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「——うまい……!」

「素晴らしいです、主様。食べたことのない味ですが、とてもおいしいです。主様は家事もできるんですね」



 いや、オムライス一つで大げさな。



 午後5時前。

 アパートに戻ったわたしらは、遅めの昼食兼、早めの夕食を食べていた。

 卵とチキンライスを大き目のスプーンですくって、はむっと食べてみる。うん、いつも通り。そこそこだけどどう考えてもお店とかの味ではないぞ、ハーヴェイ。

「まぁ、言ってもあたしも相当ずぼらで、家事は苦手なほうだけど……」

「いえ、とてもそのようには見えませんが」

 そりゃあんたからしたらね。

 マフィンは焦がすか粉が出てくるか。

 ベッド周りの掃除すらままならない人(公式設定より)と比べられても複雑だ。



「どのようにして、苦手を克服されたのか、ぜひ参考に訊きたいです。……じつは俺、苦手なことがけっこう多くて」

 はい、苦いものと家事全般と主様以外の女性と話すことが苦手なんですよね。

 公式設定で知ってます。

「うーんそうだな」

 とはいえ推し執事からのリクエストなので、思いつく限り言葉を並べていく。




「20代の頃から一人暮らしはしてたけど、部屋も今よりずっと汚くて、料理もほぼしなくて、即席ばっかりだったんだ。そんな生活してたから、身体にもよくなかったみたい。あんまり意識してなかったけどしょっちゅう微熱出してたし」

「それは……とても心配ですね」

「——だけど。あることがきっかけで。これって、自分を雑に扱ってるってことなんだ。もっと自分を大事にしなきゃなって思ったんだ」

 その、きっかけというのが。

「まぁ……ハーヴェイたちの、おかげかな」



 ほかならぬ、『癒執事』のアプリだ。

 執事たちが日々教えてくれる生活のコツや、メンタルや体調の整え方なんかを学んで。

 執事たちからの励ましの声を聴いて。

 自分を大切なもののように、ケアしよう。

 自分というのは生涯の相棒。

 生きていくためのただの道具じゃない。

 自然とそう思うようになった。



「だから前より少しは、健康的な生活意識できてるかなぁって」

 彼は聴き入るように顎に手をあててじっと考えている。

「たぶん、ハーヴェイも、前を向きすぎてるんだと思うよ」

 ストイックで自分を追い込みすぎる執事たちのリーダー。

 いつも凛々しくみんなを引っ張っていくのに、ふとしたときに崩れそうになる脆さ。

 というところが個人的ツボなのだが。

「だからこそ、自分を労わることを忘れがちになっちゃうっていうか」

 紺色の目がしばたたいて、こちらを見つめる。

「主様……」




『主様はいつも頑張っていますね』

『体調が悪いのですか? すぐに休まれたほうがいいです』




「いつもあたしに声かけてくれるみたく、自分に声をかけたほうがいいというか……。そうすれば自然に家事もできることから、はじめられるんじゃないかな」

 ふっと、ハーヴェイが目を細めて、笑った。

「ありがとうございます、とても参考になりました。やはり主様は……素敵な人ですね」

「えっ」

 きゅんと胸が締まるとき、少しだけそこに苦味を感じる。

 これが、この言葉が、単なるキャラ設定、じゃなければいいのにな、なんて。

 ほんとうにおいしそうにオムライスを食べ続ける彼を見て、少しだけ思ってしまった。


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