもう、魔導列車のお金すら払えないのだから。


「ごめんなさい、僕のせいで」


 顔をあげると、アドニスが泣きそうな顔で私を見下ろしていた。


「僕がいなければ……マリーアはネックレス、取られなかった。だから、ごめんなさい……」

「ち、違うのよ。これは、私がやりたくてやったことなんだから」


 大きな瞳に涙をいっぱいに溜めているアドニスを、慌てて抱き締める。


「お金より、物より、健康と、人間同士の関係の方が大事なのよ。お金なんて、働けばいいんだから」

「うん。僕……頑張って働いて、マリーアにまた、きらきらのやつ、買ってあげる」


 ──健気……!!


 アドニスの言葉が、私の胸をきゅぅうんと締め付けた。周りの人間からあんなに酷い扱いを受けていたのに、彼の中にはやさしさがある。だから彼はきちんと養育すれば、立派な人にだってなれるはず。


「そうね、一緒に働きましょう。お家はあるのだし」


 昔の記憶があるから、働くのは苦ではない。ウェルフォード家では外に出して私が不幸を起こすと相手方に申し訳ないから、という理由で家が傾いても働きに出ることはかなわなかったけれど。


 選ばなければ、仕事はあるはず。


 もしこれ以上めちゃくちゃになるようなことがあれば、最終的にはあの借金取りたちの所に行って仕事を紹介してもらって、この不幸体質を逆手に取って迷惑をかけてやる……。


「ふふ……」

「マリーア、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。今後のことを考えていたの」

「もう、お家にはパンが一個しかないんだ。お水はあるけど……どうしよう?」


 アドニスにとっては今後=今日のごはん、となるようだ。


「パンは……私の荷物の中に、まだあったと思うわ」


 本当は列車が遅れているあいだにサンドイッチやクリームの入ったパンを買いたかったのだけれど、あいにく売り切れで、硬めの素朴なパンしか売っていなかった。けれどそれが、逆に保存がきいていい、という展開になるなんて、ほんのちょっとはラッキーかもしれない。


「そうなんだ、よかった。あとね、おふとんなんだけど……一個しかないの。一緒でもいい?」

「もちろんよ」


 小さなベッドだったけれど、二人ぐらいなら眠れるだろう。


 午後はあれこれと屋敷の中を見て回って、使えそうなものをかき集めた。そんなに高級ではないもの──タオルや食器類はそれなりに残っていた。


「アドニス、すごいわ、あなた天才よ!」


 私が今日一番嬉しかったことは、アドニスが火魔法を操れるということだった。


 暗くなってきたらもう寝るしかないと思ったら、アドニスは何も入っていないランプに火を灯すことができると言い、実際に見せてくれた。あたたかな光ではなくおどろおどろしい紫なのは、もう何も言わない。


 魔力がない私にとっては魔法を使える、それだけで十分に素晴らしくて尊いことだ。それこそ仕事には困らないだろうし。


「ま、前に、うまくできなくて、じゅうたんを燃やしちゃって……高いのになんてことするんだ、もう絶対に使うな、って言われてたけど」

「私も気を付けるようにするから、必要な時はどんどんと使いましょう」

「うん。火が紫なの、気持ち悪くない? ぼくこの色が一番得意なんだけど……」

「ぜんぜん! 青でも黄色でもなんでもいいのよ、燃えていれば」


 ランプを灯したまま二人でベッドに潜り込むと、アドニスはさすがに疲れたのか、すぐに眠ってしまったようだった。

 

 小さな寝息が聞こえてくると、紫の炎は形を保てなくなりふっと消えてしまった。



 私は暗闇の中で、アドニスの未来について思いを馳せる。


 物語ではアドニスは歪んだ愛を抱くヤンデレ魔術師として登場していた。貧しく、そして不遇な少年時代が、彼から人との付き合い方を学ぶきっかけを奪った。


 心優しいヒロインに惹かれはするけれど──彼には人の気持ちというものがいまいち分からず、ことあるごとに敵対する道を選んでしまう。


 悲しいのは、アドニス救済ルートなんて存在しないことだ。ただ疎まれ、壁として乗り越えられ、振り返ることすらされない存在だ。


 けれど今は違う。彼を見つけたのは「私」で、私は彼をいじめる継母ではない。


 アドニスには魔術の才能がある。ならば、最初から適切に導いてあげればもっと自己肯定感の高い、人との関係を築くのが上手な子に育てられるかもしれない。


 彼にとっての「家族」として、私がそばにいてあげられたら。そしてあわよくば、立派に成長したアドニスが私の不幸を封じ込めるアイテムを作ってくれたりしたら。


 そうすれば、「私」がマリーアとして産まれた意味があるような気がする。


 そして私には、目標達成のために、一つだけ心あたりがある。


 この世界で、アドニスを導けそうな人物。


 それはヒロインの師匠である「キャスティ・レンドベルク」だ。

 

 王都の外れに住む、ハーフエルフの天才魔術師。原作では異世界から来たヒロインを偶然拾って保護し、育て、師匠として彼女を導く重要な役回りだった。


 口は悪いけれど、彼ならばもう大人としてこの時代に存在しているだろうし、何より彼なら──アドニスの魔力の適切な使い方を教えてくれるだろう。


 彼はヒロインの師匠だけれど、天才からすれば子どもの一人も二人も変わらないはず。


 キャスティを探して、アドニスの師匠になってもらおう──それだけ決めて、目を閉じた。

仕事との兼ね合いもありますが、最後まで書き切るつもりではありますのでまったりお付き合いいただけると嬉しいです~。

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