表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

フィラデルフィアの夜に 小部屋の中

作者: 羽田恭

フィラデルフィアの夜に、言葉があります。


 夜の消える事のない喧騒の中、泣き声がいつも気づかれる事のなく空気を揺らしています。

その明らかに異様に激しい声は、外の誰かが気づく前に途切れ、外にはもれなくなっていくのが日常になっています。

 今日も、その泣き声は不自然に途切れ、誰からも無視されていくのでした。

暗い、小部屋に押し込まれて。


 泣き声はその立ち上がることも出来ないほど小さく、狭いその小部屋の中で反響します。

延々と大きく反響し続けた後、その小部屋は静かになります。

体を折り曲げて屈んで入れられる、その小部屋には何もなく、光さえも存在しません。

手探りしても、いつも、何も。



 何かある。

手に、触れられる。

さっきまで何もなかったその場所に。

 冷たく、艶やかな手触りで。

指でなぞっていく。

文字。

それが連なって続いていく。しばらくそれが連なっている。

ひとつの意味を作り上げている。

針金がいつの間にか、床に食い込んで文字を作り上げている。


「自らを整える事で最上の主を得る」


知らない言葉がそこにはある。

真っ暗な小部屋に、一筋の光が差し込んでくる。

不意に壁が少し破られ、その文字の場所を照らし始める。

やはりそうだ。

いつ誰が作り出したかわからない、指でなぞった通りの文字がそこにはある。

床に食い込むほど強烈にそこにしがみついて。

その文字が動き出す。

また別な言葉を伝えようと。


「勤め励むのを楽しめ。心を守れ。自己を難所から救い出せ」


誰も伝えない、言葉が地面を這う針金によって伝えられてます。

床の上を黒板の様に。行く事の出来ない学校の黒板の様に。


言葉が続く。

「他人がどうして主であろうか」

言葉が続く。

「賢者は自らを整えて、全ての苦しみから逃れる」

言葉が続きます。

今まで誰も言う事のない、知らない言葉が体に染み込んでいきます。

途切れることなく、針金が言葉を紡ぎ続けていきます。


大きく光が来ました。

荒々しい言葉と共に、その小部屋から引きずり出され、外へ追い出されます。

後ろを振り返りあの小部屋を見ると、あの言葉はいなくなっていました。




 空気を揺らす程の泣き声は、また外に気付かれる前にあの小部屋に押し込められます。

でももうそこには一筋の光があり、言葉があります。


「目の前のナイフではなく、自らの呼吸を見なさい」


とまたしても知らない言葉があります。


「自分の内を見よ。内にこそ善の泉があり、それは絶えず湧き出るだろう」


言葉が針金を通して、伝えてきます。


「背筋を伸ばし、鼻から息を吸い、口から吐きなさい.そうして心を整えます」


誰も教えてくれない良い物をここでは教えてくれます。

昨日も今日も明日も、暴力的に押し込められていきます。

たとえそうでも。

暗い、一筋の光だけがあるこの小部屋は学び舎となったのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ